厄介な女
放課後、私は石倉と食べ歩きをしていた。
「クレープ美味しい」
「そうか。旨そうに食うな」
石倉は見たことが無いほど、ニコニコしながら話してくる。
楽しそうだ。
「街を歩くと」
「映画」
映画。なるほど。おっきい画面で物語を見るのね。
「見るか? 映画。なにやってるか知らんが」
「見よう、見よう」
ちょうどこれから始まる映画に適当にはいる。
これが
「おおお」
「うわ、グロッ」
人が容赦なく死んでいく、ガンアクション。
銃格好いいなぁ。
どんな英雄も、善人も、悪人も、銃の前に無慈悲に死んでいく。
主人公だけは生き延びる。だが。
「……? え? どういうこと?」
主人公は実は最初から死んでましたエンド。
石倉がストーリーを理解できないようだ。
「これは、あれだよ。主人公は亡霊だったんだ」
「亡霊? だって、主人公は銃を撃ってたじゃん」
「当たってない。殺してない。死んだ登場人物は、他の奴の攻撃で死んでる」
「じゃあ、この映画は?」
「亡霊の目線で見た殺人劇だね」
よく出来てるなぁ。
最後の方まで違和感感じなかったよ、これ。
映画館から出て、石倉とさっきの映画の話。
ついでに映画のカタログを買ったのだが
「ああ、やっぱりそうだ。ヒントは至る所にあった」
「どこに?」
「この最初の方の、人形劇は、主人公が傍観者であることを示唆しているんだ」
カタログ見ながら感心する。
そうだよ。室内シーンがヤケにないと思ったら、主人公は亡霊だからすり抜けちゃうからか。
「大したもんだ。主人公は物も拾ってない。手にしているのは自分の銃だけだ」
いやいや、面白かった。
こういう面白みは前の世界では無かったなぁ。
騙しにかける演出かぁ。
「お前の解説聞いてやっと理解したよ。凄いなこの映画」
「初日でしょ? なにも評判聞かずに見れて幸せだね」
「そうだな」
楽しそうに笑う。
「見てよ、このカタログにあるこの絵。全部見てから見返したらゾッとするよ」
「なに?」
「『嘘つきは一人しかいない』これ、映画見たときは、主人公のボスの事かと思ったんだけど……ほら、あいつは死んだとか言ってたからさ。でも最後まで見れば、主人公は死んでるから、ボス嘘ついて無いんだよね。と言うと、ボスは全部本当の事を言ってるってこと。つまり」
「え? じゃあ」
「奥さん殺したのは主人公だ。あの亡霊となって彷徨くのは償いなんだ」
「ま、まじかよ」
「面白かった! いや、本当に面白かった!」
良いなぁ映画。
また色んなの見よう。
石倉と別れたが、「来週また遊びに行こう」と誘われた。
まあ、楽しかったからいいが。
家に帰り、部屋に戻ると
「あらあら、まあまあ」
苦笑いする。
「素敵な宣戦布告。受け取ったわよ。ソレイユ」
こんなふざけた真似をするのはソレイユ。
私の部屋に生首2つ。
「有川と神崎か」
こうやって、わざわざ家に置く意味。
つまり、脅しだ。
お前を監視している。
親しい人をいつでも殺せる。
そうやって、焦り苦しむ姿を見せたいわけだ。
そうは乗るか、ソレイユ。
あんたには苦しめられた。
あんたの対策はよく分かる。
記憶の継承がないなら、わたしは優位だ。
私は、生首に手をかざし。
「我が、糧となれ」
死体でもエネルギーにはなる。
死体を消失させる。
そして
「さ、映画見よっと」
帰りレンタルショップで借りて来たのだ。
ソレイユへの最大の対策は無視だ。
あいつは飽きっぽい。
無視して反応しない奴にはわざわざちょっかいをかけないのだ。
予想通り、ソレイユはなにもして来なかった。
借りてきた映画はつまらなかった。
「うんこー」
外れですよ、外れ。
最初からトリック丸わかりじゃん。
見てる奴を馬鹿だと思ってんのかよ。制作者死ね。
無駄な時間を過ごした。
テレビを見よう。
すると、画面で、建物が、というか、都市が崩壊していた。
『ご覧ください!!! 北京は大混乱です!!! 日本に当たる国会議事堂……キャアアア!!!』
レポーターの女性が叫び声。
至る所で炸裂音。
『大丈夫ですか!? 安藤アナウンサー! 大丈夫ですか!?』
日本のニュースキャスターが騒ぐが
『申し訳ありません。付近で爆発がありました。この場所も危険になりました、一度安全な場所まで避難します』
『そうしてください……しかし、中国でなにが起こっているんでしょうか? 続報が入り次第お伝えします』
爆発か。
ソレイユは毒を好んでいた。
別人かな?
いや、多分違う。爆発はなんかのカモフラージュだ。
ソレイユか。厄介だなぁ。
インターネットは殆ど使わないが、これは本なんかに載っているわけがない。
「可馨(グェアシン)っと」
今のソレイユの名前を検索するが、いっぱい引っかかった。
「ああ、なに。一般的な人名なの? 面倒ね」
ああ、嫌だ嫌だ。
調べられないじゃん。
「『可馨 性格最悪』……出ない。あ、そうか、中国語か」
少し調べ方を変えようか。
まず、あんな爆発を起こすぐらいだ。
それなりの地位にいないと不可能な筈だ。
あと、フェルラインと龍姫が幼かったのが気になる。
ソレイユも幼いのでは無かろうか?
10代かも知れない。
そのあたりを検索してみると
「……これ?」
いた。
前国家主席の娘。
あ、多分コイツだ。画像検索……
「ソレイユだー」
16歳。
随分若い。
前は見た目25ぐらいだった。
しかし、見間違えようがない。
コイツはソレイユ。
というか、なにか。前国家主席の娘がテロ起こしたのか。
今の体制に不満でもあるのかね。
「ソレイユ、可馨。受けて立つわよ。今回は私が勝つから」