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Desire Game   作者: ユーキ生物
心の章
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第四話 休めない休息

第四話 休めない休息



 二階にやってきた。相変わらず一面コンクリートな景色で嫌になってくる。俺たちは利彦さんから得た「二階には休憩室というシャワーやベッド、食料など生活用品が詰め込まれた部屋がある」という情報を頼りに休める場所を清美さんのチェックポイントを周りつつ探していた。

 その道すがら真白さんのミッションを達成するために願いを教えている。


「次はぁ、芯君ね、芯君の願いはぁ何ですかぁ?」

「俺の願いは・・・心を知りたい、というものです。」

「心、ねぇ・・・どうしてそう願ったのぉ?」

「・・・それは、ちょっと勘弁してもらえないですか・・・」

「あらぁ、ごめんなさいねぇ・・・」


 別に話しても問題は発生しないのだけど、安易に話す事ではないから・・・

 そう言うと、真白さんは菫ちゃんの願いを聴きに行った。


「菫ちゃん~。菫ちゃんの願いはなぁに?」

「・・・・・・えっと・・・」


 菫ちゃんもあんまり話したくない様で困っていた。

 みんなそんな感じなのかな?


「菫ちゃん、もし周りに聞かれたくないのなら、スマホを真白さんにだけ見せるとかしてみたら?」

「そうねぇ、そうしてもらえると助かるわぁ」

「・・・うん。」


 俺が提案すると、菫ちゃんも同意してくれた。

 

「・・・っ!!菫ちゃん、あなた・・・」

「?・・・えっ!?何で!?」


 菫ちゃんがあまり他の人に願いを知られたくない様だから、スマホを見ないようにそっぽを向いていたら、なんか隣が騒がしくなっていた。


「?真白さん?どうかしたんですか?」

「えっ!?いや・・・菫ちゃんって、結構着痩せするタイプでねぇ、さっきおっぱい触ったら私よりもあるみたいでぇ、お姉さんちょっとショックだったのよぉ・・・」


 この状況下で何してるんだこの人は・・・

 しゃべり方といい真白さんといると命がかかったゲーム中でも緊張しなくて済む。この人なりの気の使い方なのだろうか。

 もうひとつ気になるのは菫ちゃんの願い。物ではないけど心を知ることを望んだ俺は、物の心を知るスキルを手に入れた。なら菫ちゃんは何を望んでライフルを呼び出すスキルを手に入れたのだろうか・・・


「!?・・・皆さん~ちょっと待って下さい~。」


 真白さんが何かに気付いたようにみんなを止める。


「清美ちゃん、地図を見せてもらってもいいですか~?」

「ええ、どうぞ」


 余談だが、清美さんと真白さんは同い年らしい。一応このグループでは最年長、蒼は俺より年下で19歳、菫ちゃんが16歳、さっきの米山兄妹も若いし、水瓶座の子も・・・参加者の年齢は20歳前後なのだろう。


 「ちょっと遠回りになりますけどぉ、こっちから行きましょう~。」

「行きましょうって真白、最短はこっちよ。」

「最短ばかりじゃつまんないわよ~、それに、こっちに休憩室がある気がするのぉ~。」

「そんな適当な・・・私のミッションで時間がかかるのに何で・・・。」

「清美ちゃん、真面目なのは清美ちゃんのいいところでカッコいいけどぉ、あんまりカリカリしてると疲れちゃうわよ。おっぱいも育たないしぃ」

「胸は関係ないでしょ!」


 真白さんオヤジ臭い・・・

 そして清美さん・・・カッコいいんだけど、美人なんだけど、ある一点、いやこの場合な二点か、その二点が物足りない・・・美人だから気にはならないけどね。

 菫ちゃんはマフラーとブレザーの所為であまり目立たないけど、真白おじさん曰く大きいらしい

 その真白さんもなかなかの物をお持ちだ。


「じゃあ、こうしましょ~、私の未来予知でこっちに休憩室があった未来が見えたってことで」

「真白さん、見えてないんでしょ。俺のスキルでひとっ走りしてきましょうか?」


 蒼いたんだ・・・ホント影薄いな、菫ちゃんは引っ込み過ぎて目立つけど、蒼はまさに空気、目立たない。


「こんなところで寿命を使わなくてい~のよ。」

「俺は役に立てればそれで十分なんですよ。」

「遣いっ走りで寿命使うなよ。」

「芯さん達には話してなかったですよね、俺の願い。もうご存じだと思いますけど、俺はすごく影が薄いんです。何をやっても平均ちょい下辺りで、ダメ過ぎて目立つとかもなくて・・・。俺には何も無くて、それって生きてるとは言わないんじゃないかって、周囲の人に認識されなければ、生きた証を残さなければって思ったんです。太く短くでいいから、生きた証を残して、生きた意味を、無色な人生に色をって。」

