第五話 真実よりも
―――――嘘と願いは似ている――――
どちらも不満から生まれ、満たされた人間には不要のものである。
第五話
真実よりも
亡くなった芯君を彼の大好きなベッドに横たえて、私達は先を目指した。
三階へ上がる階段は割りとすぐに見つかった。芯君が撃たれた場所、休憩室を出た付近から数十メートル程度だった。休憩のタイミングを遅らせて、先に上へ行っていれば・・・なんて後悔が沸き上がってくる・・・
私達は狙撃手への対抗手段がない。今手元にあるのはナイフのみ、これではやられたい放題だから自衛のためにも武器を探すことに。
「・・・・・・。」
誠君は何か言いたそうな、そうでもないような、よくわからない感じでそわそわしている。
三階も変わらずコンクリートな景色、建物重くないのかしら?
未来視を使って武器を探す。
と、未来の景色には豊富な拳銃が映っていた。階が上がると武器の殺傷力もあがるようになっているのかもしれない。
武器を探しつつ私はスマホを確認する。私のミッションは今のところ、牡羊座、双子座、蟹座、天秤座、射手座、山羊座、水瓶座が達成されている。つまり残りは、牡牛座、獅子座、蠍座、魚座、そして私の乙女座。私の乙女座はよくわからないけど、会っていない参加者は利彦さんから聞いた、獅子座と魚座の二人、そして狙撃してくる恐らく蠍座の人のみ、牡牛座はおそらくジョーカー用の空きなのだろう、参加者は十一人って聞いてるし。・・・そして、その獅子座と魚座の人は二階で別のルートを進んでいた。未来視で視えたから回避、というか、私ばかりがミッションを進めるのも悪いと思って会わなかったのよね・・・。この二人に先に会っておきたいな。蠍座と思わしき人と戦うのなら人数が多い方がいいし、蠍座の人と戦う武器はもっと上の階に行けば手に入ると思うし・・・その方が効率的だろう・・・。
でも二階では私たちの進んだ道が最短ルートだったのよね。もしかしたら二人よりも先に進んでいるかもしれない。・・・蠍座と会う可能性もあるけど、一旦、三階で二人に会うことを優先すべきなのかも・・・
「真白さん、この部屋に拳銃がありましたよ。」
誠君が周辺の部屋を見て回ってくれている。これは私が未来視で狙撃手の銃撃を知ることができることを使った作戦の一部。部屋の中で撃ち合う場合、狙撃用の銃じゃ大きすぎるだろう、というもの。まぁ、相手が武器なら何でも呼び出せる、とかいうスキルだったら無意味だけど。今のところ狙撃でしか攻撃されていないから、多分平気でしょ。
というより、銃の飛距離ってどんなものなのかしらね。相手が狙撃用の物を使っているとして、拳銃で勝ち目はあるのかしら・・・。
目的の武器もてに入ったので、私達は先へ進む。
「誠君。」
「・・・はい。」
「私のミッションって残り三人じゃない?恐らく狙撃してくる人と、利彦さんが教えてくれた獅子座と魚座の。」
「・・・確かにその可能性高いですよね。」
「で、上の階に来ると武器も強い物になったじゃない?だから、お互いがそこまで脅威になる前にその二人の願いを聞いておきたいの。具体的には三階にしばらく留まるってことなんだけど、いいかしら?」
「ええ、大丈夫です。僕も真白さんに少しお話ししたいことがありましたし。」
話?何かしら?・・・やっぱり芯君に嘘ついたことかしら・・・
「それじゃあ、どこか設備の良い部屋があったらそこで。」
「はい、わかりました。」
私たちは当てもなく進んで、部屋を見て回った。
見つけた部屋はかなり豪華だった。食事もベッドも人数分以上用意されていて、コーヒーメーカーとかまであった。一般の家庭くらいの水準・・・食材の豪華さを考えるとそれ以上かも・・・
私達そこで簡単な食事を済まし、本題に入る。
