第二話 利害の一致
第二話
利害の一致
魚座の彼女との遭遇から数分、俺達は近くの一室でお茶をしていた。
よくよく考えてみれば、ゲームが始まってから飲まず食わずだったわけで、さらにその中俺と菫ちゃんはナイフの少女に教われて、魚座の彼女も走って来たみたいで・・・とにかく全員喉がカラカラだった。食料などは部屋のどこかにあるということだから、三人で近くの部屋を探した。ペットボトルのお茶だけだったが、4つ目の部屋で見つける事ができた。500mlが24本入りの段ボールで置かれていた。過酷なことさせる割りにやはりその辺は手厚い。
そして、今に至る。
「・・・っふう、喉も潤ったことだし、こちらの紹介と、お願いをしようかな。」
「・・・そうね、あなたがそれでいいのなら、武力を持たない私は従うしかないわ。」
何か棘のある言葉だったが、この人は俺と違って相手のミッションがわからないから不安なのだろう。
下手な弁明よりも現状を教えた方が話も早いだろうから、俺は話を続けた。
「俺は灰上 芯、牡羊座でそのミッションは二名以上のミッションクリアを手助けすること、アプリは参加者全員のミッションが記載されていた。」
ミッション的に協力が必要なこと、星座だけで敵か否か判断できるという俺と手を組むメリットをチラつかせた。
「こっちの子は忍野 菫ちゃん、牡牛座で、ミッションは俺と手錠で繋がれて一定時間いること、アプリは・・・あれ?何だっけ?」
そういえば菫ちゃんのアプリが何なのか聞いてなかった。
「・・・繋いでいる残り時間の、タイマー」
そう言ってスマホを見せる、そこには残り35時間30分の文字があった。・・・あんま役にたつアプリではないようだ。まぁ、ライフルを呼び出せるだけでかなりチートくさいから、ゲームバランスとしてはそんなものだろう。
「まぁ、そんな感じで、俺らは貴女に危害を加える必要はないわけで・・・むしろ、俺のミッションのために協力をお願いしたい。」
魚座の女性はその身に纏うスーツのように凛とした態度で話始めた。
「私は月白 清美、星座はさっき言った通り魚座よ、ミッションは言わなくてもわかるのよね。アプリは自分のいる階の地図が見れるわ。」
当たりだ、やはり地図アプリは存在した。
「・・・清美さん、互いに利害が一致している、一緒に行動するというのはどうでしょう?」
歳上かもしれないが、下の名前で呼ぶ方が個を認め、信頼関係を築き易いと昔先生に教わったので実践してみる。
「・・・いいわ、私にとっても好都合だし、協力しましょう。お互いの願いのために。」
少し思いを巡らせた後に、清美さんはそう答えた。
恐らく何か協力しなくてもいい理由があるのだろう。直感でそう感じた。
「それじゃあ、改めて、よろしく。」
握手を求めるために右手を差し出す。
「ええ、頼りにしてるわ。」
俺と清美さんが握手をし、菫ちゃんも仲間外れにしない“よう振る舞って”二人の握手を誘導した。
「さ、菫ちゃんも清美さんと握手だ。」
「え、ええ。よろしくね、菫ちゃん」
「う、うん。・・・よろしくお願い、します。」
清美さんは俺と握手した際に左手で持っていたスマホを、手錠のせいで左手でしか握手ができない菫ちゃんのために、ポケットに入れた。
俺は二人の仲を取り持つように、遠慮がちな菫ちゃんの手と極度の引っ込み思案に戸惑う清美さんの腰を取り、互いに歩み寄らせた。その手を回す際に一瞬だけ、清美さんのポケットに入ったスマホに触れた。
「芯君?この手はちょっと早いんじゃないかしら?私はゲーム上協力するだけなんだからね。」
と言いつつ清美さんは腰に回した俺の手をつねる。
ナンパ野郎認定されたが、目的は達成された。
そう、一瞬だったがスマホに触れ、欲しい情報は手に入れたのだ。
清美さんのスマホの画面を、スマホに尋ねたら、しっかりと返事が返ってきた。
名前:月白 清美
年齢:25
願い:揺るぎない味方が欲しい
スキル:触れた相手を1人だけ操る事ができる。
ミッション:各階に配置されているチェックポイントを二名以上で廻る
アプリ:自分のいる階の地図と、チェックポイントの在処ーーーーアプリ起動
ジョーカーアプリは所持していない。とりあえず一安心。
そしてさっき感じた清美さんの裏の意図、恐らくスキルのことだろう。ミッション達成のためにはわざわざ裏切るかもしれない人を頼るよりも、スキルを使って操った方が安全だからな。
・・・それにしても、揺るぎない味方ねぇ、清美さんが何を思ってこの願いをしたかはわからないけど、これだけ人当たりのいい人ならできると思うけど・・・いや、今の彼女では揺るぎないと呼べる味方はできないだろう。そう考えると難しい問題かもしれない。
「・・・し、芯君?大丈夫?」
菫ちゃんが心配そうに俺の顔を覗き込む
「あ、ああ、大丈夫。少しこれからどうしようか考えてただけだから。」
「あら?お姉さんにフラれてショックだったのかと思ったわ。」
「違いますー。確かに清美さんは美人だけど、俺もそんなに単純じゃないですー。」
「美人だなんて、口説かれちゃったわ」
「口説いてませんー。事実を言っただけですー。」
「事実だなんて!お姉さん嬉しいわ。」
「美人が素敵とは思わない方がいいですよー。女の価値はそれだけじゃないんですー、ねぇ、菫ちゃん?」
「・・・フンッ」
ガスッ!
