第六話 兄の幸福
第六話
兄の幸福
「・・・・・・っ・・・んっ、あれ?・・・千尋・・・」
「あ、兄さん、気が付いた?」
「・・・あ、そうか、僕は・・・」
「兄さん、ごめんなさい、咄嗟に兄さんに感情を流しちゃって・・・」
「僕の方こそ格好悪いところを見せてしまったね・・・」
少しバツが悪そうに兄さんは言う・・・
「・・・私は、嬉しかったよ。」
「・・・嬉しい・・・?」
「うん、兄さんを私が守れたし、それに、今まで兄さんのことを完璧だと、手が届かない人だと思ってたけど、人間らしいところが見られたし・・・すごく、兄さんを近く感じられたから・・・。」
これは嘘偽りない私の気持ち・・・
「完璧・・・か。・・・僕は、妹の前だからって、兄なんだからって、しっかりしようと虚勢を張っていただけで・・・本当の僕は身体を張る度胸がなくて、口でしか守ることのできないビビりな人間なんだよ・・・」
やっぱり、こうやって身近に感じて改めて思う・・・兄さんは完璧超人でも何でもない、ただの人間で―――――私の兄さんだ。
「さ、千尋、そろそろ行こうか。真白さんと樹君が待っているだろうし・・・」
「うん、そうだね。」
私は兄さんの手を取り歩を進める。
「・・・どうしたの?そんないきなり手を繋ぐなんて・・・」
「んーん、ただ兄さんに甘えたかっただけ」
「・・・・・・うん」
これで私たちは兄妹になれたのかな・・・それとも・・・やっぱり、私の中には煮え切らない「何か」があった・・・
私はその「何か」が掴めそうで掴めず・・・悶々としながら四階へ向かった。
Another Viewing
私と樹君は利彦君たちと落ち合う予定の部屋で待っていた。一応休める部屋らしく、簡単な絨毯とかキッチンとインスタントラーメンがあったので、それを食べて待っていた。
「ズズッ・・・旨し・・・」
「樹君・・・塩バターコーンって・・・まるで子どもね・・・」
「・・・まぁ、否定はしませんけど・・・でも、真白さんの豚骨味噌こそオッサンっぽいですよ・・・」
「・・・・・・・・・(/´△`\)」
「いや!そんなマジ凹みしないでくださいよ!冗談ですって!!」
「嘘、良くない。」
「どの口が言いますか・・・」
オッサン・・・オッサンかぁ・・・
とか思っていたら部屋の扉が開き、利彦君と千尋ちゃんが入ってくる。
「あ、真白さんに樹さん、お待たせしてしまいましたか」
「ううん、大丈夫よ、さっきまで食事とか、休むということをしてたから。」
「ならよかったです。」
そう言うと利彦さんはこの4階の物資の情報を教えてくれた。
そこには一般人を一人殺すには過剰とも言える武器の名前があった・・・
「さすが最上階、なかなかに物騒な武器があるみたいねぇ・・・」
「・・・最上階、なんですか?」
「えぇ、さっきまでマッピングをしてたんだけど、『終点』って部屋があったわよ。多分ミッションを達成して、そこまで行けばいいみたいね。」
「・・・ということは・・・千尋のミッションは・・・もう・・・」
「・・・兄さんの言う通りかもしれない・・・私のミッション、『参加者の中で最も下の階層にいる』は達成されたのかもしれない・・・」
千尋ちゃんと利彦さんは安堵している・・・でも・・・
「・・・ただ、私のミッション、『参加者全員の願いを知る』がまだ達成されていないのよ・・・だから、私達は他の参加者を探しに行くわ。」
「そうですか・・・僕達もお供しましょうか?」
「そうね、とりあえずは近場を探すから、二人は少しここで休んで、それから手伝ってもらおうかしら」
「・・・わかりました。僕らもさすがに疲労が溜まってますし、ここはお言葉に甘えさせてもらって、少し休ませてもらいます。」
そうして、私達は一旦別れ、私と樹君でこの部屋の周辺を巡ることにした―――――――
「お前達のスマホを渡してもらおう。」
部屋を出た先に二人の男性がいた。どうにも臨戦態勢の様で―――
『オーバードライブ!』
男性の一人がそんなワードを口にする・・・
私はすぐさま未来視で彼の攻撃に備える――――
―――――彼の拳の軌道を視・・・速いっ!!人間の速度じゃない!?――――――
―――――未来で見た拳の軌道を逸れる様に、全力で身体を動かす―――けど!彼の拳の応酬に身体がついていかな―――――
――――ぐしゃっ!!