「・・・それで、誠君の話っていうのは?」
「えっと、その、真白さんは芯さんに最期、嘘を吐きましたよね?」
「未来では死んでいない、ってやつよね。そうよ、嘘だったわ。」
「それが、僕の中で引っかかっているんです。」
「引っかかる?」
「ええ、その、真白さんって、どうして、何故、嘘を吐くんですか?」
「嘘を吐く、理由・・・ね。」
「はい、それが聴ければあるいは気持ちに整理がつくかもしれないんです。」
それは、私の願いと関わっていること、それは今の私自身を形作っているものだから、少し躊躇いはあるけど、この人になら話しても悪いようにはしない。そんな風に思えるのよね。
だから私は話し始めた。私の願いについて―――――
「―――私には少し歳の離れた妹と弟がいたの。二人とも素直で、特に弟は誠君みたいに正義感にあふれていたわ。でも、ある日、私が二人を連れて公園に遊びに行って、私が少し目を離した時、二人は車に撥ねられたの。妹はその事故ですぐに亡くなったわ。弟もかなり酷い状態で、意識はあったけど、もう動くことができなかったわ。もちろん妹がどうなったか、知ることは、誰からか聞くこと以外手段はなかったの。だから、私は咄嗟に嘘を吐いたの。『妹は生きていて、他の病室で治療中だよ。』って。それが私の嘘つきの始まり。そこから周りにも協力してもらって嘘を付き通したわ。それからずっと弟の前では、悪化する弟の状態も、良くなってることにしたり、明るいことしか言わなかったわ。弟が視力を失っても、余命宣告されても、ただあの子に、笑顔でいてほしかったから。・・・私の失敗で二人が死んでしまった、そう私は悔いたの。だから、もう後悔したくない、先を見通して、大切な人を守らなくちゃって、願ったの。」
「生きてて楽しいですか?真白さん。」
―――――えっ!?
誠君はそんな言葉を私に投げ掛ける。その表情は真剣そのものだった。
「僕のスキルは反応していませんが、真白さんのその願いは、きっと嘘です。」
「今のは嘘なんかじゃ・・・」
「だったらなぜ、二人が生き返るということを願わなかったのですか?倫理的?そうじゃないですよね?そうじゃないですよね真白さんは失う事が嫌なんですよね。」
「・・・失いたく、ない。だけなのかな・・・」
「大切な人を守りたい、そんな大義名分ができてしまって、それがいつしか真白さん自身を騙していたんですよ、きっと、だってほら・・・」
誠君は私のスマホを指し示す。そこには乙女座の文字が変わった画面が映っていた。
「ついでに話しますけど、僕はこれまで騙され続けた人生でしたけど、嘘を憎んでいましたけど、真白さんと出会って、真白さんの嘘を近くで見てきて、嘘も決して悪いことだけじゃないって思ったりして、ずっとモヤモヤしてたんです。でも、今のでハッキリしました。僕は、真白さんの嘘になら、騙されてもいいって思えます。きっと弟さんも、そう思っていたんじゃないでしょうか。」
「・・・騙されても、いいの?」
「はい。――――だって、真白さんの嘘は、真実よりもずっと幸せだから。」
――――それは嘘が嫌いな誠君からの、嘘を肯定する言葉。
「真白さんに出会えて良かったです。嘘も悪いものじゃないって思えたから。」
誠君は初めて会ったときと変わらず真っ直ぐに私に伝える。
「だから、真白さんにも僕みたく自分の気持ちには正直でいて欲しいです。僕は確かに愚かかもしれません。でも、それでいい、真っ直ぐなら、それで失敗しても、何かを失っても、きっと後悔はしないから。」
私は――――――
ゴオォォッ!!
その時、遠くて何かが轟音をたてていた。くぐもった音が聞こえる。
もしかすると、蠍座の人の狙撃かもしれない。
私達は音がした方へと急いだ。




