第七話 家族の幸福
「――――待って、私、やっぱり兄さんにスマホは渡せない――――」
「――――兄さんは――――間違ってる――――――」
第七話
家族の幸福
「・・・えっ?千尋?どうしたの?」
兄さんは事態が理解できていないかのように私を見る。
「千尋? もうゴールするだけなんだよ?どうして――――」
私は兄さんを真っ直ぐ見据えて、想いを口にする―――
「今のもそうだけど、兄さんは正しいし、合理的だと思う。兄さんのお蔭で底層区画でも生きていけたし、兄さんのお蔭で底層区画から出られたし、兄さんのお蔭で米山組からも解放された、兄さんのお蔭でこのゲームもここまで来れた。本当に感謝してるし、助けてもらってばかりの私が、兄さんに意見するなんておこがましいっていうのも分かってる。」
本当に、感謝してる・・・兄さんがいなかったら私は・・・
「だから、これは妹としての兄へのお願い。」
「千尋・・・」
「どうか、正しい兄さんでいて下さい。私達が生きるために他の人を殺すのも、誰かを騙したり、イカサマしたり、そういうのをやめて欲しい。・・・私は、兄さんといられるだけで、それだけで本当に幸せだから・・・」
本当に、それだけで充分だから・・・
「なるほど、千尋の言いたいことは大体分かったよ。正しいと思う。・・・でも、僕は二人でいられるように全力を尽くしてきたんだ。」
兄さんは私を真っ直ぐ見て、信念を持った瞳で私に訴え掛ける。
「――――僕は、幸福は、頑張った人に、その努力の報酬として与えられるものだって、そう、信じてる―――」
――――それが、兄さんが今まで全力で私を守って、敵を排除して、財を成してきた理由―――
「現実はそこまで綺麗にできていない、そんなことは分かってる。・・・でも、底層区画で生まれた僕達は、そうであって欲しいと、頑張れば報われるって思わないと、境遇に心が折られてしまう・・・だから僕はそれを体現するために、『生まれの境遇は関係ない』って神とか運命に喧嘩を売るために、ここまでやってきた!その結果が今であり、僕は妹を守ってきた誇りと共に、幸せを感じてる!」
出てきたのは兄さんの信念、流儀、そして、願い――――
――――兄さんの確固たる信念を見た・・・そりゃ強いはずだよ・・・
―――――――でも、私にだって、ある。兄さんの様に強くないけど、本当に、弱くて、ちっぽけで、すぐに揺らいでしまうけど、それでも確かに“ある”―――――信念。
「だったら、はっきりさせようよ・・・私の正義を想う力と、兄さんの生活を守るちから、どっちが上か・・・」
「・・・・・・・・・・・」
兄さんは私の提案を無言で聞いていてくれる・・・
「私達は底層区画にいた頃からずっとギャンブルで白黒つけて生きていた。なら、その流儀に沿って、“これ”で、決着をつけようよ・・・」
私の手にはトランプ・・・兄さんとの勝負ならポーカー以外にはないと思ってたから・・・ボソッとその旨を呟くだけで、このゲームの主催者は私の手に用意してくれた・・・きっと、見物人も私達兄妹が命を懸けて争う姿を観たいのだろう・・・気にくわないけど、今だけは、この舞台を用意してくれたことに感謝する・・・
「・・・・・・三回勝負で先に二勝した方が勝ちでいいかな?」
兄さんは何かを察したのかルールを兄さんの方から提案してきた・・・やっぱり兄さんは侮れない、私に何か策があることを見越している・・・
「・・・・・・じゃあ、それで。」
三回勝負なら私の能力的にも臨むところ・・・
お互いに山札をシャッフルして、五枚引く―――――
・・・・・・うん。思っていた感じになってる・・・
お互いカードを交換して、兄さんが手札を見せる――――
「僕は、フラッシュだ」
その手札は全てダイヤだった・・・これはかなり高い、やはり兄さんは強い・・・だけど!
「・・・私、ずっと兄さんに守られてきて、兄さんの強さは知ってる・・・ずっと負け無しだったよね・・・だから、正しいのは勝者、それが常識だった底層区画にいたから、兄さんは間違いに気付けなかった・・・」
「千尋・・・」
完璧な兄さんに欠けているもの、それは、敗北・・・
「だから、私が――――――兄さんを負かしてあげる―――」
私の開けた手札はジャックの4カード―――――
「こ、こんなことが・・・千尋・・・何をしたの・・・」
「『運量調整』――――――これが、兄さんを倒すために手に入れた新しいスキル―――」
私はアップデートをしたスマホの画面を兄さんに見せる。
私のスマホの画面は今までとは2点だけ変わっていた。一つはスキルの欄、そして、もう一つは・・・願いの欄―――――
「『兄さんと並んで歩ける能力が欲しい』・・・」
「私が兄さんと比べても引けを取らないのって、やっぱり運しかないから・・・その運を大いに使えるスキルが手に入ったの・・・それじゃあ、兄さん、続けようよ。」
私たちはポーカーを続ける・・・きっと、兄さんもここまではある程度予測していたのだろう、だからこその3本勝負・・・現に私のスキルはあくまで運量を調整するもので、無限の幸運をえることはできない・・・運がよかったのはスキルの本質がアップデート前と同じで、「自分の持っているもの」以上の効果が得られない、ということで、スキル変化によるミッションの変化がなかったことかな・・・
「僕は、フルハウスだ・・・」
「残念、私は役なし、一番上も7・・・」
兄さんもわかっているはず、これは運を使わずに次への溜めであることを・・・
この溜めと、追い詰められた時に発揮する私の逆境運・・・これなら兄さんに、勝てる!