「だから寿命を消費してでも人の役に立ちたいってことか。」


 少しわかる気がする、もちろん生まれたことに意味がないとは思わないけど、自分が周りにどれだけの影響を与えたか、それは生きていたことを色濃く表すだろう。


「まぁ、オトコノコの~くだならい悩みはともかく、進路変えますよ~。」

「どうでもいいって・・・」


 真白さんは本当にマイペースなんだから・・・いや、もしかしたら何か良くない未来が見えたのかな・・・

 俺はお馴染みとなった壁さんと会話する。


(壁さん、この道の先に誰かいるとか、何かあるの?)

(やっと話してくれたと思ったら情報を聴くだけって、あなた、私のこと本当に愛してるの!?)


 この壁めんどくさい


(いいから早くみんなが行っちゃう。)

(そうやって私のことをないがしろにして・・・昔はあんなに愛してくれたのに・・・)

(あーハイハイ、愛してるから教えて下さいお願いします。)

(・・・まったく、しょうがない人なんだから)


 アンタはしょうがない壁だよ。


(さっきなんかヤバそうなオトコが通ったのよ。大きめの銃を持って誰かを探して血眼になってたわ)

(ありがとう。それじゃあ)

(早く戻って・・・)


 壁が最後なんか言ってたけど、俺はスキルを切って進路を変えたみんなを追った。


 真白さん、正直にこの先にヤバいのがいるって言えば良いのに・・・何であんな回りくどい嘘を・・・


 進路を変えてしばらく行くと遠くに男性が見えた。こちらには気付いておらず、俺らとは違う道に行くようで、曲がり角に消えていった。


「真白さん、あの人、願い聞かなくていいんですか?」

「う~ん、目的地は一緒だし・・・一人ってことは攻撃的な人かもしれないしぃ・・・それだとスキルを使っても願いを聴くの難しいし、何よりリスクもあるのよねぇ・・・」


 ・・・どうしようか悩んでいる。俺は・・・


【1:そうですね、危険ですし後での方がいいかもしれません。】

【2:援護しますから、途中で死なれる前に聴いておきましょう。】


 ・・・なんか謎の選択肢出てきた。

 とりあえず俺は1を選んで発言する。


「そうですね、危険ですし後での方がいいかもしれません。」

「だよねぇ~、みんながしっかり戦えるようになったり、向こうもミッション達成間近ならむやみにリスクは背負わないだろうしぃ」


 そういうことで俺らは彼を無視した。



 その後更にしばらく行くと真白さんから休憩室の未来が見えたという情報が入った。


 「言った通りでしよ~。ドャァ」


 嘘から出た誠のクセにドヤ顔決めるとか。

 休憩室は誰もおらず、大量の食料が入ってるだろう段ボールとシャワー室、そして、ゲームが始まる前に寝かされていたベッドが五つあった。


「うあああ!会いたかったよベッドオォォ!」


 俺はベッドに飛び付く、もちろん手錠で一緒の菫ちゃんも


「芯君!?どうしちゃったの?」

「・・・芯君、痛い・・・」

「あ、ゴメン。あまりに気持ちいいから(ベッドが)我を忘れちゃったよ・・・」

「・・・痛かったけど、私も気持ちよかったから(ベッドが)、このままでいいよ。」


 二人でベッドを堪能する。

 他の三人が白い目で俺らを視ていた。なんでだろう・・・


「・・・私、お腹空きました~何か食べましょうよ~。」

「そうね、私もお腹空いたわ。何があるのかしら?」

「えっと・・・レンジで温める米と缶詰が・・・」

「レンジはともかく缶切りは鎖が巻き付いてて持ち出せないようになってるし、持ち出して後で食べる、とかはできないようね。」

「それじゃあ、満腹まで食べちゃいましょ~。」

「ベッドの二人は食べる?」

「・・・お腹空きました。」

「いただきます。俺もお腹空いてますし。」


 こうして俺らは久しぶりの飯にありつけた。味気ないはずのお米も濃すぎる缶詰も今まで食べたどんな料理よりも美味うまかった。


 「それじゃあ、ここで一晩・・・今が夜かはわからないけど、一泊しましょうか。疲れていては効率も上がらないわ。」

「賛成です~。シャワー浴びたいわぁ。」

「・・・わ、私もシャワー、したい、です。」

