日本に転生しました
基本的にはドタバタ話です
目覚めは最悪だった。
盛大な頭痛。
そして、身体中が痛む。
これは
「病だ。随分な身体ね、これ」
おかしい。
私は聖女として転生をした。
転生先は、健康体のミルティアの筈だ。
だが、この全身の病は酷い。
身体が違う。
『め、目覚めたのか!?』
中年の男が叫ぶ。
『す、すごい! もう駄目かと!』
白い。白い部屋。
なんだこれは?
しかし、何語だ?大陸共通語ではない。
元の身体の記憶のおかげで理解できる。
次から次へと記憶が雪崩れ込んでくるが、理解できることは一つ。
「全然違う世界じゃない」
元いた世界じゃない。
地球の日本。
どこよ、それ。
『な!? ど、どうした、なにを言った?』
中年の男、医者らしいが、そいつが騒ぐ。
それよりもまずはこの身体を癒やす。
能力は大丈夫でしょうね?
集中する。
幸い嵐がすぐそばにある。こいつのエネルギーを頂く。
私は聖女。
ありとあらゆる生命エネルギーを吸い取り、あらゆるものに還元する能力がある。
前の世界では、体を変えながら、100年以上、聖女として君臨してきた。
別の世界に来てもやることは一緒だ。
私は
「嵐よ、我が糧となれ」
儀式。
目の前の医者が怯えているが無視。
よし、能力は生きている。
エネルギーが雪崩れ込む。
身体が蘇る。
ボロボロだった肌が治る。
「な!? なにが起こった!?」
医者の絶叫。
「見たままよ」
私は冷静に言う。
「私は聖女。この世界でもね」
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見舞いに来た両親から心配された。
あまりの変わりように。
「み、美佳なの?」
「ええ」
元の記憶も残っているから、それに沿う演技も出来るのだが、あまりにも卑屈で、弱々しい生き方だったので没。
肌の病気でいじめられ、その肌の病気が進行し命を落としかけた。
そんな身体に合わせる必要もない。
しかしだ、あまりにも前住んでいた世界と違う。
前の記憶は有効利用しよう。
「きっと先生の手術のおかげよ」
「そ、そうなのか」父、らしい。
「詳しいことは知らないけど、病の根本を取り除いたら、全部良くなったのでしょう?」
「しかし、性格が」
「死にかけたら、性格も変わるわ」
それで押し通す。
昨日の嵐の吸収は大騒ぎになっていた。
なんとこの世界では、こういった気象を全て掌握しているらしい。
突然嵐が消えるなどおかしい。
と騒がれていた。
「ふむ。まあいいわ。好きに生きますか」
せっかくだ。
まずはこの世界を楽しもう。
とはいかなかった。
いきなり、拘束された。
「あの病が、突然治るなんて有り得ない。再検査を」
医者共がうるさい。
「必要ない。私は健康になった」
「再発の恐れが!」
「再発したらまた来るだけだ!」
ああ!
下民共が!!!
いちいち説明しないと分からんのか!?
「私が治ったと言うならば! 治ったのだ! 貴様を病気にしてやろうか!」
私はキレながら病院を出た。
家族も怯えていた。
まあ、記憶の少女とは全然違うからね、わたし。
精神病院がどうのこうの言ったので
「いい。私は遠藤美佳15歳。お父さんは遠藤紘一47歳。お母さんは遠藤早苗42歳。この家に引っ越してからは七年。好きな食べ物はコロッケ。入院前に最後に喧嘩したのは、部屋の掃除のこと。お父さんと最後に出かけたのは、去年の後楽園」
一気にしゃべる。両親はビックリしたように見る。
「間違いなく、私は遠藤美佳。お父さんとお母さんの娘。でもね、死にかけて決意したの。もう、あんな風に生きるの止めようって。積極的に生きようって。理解して、お願い」
私の言葉に、両親は深く頷いてくれた。
学校。
学校がある。
私も転生体の為の学園を作ったものだ。
学園生活には慣れている。
意気揚々と通うことにしたが、これがまた大変だった。
「はあ? あんたが遠藤美佳?」
「なに、あんな根暗のキモ顔があんた? 整形でもしたの?」
「キャハハハハハ!!!」
愉快な3人組に絡まれる。
記憶にも残っている連中だ。
しかし、どこにでもいるんだな。こういう虐めっこ。
だが、私から見ると好ましい。
そうだ。
虐められる奴が悪いのだ。
弱者は悪だ。
強者が正しい。
「死にかけてね。生き方変えることにしたの」
「へえ。あんたみたいなゴミムシ、生き方変える……」
ボコっ
「イダイ!!!」
顔面パンチ
「な、なにしてんの!? あんた!?」
「カモーン」
クイクイと、指で呼ぶ。
三人の顔が青ざめる。
「あんた! こんな事して!」
「言ったでしょ。死にかけたんだから、好きに生きるわ」
「せ、先生呼んでくる!」
根性なし共が。
先生が飛んで来るが
「あのですね。散々いじめられました、と勇気出して色々手紙書いたのに、全部無視した挙げ句、それを相手に伝えるみたいな馬鹿な真似しておいて、相手を殴るな、とか、ストレートに馬鹿なんですか?」
開口一番罵声をぶつける。
記憶によれば、この教師には手紙で助けてくださいと出したらしい。
んで、無視されたどころか、相手に「遠藤から虐められたって苦情きたぞ、気をつけろ」
と伝えたそうな。
バカかよ。
まあ、でも弱者はこうなる。
私の世界ではそうだった。
助けを求めて、本当に助けられる事なんて稀だよ、稀。
