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8/8

8、ハイスペック御曹司の戦い方

夏風邪の熱がなかなか引きませんでした。皆さまも健康にはお気をつけください。

歓楽街にあるダーツバー『ゴンザレス』。そこが不良の溜まり場だ。少なくともゲームにおいては、この歓楽街でヒロインが攫われると大抵の場合そこに監禁される。

のはずなのだが、『ゴンサレス』がない。代わりにそこには『ARMS&BAR ぽこるげっぷ』なるお店があった。てかARMSってなんだ?武器屋か?


「アレか?」

「……そうだ」


俺の質問にボコボコにされたヤンキートリオのリーダーっぽい奴ことヤンキーAがぶっきらぼうに答える。圧倒的な力の差を見せつけてもまだ少し反骨精神のようなものが感じられるのは逆に好感が持てた。


「ぽこるげっぷ、か。。。変な名前の店だな」

「ハンガリー語で『地獄の鬼』って意味らしいぜ」


ヤンキーBがドヤ顔で教えてくれた。ちょっとムカついたけど俺の疑問を解消してくれたので殴らない。


「ふーん、平仮名じゃなくてハンガリー語で書いておけばまだサマになるだろうに」

「それじゃあ店の名前が読めねえよ」

「まあ、そうだけどさ」


さて、どうしよう?

正面から入って中にいる奴をボコボコにして「この街から出て行け」というつもりではあるが、ちゃんと番長みたいなのがいないと意味ないしな。


「今日は番長みたいなのは来てるのか?」

「……携帯見ていいか?」


こいつ、俺に無断で携帯を見るのはダメだと思ってたのか!? なんかちゃんとした感性の奴だ。これは溜まり場をぶっ潰して「この街から出て行け」と言えば、きっちり約束を守ってくれそうな予感がビンビンするぜ! というわけで俺は携帯を見る許可を出す。


「緊急の集合がかかってる。あと30分だな」

「ちょうどいいじゃねえか。じゃあ30分後に突撃だな」


ラッキーだ。一網打尽とはこのことだぜ! と思ったところ、ヤンキートリオの一番弱そうなヤンキートCが噛み付くかのような勢いで俺に問う。


「お前、本気なのかよ?」

「え、うん。ダメ?」


逆に聞きたい。ダメなの?


「え、いや、ダメではないけど………」

「だろ? 俺はこの辺で働いてて、おまえらみたいな不良がいると邪魔だからどっか行ってほしいわけよ。問題ねえだろ?」

「………狂犬の六車。聴いたことねえか?」

「ないな。そいつ高三か?」


攻略本にもなかった。俺の入学と同時期に卒業する奴であれば高い確率でゲームには登場しない。知らなくて当然である。


「そうだ。ついでに言えば鳥頭高校の番長で、暴走族『死流美亞』の頭だ」


やめるなら今だぞ、とでもいいたげにヤンキーCがのたまう。だが、そんなもんでビビる俺ではない。

何故なら、ゲームにおいてヤンキーのモブキャラを瞬殺できるレベルであればボス戦で苦労することはまずないという知識があるからだ。


「そりゃ一石二鳥だな」

「…くっ」


うむ。モブ雑魚っぽいリアクションが心地よい。

しかし30分か。暇だな。


「コンビニ行こうぜ。飲み物くらい奢ってやるよ」


転生してからコンビニ行ってない。ジャンクなフードが懐かしいぜ!だがその前にやりたいことがある。

俺は、自分の預金残高を確認したい。

だって、うちのセレブな親父殿は「中学生の間は月数千万しか小遣いはやらん。考えて使え」と言っていた。しかの使い方がおかしい。ジンバブエドルじゃねえだろうなと思いつつ、御曹司だしマジで貰えるかもという期待もあり、いつか確認しようと思っていたのだ。


「金おろすから、適当に飲み物とか選んで来い」


ヤンキートリオに声をかけ、俺はいそいそとATMに向かう。どうでもいいが、いそいそって言葉を生み出した奴は天才だと思う。

さて、残高はというと………3億5千万円あった。月に5千万円振り込まれてるってことか? 御曹司やべえな。どうやって使おう?

