第六話 言葉はなくとも
第六話
言葉はなくとも
俺達は部屋を出てチェックポイントを廻り始めた。
清美さんも自分で歩けるようになったので、いくらか速く進めると思っていた。
「ねぇ、芯君。芯君ってどこに住んでたの?」
「え?・・・えっと、S県のH市ですけど・・・」
「そうなの!?私もS県なの!K市だから電車で一本だね!」
俺の左手は手錠で菫ちゃんに繋がっている。それはいいんだが、右手も清美さんと繋がっていた。普通に手を繋ぐように・・・
いや、清美さんのような美人さんと手を繋げるのは嬉しいんだけど、いかんせん歩きにくくて堪らない。両手拘束って・・・でも清美さんの手を堪能したくて離してとは言えない。すげー柔らかいし。
「そう言えば、このゲームの参加者ってどこから集められたんですかね?」
「どうなのかしら?菫ちゃんはどこに住んでたの?」
「私は、N県のK市です・・・」
「――――関東近郊なのかな?」
「三人だけじゃ判断できないけど、その可能性は高そうね。」
清美さんから会話もやたらと持ち込まれていて、さっきと大して変わらない速さだった。ただ清美さんの言葉は今まであった壁がなく、彼女に関する様々な事を話してくれた。
清美さんの大人っぽいミステリアスな部分は薄れてしまったが、これはこれで可愛らしさが増したのでアリである。
本当にこの人は俺のドストライクから寸分たりとも外れない・・・
清美さんの良いところ、そして、悪いところ、それぞれを知った上で、俺はやっぱりこの人のことが好きだと思った。
偽っていた頃は憧れのお姉さんだったけど、彼女の素に触れて、身近に感じて、好きなんだと強く感じた。
「・・・清美さん、元気になりましたね。私も清美さんが元気に色々話してくれて嬉しいです。・・・その・・・私、清美さんみたいなカッコいいオンナになりたいって憧れでしたから・・・」
菫ちゃんも同じようなことを感じていたようで・・・
「カッコいいって・・・幻滅したでしょ?・・・本当の私は臆病なだけだったのよ・・・」
「・・・そうですね。確かにカッコよさは半減しちゃいました・・・でも、今の清美さんは、私、前より好きになりました。」
「菫ちゃん・・・」
「それに、今の清美さんなら私も割りとすぐに追い付けそうですし・・・」
「なっ!」
菫ちゃんも言うようになったな。このからかう感じ・・・確かに清美さんのリスペクトっぽい。
遅いながらもチマチマ進み、ようやくチェックポイントを廻り終える。あとは四階への階段へ向かうだけだ。
「――――――――――――!!」
突如菫ちゃんが銃を構える。その先には人影が二つ・・・菫ちゃん、よく気が付いたな・・・
清美さん、正直なところ、まだ完全復活じゃないらしい。俺と繋いだ手が震えている。
俺らの今の状況を考えたらあまりぶつかりたくはないのだが・・・
「あら~菫ちゃんじゃない~。無事みたいでよかったわ~。」
「芯さんはなんで両手を拘束されてるんですか。」
人影から現れたのは真白さんと蒼だった。頼もしい二人に合流できて安堵する。清美さんの震えも止まったようだ。
「芯君はモテモテねぇ~。」
「真白さんは俺の状況大体わかってて言ってますよね!?」
「「・・・・・・・・・///」」
「二人とも面白がってそういうリアクションとるのやめて!」
清美さんと菫ちゃんで合わせたように照れる。打ち合わせていたとしか思えないタイミング・・・
「・・・もう!遊んでないで先に進みましょう!」
このままだと部が悪いと思った俺は話を替えて逃げる。
「あらら、芯君は恥ずかしがりやなのね~。」
更に食い下がる真白さん。無視して進む。この人は相手をしたら敵わないから無視が正解のはず・・・
「芯君~。かまちょ~。無事にあえたんだし~もっとかまってよ~。」
なんなんだこの大人は。
四階に上がり、地図を確認する。そこには次の階への階段はなく、「終点」と書かれた部屋があった。どうやらゲームの目的地のようだ。
