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1、俺の名は皇城院吹雪

仕事の息抜きで書いています。

更新は遅いかと思われます。あらかじめご了承ください。


「つまり、そういうことでいいんだな?」


俺は鏡の中の見慣れぬ自分に声をかける。答える者はいない。答えは自分の中にあるからだ。俺は自分の頬を強めにバチバチと叩く。やけに広い部屋に音が響く。

顔が赤くなったが、それでも鏡の中の自分がイケメン過ぎて笑える。


「ギャルゲーよりRPGのが好きだったんだけどな」


俺は諦めのため息をつく。俺の現在の名前は皇城院吹雪。伝説的なギャルゲー『ビター・スウィート・ラブコメディー』のライバルキャラだ。

ライバルであって悪役ではない。超がいくつ付いても足りないくらい金持ちで、すごい頭が良くて運動神経も抜群。ちょっとナルシストだが嫌味はなく、むしろいい奴。つまり完璧超人だ。

ゲームの中では、いったい何人のヒロインが彼の方になびいて行ってしまったことだろう。とはいえ、別に寝取られ的な意味ではない。「もう好感度は今の時点では上がらないかな」と思ってちょっと他の攻略キャラと時間を過ごしただけでいつのまにやら、、、というだけだ。彼は悪くない。むしろ放置したプレイヤーのせいであるということもわかっている。だが、だからといって納得できるかどうかは別の話だ。とにかく多くのプレイヤーの恨みを買っているキャラであるのは間違いない。作中では悪役ではないが、プレイヤー的には悪役かもしれない。


「でも中身は俺だしなぁ」


俺はため息をつく。

前の世界の記憶は、大学一年生の秋頃というのが最後だ。経歴的に俺はとても普通の奴だった。「スポーツマンの皮を被ったオタク」という目標を掲げた俺は、高校まではそこそこに部活もして(ユニフォームはもらったけど、最後まで控え選手)、彼女はいない歴は人生の長さと同じ(2回ほど告白してフラれた経験がある)。高3ではそれなりに勉強して中の上くらいの大学の経済学部に入った。大学入学後は、なんとなく盛り上がってる周囲のノリに流されてサークルの新歓コンパとか行ってみた、しかし馴染めなかった。今思えば結構無理してたような気がする。

本業であるはずの経済学も面白いとは思えなかったし、とりあえずバイト三昧という夏休みだった。リア充をになろうって気力も湧かない日々。今までRPGしかしてこなかった俺は生まれて初めてギャルゲーに現実逃避した。そしてハマった。


ゲームの名は『ビター・スウィート・ラブコメディー』


賛否両論の伝説的な問題作だ。

まず一番最初に意見が分かれるのは、据置型の恋愛シミュレーションゲームとしては異例のゲームの長さとヒロインの多さだ。

攻略できるヒロインの数はメーカーが「据置型がそんじょそこらのオンラインゲームのガチャ攻略キャラなんぞに質でも量でも負けてたまるか」という無駄な意気込みで3桁近い攻略キャラを作った。「アイドルグループだってあの人数で頑張ってるんだから」と制作チームは血反吐を吐きながらキャラメイクしたという。

ゲームの長さに関しては、まず高校入学式前の4月1日の教科書販売イベントからスタートし、最後は卒業式後の卒業旅行から帰ってくる3月31日まで、キッチリ3年間あるのだ。つまり、プレイヤーは365日×3年+1日(高2が閏年という設定)をやりきらないといけない。しかも平日のスキップモードはない。途中リタイアをする者が続出し、批判がネット上に溢れた。

しかし、メーカーは強気だった。「『最初からナイトメアモード』のキャッチコピーに偽りなし!」とむしろ喜んだ。勢いで一万円くらいする百科事典のように分厚い攻略本も出版した。当然ゲームそのものより高い値段だ。ちなみに俺は買ったし、読み込んだ。一部では死海文書とか地獄の黙示録とか呼ばれているらしい。

批判の声は日に日に強まった。しかし、批判する者に遅れて絶賛する者も徐々に増えた。批判の声を一気に跳ね飛ばしたのが「俺、ずっと引きこもって学校行けなかったけど、きっと毎日楽しく学校に通うことができていらたらこんな感じだったのかな」というコメントだった。


「おまえや俺みたいな奴らのためにこのゲームはあるんだ」

「わかるぜ兄弟。おまえは一人じゃない」

「誰かの人生を救ったって時点で、『ビター・スウィート・ラブコメディー』はもはや宗教と認定してもいいんじゃないか?」


そのコメントは上記のような大きな反響を呼び、一時的にゲームの売り上げは伸びた。

そして、一ヶ月も経たないうちに非常に安い値段で中古屋に並んだ。途中までのセーブデータが彼らの夢の跡であった。


「凄いゲームだとは思うけど、俺は無理」


それがこのゲームの一般的な評価であり、神(一重)ゲーと呼ばれる所以でもある。このゲームはネットではいつしか『暇を持て余した神々のギャルゲー』と呼ばれるようになった。つまり、俺のように現実逃避するには丁度いいゲームであった。

俺はバイト以外の夏休みの時間のほとんどを『ビター・スウィート・ラブコメディー』略してBSLにつぎ込んだ。攻略本も熟読した。親も友人も俺を廃人と呼んだ。夏休みが終わり、世間が文化祭シーズンだと浮かれ始める頃、俺はなんとか一周目をクリアした。一周でもクリアした者がネットで『ワンランク上の修行僧』と呼ばれる理由がよくわかった。そのやりきった感は過去最高のものだったからだ。


そんな俺は今、どういうわけだか『ビター・スウィート・ラブコメディー』ことBSLの超イケメン御曹司系ライバルキャラである皇城院吹雪に転生していた。前世の記憶も大学一年生までで、その後どういう人生を送ったのか全く記憶にない。トラックに引かれたたとかの死んだ記憶もない。寝て起きたらこうなってたって感じだ。だからだろうか。、皇城院吹雪としてのこれまでの人生もさっぱりわからなかった。

とにかく俺の見た目は今間違いなく皇城院吹雪だと断言できる。ちょっと若い気がするけど。この部屋は俺の部屋なのだろうか? そもそも今俺は何才なんだろう? 鏡の中の自分に問いかけてももちろん答えは出ない。


その時だった、部屋の扉をノックする音が聞こえたのは。


「どうぞ」


反射的に返事をする。拒否する理由はないから返事に問題はないとはいえ、俺はドキドキしながらも返事を待つ。

返事に応じて入ってきたのは、上品な雰囲気なのに髪型やファッションがファンキーかつギャルギャルしい姐さんだった。後で聞いたところによると、この人は俺の母親違いの姉で皇城院綾音というらしい。つまり俺こと皇城院吹雪の異母姉ということになる。俺の家族についての知識は、攻略本に皇城院吹雪の家族構成は父、兄、姉と書かれているということだけだから、あまり姉弟という実感は湧かない。


「父さんが会う時間できたってさ。アンタは大丈夫?」

「大丈夫」


なんだかよくわからないけど、俺はいい笑顔で返事をしておいた。



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