第七話 失敗も、後悔も、
第七話
失敗も、後悔も、
「・・・どうして、僕は、ここに、いるのだろう・・・」
利彦さんが何か呟く・・・
「・・・利彦さん? どうかしましたか?」
蜜柑が聞き返す。あれから・・・ミッション達成が難航することが判明してから、利彦さんはどこか上の空だった・・・
「・・・・・・蜜柑さん、少し確認したい事があるのですけど・・・」
「は、はい、なんでしょうか?」
「蜜柑さんは、ここに来る前、どんな生活をしていたのですか? 記憶を消すスキルを願った理由は、動揺すると吐いてしまうから、だけなのですか?」
「・・・あたしは、今もまだ、高校生なんですけど、この吐いてしまう癖の所為で、昔から何度も転校を繰り返していたんです。記憶を消す、というより、みんなの記憶から消える。そんな生活をしてました。・・・我ながら情けない話なんですけど・・・だから、私は、『失敗を恐れない強い人になりたい』って願ったんですけど・・・記憶から逃げずに、記憶を消す力、立ち向かう力が手に入りました・・・」
蜜柑が語り終える・・・利彦さんは、これを聞いてどうするつもりなのかな・・・
「えっと、それで、利彦さん。確認したいことって・・・?」
「・・・あぁ、それは――――」
―――カツン・・・カツン・・・
その時、遠くから足音が聞こえた。とてもゆっくりと・・・
「蜜柑、話は後だ。レーダーを」
「・・・うん。・・・えっと・・・一人、みたい。」
「そうか。迎え撃つ準備を」
俺もセーブを行う。
その人影が、ゆっくりと姿を現した・・・スーツを纏う女性、いくらか年上の見た目・・・そして何よりも、すべてを諦めたような雰囲気を感じた。・・・この人はヤバい・・・
「蜜柑、構えておいて・・・」
「うん・・・・・・あれ?」
ライフルを持つ蜜柑に攻撃を準備させる、が・・・
「樹君・・・どうしよう・・・構えられない・・・」
最初は言っている意味が分からなかった・・・でも、蜜柑の銃を持つ腕が震えて、動かそうにも動かない、ということは伝わってきた・・・
それに俺も、彼女に立ち向かおうとできないことは、武器がないからはっきりはしなかったけど、意識の段階で敵意を向けられないことはなんとなくわかっていた。
・・・これは・・・やられる・・・
・・・いや、利彦さんの交渉なら!
「利彦さん!」
利彦さんは少し逡巡した後、口を開いた。
「・・・取引をしよう。まず、僕が話すから、キミたち全員許可なく口を開かないでください。」
・・・え・・・?
「そして、あなた。名前と星座は?」
「月白 清美、魚座」
「月白さん、僕が尋ねる代わりに答えてください。あなたのスキルはどういったものなのですか?」
「私のスキルは、元々は人の身体を操れる、というものでした。それが、何か・・・願いが変わった時だったかな・・・アップデートって言うのが起こって、スキルと、ミッションが更新したわ。アップデートした私のスキルは、意識レベルで私に攻撃を加えられない、攻撃しようとできない、というスキルよ。」
それから、少し利彦さんが逡巡し・・・
「・・・なるほど、では、取引だ。蜜柑さん、キミが清美さんを傷付けたら、キミは自害してください。」
・・・おい・・・何を言っているんだ・・・
「キミたちは恵まれ過ぎだよ。僕は底層区画で生きて、妹を必死で守って成り上がってきたんだ。それなのに、こんな終わりを迎えるなんて・・・あまりにも・・・不公平じゃないか・・・」
この段階で、俺と蜜柑のミッションは同時に達成することができなくなった・・・
「樹君・・・」
蜜柑が、諦めた顔でこちらを見る・・・
そして、俺の手を取り、この場を走って抜け出す・・・
「樹君だけでも・・・生きて・・・」
これは、このままクリアの部屋まで行き、俺だけをクリアさせようっていうことなのか・・・
それしか、もう、手は、ないのかな・・・
いや!まだだ!!こんな事態はいくらでもひっくり返せる!! ・・・否っ!ひっくり返す!!
俺はロードを行う・・・月白さんに会う直前では何も変わらないと思い、その前、桃山さんたち三人と出会う前に戻る。恐らく、火口さんからの「天秤座は死んでいた」という情報さえ利彦さんに聞かせなければ、こんなことにはならないはずだから・・・なにより、月白さん攻略には利彦さんが必要なんだ。利彦さんが豹変することを防ぐことがポイントだ。
―――だとしたら、火口さんを・・・殺すしかない!!
―――――三人と遭遇する前に戻ってくる。
俺は火口さんが見えた瞬間、蜜柑のライフルを奪い、彼を撃つ!!
