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2、俺は隠し子


「はじめまして、と言っておこうか」


そう言われたら何て返すのが正解なのか、学校ではもちろん習ったことはないし、攻略本にも書いていなかった。だから俺は何も話さずただ曖昧に頷いて話の続きを促すことにした。


俺の父を名乗る男は、申し訳なさそうに話し始めた。話から察するに俺の母は、俺をこの家に預けて失踪したということだった。そもそも俺が15歳くらいになったらこの家に預けるのは既定路線だったようだが、細かい事情はよくわからない。父も母に関しては「あいつの出自は少し特別でな」というに留まった。ちなみに俺と父は認知はされていたがこれまで会ったことがないらしく、父は緊張していた。


「金銭的な援助は多少していたが、彼女との約束でこれまでおまえとは会えなかった。長い間すまなかったな」

「いえ、大丈夫です」


なんせ母の記憶がないから問題ない、というか大丈夫と言うしかない。転生前のよく喋る母のことなら思い出せるが。

まあとにかく、ここで変に母の話をされないのは俺的には有難い。現在の父と母の間にはなにやらややこしい事情がありそうだし、記憶にないことは喋れない。俺にできることは、話に合わせてそれらしい表情を作り、適当に相槌を打つことだけだ。


「おまえのお母さんは私のことを何か言っていたかね?」

「………少なくとも悪く言っているのは聞いたことありません」


悪くどころか何も聞いたことないけど。とりあえず俺は自分の咄嗟のアドリブ力を褒めたいと思う。父も「そうか」と呟いて遠い目をしている。今後は母について聞かれたら「思い出したくない」とか言うことにしよう。

話を聴きながら、俺は改めて今世の父の姿を観察してみた。父は控えめに言っても男前だ。顔のシワは年相応に刻まれているが、無駄な脂肪のない身体つき、紳士的な物腰、威圧感を感じさせない程度だが力強い目つき。例え壮年のハリウッドスターの集団に混ざることがあったとしても違和感はないだろう。


「おまえはこの四月に中学三年生になるんだったな」

「そうですね」


そうか、俺は今中三なのか。と思ったが顔には出さない。前世?の俺が18歳そこそこだったはずなので、実際は身体が14-15歳で精神年齢18歳というところか。いや、精神年齢通りかもしれないが。そういえば誕生日いつなんだろう?


「申し訳ないが、この一年は我が皇城院家の人間として学んでもらわねばならぬ事が山ほどあってな。中学校に通う暇はほぼないと思ってくれたまえ。高校はもう決まっているようなものだからそこら辺は心配するな」

「はぁ」


なるほど。俺は絶対にゲームの舞台となるあのお金持ちの集まる名門高校に入るのが運命づけられているのか。まあ、あのゲームは攻略できるヒロインの数がむちゃくちゃ多いし、今のビジュアルなら俺でも誰かと付き合えるかもしらん。それを期待して1年間自分を磨こう。


「おまえも皇城院財閥の一員になるのだ。とはいえ兄も姉も健在だから万が一の保険という所だからな、まあそんなに難しく考えるな。おまえには夢はないのか?」

「そうですね……。マンションをいくつか持って家賃収入で働かずに悠々自適に暮らすことです」


ちょっと正直過ぎたか。だが本音だ。「非常勤顧問のような閑職を貰って家賃収入でスローライフ! 」これこそ俺が大学入学後に辿り着いた楽してダラダラ暮らす夢の答えだ。

父に対しては、財閥のトップになんて立ちたくないという意思表明でもある。そして、トップには立ちたくないが、おこぼれは欲しいという意思表明でもある。

人間のクズということなかれ。ゲーム中、皇城院吹雪は主人公と激しく対立するルートで進むと、皇城院財閥の派閥争いで没落するという恐ろしいルートがあるのだ。俺は絶対に主人公とは親友もしくは傍観者という距離感で付き合うと決めている。突然転生した俺には皇城院財閥しかないのだ。少なくとも今は。


「ふむ。欲のないことだ」

「そうですか? 僕としては欲望のままに答えたんですが」

「だから欲がないと言っているのだ」


父の表情や口調から本気で言っていることが察せられる。マンションの家賃収入でスローライフは欲がないのか。俺は部屋単位ではなく建物単位で言っているのだが、そこはちゃんと伝わってるのだろうか。伝わっているとしたら一体この人は何と言ったら「欲深いな」って言うんだろうか。古典的な勇者のごとく「世界の半分をください」とか言ったらいいんだろうか? ちょっとアホすぎるか? いや、俺の父親世代なら笑ってくれる可能性も高いか。やっぱ言い直そうかな。


「吹雪よ、おまえには家庭教師をつける」


言い直す暇はなかった。それにしても家庭教師か。綺麗なお姉さんでお願いしたい。


「高校や大学で習うような学問の他に、特に学んで欲しいのは護身術だ。最低限、自分の身は自分で守れなければ外出もままならん。これは絶対だ」

「わかりました」


まだ中学3年なのだが高校はともかく大学レベルの何を教える気なのか。

それはともかく護身術か。空手とか柔道とかの武道の類は学校の授業以外でやったことないし、殴り合いの喧嘩とか小学校低学年以来した記憶がない。やっぱりお金持ちは誘拐とかされたりする可能性があるからなのかな。そう考えればゲームの中では世界有数の財閥という設定だったし、護身術は当たり前か。


「では、そろそろ仕事の時間だ。私はあまり家にいないが、おまえの兄と姉が一人ずつうちに住んでいる。タイミングをみてちゃんと挨拶をしておきなさい。他にも認知している子供は数人いるんだが、まあそれはおいおい紹介していこう」

「………はい」


父はモテそうなオジ様だと思ったが、なかなか業の深い人のようだった。後で聞いたところでは父には彼女が両手で数えられない程いるらしい。甲斐性あり過ぎわろた。


「さて、何はともあれ私達は今日から親子だ。私のことは気軽に父さんとでも呼んでくれたまえ」


こうして俺は皇城院家の一員となった。堅苦しかったのはこの時だけで、父さんは以後やけに親しげを超えてもはや馴れ馴れしい程によくしてくれた。どうやら父は基本的に家族に激甘らしい。通称「業と情の深い男」。さらに子煩悩過ぎて鬱陶しいという理由で兄と姉には邪険に扱割れているらしかった。俺はそれを聞いて少し優しくしてあげようと思った。


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