「確かに、歩き回って結構汗かいたし、さっぱりして寝たいね。」

「・・・あなた達、手錠したままシャワー浴びるの?」


 ・・・あ、そう言えば忘れていた。・・・どうしようかコレ、服も脱げないし・・・



「・・・芯君、絶対目を開けたらダメですからね!」

「大丈夫よ、私に任せなさい。」

「芯君は~私が洗ってあげますよ~。」

「真白、芯君は自分で洗わせるから余計なことしないで。」


 そして俺の周りには裸の女性が三人。見えないけども。

 シャワーの解決策として、俺が清美さんのスキルで操られて、視界を奪われて見張りの蒼を除いた四人で入ることになった。服は手錠の腕に巻きついている。片腕は我慢、ということになった。

 清美さんのスキルは身体を支配されるだけで耳から入る情報や、思考までは奪われないらしい。・・・この状況、むしろ思考も奪って欲しかった。邪念を払い続け寝ければならないという拷問。

 というより、俺の裸は三人にあられもなく晒されているんだが・・・真白さん曰く「私はお姉さんだから大丈夫よ~」とのこと、もはや意味わからない大丈夫だった。

 

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」


 みんな黙って黙々とシャワーを浴びる。ゴシゴシ音は聞こえるから、それはわかるんだけど、何で何も話さないのだろうか、いや、その方が俺としてはありがたいけど。

 ただ視線を浴びてる気がするんだよなぁ・・・


 清美さんが俺を操り身体を洗おうとする、が、いかんせん俺が使えるのは右手だけ、ましてや他人の身体を操るという負担があり、全然進まない・・・


「ああ!もう、面倒!いいわ!私が直接洗った方が速い!」


 清美さんの堪忍袋の尾が切れて清美さん自ら俺の身体を洗い始めたらしい・・・


「んっ・・・ほら、洗いにくいから頭下げなさいよ。」


 俺の身体は考える前に指示に従う、この有無を言わさない感じ、さっきの利彦さんのスキルににている。

 清美さんが俺の頭を洗ってくれる。理容師がやってるんじゃないかって思うくらい気持ちいい。


「清美さん、上手いですね、すげー気持ちいいです。ありがとうございます。」


 操られててもしゃべることはできた・・・


「・・・っ・・・んんっ!・・・!」

「あらぁ、菫ちゃんも洗いにくいわよねぇ。じゃあ菫ちゃんは私が洗ってあげるわ」

「や、やぁ~ぁ!」

「ほぉら、ゴシゴシゴシ~」

「ひゃ!ちょっ!ま、真白さん!く、くすぐったい!あっ・・・んっ!」


 ・・・これはヤバい、何も見えないけど、清美さんという美人が目の前で、裸で俺の身体を洗ってくれていて、隣では普段あまり声を出さない菫ちゃんが悩ましい声を・・・


「・・・あふっ!ゃ・・・真白、さん・・・もう、ダメ、ダメですって!」

「芯君、洗いにくいから脚広げて」

「いや、清美さん、ちょっと、それは待ってもらえると・・・」

「いいから開きなさい、すぐ終わるから」

「すぐとかそう言う問題じゃ!」


 憐れ俺はスキルで操られ脚を広げてしまう。



 ボロンッ



 ・・・あぁ、終わった。

 一言弁明できるのなら、俺は言いたい


「俺は悪くない」


 と



 それから数時間後、俺達は交代で睡眠を取ることにした。

 戦える人が必ず見張る、という条件の為、俺、菫ちゃん、真白さんの三人が先に寝ることに・・・

 ベッドは二つをくっつければ手錠で繋がれていてもそれぞれのベッドで寝れそうだった。片腕伸ばした形で寝にくいけど・・・


「スンスン・・・菫ちゃんっていい匂いするわね~」


 しかし何故か真白さんと菫ちゃんはひとつのベッドに入っていた。二人で何か会話をしている。


「・・・どうして・・・黙って・・・ですか?」

「だって・・・だし、それに・・・」


 あまりよく聞こえない・・・

 二人が何を話しているか気にはなるが、盗み聞きも良くないので、俺は寝ることにした。

 愛してるよ、布団さん。



 さらに数時間後、睡眠交換をし、寝ていた俺らが見張りをする番に、あまりうるさいと寝てる二人に悪いので、しゃべることはしなかった。なので俺はその間に昨日感じた疑問について考えていた。

