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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
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真白の地宮 上層部①

 本来は真白の地宮を管理するための上層部が、今では複雑な構造の迷宮に変貌していた。その事が既に、妖魔の支配下に置かれてから、かなりの時間が経過している事を表していたが、極門をくぐってからの道行きは、さらに複雑な構造に狂っていた。


「光の粒の痕跡が多くなっているワン、それにさっきよりもさらに番人の気配が濃厚になっているワンウ」


 警戒心にウーシアの後ろ毛が逆立つ。気のせいか、空気もピリピリと刺激的な物質を含んでいるかのように、落ち着かないものになってきた。


「これは……」


 ドワーフ忍者が装置をいじりながら呟く。


「極端な魔力量を検知、本来ならあり得ない量じゃのう」


 それを聞いた後続のリロが、何やらタンたんをくりだして、


『P33 分析火矢アナライズ・アロー


 空中に照射した魔法陣から、初めて聞く魔法を出現させた。それは見慣れた追跡火矢よりも、いくぶん短く、やじりには四方に棘状の器官が張り出している。


 リロの命で放たれた矢は、普通の矢とは違い、水平にゆっくりと進んでいく。


「あれは?」


 と聞くと、


「はい、魔力感知を鍛えていたら、使えるようになった追跡火矢の上位魔法です。周囲の魔力をより高精度に感知する手助けとなってくれます」


 リロが少し得意気に胸を張る。それを聞いたドワーフ忍者も驚きに目を見開いた。地味にこの娘も実力をつけてきている、なんとも頼り甲斐のある仲間に成長したものだ。


 しばらくして、その結果を聞くと、


「空気中の雷精が、飽和状態寸前まで密集、滞留しています。このままではいつバランスを崩すか分かりません。もう少し進んだ先に、元凶とみられる魔力の塊が存在しています」


 と分析した。


「迷宮を管理するための装置に、雷精を大量に使役していたと書物にあったワフ。それが狂った番人の操作で、迷宮中に漏れ出ている可能性があるワフ」


 自身の霊刀に伝わる霊感と合致する分析に、オウの声も深刻さを帯びる。


 雷精……その名に聞き覚えがあり、記憶を辿る。すると人造巨人兵団の名前持ち(ネームド)の一体に、全く同じ呼び名の精霊を操るものがいたのを思い出した。


 全身真っ黒な樹脂で出来たような巨人そいつは、自身の体内にブリッツと呼ばれる雷精を無数に住まわせ、その力をもって、戦場を縦横無尽に暴れまわっていた。


 その威力を思い出して、身震いする。その巨人一体で、数百、数千という敵軍を絶命せしめる威力を誇っていたのだ。雷精達の放った、たった一発の極大魔法で、である。


 あれがこんな閉塞空間で炸裂したと想定し、全滅という言葉が脳裏に浮かぶと、仲間の安否を思って胸が痛んだ。


「ジュエル、雷精はまずい、すぐに結界を頼む」


 と促すと、静かに同意したジュエルが、聖守護力場ホーリー・メイルの準備にかかる。だがその横からベルが、


「その神聖魔法は相当な魔力を消費するのだろう? ここは我が英霊の力に任せてくれ。雷精にはうってつけのお方においでいただく」


 と言うと、双剣を抜いて、召喚の舞いを始めた。雷撃に強い英霊ーーそんな都合の良いのがいるのなら、ぜひお願いしたい、と思って見ていると、妖艶な舞いに誘われるように、彼女の周囲にもやが出現し始める。


 それは透明な青い人型になると、内側に電気を走らせ、充満し、輝きだす。


 筋骨隆々の大男のような見た目の英霊が、半裸のベルに絡みついていく。その妖艶さに当てられて視線を泳がすと、同じく真っ赤になって視線を外したリロと目が合った。


 他のメンバーは、全身に汗を噴きながら踊るベルに見惚れている。そして舞いも佳境に入り、空気を切り裂く刃鳴りが激しさを増していくと、燦然と輝き出した英霊が青白くその全貌を表した。