そして―――――――
「僕は――――――」
「私は――――――」
「「4カード」」
――――――同じ役・・・ということは――――――
「私は・・・クイーンの4カード・・・」
私の手元には、ハートのQ、ダイヤのQ、クラブのQ、スペードのQ、そして、クラブのK・・・
兄さんの手札は、ダイヤのJ、ハートのK、ダイヤのK、スペードのK、そして・・・JOKER・・・
つまり、私はクイーンの4カードに対し、兄さんはキングの4カード・・・
・・・・・・負け・・・た・・・・・・どうして・・・・・・
「・・・大切な家族を守るための能力を、僕は運には頼らない―――」
・・・・・・兄さんの能力・・・運とか、そういう次元の話じゃなかったって、ことなのかな・・・
でも、これじゃあ、誰が兄さんを正すことが――――
「正しくなくても、卑怯でも、妹を守るために身に着けた能力なんだ・・・」
そう言って、兄さんは、私を抱きしめた・・・
「・・・でも、この能力も、この守り方も、今ので、最後だ。」
「――――えっ?」
それって、どういう――――
「確かに、僕は千尋のスキルに勝った、だから、さっきの勝負が理由じゃない・・・だって―――」
そして、兄さんは私を更に強く抱きしめ、続けた――――
「―――だって、妹のお願いを聞かない兄はいないから――――千尋がお願いをした時点で、僕の負けだよ・・・」
「兄さん・・・」
「―――これからは、僕達二人で、正しく生きよう。」
「・・・うん。」
私は兄さんを抱きしめ返し、そして、スマホを兄さんに渡した。
「そのスマホは、壊しても大丈夫だよ。」
「でも、もし、千尋がクリアできなくなったら―――」
兄さんは少し躊躇う・・・
私は、もう一つのスマホを、新しい願いの書かれた方のスマホを、兄さんに見せる―――
「・・・千尋・・・正しくって言い出したのは千尋なのに・・・」
「フフッ・・・これが最後だから許してっ・・・だって、私、兄さんの妹だもん!」
そう、兄さんに渡したのは「天秤座だと主張するスマホ」・・・そう、蠍座の女の子の亡骸から出てきた二つのスマホの内の一つ、ちょっと拝借してきた・・・ジョーカーのスマホ・・・
そして、兄さんは”天秤座のスマホ”を破壊した。
「――――――おめでとうございます。ゲームクリアです―――――――。」
エピローグ
―――――このゲームの対価を支払ってもらうよ――――――
私と兄さんは、謎の空間にいた―――――
手を握っていないと兄さんとはぐれてしまいそうな、そんな混沌とした空間―――
ただ、何者かの声が届く、ただそれだけの空間―――――
―――――対価は二つに一つ・・・・・・今まで貯めてきた財産を全て失い、底層区画に戻るか・・・財産は二人で分けて、家族を失うか―――――
そんな二択に意味なんてなかった――――家族よりも大切な幸福なんて存在しないのだから―――
―――――だから、私たちは、二人で、答えた―――――――――
――――――――――――――――――――――――――
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―――
――――――――日の当たらない建物の陰で、砂埃と、血肉の腐臭が漂い、悪が闊歩する底層区画に私達は戻って来た・・・
―――今度は、兄さんに任せずに二人で、正しく生きていくと決めて―――
財産もなく、明日着る服も、食事の保障もない、そんな生活を強いられた私たちだけど、それでも数年後に朽ちるまで、私たちは笑っていられた―――――
大好きな家族がいれば、それだけで、幸せなのだから
幸福の章 完
どうも、ユーキ生物です。
幸福の章、如何でしたでしょうか?底層区画とか恐らくこのシリーズで最も設定に拘った章になったはずです。
幸福はそこにあるものなのか、努力で手に入れるものなのか、というのが個人的にこの章がお気に入り理由となる主題です。私は圧倒的後者派ですので、物語内で超主張しました。
エピローグはなんか不完全燃焼になりました。プロットではこんなことにはならない感じでしたが、書いてる時の勢い(徹夜三日目)でやりました。何だかんだ気に入ったのでそのまま投稿しました。
ええ、少々忙しさがましてきまして・・・まぁ読んで下さってる方から見たら関係ないかと思いますが・・・
ですので、次の章は少し間を開けさせていただきます。サボりではなく手を抜きたくないので・・・
まぁ、ここまで読んでくださった方は大体お察しかと思いますが、Desire Gameは次の章が最終章となります。メインの人物も恐らく、お察しの通りです。
次の作品のプロットも平行して行い始め、時間が足りなくなったことも事実です。ちょっと迷走してる感は否めません・・・
ともあれ、今は最終章ですね。有終の美を飾れる様に頑張りたいと思います。
それでは、Desire Game 第五章 炎の章でまた!
次回更新は、ひとまず5月27日(金)20:00を予定しております。