ッダアアアゥゥゥッ!!
狙いはしっかりしたはずだった。―――――だが、その弾丸は、誰にもあたることはなかった・・・
桃山さんが撃たれることを察知したみたく、事前に回避行動を取っていた・・・
なら、もう一度―――
銃のスコープを除いた瞬間、目の前には火口さんがいた。
「ありえない・・・人の速度でここまで一瞬で距離を詰めることなんて・・・」
「それが、俺の、スキルだ!!」
彼の拳が俺の腹部を貫く―――
電人化によって緩和したはずの痛みだが、正直銃で撃たれたよりもキツイ・・・これは、普通なら痛みでショック死する方が先かもしれない・・・
何とか俺はスマホを操作し、ロードする・・・
―――それから、俺は何度も火口さんを殺そうと試みた。
しかし、桃山さんの異常なまでの危機察知、火口さんの身体能力、秋山さんの身のこなしに幾度も阻まれた。先制、騙し討ち、奇襲・・・様々な手を尽くしたが、三人は強すぎた・・・。
そしてまた、俺は返討ちにあって、殺される・・・
――――――――――打つ手無しか・・・
―――――――――
――――――――
―――――――
――――――
―――――
――――
―――
――
――――――――――――――――――――いや、打つ手がないことはない―――――――
――――――しかし、その手は、成功する保証も、失敗した時の保障もない・・・
そう、俺のアプリによる火口さんのアプリ封じ。これならば安全に情報を押さえることができる・・・しかし、それを使用することは、スキルを捨てることと同義。
丸腰でゲームに挑む?
俺はバカなのかな、そんな合理的でないことに挑むなんてあってはいけない
あってはいけないことだけど!ワクワクしてくる!!
上等じゃないか!!
負けたら死、ミスしても大きなものを失う、一発勝負のゲーム!! ―――楽しそうじゃないか!!
そして俺は、また三人に出会う前に戻る――――――蜜柑と二人で元の生活に戻るために―――――
戻った先で、最初に辿ったように会話を利彦さんに進めてもらう・・・その際に、後ろ手で俺はスマホを操作し―――――アプリを起動する。対象を選択し・・・作動する!!
俺のスマホは電源が完全に落ち、反応しなくなる。
そして――――――
「ん?俺のアプリが・・・」
会話の途中、その異常事態に火口さんが気付く・・・うまくいったようだ・・・
「・・・それで、米山さんはどなたを探していらっしゃるのですかぁ~?」
来た!ここを乗り切れば!!
「僕はt――――――――」
「―――――うわああああ!!足がすべったああああああ!!」
俺は火口さんと蜜柑を巻き込み地面に押し倒す!!
押し倒す→蜜柑赤面→俺と火口さんの記憶が消される→生死情報がうやむやになる。
完璧な作戦だ!!
「いやああああああああ!!」
そして俺の記憶が・・・・・・弾けない!?
なんで!?
「蜜柑、なんでいつもみたいに記憶消さないの!?」
「いや、その・・・あたしも成長しないとって思ったし・・・」
「なんでこのタイミングで『少女の成長物語』的な流れ入れるの!!」
「・・・僕は、天秤座の方を探しています。」
あああああああああああああ!!
「天秤座って・・・」
「ええ、どうしてか今、俺のアプリは使えませんけど・・・さっきまでの情報の段階で天秤座の人は既に亡くなっています――――」
・・・・・・・・・・・・・・・終わった・・・・・・
俺と、利彦さん、それぞれがそれぞれの理由でうなだれる・・・
今度こそ手遅れ・・・・・・か・・・?
俺の願いなんていらないから・・・二人で生きて帰してくれよ・・・
願いが変わる・・・誰かがそんなこと言ってたな・・・どこでだっけ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アップデート!!
そうだ!!まだこの手が残っている!!諦めるのは、まだ早い!!
俺でもなく、蜜柑でもなく、利彦さん!彼がアップデートをすれば彼に生き残る芽が出てくる!そうすれば!!