 真白さんのアプリは俺にだけ無意味。この疑問が何故か頭から離れなかった。ただ単純に真白さんのアプリが俺に相性が悪い、とは考えにくい・・・となると・・・


 考え事をして時間を潰した。


 休憩室を発つ前に俺達は食事を取って食い溜めをしていた。

 俺は見張りをしている間に考えていたことを皆に話す。


「なあ、このゲームってなんのためにやってると思う?」

「え、願いを叶えるためだろ。俺はそのためにやってるけど、皆違うのか?」

「そうなんだけど、そうじゃなくて」

「俺は(そう)だけどな」

「黙ってろ」

「つまりは、このゲームには主催とか、運営がいて、そいつらが何を目的にやってるかってことよね。」

「その通りだよ清美さん。ゲームが始まる時にルールの説明をしてくれた人がいただろ、あの人、さらにはあの人に関係する人達は俺らに何をさせたいのかなって・・・」

「それとぉ、私達のスキルってぇどういうものなのかもわからないわよねぇ~。」

「スキルという技術を自慢したいから、とかじゃないかしら?」

「ただ、それだったら何でわざわざ俺らにゲームなんてさせるのだろうか。」

「何かスキルに関係する実験か、ただ私達がもがいているのを観て楽しんでいるのか・・・そんなところかしら」


 さすが清美さん、俺の言いたいことをすぐに察してくれた。


「さらにいえば、ゲームに参加する時に、『全員参加の方が盛り上がる』とも言っていたところから察するに・・・」

「・・・娯楽として、わ、私達が必死になっているのを観ている・・・」

「それと、あまり確証はないけど、もうひとつ、もしこのゲームが誰かの娯楽のためのものだとして、『隠し要素』があると思うんだ。」

「隠し要素ですかぁ?スキル、ミッション、アプリ以外に、ということでしょ~か?」

「あくまで推測なのですが、皆のアプリと俺のアプリに大きな違いがあるんです。」

「アプリに違い?・・・私の地図、菫ちゃんのタイマー、蒼君の生死情報、真白のアプリ封印と、芯君のミッション一覧?」

「それに、利彦さんの物資・施設情報、千尋ちゃんのガス情報もです」

「・・・な、何か違うかな?」

「真白さんもなんかスキルっぽいアプリなのでなんとも言えませんけど、情報が表示されるタイプのアプリの中で、俺のアプリだけ、情報が更新しないんです。・・・これを思ったのが真白さんのアプリのアプリ封印を俺に使ったらと考えた時です。他の人は封印されると最新情報が入らなくなるのに、俺のアプリは一度おぼえてしまえば封印など痛くも痒くもない。それが観ている人のいるエンターテイメントだとしたらあまりに変だと考えました。つまり、ミッションは変化する可能性がある、ということです。何か条件があるのか、時間でなるのか、詳しくはわかりませんが・・・。」

