6、ヒロインとの遭遇
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「今日からアタシが紹介する所でバイトしなさい」
いつのまにか俺の教育係に就任していたらしい姉の皇城院綾音にそう言われたことで、半年以上に及ぶ俺の引きこもりで特訓の日々は終わりを告げた。何やら社会復帰したような気分だった。引きこもりと言っても敷地が〇〇ドーム10個分的な馬鹿でかい敷地なので引きこもってる実感はないのだが。
家庭教師も完全に無くなる訳ではなく、大幅に日数は減るものの今後も継続ということだった。みなさん美人で結構目にやり場に困る種類の胸元だったりミニスカだったりで、俺はウキウキしながら教えてもらっていたので少し残念だ。特にコッソリと胸の感触を楽しめた寝技の授業が減るのは悲しい。
「鳳凰院美空って高校2年生の女の子がそこのオーナーだから、今から面接行ってきて」
俺はなんとなく、この綾音という実の姉が苦手だ。兄貴は偉そうだけど爆乳ハンターだし、なんとなく尊敬の念を持って接することができるのだが。
前世でも綾音姉さんみたいなザ・ギャルみたいな女の子の友達はいなかったし、綾音姉さんはギャルの中でも上品でR&Bを上手に歌い踊れそうなギャル的ヒエラルキーの最上位っぽいカリスマ感がある。とても苦手だ。
まあ、そんなこんなで俺は姉に逆らうなどという選択肢を一切持たないため、促されるがままに我が家の敷地の外に出た。年齢的に中三でバイトって有りなのか?と思いつつ。なお、移動はもちろん超高級車。そして今日の運転手は、俺専属の家政婦の1人、柚珠奈さんだ。
ちなみに俺専属の家政婦さんは4人いてローテーションを組んで回している。この4人は若めの美熟女というか美魔女というには若すぎるくらいの年齢で、家庭教師のお姉さま方が二十代前半から中盤だとしたら、家政婦のお姉様方は30前後(に見える)という感じだ。もしかしたら40オーバーもいるかもしれないが、女の年齢は数字じゃないと俺は改めて学習させてもらった。彼女たちのお陰で、俺はかつて拒絶反応を起こしていた、いわゆる「人妻もの」のエッチな動画を鑑賞できる境地に達している。
「着きましたよ、お坊ちゃま」
「お坊っちゃまはやめてくださいって言ってるじゃないすか」
「はいはい、わかってますよ、吹雪くん」
イキナリ名前呼びとは………。好きだぜ、そういう不意打ち。柚珠奈さんたぶん30超えてるんだろうけど、なんというか全然イケるな。
そんなことを思いながら車を降りると、騒々しい雰囲気の歓楽街にある大きなビルの前だった。ビルの一階のテナントには「執事カフェ 漆黒の翼」なる店が入っていた。
「本当にココで合ってる?」
歓楽街自体はゲームでもしょっちゅう訪れる場所なのだが、執事カフェはゲームの中では登場しない店だった。とはいえ、同じ敷地にあるメイド喫茶は登場するが。
この執事カフェがある建物は一区画を全て自分の敷地とする広大な建物だ。北側がナイトクラブ、南側がホストクラブ、西側が執事カフェ、東側がメイド喫茶になっている。どうやら全部経営元は一緒のようである。メイド喫茶はゲーム中、美術部(という名の漫研)に入部して、コスプレイベントを発生させると勉強のためという名目で来ることができる。その後常連になるかはプレーヤー次第だ。
ちなみに歓楽街でのイベントは、不良に絡まれる系のイベントが多かった。他校の不良系ギャルの攻略ルートに挑む時は、学校に行かずに歓楽街に常駐し、喧嘩に勝ち続ければならなかった。そのルートは格ゲールートとも呼ばれ、恋愛シミュレーションゲーム内のミニゲームとしては破格のクオリティを誇る本格的な格ゲーのパートがある。攻略本によると、一度も負けなければ全国番長会議で承認され全国制覇を達成できるという。そして、ヤンキー系のネーチャン達をはべらせたハーレムエンドになるらしい。ヤンキーは苦手だから俺はそんな会議に出る気はないけどな。
「あの執事カフェのVIPルームにて、オーナーがお待ちとのことです」
柚珠奈さんは淀みなく答える。
執事カフェじゃなくて普通の飲食でバイトしたいなぁと思いつつ、俺は仕方なく執事カフェに入る。
「いらっしゃいませ」
何故かメイドがいた。入ってすぐは6畳程度の待合いスペースのようだった。奥にゴシック調の重そうな扉がある。
「えっと。。。」
「皇城院吹雪様ですね。お席にご案内致します」
「あ、はい」
奥の重そうな扉を開けると、燕尾服の男たちがビシッと一礼する。
「おかえりなさいませ」
え、俺ここでバイトすんの? なんか怖い。でもしばらく続けたら慣れそうな気もして、それも怖い。
「みなさん、この子は新人さんよ」
俺の案内役のメイドさんが明瞭簡潔に説明してくれた。挨拶した方がいいかと思ったので、とりあえず頭を下げておいた。
「誰のスカウトですかな?」
燕尾服の男たちの中で一番年配のダンディーな執事が問う。それにしても、この人ってば、うちの筆頭執事の瀬場さん並みのプロっぽさを感じる。執事カフェってこんなガチな人がいる店だっけ?