「利彦さん!!シましょう!!俺がすぐに達っさせますから!!」
「桃山さん、最近付き合い始めたあたしの彼氏が目の前でホモだとカミングアウトしたんですけど、どうしたらいいですかね?」
「・・・私の手に余るわ・・・そ、それじゃあ私たちはこれで・・・」
なんか気まずそうに桃山さんたちは去っていった。
「あの、樹さん?どういうつもりですか?」
「え?いや、利彦さんのミッションが変われば生きられる可能性が出てきますから」
「え?・・・ミッションが変わる?」
あ、そうか、俺以外はまだアップデートということ自体知らないのか・・・
「えっと、このゲームにはアップデートというものがあって・・・」
俺は二人にアップデートのことを話す。願いが変わるとスキル、ミッションが変わる、ということ、そしてそれが実際に起こって俺らは全滅しかけたことも。
「アップデート、ですか・・・」
「はい、利彦さんは、何を願ってここにいるのですか?」
「僕は・・・平等を・・・みんなが等しく、損する人のいない世界・・・」
「それは、心からの願いですか・・・」
「・・・はい。」
「・・・でも樹君おかしくないですか?」
「蜜柑?おかしいって何が?」
「だって、利彦さんが平等を願って、叶えたのがスキル、だとしたら、こうまでミッションやスキル、アプリに差が生まれるのかな?」
「・・・確かに・・・もしかすると、アップデートした先が本当の願いが叶ったスキルなのかも・・・」
―――――WishがDesireに変わった時に、とでもいうのか・・・
でも、あり得るかもしれない、だってこれは、理想なんだから・・・
アイデアが確信に近付いた時、ゆっくりとした足音が近づきて来た・・・
月白さんが・・・こちらに向かってきていた・・・
「二人とも、逃げるよ!」
二人を連れて月白さんとは反対方向に走る
「今の足音の人、樹さんは知っているのですか?」
「ええ、彼女がアップデートを知るきっかけになった人、月白さんです。」
「どういう方なんです?」
「詳しくは・・・ただ、こちらの攻撃を意識ごと完全に防ぎます。攻撃をしようとできません。」
「・・・それは・・・何というか・・・すごい力ですね・・・」
「アップデート後のスキルだからなのかな・・・」
「・・・それって、平等じゃない・・・ですね・・・」
「・・・利彦さん、その不平等を、現状の平等を、否定してください。その想いが本物なら、きっとその願いは通じる!」
「・・・・・・。」
願いの力の根幹は不満や、否定なのかもしれない
なら、この圧倒的な力量差は強い否定に繋がる―――!!
「―――『絶体公平な運命』」
無意識だろうか・・・利彦さんは新たなスキルを呟く!
俺は、スマホを確認する・・・機能を失ったはずのスマホは電源を入れることができ、そのミッションを映していた。
・・・・・・そこには「一人を殺害する。」という新たなミッションが記されていた。恐らくは参加者全員のミッションがこれと同じになったはず!ただ、スキルは流石に影響が及ばないらしく変更はなかったが、これは明らかなアップデートの影響・・・
・・・そうか・・・一人殺すか・・・殺す!?
蜜柑を見る。その手のスマホにはクリアの文字、どうやら今までに殺害した人も含まれるみたいだ・・・
しかし、冷静になって考える。俺はまだ誰も殺していない・・・だとすると、殺さなくてはならない・・・誰を? ・・・利彦さん?いやいや、ここまで来てこの人を殺すことなんてできるわけない・・・なら、さっきの三人組・・・は絶対に無理だろう。あの人たちの強さはセーブが出来ない一発勝負では分が悪すぎる。
・・・となると・・・
「樹さん、ここからは別行動の方がよさそうですね・・・」
「利彦さんがそう言うのでしたら。」
きっと俺と似たようなことを考えたのだろう・・・それに、疑い合う状態で一緒にいることは、その後を悪くしてしまう・・・
俺は蜜柑の手を取り、利彦さんから離れる。その時、俺は光の速度になった―――
「痛い!!痛い!!手がビリビリする!!」
蜜柑が悲鳴を上げる・・・これは・・・
「これは、もしかすると・・・」
「むしろ、これが電人化の本来のスキルなのかもしれないですね。」
電人、セーブ・ロードだけじゃない?
