やべー女との念話
翌日。
新はやたら馴れ馴れしく接するようになった。
そして、イジメをしていた3人が突然現れ
「ごめん」
と頭を下げたので
「もう気にしてないから大丈夫」
そう言うと、3人は笑顔になった。
クラスは明るく話が盛り上がる。
「まあ、結局居場所の問題でね」
群れの中で、一番嫌がられるのは、立ち位置が分からない奴である。
群れを乱すものが、一番嫌われる。攻撃される。
私は、一連の行動で
「イジメられっこ」から「キレると怖い奴」に立場が変わったと、周りが理解したのだ。
その立場に収まったのを確認して、群れは落ち着いた。
それだけの話。
こんな当たり前の話が理解できないのが、目の前に一人。
葉島建人。
私と同じく、クラスでの虐められっこだったらしい。
私にも虐められる同士として、同情を寄せていたらしいが、学校に戻るなり大暴れして、虐められ役から無事卒業。
それを見て感動したらしい。
やたら話しかけてくる。
「遠藤さん、凄いよ。あっという間に虐めを無くしたんだから」
だから、自分の虐めもなんとかしてくれ。
と言うのは言外に聞こえる。
なので
「あのね。一応言っておくけど、私は別に虐めを無くしたいわけでもなんでもないから」
「……え?」
驚く葉島。
「虐めなんて無くなりません。群れの宿命です。ただ、私は自分が虐められることに我慢ならないから、その立場を変えただけ。わざわざ誰かを虐めようとかは思わないけど、積極的に虐めを無くそうなんて気はしません」
「そ、そんな。だって、虐めは辛かったでしょ!?」
まあ、辛いんでしょうね。
でも
「だったら乗り越えなさい。誰かを頼るな」
「そ、そんな」
「本来は大人が救ってくれる。でもこの学校は救ってくれない。
だったら自分で乗り越えなさい。私のように。
ただし、それは修羅の道よ。一度こうなったら、どんな些細な出来事でも、舐められたら復讐する。
じゃないと立場が戻るからね。一度踏み出せば、もう戻れない闘争の道。
それで良かったらどうぞ」
葉島は呆然と聞く。
「まあ、向いてないよね。それは分かる。だから誰かに付きなさい。誰かの所有物になりなさい。だったら守ってくれるわ」
会話を切り上げて席を立つ。
ああ、無駄な時間、無駄な会話。
図書室。
ひたすら本を読む。
「多分あのエネルギーは発電所だ」
大体の位置と一致する。
「発電するのに、とんでもないエネルギー使うのね。こういうのもっと効率的にならないの?」
火力発電、原子力発電、地熱発電
それぞれの発電所の位置が、サーチした位置と一致した。
「他にも化学工場とかね。相当なエネルギーをまき散らしてるのか」
エネルギーとはちょっと違う。
やはり、エントロピーという概念が一番近いのだろう。
「さて、となると、動く巨大なエントロピーを追えばいいのね」
集中する。
この街の近くには
「いないね。遠いわ」
よし、ならば良し。
あのデカい狼だけだったか。
あとは夜行性の可能性がある。
夜またやろう。
『Hi♪』
突然。
頭に響く感覚。
これは
『念話か』
この世界にもあるのか。
念話。
一部の能力者が使える、無言での会話。
だが、使い手は希少。
こちらの世界では、携帯電話というものが発展している。
念話がスタンダードならば、こんなものは要らないだろう。
前の世界でも、遠距離会話する魔法の装置があったから、そこらへんの利便性はあんまり変わらないね。
『May I ask your name?』
英語か
『念話でやっているならば、意志で疎通できる。わざわざ言語を押し出すな。自然に話せ』
すると
『え~? だって英語分かんない猿と話したくないんだも~ん』
『kiss my black ass』
『まあ、流暢な英語ですこと♪ 気に入りましたわ♪』
『Bitch、用件はなんだ』
『あなた何者? 化け物? なんだか得体のしれない程の力の持ち主が、突然日本に現れてビックリしてるの』
『知らん。私はかつて聖女と呼ばれていた。それが、転生に失敗して今ここにいる。それだけだ』
『転生は三日前?』
『そうだ』
『あらあら、まあまあ』
楽しそうに笑う女。
『三日前、魔物が至る所に現れた』
『知ってる』
『貴女なら殺せる?』
『当たり前だ』
『どんな化け物も? どうやって』
『Bitch、お前の居場所は辿れた。今からお前か、その隣にいる奴を殺して証明してやろうか?』
『まあ、素敵。じゃあ、隣の奴を殺してみて』
言われるがままに、集中する。
この念話の先にある存在。
顔まで分かった。
うわ!? こいつ!
