1 神様と面接
今日は本当に最悪な日である。
仕事でミスをして怒られる、これはまだ軽い方だろう。階段で躓いて転ぶ、これもまだ軽い方だ。死ぬ、これは最悪だ。
きっとこの日は疲れていたんだろう。工場からの帰り道に、自転車に乗りながらスマートフォンを弄っている女子高校生に轢かれてしまった。普通だったらチェーンの音で気付く筈だし、前からのライトで気付く筈だった。だからこの日は疲れていたんだろう。目の前に来るまで気が付かなかった。女子高校生も俺を轢くまで気が付かなかったんだろう。
正直言って俺が殺された事とか、彼女が社会的に殺された事とかはどうでもいい。いや、どうでもよくはないんだが、目の前の光景に比べたらちっぽけすぎる。
見渡す限り宇宙なのだ。俺は今宇宙にいるのだ。ガスでできた星や岩石でできた星が恒星に照らされている。遠くに星雲が見える。近くに恒星でもあるのだろう。図鑑で星の大きさや宇宙の大きさを調べて興奮していた俺にとって今のこの状況はとても感動的である。ああ、胸がキュンキュンする。一生ココで星を眺めていたいぐらいなのだが、この無酸素空間の中でどうして生きていられるのだろうか。いろいろと考えてみたがどれも説得力に欠けるので、一番楽な幽霊になったからという説を採用した。俺は幽霊である。
そうして思考停止をしていた俺に誰かが話しかけてきた。
「こんにちは、川谷洋介くん。私は神です」
どうやら神らしい。キリストの神様が着ているような服を来た青髪碧眼のショートカットのイケメンだ。少し幼い感じもする。想像していた神と違ったせいで俺は言葉を返せなかった。
「おや、どうやら動揺しているようだね。まあ、しょうがないか。死んでいきなりこんな場所に連れてこられたわけだしね」
違う、いきなりイケメンに話しかけられて動揺しただけだ。
「まあいいや。君をここに連れてきた理由を話そう。その理由は……、スカウトだ」
「スカウト?」
「お、ようやく声が聞けたね。そう、スカウト。君はクジで選ばれたんだ」
「クジで……?」
「クジで。この日のココらへんで死んだ人間を連れて来て世界の管理を手伝わせようって会議で決まったんだ」
それをクジで決めていいのか?まあ地球は広いしクジで選んでもしょうがないとは思うが……。
「性格が最悪な奴が来たらどうするんだ?」
「それは大丈夫だよ。面接するから」
面接するのか、面倒だな。
「あっ、いま面倒くさそうな顔したね。まあ、すぐ終わるからそんな面倒に思わなくていいよ」
「そうか、ならいいんだが……」
「じゃあ早速やろっか。立ちっぱなしもなんだから座ってよ」
すると、どこからか椅子が二個と机が現れ机がない方の椅子を勧められた。そしていつの間にか神はスーツに着替えている。どうしてスーツを着ているのだろうか。あとなんで知っているんだろう。そう疑問に思っていると唐突に面接が始まった。
「じゃあ面接を始めよう。では初めに、犯罪歴はある?」
「あ、な、無いです」
「なら良かった。じゃあ次に二つ願いを叶えるつもりだけど何がいい?権利を取っておくこともできるよ?」
「え、えっと、じゃあ、取っておきます」
「了解。最後に、これからやる仕事はたまに危険なことをしてもらうつもりだけど大丈夫かい?」
「え!?質問いいですか?」
「はいどうぞ」
「危険なこととは具体的にどういうことなんですか?」
「具体的に言うとそうだね、星間戦争を止めるとか、星を滅ぼそうとする者を止めるだけかな。大丈夫、ちゃんと戦えるだけの能力は与えられるし、出来る限りバックアップするから」
「そ、そうですか。というか生命体とか居るんですか!」
「あ、そういう質問はこの面接が終わってからでお願い。それでやってくれるの?」
「あ、ええと、そうですね、やりましょう」
「よし。それじゃあ面接は終わりです。お疲れ様でした」
「お、お疲れ様でした」
まだ疑問に思うことはたくさんあったのだが、こうして俺は世界の管理を手伝うことになった。それとなぜか面接中はですますをつけた言葉になってしまったのだが、どうやら就活中の癖が出てしまったようだ……。
グダる予感がする……。