終わりも見えてきた、ということで、とりあえずは近場の部屋で休憩を、と真白さんの提案があった。
歩き回って疲れていたし、俺達もその案には賛同した。
部屋に付き、全員が落ち着いたところで真白さんに問いかける。
「真白さん、休憩をしない未来には何が見えたんですか?」
周囲がざわつく
真白さんはまたお茶を濁そうとする顔をしていたので、彼女の目を真っ直ぐに見て、真剣に話して欲しいと訴える。
「・・・『終点』には先に人がいて、その人は銃を撃って来たわ。そして、動きが取れない芯君、菫ちゃん、清美ちゃんが撃たれる。そんな未来よ。」
そんな事だと思った。
「もう数時間で菫ちゃんの手錠が外れるから、休む事を提案したのね。」
清美さんが以前のようなカッコヨサでまとめる。
・・・その手は俺を掴んだままだったが・・・
去勢、なんだろうな・・・
「そういうことだから、手錠が外れるまでゆっくりしましょう。」
焦った所で死ぬだけなら、ここは提案通り休むことにしよう。
運良くこの部屋は食糧に恵まれていた。なんだかんだでこのゲームはストレスかかるから、豪勢な食事は良い気分転換になる。
食事の後は交替で睡眠をとることにした。俺は手が離れない菫ちゃんと手を離さない清美さんとベッドを三つ繋げて寝ることになった。いや、まあ、嬉しいし、何かするつもりもないけど、あまりにすんなり決められて少しは抵抗すべきかと思った。・・・・・・まあ、しないけど。
ベッドは以前の愛しのベッドに比べると包容力が劣るものの悪くはなく、疲れの溜まっていた菫ちゃんはすぐに眠ってしまった。
俺は、もう一方の震える手が気になってなかなか眠れなかった。何か声をかけるべきなのか、起こさないように大人しくしてるべきか―――――――――――――
「・・・・・・お邪魔します。」
とか考えていたら、清美さんの方から俺のベッドに入ってきた。
「・・・ごめんね。やっぱり、少し怖いの・・・芯君、一緒に、いてくれない?」
・・・・・・・・・なんだこの可愛すぎる人は!?
俺は思わず我を忘れそうになる。手錠がなかったら獣になっていたかもしれない。・・・とりあえず、俺の心の内を悟られないように寝たふりをしつつ・・・まぁ、照れ隠しだわな・・・清美さんの手を握り直した。
「・・・・・・うん。」
清美さんも俺が起きていること、そして『独りにはしない』という意思を伝えようとしたことを察したようで・・・ようで・・・身を寄せてきた・・・
沸き上がってくる下心を必死で抑えつける俺の良心。・・・安心させるために、俺は清美さんをそっと抱きしめた。安心させるために。うん。
清美さんの震えは止まっていた。
さて、そんな感じで数時間が経つと、俺と菫ちゃんの手錠が外れた。自由を感じる。それは手錠もあるけど、清美さんが一人で歩くようになったこともある。目が覚めてから、清美は完全に元通りになっていた。真白さんからは何かしたのかとニヤニヤと尋問されたが軽くあしらっておいた。
そして、現在は「終点」に行く前に、清美さんのスキルを試すところだった。
清美さんのスキルは操りのスキル。戦力としてはなかなか頼れるものだ。
スキルの実験台として俺はスキルを使われる。
「どうかしら?」
「・・・確かに手足は俺の意志に従いませんね・・・」
「でも、喋れるのよね。」
「やっぱり、心までは支配できないようね。まぁ、身体の自由だけでも願いは満たされるから・・・皮肉なものよね、結局、私はスキルを使っても独りきり――――」
「「独りなんかじゃない。」」
俺と菫ちゃんは清美さんの言葉に咄嗟に反論し、彼女の手を取った。
「清美さんは、独りきりでは、ない。私達は、清美さんの、味方。」
「スキルなんかなくたって、清美さんは味方を作れる。」
「・・・そうね。ありがとう。」
俺達は、「終点」へ向かった。