「新オーナーだと聞いております」
メイドさんが答える。オーナーが直接スカウトするのは珍しいんだろうか。執事たちが一瞬どよめいた気がする。実際のところオーナーのスカウトなのか、姉のゴリ押しなのか俺にはわからないが。
「なるほど。期待の新人、というわけですな」
「私は詳しく知りません。業務に関する範囲で必要とあらばオーナーからなんらかのアナウンスがあるかと」
「そうですな。オーナーは一番奥のVIPルームでございます」
「ありがとうございます」
一礼の後、メイドがスタスタと奥井進んでいくので、俺も同僚、先輩になるかもしれない皆さんに再び頭を下げてメイドさんについて行く。
だが、なかなか着かない。結構広い店だ。
「なんで執事カフェにメイドさんがいるんですか?」
無言が苦しくなったので、とりあえず思いついた質問をしてみる。
「入り口でパネルを見ながら執事を指名してもらうためです」
「へぇ〜、なるほど」
思わず、パネル指名とか十八禁のエッチなお店みたいですね。と言いそうになったが、今の俺はまだ中三のはずなので、ギリギリ踏みとどまった。
「こちらの部屋です。ここからはお一人で」
「あ、ありがと」
連れてこられたのは、中庭の中にあるワンルームの別棟だった。渡り廊下を渡って俺は扉を開ける。中は芸能人のオタク拝見で見るようなカウンターバー付きのリビングルームのようになっていた。
そして、そのカウンターでノートパソコンを開いて作業中の女性が一人いた。緩いウェーブのかかった上品なダークブラウンの髪が背中の真ん中辺りまであり、その背中は「美人ですけど何か?」とでも言うような本物のオーラが漂っていた。
「こんにちわ」
俺は女性に声をかける。たぶんこの人がオーナーなんだろう。他に人もいないし。
俺の声に反応して女性が椅子を回転させてこちらを向く。
ストラァーーーーーーーイク!!!!!!!!
思わず叫びかけてしまった。
しかし、それも仕方ないのなきこと。何故なら、俺の理想を実現したかのような完璧な女がそこにいたからだ。
そう、俺はこういう綺麗なお姉さんに掌の上で転がされたい願望があるのだ。しかし、前世も含めてこれまでの人生で転がされたいレベルの真の美女との接点はなかった。いや、うちの家政婦さん達や家庭教師達はみんな綺麗だよ。だが、掌の上で転がされたいというか、一度私と過ちを犯してみませんか?という感じで、ちょっと違うのだ。
何より俺自身、今の自分のイケメン度のハンパなさに戸惑っていて、例えば家庭教師のお姉さんたちの胸の谷間をチラ見しているのがバレたっぽい時、「もう!」みたいな反応で済んでいるのは「どうせ今の俺がイケメンで金持ちだから許されてるだけだろ」みたいな卑屈な気持ちになってしまうのだ。
誰も俺の中身のことなんてわかってくれないだろ、って拗ねた気持ちがあって、でも性欲はキャントストップで。相手も俺の中身を見ないんだから、攻略本知識で攻略キャラのヒロイン達を攻略して、適当に性欲とか征服欲とか独占欲とか満たしちゃえばいいじゃん、とか思っていたのだ。
「こんにちは。吹雪くんよね? 夜桜院美空よ。いきなり呼び出してごめんね」
だが、彼女は俺のそんなやさぐれハートを一瞬で破壊した。
美空さんって言うのかぁ。鳳凰院って名字もカッコイイなぁ。そして何より声の色気がヤベえよ。電話で「おやすみ」とか言われたら興奮して逆に徹夜できそう。セリフもそこはかとなく小悪魔的でヤベぇ。綺麗なお姉さんでセクシーボイスな小悪魔とか百点満点過ぎる。
俺がハイスペックで金持ちのイケメンに生まれ変わったのは、美空さんを口説き落とすためだったに違いない。いや、もうそういうことにしよう。そう、俺は今から運命論者! 攻略キャラ? そんな奴らは全員、主人公にくれてやるわ!なんなら攻略本知識で恋のキューピッドだってやってやる。だからロマンスの神様、美空さんとラブコメさせてください。この人なんです!
とりあえず落ち着こう、俺。焦りは女を遠ざける。前世で嫌という程経験したことだ。それに今の俺はハイスペックな金持ちイケメン。そう、余裕を持つのだ。女は余裕のある男がいいのだ。たぶん。
まず、定期的に会える環境を整えるのが基本のはずだ。バイトになど興味なかったが、ここは何としても美空さんと接点を維持するために是非ここでバイトせねばなるまい。
まずはきちんと挨拶して名前を覚えていただくのだ。
「いえ、お呼びいただきありがとうございます。皇城院吹雪です」
よし! 噛まずに言えたぜ!!!