フェルラインそっくりだ。
龍姫の忠実な部下にして、最も質の悪い龍族。
まさか生まれ変わりじゃないだろうな?
隣にいるのは凡庸な男。
顔の作りは良いがな。
さて
『Wao!!!!』
女の絶叫。
その男の生命エネルギーは全部吸い上げた。
『killar! 遠距離でも殺せるの!?』
『私は最強だ、当たり前だ。それより、お前、フェルラインという名に聞き覚えは?』
『フェルライン? いいえ、全く』
さて、嘘か誠かの判断もできないな。
フェルラインなら、涼しい顔して嘘をつく。
殺しておくか? いや、待て。もしこいつがフェルラインなら、龍姫もいるはずだ。
そもそもフェルラインがなんの策もなく、私に居場所を教えるなんて有り得ない。
別人なら後で殺せばいいだけ。慎重にいこう。
『素敵、素敵ね。気に入っちゃった。ねえ、USAに来ない?』
『気が向けばな』
USA。そいつの場所は相当遠い。
転移が無いと辛いぞ。
しかし、この距離を念話か。
化け物みたいな能力だな。
『楽しみにしているわ。shorty。またお話しましょう?』
念話が途切れた。
ふむ。
「面倒くさそうな連中が多いな。この世界は」
家に帰ってご飯。
なのだが、父と母が深刻な顔をしている。
「……美佳。一度、先生に見てもらった方が」
父さん。
「そ、そうよ。だって心配なの。なにかね、後遺症とか」
別人のようになった娘に怯える両親。
記憶を漁った知識を総合すると、病院に行くことは、最悪の選択肢になりうる。
「いや。あのね、ハッキリ言うけど」
両親を見据えて言う。
「これは反抗期。いくら相談しても学校を変えてくれない。いくら泣いても助けてくれない。そんな両親に対する反抗期」
二人は辛そうな顔をする。
「もちろん、分かってはいるわよ。私をなんとかしてくれようと努力してくれたのは知ってる。でもね! その挙げ句が、死にかけたのよ!? 奇跡的に生き延びました。結果的に肌は治りました。ああ、良かった。じゃあまた元の生活に戻りましょう。なんて不可能だからね!」
私の迫力に、黙る両親。
「だから自由にさせて。両親に暴力を振るわないだけマシだと思って。わたしは、これでも父さんと母さんに感謝はしてるから」
「……美佳」
二人は泣いていた。
まあ、これでしばらく病院の話は無くなるだろう。
夜、新から電話がかかってきた。
「LINE登録してよ」
知識を動員して、LINEに登録。
元々LINE自体は携帯電話に入ってはいた。
すると
「わあ、これは凄い」
絵が、いっぱい送られてきた。
スタンプと言うらしい。
とりあえず、どうでもいい話のやり取りをしていると
『まこっちゃん、好きなの?』
ああ、面倒な話ですね。
こういうときは
『好みは石倉』
こう返せば、コイツ喜ぶだろうと思って返したら
『♡♡♡♪♪♪』
楽しそうな表情のスタンプが大量に送られてくる。
なんだこれ?
『やったぁ♪ ならおっけ~♪』
よく分からないが、かなりご機嫌になったらしい。
結局、夜遅くまで、新とLINEをしていた。