とりあえず俺は1日におろせる限度額である20万円をおろしてみることにした。


「俺、コーラ。あとは好きに使え」


と言ってヤンキートリオに一万渡す。こいつらは一方的に俺にボコられ、縄張りから追い出されるのだ。しかも溜まり場の情報を俺に流すことで仲間からあとで迫害されるかもしれない。少しくらいいい事があってもいいだろ。


「………いいんすか?」

「情報料だ」


俺は心からそう言った。ちょっと安いかなと思いつつ。


「「「あ、ありがとうございます!!!!!」」」

「お、おう」


思いのほか、リアクションが良くて驚いた。


----------------------------------------------------------------------


「兄貴は太っ腹っすね」

「腕っぷしもとんでもねえしな」

「その上恐ろしくイケメンときた。最高っすわ」


お釣りを「いらねえ」と言ったら懐かれた。全員俺と同じコーラを買っている所にそこはかとなくリスペクトを感じる。


「おまえら高校生だろ? 俺はまだ中3だぜ。兄貴はやめろよ」

「じゃあ若で!」

「殿も捨てがたいっすけどね」

「………殿は捨ててくれ」


若なら家でも執事さん達に呼ばれてるからそんなに抵抗はない。


「俺らは雑魚いヤンキーですからね。やっぱり強い奴について行くしかねえし。ついて行くからには強くてカッコイイ人のがいいんすよ」


リーダーっぽいヤンキーAが言う。金持ってるが抜けてるぞ。しかし雑魚の自覚はあるんだな。しかし、コイツらがすんなり俺の舎弟と化したところから察するにコイツらの番長は人望ないんだろうな。そう思ってチラっと『ぽこるげっぷ」の方を見る。


「で、狂犬の六車だっけ? もしかしてアレか?」


俺の視線の先には無理やり店に女を連れ込む三世代前の髪型のヤンキーがいた。一周まわってリーゼントがおしゃれな時代がやってきているんだろうか? それはともかく、普通に強そうな奴に見えた。見るからに筋肉質で身長も190はありそうだ。


「離せっつってんだろ!」

「うるせえ!!」


ああいう言葉遣いの女は苦手だなぁと思いつつ、俺は女が店に蹴り込まれるのを確認した。なんかめんどくさいなぁ。


「アレは、有島明菜。この辺の『ヴェルサイユ・ローゼス』ってレディースの頭ですね」

「んで猫嵐高校の番長、春山のオンナでもありますね」

「ってことは?」

「あの女は猫嵐高校の番長を呼び出すための人質ってとこでしょうね」


それを聞いて俺は一考する。狂犬の六車とやらと同時にその番長もシメてしまえば番長クラス二人、さらに俺の圧倒的な強さを見ればレディースまでも含めて黙らせることができるに違いない。


「飛んで火に入る夏の虫とはこのことだぜ」

「え、どういうことっすか?」


あ、心の声が漏れてた。


「狂犬の六車、猫嵐高校の春山、どっちもシメちまおうと思ってな」


俺の答えに驚愕の表情を浮かべるヤンキートリオ。コイツらはリアクションが良過ぎる。


「むぐるまぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!」


その時だった。前世も含めた人生の中で一番でかいと思われる声が街に響き渡った。心なしか耳が痛い。

声の主は赤髪のツンツン頭のヤンキーだった。六車の外見がパワーファイターならこいつはスピード型って感じだ。攻略本で見たような気がするがレアなルートの中ボスくらい存在だったはずだ。


「春山っすね」

「うん。知ってた」


ヤンキーAがドヤ顔で教えてくれた。まあ、状況的に春山しかないよね。

春山はすごい勢いで『ぽこるげっぷ』の中に入っていった。普通の展開としては、人質を取られているせいで手を出せずボコボゴにされる場面だ。


「若、どうしやすか?」


何かを期待した感じでヤンキートリオが俺の答えを待つ。

うーん、どーしよ? やっぱ正面突破かな。


「うん。よし! 予定通り、サクッと全員シメてくる」

「え?」

「真っ正面からすか?」

「じゃあ俺たちはどうすれば?」

「最初から言ってんじゃねえか。この街から出て行け」


俺はそう言い残して店に向かった。


--------------------------------------------------------------------------------


店の入り口まで着いた俺だが、さすがにちょっと緊張する。ヤンキーならいいが本物のヤクザさんとかいたら流石に後悔しそうだ。というわけでちょっと耳を澄まして中の声を聞いてみることにした。