「ふふ、なんか執事カフェで働いても大丈夫そうな受け答えだね」
「ありがとうございます」
なんなら貴女専属の執事にしてください。
「綾音さんから紹介してもらったんだけど、これは予想以上の戦力になりそうかな」
「全力でやらせていただきます」
「ふーん、なんか事前に聞いてた感じではあんまり働くの好きそうじゃないって話だったんだけど、そうでもなさそうよね」
そう言って美空さんは上から下へと分かりやすく視線を動かして俺を観察する。すげえドキドキする。そして絶対大丈夫なはずなのに、ズボンのチャックが開いてないか急に心配になってくるから不思議だ。
「それじゃ、うちの店について説明するね。ここは私の母が作った店で今は私がオーナーになってるの。で、店は最初は上流階級の息子さん達の礼儀作法の実践の場として作られたんだけど、彼らの本物感が受けて凄く繁盛してるの」
「なるほど。実践は大事ですからね」
俺も隠し子発言でハブられたし。別に興味ないからいいけど、習ったことを使う場所がなくて経験が積めないことに関してのみ不安はあった。
「お金を稼ぐ大切さも学べるしね。基本はオープンスペースでの接客だけど、常連のVIPには貴族の私室風の個室っていうのも用意してたりもするわ。個室だからお触りの可否は執事個人に任せてるけど、お触られは一応禁止させてもらってる」
「お触られって言い方が新鮮っすね」
なんか表向きは合法だけど、裏ではアレなエロい店みたいだな。しかし、お触られか………。妄想力を刺激されるな。家に帰ったら美空さんで妄想しよう。
「綾音さんからは、礼儀作法の実践学習の場として、ビシバシ教育してやってほしいって言われてるわ。あと、護身術とかの腕もいいから、店の用心棒としても使っていいって」
「用心棒っすか。確かに一通り訓練は受けてますけど、実戦経験とかはないので、どこまでお役に立てるか。。。」
正直、腕には自信がある。今の俺なら、昔の俺百人が束になってかかってこようがタイムアタック感覚で無双できるだろう。
問題は美空さんが「暴力はキライよ」みたいなタイプなのか、「強い男ってカッコイイわ」ってタイプなのかをまだ見極められていないことだ。
とりあえず、明日から武道全般の家庭教師である睦美さんと、CIAから家庭教師として派遣されているというリゼさんにカッコイイ敵の倒し方について教えを乞おう。念のため諜報員技術担当の柚莉愛さんにも訊いておくか。
「まあ、中学生の間はインターンというか、職業体験の扱いだから気楽にやってよ。あ、バイト代だけど、吹雪くんはまだ中学生だからお給料って形では出せないけど、高校入学祝いって形でまとめて渡させてもらうし」
「ありがとうございます」
金などいいんです。貴女に会えれば。
てかそうだ、俺はまだ中学3年なんだった。美空さんは何歳なんだろう? 中学生だとまだ相手にしてもらえないくらい年上なのか? そもそも彼氏はいるのか、いないのか?
訊くか? どーする? 訊くは一時の恥、訊かぬは一生の後悔。よし、勝負だ!
「そういえば美空さんは何歳なんですか?」
さりげなく、そうさりげなくだ。まず年齢確認。それから彼氏の有無が訊ける方へ話を誘導するのだ。あくまでさりげなく。
「今高2だよ。あ、そういえば来年、吹雪くんも聖帝学園に入るんだよね? 」
高2、つまり2個上!
そして、来年同じ高校!!! 感じちゃっていいすか? 運命感じちゃっていいすか?
「美空さんも聖帝なんですか? じゃあ一年間は一緒に登下校チャンスがありますね」
あ、やべ。心の声漏れた。
「何よ、登下校チャンスって」
ふふふっと笑う美空さん。マジ天使。俺を見つめ殺してくれ。
いや、見とれてる場合じゃない。ここは彼氏の存在確認チャンスだ。
「あ、でもそんなんしたら彼氏さんに殺されちゃいますよね」
「あはは。大丈夫よ、いないから」
え、マジで!?
「ちょっと! そこで固まられたら本気っぽくなるじゃない」
「え?」
「な-んてね」
遊ばれてる。完全に掌の上で転がされてる。格が違い過ぎる。が、それが心地いい。
なーんてね、の言い方がツボすぎてヤバイ。
でも、何かビッグチャンスを逃してしまった気がする。「本気っぽくなるじゃない」の後に「本気ですから」って言えなかった自分を殺したい。いや、むしろ貴女の手で殺してください。
「それじゃ、店長を紹介するわね」
いや、まだこれからもチャンスはあるはず。追いかけて、追いかけて、いつか振り向かせてみせますよ。
そんな決意を胸に俺は美空さんを追いかけてVIPルームを出るのだった。