「お、お前、本当に遠藤か」
「ええ。『お前の勘違いかもしれないだろ』と言われた事はよく憶えてますよ。佐々木先生」
佐々木先生の顔が青ざめる。
「大体顔面に一撃食らわせるぐらいでなんですか。私は、手紙の通り、肌が汚いという理由でライターで炙られたりしたんですよ? 頬をです。そら、病院の奇跡的な施術で治りましたけど、あのまんまの生き方だったら、また頬を焼かれてましたよ。生意気だって」
絶句して言葉が出ないようだ。
「私は、死にかけたおかけで生き方を変えました。もうあの時のように泣き寝入りしません」
佐々木先生は、黙ったままいなくなった。
「お前、遠藤って本当?」
記憶によると、大川。
随分体格の良い男。
女にモテるようだが
「ええ。肌が治ったから変に見える?」
腕を見せる。
「いや、お前美人なんだなって」
「肌が治っただけよ。ギャップ萌えって奴? そんなんで惹かれてたら、整形女にコロッとやられるよ?」
その言葉に周りが笑う。
「なんだ、お前随分口も上手かったんだな」
「元々小説書いてたからね。ボキャブラリーはあったの。ただ、肌がああで、なんか言うたんびに苛められたら、そらああなるわ」
苦笑いする大川。
「今のお前は付き合いやすいな」
「そう? まあ私も復讐とか、ウンコみたいに面倒なことしたくないの。好きなように生きるわ」
学校の授業。
「そろそろ終わるが質問はあるか?」
「はい!」
手をあげる。
みんなびっくりした顔で見る。
「あ、ああ。遠藤は久しぶりの授業だからな。色々聞きたいことあるのかな?」
「はい! あの原子の性質についてですが!」
理科。
この授業は刺激的だった。
数学は言うほど変わらない。
国語は面白かった。
英語も単に言葉が違うだけ。
しかし理科は全然違う。
教科書全部が刺激的な内容だ。
「ああ、その辺りの説明が抜けてたな」
勉強は楽しい。
知識は面白い。
お昼ご飯。
「旨い」
おいしかった。
「そっかぁ?」
大川が隣に来ていた。
「パンなんて手間かかるのに」
「?」
私のいた世界から見れば、手間のかかる料理ばかり。
それでいて旨い。
「お前、帰りどーすんの?」
「ああ、図書室行く」
「真面目だね。まあ、授業遅れてるからしゃーないのか」
「別に今日じゃなくてもいいから、どっか行く?」
「お、話が早いね。どこ行く?」
記憶を覗いて気になっていた
「ゲーセン」
「おお。好きなん?」
なにがなんだか分からない場所なので行きたいのだが。
「……まこっちゃん、コイツ遠藤だぜ? こんなのと連むのは……」
こいつは、大川の参謀役みたいな石倉。
「まあ、いきなり生き方変えました。みたいな女と連むのに危機感あるのは普通だとは思うけど」
石倉を襟首を掴んで
「な!?」
「そんなんだから、参謀役みたいな感じから抜けられないんだよ。大川はこの決断力あるからリーダー」
その言葉にビックリした顔をする石倉。
「参謀役を極めれば良いと思うよ。人には向き不向きがあるんだからさ。その慎重さは、リーダーには向いてないかもね」
石倉は黙ったまま、反論しなかった。
放課後、大川とゲーセン。
ゲームセンターの略。
「へえー」
凄い煌びやか。
こんなすごいの、前の世界じゃ無かったなぁ。
電気って凄いな。
感心しきり。
要は魔法エネルギーが無尽蔵に使えるって事らしいけど、こんな綺麗な光を使ったゲームみたいの、発想からして無かった。
凄い、凄い。
「なにやる?」
「これこれ」
パックマン
「また、レトロな」
「オシャレだし」
二人でやるが
「ははは!お前上手いな!」
「いや、難しいわ!」
たのしー。
次は
「音ゲーだ!」
「なにやる? ビーマニ?」
「ポップン」
記憶を漁りながら答えていく。
前の体は、あんまりゲーセンに来たことが無いらしい。
だが、憧れはあった。
「おお! これは面白い!」
「あはは! なんだその姿勢! んで、なんでそんな姿勢で巧いんだよ!」
ゲラゲラ笑う大川。
「さあ!次はUFOキャッチャーだ!」
「どれ狙う?」
「このでかいのを取る」
縫いぐるみ。
凄い技術だ。
私のいた世界では、こんなデカい縫いぐるみ無かったぞ。
取ってやる。
記憶を漁るが、基本的には取れないゲームらしい。
聖女の能力も使えない。
こんなちまっこい事には使えないからね。
だが、私には他にも能力があるのだ。
『念動』
大した能力じゃない。
物を動かす能力。
使い道はそんなにないが
「あ、う、動いた! 落ちる!」
アームの動きに合わせて、使った。
「ゲット!」
「100円でかよ! お前すげえな!」
当たり前だ。
私は聖女なのだ。
その後もゲーセンをエンジョイして、大川と別れた。
「またな!」
と愉快そうに笑っていた。
その帰り道。
「……あなたは、選ばれし者」
「なによ、あんた」
目の前には全身真っ黒の女。
「世界を救う、選ばれし同士」
「悪いわね、そういうの興味ないの」
「待って、これは御伽噺でもなんでもない。あなたは」
「あんたが何者かは知らないけれど」
私は振り向いて言った。
「私は聖女。世界を救いたかったら、ひとりで勝手に救うわ。同士? 私に同士などいない。敵か、隷か。好きな方を選びなさい」
硬直するソイツを横目に私は去る。
「ちゅ、ちゅうにびょう」
そいつはボソッと言っていた。
更新は不定期です