俺はもう一度試す・・・
俺の身体は人間ではありえない速度を出していた
右手と左手を近づける―――その間には電気が飛んでいた。
「エネチャ○ジ!!」
「樹さんボケてる場合じゃないです!」
・・・これなら・・・
「あ・・・樹君悪い顔してる・・・何か考え付いたんですか?」
「悪い顔とは失礼な。生きるために必死で考え付いたんだよ。」
「じゃあ、生きて帰れそうなんですか?」
「・・・いや、正直人を殺してまで俺は生きていいのか、悩んでる。殺すことに抵抗は感じるさ・・・さすがにゲームじゃないんだから・・・」
「・・・ビビってるんだ」
「当たり前だろ。本来それは許されない、人道外れた行為なんだから・・・」
「樹君、失敗を恐れていちゃ、生きられないよ。いいじゃない、生きて、それから後悔すれば。生きていないと後悔することもできないんだから。」
「だけど・・・」
「ねぇ、樹君、あたしのこと、好き?」
「もちろん、愛してる。」
「あたしも好きよ。・・・だから、お願い、どれだけ姑息でも、卑怯でも、最低でもいいから、生きて―――」
俺は今、月白さんの前にいる―――
もちろん、殺すために。
月白さんは、悠然と歩く、あれだけ強力な防御を持っていれば警戒なんて必要ないからな。それに、おそらく月白さんはミッションを達成しているはず・・・
強すぎるスキルの油断を突くのがこの作戦。ましてや、彼女は自分が攻撃されるなんて思ってもいないはず・・・
俺は彼女の前で放電を全身から行い、威嚇する―――青白い光が俺たちの視界を奪う―――
しかし、この放電は攻撃するものではない・・・どれだけ彼女が近付こうが彼女に電撃が触れさせるつもりがない・・・だから、この行為は彼女のスキルの影響を受けない・・・そして、この放電の目的は二つ・・・
一つは強い発光による目くらまし―――
これにより彼女はピストルを確実に当てるために俺に近付く・・・
そしてもう一つは―――――
「ウプッ・・・ブエェッ!!」
―――嘔吐物が降る刻―――
「きゃあああああ!!何これ!?」
月白さんの悲鳴が響く―――
―――もう一つは、磁場を天井に生成すること―――
もちろん天井はコンクリートだからどこでもいいというわけじゃない・・・この通路は天井に埋め込まれた灯りで照らされている・・・そこには金属部が少なからずあるわけで・・・そこに電流を流し込み、磁場を作る・・・そして、蜜柑ちゃんにしばりつけたドラグノフ(ライフル)をくっつけることで、蜜柑を天井に貼り付けることができる・・・普通なら確実に目立つその姿を、俺の強いアーク光で見えなくし―――天井から口内にストックしておいた嘔吐物を散布させる―――それが嘔吐物が降る刻―――
これ自体は攻撃ではないし、唯一本人に降りかかる嘔吐物は吐き出すだけ・・・どうなるかはわからなかったが、結果として成功した!
そして・・・
「くっ・・・!!」
月白さんは撤退する・・・これも予想通り!
彼女が向かう先は―――――――
嘔吐物を洗い流すシャワー室になるだろう。
こちらは攻撃ができない・・・だからこその油断、そして、だからこそ、この状況でもシャワーを浴びるという選択を行うことができるのだろう・・・俺達はその後を追い・・・覗きたい下心を全力で押さえ・・・シャワー室の扉の鍵を俺のアークで、溶接した――――――
―――これで彼女はこの部屋から出ることはできない。
俺たちは彼女の元を離れ・・・予め雷の速度で探しておいた階段に向かった・・・
―――そう、直接手は下せないが、閉じ込めて、上の階に行かせなければ、あとは勝手に、ガスが殺してくれる。
しばらくした後、俺のスマホにミッションクリアの文字が表示された。
「なぁ、蜜柑。」
「はい?」
「人を殺しておいてこんなこと言うと不謹慎かもしれないけどさ・・・」
「はい」
「セーブもロードもできない、一発勝負の人生って・・・おもしろいな!!」
俺は蜜柑の手を引き、コンクリートの廊下を歩いて行った・・・
エピローグ
そのまま俺たちは「終点」に辿り着き、ゲームを終了することができた。
ゲームが終わった際、俺は人間としての存在を対価として支払った。
対価のおかげで俺の生活は完全に電人としての生活になった・・・夜は寝れず、食事も不要となった・・・これは辛いには辛いが、何よりも一番堪えたのは―――――
「・・・お兄さん、誰?」
蜜柑の記憶が失われたことだった・・・
これほどの絶望、昔の俺は耐えられただろうか・・・
今なら、間違いなく、耐えることができる。
だって、記憶なんてまた作ればいい、そう、思えるから。
だから俺は生き続ける。
それに、いつまでも逃げていた俺を、未熟で、子供だった俺を、笑わせてくれて、護る意味を、生きる活力をくれた人だから・・・
それに、俺はこの子の、蜜柑の笑顔が好きだから・・・だから、記憶なんかなくたって、今度は俺がこの子を笑わせる。
記憶の章 完
ご欄悦ありがとうございます。
これにて記憶の章は完結となります。毛色がかなり違うギャグ多めの章でしたがいかがでしたでしょうか?
底層区画に関しては今後の章で詳しく触れます。
話によって、長い、短いが極端になってしまいました。完全にプロットでの配分をミスりましたね・・・今後の課題とさせていただきます。
次の章なのですが、実はまだプロットが完全に仕上がっておりません・・・更新ペースは早められましたが、プロット書く時間が思いの外取れなくて・・・
ですので、勝手ながら、次回更新、新章は少し先の3月18日付近を予定しております。
次章、次々章のプロットを進めさせて下さい。
それでは、今回はこの辺で失礼します。次章、「幸福の章」でまた。