「んーんー」

「サシで勝負しろ!!!」

「あ? てめえ状況わかってんのか?」

「なんだよ、怖えのか?」


どうやら春山が必死にタイマンに持ち込むべく挑発しているようだったが、六車はそういう挑発は効かないタイプのようだった。


「別にサシでやってもいいけど、俺が勝とうが負けようが、その後てめえはコイツらにボコボコにされるし、女も当然解放しねえ。それでいいか?」

「………クソが」


六車のこの言い方から察するに、春山の単純な喧嘩能力を買ってはいるのだろう。負ける気もないだろうが確実に勝てるかはわからない、それなら女を攫って心を折る方が楽。そういう考えだろう。

個人的にはあまり好きなやり方ではない。


「………アンタには逆らわねえ。何でもする。女を解放してくれ」


出るのか、日本の伝統芸能ジャパニーズ土下座。

でも、あれってもうパフォーマンスでしかないよな。髪型にこだわりない奴でも反省したって言ってボウズにしたら周りが「どうやらちゃんと反省してるようだな」と勝手に解釈してくれるのと一緒だよなぁ。


「バーカ。なんで俺がてめえの安い頭で譲歩してやらねえといけねえんだ。てめえは半殺し。女は女に生まれたことを永遠に後悔する心境になるまで帰すわけねえだろ」


うむ。清々しいほどの悪党っぷりだ。こういう時に宗教って役に立たないって思っちゃうんだよなぁ。だって神様はヒーローみたいに現場に駆けつけて助けてくれたりしないだろ? まあ今回は俺が乱入するけど別に助けるわけじゃないしな。


「邪魔するぜ!」

「ん? ぐばぁー!!!」


俺は思いっきり扉を蹴飛ばしてかっこよく登場する。その時、俺に蹴飛ばされた扉は俺の予想以上に勢いよく飛んでいき、土下座していた春山に直撃した。春山はぴくりとも動かない。どうやら気絶したらしい。

全員半殺しにするつもりだから結果は同じだが、何故か少し申し訳ない気もするから不思議だ。


「誰だ、てめえは?」


六車とかいうリーダーっぽい奴が質問してくる。が、答えてやる義理はないので無視して攻撃に移る。説教は一通りぶっ飛ばしてからだ。

そもそもこの六車とかいうリーダーがしっかりしていないから、街のチンピラが一般人に迷惑をかけるのだ。そして俺のようにピュアなハートの青少年が意中の女性と二人でラーメンに行くチャンスを奪われるのだ。

故にコイツらは自らの存在が万死に値するということを骨の髄まで叩き込んでやらねばならない。

二度と俺のような犠牲者が出ないように!


「がはぁ」

「くばぉー」

「ゲヘー」

「あべしっ」


俺の鉄拳制裁によって個性あふれる断末魔をあげるモブ達。本当にスペック高えなこの身体。動きが止まって見えるし、今のところ100%ワンパンで仕留めている。

そしてありがたいことに、店は営業する気がないのかテーブルや椅子が極端に少ない。非常に暴れやすい。


「待て!この女がどうなってもいいのか!!!」

「そいつもレディースで人様に迷惑かける奴だろ。どーでもいいわ」


さすがに女を殴るつもりはないけど、このモブ達に殴られたり、ちょっとエッチな目で見られたりするのは自己責任の範疇だと思うんだ。


「んーんーんー」

「馬鹿野郎! それ以上近づくぬあぁぁ」


飛び蹴りで女の右にいた奴をぶっ飛ばす。腕を掴まれていたせいで女もすっ転ぶ。パンツはシマシマ系の地味なやつで全然グッと来なかった。やっぱり特に助けてやる必要は感じないな。


「なんなんだてめえは!」


女のもう一方の腕を掴んでいた奴も右ストレートで沈めて、ラスボスの六車に突撃すると、扉に向かって六車が逃げ出し、取り乱したように叫ぶ。


「逃がさねえよ」


俺は数少ない店内のテーブルを持ち上げ、六車に投げつける。

六車は咄嗟に腕を上げてガードする。とはいえガードごと体を持っていかれて壁に激突した。ダメージは入っているだらうが気絶しない。やっぱボスキャラはHPが高いんだろう。


「ちきしょう、何だってんだ!?」

「おまえが逃げるから仕方ねえじゃねえか」.

