第一話 龍を討たねばならぬ
担当者:おつきさま
自己紹介文:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88
聖帝国、世界の中心にある大帝国であり、周囲からは"神との謁見の間”と呼ばれるほど非常に巨大な国である。この国は活気に満ち溢れ、人々は神に感謝し、治安はそこそこ良く、法律による縛り付けも少ない。とてもよい国と言っても過言ではなかった。そう、なかった。
初代が神と交信し国を拓き栄華を迎え、2代目がまだ壮年だった頃にその栄華は終わりを告げることになる。
―――― 龍の到来である。
人と街を焼き尽くし、国庫の食物は食い荒らされた。これは1度2度の話ではない。災害は忘れたころではなく、子どもが青年になる前に5回は起きている。その青年が壮年になり、老人になったとき龍による被害は家族の両手両足、親類のも合わせても足りないくらいに起きている。
そのうえ、龍は子どもを産み、それが町を襲い中心部も焼け、白く輝いていた城は黒くくすみ、町には2階がない建物だらけになるほどに町は焼かれていた。
人間とて手をこまねいていたわけではない。策は弄した。武器も最新の魔導砲を使用したし、騎士も勇敢に立ち向かった、だがそれだけでは、町を残すことしかできなかった。落とせるのは龍の子どものみ。しかし、それも減少の兆しを見せていた。
ある時、気まぐれに龍は攻撃をやめた。そこから平和の時代は長く続いた。数百年経ち、町は活気を取り戻したが龍は相変わらず空を飛び、人々に自らという脅威を見せつけていた。そして、帝はついに永年の決着を付けんとして龍を討つ決意をした。
帝歴 794年。帝の謁見の間に白く輝く鎧をつけた青年が帝の前で跪き、神に等しき者の勅命を受けた。
「リヴァル=アリアード第12騎士団長、この場に来たことを感謝しよう」
「もったいなきお言葉」
重々しい雰囲気があたりを覆う。大臣すら人払いされた部屋。ごくごく内密の話であることは想像に難くない。
「さて、本日来てもらったのは君に頼みがあるからだ」
「覚悟は……、出来ております……」
第12騎士団……、対龍に特化した騎士団。騎士団とは名ばかりの傭兵集団である。権威ある騎士は団長であるリヴァル以外はいなかった。
「すまないと思っている。永年の帝としての仕事を君に負わせることになってしまったのは不徳とするべきだろう」
年老いたが、まだぎらつきを持つ瞳が輝きを取り戻したかのように光る。
「だが、私は決着をつける。帝として、人間として、だ……。例え君を犠牲にすることになろうとも」
「そ、そんな、元より覚悟はっ……」
リヴァルの言葉は帝の次の言葉によって打ち消された。
「だが、将としてではない。君には戦士として討ち取ってほしい。無論、騎士団は町の防衛の任務を継続してもらう」
「そ、それは、私一人で……、龍を討てということでしょうか」
若き騎士団長には大きすぎる事実であった。龍、それは災害。それを一人で討て、と言うのだ。
「すまぬ……、帝として民を守らぬわけにはいかぬ。そして、脈々と続いているこの因縁に私自身が決着を付けねばならぬ。たとえそれが私の敗北であったとしても。本当にすまない……」
そして帝は自分の本意を告げた後、聖なる国の帝、神との交信者としての言葉を口にした。
「神はそれを望んだ、それ以上の答えはないのだ……」
帝とて本意ではないだろうが「死ね」という命令に近い言葉だ。帝の龍に対する執念と民を治めるものとしての理性がせめぎ合った結果なのだろう。帝は、ただ英雄を龍にぶつけるという短絡的な方法が最良だと判断したのだ。
「いえ、ご拝命を受けた以上は私は龍を討ちに出立しなければいけません。他ならぬ帝国の為に」
剣を掲げ、帝に忠を尽くすことを宣言した。若き騎士団長はもう逃げられぬ、逃げてはならぬと覚悟を決めた。
「神はいないのか……、このようなときこそ言葉をくれてもよいものなのに」
帝の恨み言は騎士団長の扉の閉める音にかき消された。
こまごまとした引継ぎを終え、出立の準備に取り掛かるために町へと降りる。幸い、宿舎の中に遺品として残せる物は多そうだ。実家に手紙を書くと、慣れぬ旅の装備を整え始める。自分は死ぬのだ、これから死にに行くのだ、と聞くと頭がおかしくなりそうである。今はただ信じるしかない。自分が今まで得たものは龍を倒しうると。
町の賑わいを感じるのも久しぶりだ。半身が機械の人間。獣の耳を生やした人種。あるいは半分獣。自立式の魔導機械。エルフ、魔族と呼ばれる普通の人間とは異なる存在。粘液が這いずる音。そして龍と人の子どもである竜人。様々な種族のるつぼとなった城下町が彼は好きだった。
この町のほとんどは住むところを龍に追われたものがほとんどである。竜人とて最初は敬遠されていたものの、人種のるつぼになるにつれて当たり前の風景になっている。今では普通の生活をしても後ろ指を指すものはいない。
そんな町の活気を楽しむリヴァルに声をかける者がいた。
「あ、リヴァルの兄さんどうしたんでごわすか!」
「あ、青之海関!いえ、その……、噂は聞いていらっしゃるでしょうが……」
青之海、RIKISHIである。古来、RIKISHIはREKISHIあるNIPPONから迷い込む聖なるSUMOUの力を宿した格闘家であり、高い戦闘能力と技能を持つ上に文化人としての技能も高いスーパーファイターなのである。
「そうでごわすか……、決意は固いんでごわすね」
「はい、帝の命とあれば……」
青之海はリヴァルと同じ世代の青年である。RIKISHIと騎士、立場の違いはあれど帝国の民の為に語り合った仲である。共に戦ったことはなくとも、強い絆で結ばれた仲間であった。
「リヴァルの兄さん、一緒に俺も連れて行って欲しいでごわす!自分は、自分のSUMOUが龍に通じるか試したいんでごわす!この為に修行を積んできたんでごわす!お願いしもす!」
青之海が頭を下げてリヴァルに大声で頼みこんだ。この返答をリヴァルは悩むだろうと思っていた。しかし、口と心は勝手に動いていた。
「ああ、ありがとう!」
二人は固い握手を交わし、龍が住まう山の方角を見据えた。




