第六話 作戦と誓い
第六話
作戦と誓い
「・・・真白さんと、利彦さん、千尋ちゃんが、死んだ。」
三階での休憩中、目覚めた俺らを迎えたのは、蒼のそんな言葉だった。
みんなの空気が重くなる・・・。
「芯君、どう思う?真白たちは殺されたのかしら?」
清美さんが俺に聴いてくる。
整理してみよう。
参加者は十一人、既に死んでいるのが水瓶座、山羊座、乙女座、双子座、天秤座。ここにいるのが俺、菫ちゃん、清美さん、蒼。となると、所在不明が、蟹座、蠍座、射手座の三人。
ジョーカーアプリがあるから・・・えっと、ややこしいな・・・。
さらに所在不明の内、一人はデカい銃を持って俺らより先に行っている・・・。
・・・そうか、それは射手座の人だ。・・・ただ、射手座が先に行ったことがわかるのは俺だけだ。そんな情報は流せない・・・。でも、それじゃあ、話が進まないし・・・なら。
「・・・たぶんだけど、三人が殺された可能性は低いと思う。三人とも強いし。それに、壁から得た情報だと銃を持った人は俺らより先に行ってるらしいし・・・そして蟹座はミッションで武器を持てない。」
「なるほど・・・ということは、ガスの進行に間に合わなかった、とかか。・・・だとすると、私達がすぐに狙われる、ということは・・・」
「たぶんだけど、少ないはず、もし相手に瞬間移動とかのスキルがあったら前提が崩れちゃうけど・・・」
あえて、蠍座と、ジョーカーアプリの話はしなかった。
「・・・芯君、今のって、嘘、ですよね。」
菫ちゃんが小声で話しかけてくる。・・・バレてたか。この子はきっと昔の俺ができなかった人の心を察する、ということができる優しい子なのだろう。
菫ちゃんは昨日話をした後から、マフラーを顎下で巻くようにしていた。顔がよく見える。しかも俺の目を見て話す。まだ慣れてないみたいでちょっとキョロキョロしてるけど、むしろそのあどけない感じがかわいい。・・・その件は清美さんがニタニタと俺を見てきたので、清美さんには何かあったかバレているみたいだ。蒼は気付いてないけど。・・・隠し事って難しい。
「ちなみに俺は、その銃を持った人は射手座じゃないかと予想します。スキル情報によると、そんな感じなんで。・・・ただ、それと一緒になかなかに穏やかじゃない雰囲気ということもわかってます。恐らく俺らと遭遇したら向こうは攻撃してくるでしょう。」
攻撃される理由がこっちにあるわけだし・・・
「射手座ミッションは蠍座の殺害でしょ?なんで私たちが攻撃されるの?」
「どうやらその人は相手が誰か関係なく殺して回っているようです。ジョーカーとかありますし、その方が手っ取り早いからでしょう。」
「・・・だとすると、対策を練らないとよね。」
「そんなの、俺が強化して戦えば大丈夫ですって」
「相手だってスキルがあるのよ。どんなスキルかわからないのに安直に結論は出せないわ」
「とはいっても、蒼をメインアタッカーとする以外はないんだけどね。俺は戦力にならないし」
「どんなスキルかわからないけど、私が相手を支配して操ってしまえば、何もできないわ。・・・ただ、私のスキルは操り始めるときだけ近場にいないとダメなのよ。」
「つまり、俺の肉体強化で相手をして、その隙に清美さんが操るまで近づく、と」
「・・・わ、私も射撃で、援護します!」
予想外の主張。みんなが声の主を見る。
あ、清美さんはまたニヤニヤしながら俺を見ている・・・。
別に菫ちゃんが変わったことは「そういうの」が理由ではないのだけど、話すと長くなるし、少なくとも「そういうの」が俺の中になかったわけではないので、墓穴を掘りかねない。
「と、とりあえず、方針も決まったし、先を急ごう。」
誤魔化して先へと進む。
チェックポイントを廻っている間も、菫ちゃんはしっかりと警戒していた。本当に素直な子だ。俺もこういう素直さがあれば、間違いを気付かせてくれる人がいたら、とか考えてしまう。
「芯君、芯君。菫ちゃんと昨日、何かあったの?」
・・・ついに清美さんが仕掛けてきた。
「少し、俺の昔話をしただけですよ。俺がした失敗を話して、同じ失敗はしないでねって感じで。」
「ホントに~?」
ニタニタ疑うように見てくる。この人の考えていることが手に取るようにわかる。
「清美さんが想像しているようなことは何も」
「私が想像してるようなことって~?何かな~?」
この人楽しんでるよ・・・
とか非戦闘員が緊張感もなくダベっていると、四階にたどり着いた。陣形しっかりしてると進みが速い。
四階に上がるとまず清美さんが地図をチェックする。
「・・・階段が・・・ない・・・これは・・・あった!目的地!」
清美さんのスマホをみんなで覗き込む、そこには四階の地図と、「終点」と記載される部屋があった。
「チェックポイントも四階は無いみたいだし、やっと終わりが見えたわね。」
「・・・そ、そうですね。やっと・・・」
「これでスキルを持ったまま元の生活に戻れるんですよね。俺、早く帰ってスキルで人生を意味あるものにしたいです。」
「・・・いや、まだだ。」
みんなの安堵した空気を壊すように俺は告げる。
「さっきも言いましたけど、恐らく射手座の人が俺たちを狙ってくるはずです。返討ち・・・少なくとも無力化しないことには俺たちは生きたままゲームクリアはできないでしょう。」