「くっ、そういうこと訊いてんじゃねえ。だいたい俺らに何の恨みがあるってんだ? てめえなんか知らねえぞ」

「ああそういうことか。街の不良撲滅運動だ。ここが溜まり場なんだろ? だから潰しにきたんだ」


ボスにはぶっ飛ばす前に理由を教えてやっておこう。で、完膚なきまでに叩き潰してからもう一度丁寧ににやってはいけないことを伝える。うむ、パーフェクトプラン。


「何なんだよ、 意味わかんねえよ」

「普段特に意味なく人様に迷惑かけてんだから、この位で文句言うなよ」

「ぐぎゃ!!」


答えながら俺は飛び蹴りで派手に六車を吹っ飛ばす。飛び蹴りと言っても蹴るというより足で押す感じに近い形なので、見た目ほどダメージはないはずだ。蹴り飛ばされたという事実による精神的ダメージこそ重要なのだ。


「今後この街に誰一人ヤンキーを近づけるな。不良から足洗って一般人として常識的に振る舞うなら構わねえけどな」

「う。ぐっ………」


俺は左手で六車の胸ぐらを掴んで無理やり立たせる。

戦意は喪失しているようだが、それはあくまでタイマンで勝ち目がないと悟っただけのようだ。目が死んでない。何か悪知恵を働かせている気がする。

俺が右ストレートのフェイントを入れると顔を守るため六車は両手を上げた。俺はガラ空きになった鳩尾にボディブローを突き刺す。


「…………かッは」


六車は腹を抑え、声にならないうめき声を出しながら転がり回る。


「もう一度言うぜ。不良どもはこの街から出て行け」


決まった!レディースらしい女もパンツ丸見えの姿勢のまま俺の一方的な攻撃を見ていた。あの見え方でドキドキしない下着をチョイスのセンスはマジでヤバイと思う。ともあれこいつには彼氏共々この街で悪さしないよう言っとかないとな。


「よう姉ちゃん、アンタもどっかのレディースで、そこの彼氏もどっかの番長なんだろ? 彼氏にも仲間に身言っといてくれ。この街は不良撲滅運動中だってな」


決まったぜ!

これでこの街は平和になるに違いない。


「wow、こりゃあどう言う状況だ?」


俺は声の方を向く。

筋肉隆々のスキンヘッドサングラス。タンクトップで腕のイカついタトゥーが丸見えという凶悪な外人のおっさんがそこにいた。

こいつは絶対ヤバい。気配を感じる訓練とかもしてる俺が一切気配を感じなかった。


「ポ、ポコルゲップ!? いつもの十倍払う。こいつどぅぉ!!!」


六車が勢いを取り戻しかけたので後ろ回し蹴りで意識を刈り取る。

ポコルゲップ、ハンガリー語で地獄の鬼だっけ? やべえ。絶対こいつ元特殊部隊かなんかだ。CIAから出張家庭教師のリゼさんと同じ匂いがする。いくらスペックが高かろうが本物のプロには喧嘩で勝てる気がしない。


「ah、そいつはこの店を毎日貸切にしてくれる上客なんだが?」

「へー、そうなんすか」

「おまえは、ウチの店の営業妨害に来ているって理解でいいのか?」


そうなるな。

だが、馬鹿正直に答えると俺が死ぬ。どうする俺? 考えろ俺!


「沈黙はyesと受けとるぜ?」

「………あんたに聞きたいことがある」

「何だ?」

「この店いくら?」


俺のお小遣いの範囲で収まりますように!

先程まで宗教などクソの役にも立たないと思っていた俺だが、この瞬間は神に祈った。

ポコルゲップというハンガリーではレジェンドのヘビメタバンドからインスパイアされました。

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