「ミッションの変化・・・」

「まぁ、実際どうかはわかりませんし、仮にそうだとして、今できることはないんですけどね。」

「いや、その可能性はかなり有難ありがたいわ。蠍座の人に遭遇した場合に、交渉というか、その可能性を示せば私達が殺される必要性が減るもの。」

「そうねぇ、好転するかまではわからないけど、全員の死よりも悪いものってなかなかないわよ~。」


 みんな俺の推測に同意してくれた。確実ではないが思い違い、ということもなさそうで一安心。

 食事が終わると出発の準備をし、出発となる。

 さらば愛しき布団よ。俺はお前と過ごした一夜を忘れない。


「さて、みんなお腹いっぱい食べたみたいだし、そろそろ行きましょうかね。とりあえずは三階まではノンストップで行きましょう。」

「そうねぇ、ガスの進行もあるし、安全なところで休みたいわよねぇ」

「米山兄妹に置いておく用に飲み物も持ったし、大丈夫かな。」

「・・・うん。」


「みんな、ちょっと待ってくれ」


 珍しく蒼が引き止める。


「・・・また一人、死んだ。」


 蒼のスマホには山羊座の欄に「死亡」と書かれていた。




Another viewing

デスルーラ


 二階の一室で、青年は血まみれになった少女の死体を見つけた。

 その少女の近くに落ちているスマホには水瓶座のマークがあった。

 青年の星座は山羊座、ミッションは「水瓶座を生かして目的地までたどり着く」

 つまり、水瓶座の少女が死亡しているということは、彼のミッションも達成できない、ということが確定していた。


「・・・何だよ、コレ・・・やっと見つけたと思ったら死んでるって・・・どんなクソゲーだよ・・・。」


 見下ろす死体はかなり冷たくなっていた。


「・・・ここまで・・・見つけるまで何度“やり直した”と思ってるんだ・・・“どこまで戻せば”いいんだよ・・・もう疲れたよ・・・。」


 彼は立ち上がり、少女の眠る部屋を後にした。


「設定がおかしいんだよ・・・だから戻してもダメなんだ・・・ニューゲームだニューゲーム・・・」


 呟きながら彼は先ほど上がった階段に戻ってきた。


「戻してダメなら、はじめからだ。とっとと死んだ方が早い・・・。」


 彼はガスの満ちた一階に降りて行った。





Another viewing

兄妹きょうだい


 僕と千尋は一階のガスが90%に達したので二階の床を踏んだ。そうすると千尋のアプリが二階のガス情報0%になっていた。

 どうやら階段はどこまで登っても下の階扱いらしい。ギリギリまで粘れるので助かる。

 僕らは清美さんからもらった地図を頼りに階段を目指した。本当は休憩室がどこかにあるから、そこで休みたかったが、地図にはどこに何があるかまでは記されていなかった。アプリ上でも廊下の構造と階段のマーク程度しかなかった。部屋の空間から推測すべきかとも思ったが、広い=休憩室、ではないだろうと思い、余計なことはしなかった。


「兄さん、この部屋結構いろいろあるよ。」

「どれ・・・お、本当だ、食料も水も二人分なら十分に足るな。・・・休憩室にはシャワーとかあるらしいけど、見つからないかもしれないし、僕らはここで休むとしよう。」

「そうね、贅沢は言ってられないし、あたしたちはいつもそうだったよね。」


 そう、スラム生まれの僕達は、久しぶりではあるがこれだけの食事と水は宝の山にすら感じる。


「懐かしいな、あの頃の千尋は小食だったから僕の少ない稼ぎでもなんとかなってたんだよね。今はこんなに食べるようになって・・・」

「そんな大食いみたいに言わないでよ兄さん、あたしは確かに昔は小食だったからギャップで大食いに見えるけど、実際のところは標準くらいだもん。」

「そうだっけ?・・・まぁ、僕としてはしっかり食べてくれた方が安心できるんだよね。・・・太らない程度なら」

「太ってないでしょ、ちゃんとBMIとか気にして運動もしてるんだから」

「冗談だよ、千尋が太ってないのは見ればわかるよ、大丈夫。」

「もー、兄さんのイジワル。」


 千尋は怖がりだから、こう和やかな空気を作れると安心する。



ブブー


 突如、千尋のスマホが鳴った。そしてその画面には“ミッション不達成”の文字・・・最初は理解ができなかった。

 千尋のミッションは生存する参加者の中で最下階にいること、千尋のアプリは二階のガス充満度5%を示していた。つまりは一階は完全にガスのみということ。仮に誰かいても生きていられるわけがない。このタイミングなら一階に誰かが降りたということ以外に考えられないが・・・どうして・・・


「・・・兄さん、あたし・・・死ぬのかな・・・」


 千尋はいきなり押し付けられた死の恐怖でいっぱいの顔をしていた。

 僕は何か別の方法があるのではないか、とにかくまだ諦めないようにと千尋を勇気付けようと、抱きしめた。

 千尋の腕が僕を締め付け、その強さから恐怖が伝わってきた。

 すると急激に不安と恐怖が広がって来た!恐い!恐い!どうなってしまうのか不安で不安で仕方がない!何が恐いのかわからないけどとにかく背筋が寒く吐き気を催す。

 恐い!恐い!恐い!


 そんな恐怖でのたうち回る僕を、千尋が無表情で見ていた。


 あぁ、そうか、これは千尋の感じていた恐怖なんだ・・・

 そう思うと、千尋の恐怖を和らげる事ができたと思うと、少しだが安心できた。

 千尋は感情を僕に押し付け何も思っていなかった。・・・それでいい、死の恐怖から逃げられたのなら・・・


「・・・兄さん、兄さんだけでも、生きて・・・」


 からっぽの千尋から出てきた(あに)を想う言葉。


 確かに僕は千尋のスマホを壊せばそれでミッションは達成される。それがベストなのは恐怖で冷静さを失なっていてもすぐにわかる。


 それでも、僕は千尋を抱きしめ続けた。


 理屈なんて、最適解なんて関係ない。僕が生きることとよりも、千尋と一緒にいる方が大切なんだ。


 二人で最期までいることを決めて、より一層強く千尋を抱きしめた。千尋の手からは安心する感情が流れて来た・・・。


シリーズ唯一の分岐選択があります。

2を選んだストーリーは一度心の章が終わったら心の章2とかで展開します。

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