「ま、でも俺がそいつをぶん殴るっていうことは変わらないんですよね?なら話はそこまで難しくない。チェックポイント廻るよりも簡単ですよ。」
蒼が気楽に言う。
「ま、そうよね。やることは変わんないわよね。私達も生きて帰るためにここまで来たんだから。相手にどんな事情があっても、譲れない。」
「・・・とりあえず、相手は銃を持ってるし、万全の状態で挑みたい。残り十数時間で俺たちの手錠もはずれる、そのあと仕掛けよう。」
「・・・そうね。そうしましょう。と、なると、この後はどうしましょうか。」
「一応『終点』の中の様子を調べて、そのあとは休めるところで休みましょう。」
射手座の人には悪いけど、気の毒だけど、俺たちにもそれぞれ目的があるんだ。
俺たちは『終点』の部屋にたどり着いた。地図があって、チェックポイントが無いと、こんなにも楽なのかと初めて思った。
「終点」の扉は他の部屋とは豪華さが数段違った。一目で異様さに気付く。
まだ部屋には入らずに、俺が壁に手を触れ、部屋の様子を伺う。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「どうやら中には一人、予想していた通り射手座の人がいるっぽい。しかもかなり殺気立ってる。」
「戦闘は避けられないようね。」
「大丈夫だって、俺のスキルなら銃弾だって避けるどころか一発ずつ摘めますよ。」
「芯君、相手のスキルとかはわかんなかったの?」
「そこまでは無理ですよ・・・意外と壁って厄介な性格してまして。」
「?・・・そうなの。」
「とりあえず場所を移しましょう。他の参加者が来るかもしれませんし。」
終始菫ちゃんは無口だった。・・・気を張り詰めているようで・・・
俺たちは少し離れた部屋に入る。今回もベッドなし。べ、別にベッド無いからって、寂しくなんて・・・ないし・・・ないし・・・
俺たちは先に食事&見張り組だった。清美さんが決めてるんだけど、あの人案外自分のことを優先するよな。
俺は菫ちゃんが少し心配だったので聴いてみる。
「緊張してるの?今日、四階に上がってから全然しゃべってないよね。」
「う、うん。なんか、いろいろ迷っちゃって・・・」
「まぁ、もしかしたら人を殺さなきゃいけないわけだしね。戦闘ができない俺はなかなか歯がゆいよ、みんなに嫌なところ押し付けてるみたいでさ。」
「べ、別に、そんなことは・・・」
「・・・菫ちゃん。昨日の話の続き、になるんだけど、昨日菫ちゃんは、キミのスキルについて、『結局引き金を引くのは自分』って言ってたよね。」
「う、うん。」
「菫ちゃんは優しいから、きっと今までも言葉を伝えようとしても、この言葉で相手を傷つけないかって躊躇ってたんじゃないの?」
「え、えっと、はい。・・・そんな感じです。」
「その優しさはすごくいい。だけど、躊躇わないで。銃弾も、キミの気持ちも、躊躇わずに伝えて。・・・じゃないと、きっと後悔する。」
「・・・うん。・・・今までも・・・それで、いっぱい後悔、してきた・・・。」
「明日は大事な日、決心をしっかりしないと、生きては帰れないよ。」
「・・・うん。」
「俺も、大したことはできないけど、必ずキミの未来を守るから・・・だから、一つ誓いをしてほしい。」
「ち、誓い?」
「生きて戻れたら、昔の俺と同じ失敗は、過ちはしないっていう、誓い。」
「・・・はい、誓います。」
彼女ははっきりと、自らの意志で、俺の目をしっかりと見て、誓ってくれた。
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紅い部屋
やたらと豪華な扉を開いた。どうやらここがゲームの目的地のようだ。運良く誰とも遭遇せずにここまで来れた。後は審査とやらを通れば「生きて」帰ることができるはず。
部屋は段ボールが散乱していた。そして、そこには先客がいた。大きな銃を僕に向ける。
「待って欲しい!僕は貴方に危害を加えるつもりはない!僕は蟹座の秋山 紅。ミッションは武器を使用せずにこの部屋までたどり着くこと。貴方をどうこうするメリットはない!」
とにかく無害を伝えなければ!折角ここまで来たのだから、生きて帰る!
「そうやって、また俺を騙す・・・スキルだってデタラメなんだろ!誰が寄越したかわからないモノなんて誰が信じるか!!もう俺は騙されない!!」
男は叫ぶ、これは話しても無駄だろう。
僕は彼の銃口と引き金の指先をしっかり見る。
彼が引き金を引くのと同時に回避行動を取る。彼の様子からしてみて、兵役とかの経験があるとは思えない。素人相手ならスキルなんてなくても対応できる。それが僕の才だから。
銃声が鳴り響くが、どれだけ銃を撃とうとも、その弾丸は僕には当たらない。避ける様に彼に接近していく。
あまり傷付けたくはないけど、さすがに銃は厄介だ。両腕くらいは折らせてもらおう。
そう思って、僕は彼の死角を突き、隣接するために一気に近付こうとした。
バアァァンッッ
突如、足元に転がっていた段ボールのひとつが爆発した。
小さな爆発だったが、僕の脚の大半を持っていくには十分だった。
「ガッ!・・・くっ!うっ!」
僕は脚が機能せずに倒れるしかなかった。
倒れる僕に彼は銃口を向ける。
轟音が鳴り響いた後に、部屋が紅く染まった。