Another viewing
俺の目の前で、人の頭を人の拳が貫いている・・・普通そんなことはあり得ないけど、これが彼のスキルだとすると、俺に何ができるのだろうか・・・
俺の電人化には一つ欠点がある・・・それは、さっきの真白さんみたく頭を破壊されること、ロードすることが出来ないダメージで即死してしまうと足掻くことができない。
真白さんを砕いた男が俺を見据え、拳を構える――――
―――逃げたい・・・逃げきれるなんて思わないけど、ただ、向き合うことが怖くて、向き合いたくない・・・
でも、俺がここで逃げたら、この部屋には・・・千尋ちゃんが、俺が不安で押し潰されそうな時に、手を差し伸べてくれた恩人がいる・・・!!
立ち向かえるわけない、こんな選択は賢いとは言えない―――だけど!!逃げるなって、できる限りしぶとく、足掻けって、俺の中の何かが言ってるんだ!!
だから俺はナイフを手に取る――――
Original viewing
私と兄さんは食事の準備を進める。早いところ休んで真白さんに協力しないと・・・
・・・・・・・!!
―――――――!!
何やら外が騒がしい・・・
「兄さん、外、何かあったのかな?」
「そうだね・・・ちょっと見てみようか・・・」
私達はドアを開け外の様子を―――――
――――――そこには頭を砕かれた樹さんと、真白さん、そして血にまみれた男性が二人・・・さっきスマホを要求してきた人たちだ・・・つまり、この状況は――――
「この携帯食料をあげるから――――――動くな。」
すぐさま兄さんがスキルを使って二人を拘束する――――
「僕は君達にさらにこの水をあげよう、だから君達は僕の質問には全て正直に答えて下さい。」
「――――はい。」
「どうして二人を殺したんですか?」
「俺はミッションを達成するためにスマホが必要なんだ・・・だから奪うために殺した。」
「殺し方は?」
「俺のスキルは身体強化で、普通に殴って」
「そっちの方は?」
「僕は蠍座の人を殺す必要があって、彼が殺す際に蠍座だったら譲って貰うということになっています。」
なるほど、だからか――――
「そうですか―――では、最後に一つ、僕はあなた方の拘束を解きますからお互いに殺しあって下さい。もし、生き残ったら自害してください。」
「「はい。」」
兄さんはまた私を守ってくれた・・・でも、本当にこのやり方で良いのだろうか・・・いつだってそうだ・・・兄さんは私を守ることに遠慮がない、他者がどうなろうと関係ないみたいに平気で人を殺してしまう―――――きっとそれが、兄さんの、兄としての矜持なのかもしれない――――
「考えてみると、これで残りの参加者は僕達だけじゃないかな?」
「そういえば・・・」
私はまだ迷っている・・・
「僕は一つ不安があるんだけど、僕のミッションはクリア済みの千尋のスマホでいいのかな?あるいは千尋は僕にスマホを渡してもクリアになるのかな・・・って・・・」
「・・・・・・・・・・。」
迷っている内に、「終点」に着いてしまう・・・
「千尋?どうかしたの?」
兄さんが「終点」の扉に手を掛け――――――
「――――待って、私、やっぱり兄さんにスマホは渡せない――――」
「――――兄さんは――――間違ってる――――――」
どーも、ユーキ生物です。
ここまで読んで下さった方なら大体察しがつくと思いますが、この幸福の章もクライマックスに近付いて来ましたね。当初は7話完結なんて予定にありませんでしたが、気付いたらそうしなくては、という謎の使命感に襲われる様になってしまいました。一話の重さが違うのにそれが達成できたかは置いておいて下さい。
もう幸福の章終わった気で語りますが、この話の章タイトル、心、嘘、記憶、幸福・・・結構悩んで決めてます。心の章とか書き出す直前までは別の章タイトルでしたし・・・このあとの章も最近タイトル変えましたし・・・その点幸福の章と嘘の章はすんなり決まりましたね。そういう意味で、書きたい内容がハッキリしてる章です。あと一話ですが、幸福について少しでも表現できたらと思います。
・・・なんか、真面目な話になってしまいましたね・・・まぁ、ぶっちゃけ後書きのネタ切れ感は否めません。
次回、あの兄妹の結末と一緒に、後書きが無事書ききれるか、ご期待下さい。
次回更新は5月14日正午を予定しております。