菫ちゃんに同意を求めると、何故か裏拳が飛んできた。・・・しかも鳩尾にヒット・・・なす術もなく崩れ落ちる俺・・・
薄れゆく意識の中で、菫ちゃんのコミュ障具合と、俺の昔のコミュ障だった頃を重ねていた・・・。
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害するミッション
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
息の乱れた少女は無機質な通路を走って逃げていた。
「・・・何なのよアイツら・・・ハァ・・・ハァ・・・いきなりライフル撃ってくるとか、無茶苦茶じゃない・・・。しかも、女の子の方は無傷だし・・・」
少女は先程別のゲーム参加者二人組にナイフを投げつけた。1人は軽いケガをさせたが、彼女は二人とも傷つけなくてはならなかった。
「・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・二階まで来たし、さすがに、もう大丈夫よね。あんまり息を上がらせると、R指定かかっちゃうし・・・」
少女はとても残念な人だった。
「とりあえず、こっちも遠距離の武器を持たなきゃだね・・・アイツらはそれからにしよう。・・・今日はこのくらいににしたらぁ・・・てな!」
本当に残念だった。
「・・・キミ、大丈夫かい?誰かに終われたりしているのかい?」
真面目そうな青年が少女に声をかけた。
「ええ、大丈夫です。・・・えっと、あなたは?」
「僕?僕は川上 誠、一応射手座のスマホを持っている。」
「川上さん・・・えっと、あたしは柚木 蜜柑、スマホの星座は水瓶座。」
「水瓶座・・・よかった。」
「よかった?」
「うん、僕のミッションは蠍座のスマホを持っている人を殺す事だからね。水瓶座なら関係ないから、よかったって。」
「殺すって、どうやって?」
「特にスマホからの指示はなかったから何でもいいんじゃないのかな。そのためにさっきまで、ほら、これを探してたんだ。」
そう言う彼の手には一丁の拳銃があった。
「え、で、でも、それで撃ったら死んじゃうよ・・・」
「そうだね、それでも殺さないと、僕が死んじゃうし。手に入ったスキルは本当に必要なものなんだ。蠍座の人は気の毒だと思うよ。」
蜜柑は川上のことを真っ直ぐな青年だと思った。そして、それ故の恐怖を感じていた。
そして何より、彼は蜜柑が欲していた遠距離武器、拳銃を持っていた。
川上がそうであるように、蜜柑にも願いと生き残りたいという目的があった。
だから、奪おうとした。もちろん川上が抵抗することも考えたが、蜜柑には一度銃を手にしたら、それを解消するスキルがあった。
「ね、ねぇ、川上さん。」
「ん?なんだ?」
「その銃って本物?」
「ああ、実弾も入っていたし、一つだけだがマガジンもあった。」
「見せてもらってもいい?」
「いいけど、その前に、君のミッションは何なんだ?さすがにそれを知らずに銃は渡せない。」
「あたし?あたしのミッションは、水分しか取らずにクリア部屋にたどり着く、よ」
「・・・なんで嘘を吐くの?」
「え?嘘じゃないよ、何も証明できないけど、信じてほしいな。」
「それは、君のミッションが僕を害するミッションだから?」
「まさか、それだったらもう既に攻撃してるでしょ。わざわざ話したりしないでさ。」
「・・・やっぱり・・・人はみんな嘘つきだ・・・」
そう呟きながら川上は蜜柑に拳銃を向けた。
「・・・え?何で銃をあたしに?」
「もうしゃべるな、嘘つきめ」
蜜柑は理解ができなかった。自分の言葉を振り返ったが少なくとも嘘だと知らなければ、それを見破る手段などないはずだと
「世界は嘘つきでも、僕だけは正直でいたい。君にも真実を教えてあげる。僕は射手座の川上誠、ミッションは蠍座の殺害、そしてスキルは、嘘を見破る力。君が嘘を言っていることだけはわかったよ。大方僕のっ銃が欲しかったんだろうね。でも、嘘つきは、死んでよ。」
銃声が一つ、無機質なビルに響き渡った。