 ガッシリと肩幅の広い体に、もつれて絡んだ頭髪が広がり、鋭い視線はまるで猛獣のようである。


青雷せいらいの戦士パダール、迷宮内の雷精を鎮めたまえ」


 間髪を入れずに祈りを捧げる、ベルの呼気を吸い込んだ英霊パダールは、


 〝草原の巫女ベル・オニャンゴよ、古の盟約に従い、その方の願いを聞き届けよう〟


 まるで落雷のように深く鋭い念話を放ち、聞く者の魂を震わせた。その姿に目を奪われていたバッシが、一つ息を吐き出すと、ジロリと見すえたパダールが、


 〝そこのデカブツ、我について来い〟


 と念話を放ち、有無を言わさず引っ張る。霊体にも関わらず接触までできる事に、かなり高位の英霊に違いないと観念したバッシは、言われるがまま抵抗もせずに歩き出した。すると半透明の靄を透過させて、バッシに重なってくる。


 破魔の大剣が紫の光を放つと、驚き、弾き出された英霊は周囲を漂う。


「バッシ殿、英霊を受け入れて下さい。御身に害は与えないワフ。あなたが受け入れる意思さえ示せば、英霊も悪いようにはしないはずだワフ」


 オウがバッシの手を取った。その動きは、警戒していたはずのバッシもろくに反応できないほど不意を突くもので、無意識に潜り込むかのような接近術である。これが戦闘中だったらと思うと、バッシの背筋に冷感が走った。


「この場は英霊にゆだねるワフ」


 と言う瞳を見ると、深い茶色の輝きに真剣味が滲み出ていた。一つ頷いたバッシは、空中に弾き出した英霊に詫びを入れると、心の中で受け入れる事を誓う。


 フワッと重なった英霊パダールは、バッシの体に馴染むと、


 〝前に進め、雷精の核を鎮めるぞ〟


 と尊大な態度で告げた。体内から響く念話は精神を圧迫するが、破魔の大剣が威嚇するように紫光を纏うと、フッとその呪縛が解かれて、バッシの心も軽くなる。


 〝ムムッ、そこもとの剣は苦手だ〟


 続く言葉は、まるで大剣に遠慮しているかのように弱まっている。


「まあそう言うな、仲良くいこう」


 とバッシがタメ口を吐くと、体内で驚いたような精神の動きが感じられた。その不思議な繋がりに思いを馳せながらも、バッシはどこか人間くさいこの英霊が好きになる。


「ここは上階とはいえ、半異界である迷宮ダンジョン内部だワン、ウーが先導するから、ついて来るワンウ」


 というウーシアとともに、目先の目標である雷精の管理装置に向かう。その場所は、雷精の化身ともいえる英霊が、自らの感覚を通じて教えてくれた。


〝この先に雷精の塊があるぞ。気をつけろ、これほどの塊となれば、いつ大爆発を起こしてもおかしくない〟


 英霊の思考が漏れ伝わってくる。そのイメージによれば、ひとたび爆発が起きると、上層全体を巻き込む恐れがあった。やはりそうか、と思ったバッシが慎重に大剣を構えると、


「ここから先はウーの踏んだ場所を、正確になぞるワン」


 ウーシアは振り返りもせずに言い放ち、地面に頭がつきそうなほど低く身を構えると、床を調べだした。霊剣の輝きもここにきて最高潮を迎え、拡散する銀のもやは彼女の輪郭をボンヤリと浮き立たせている。特に鋭敏な鼻を効かせ、


「ここに踏み込み式の罠があるワン」


 などと次々と罠を看破していく。その頃には、魔力を全く持たないバッシにも、雷精の気配が肌感覚としてピリピリと伝わってきた。プレッシャーをものともせず作業を続けるウーシアに、感動すら覚えはじめるバッシに、


 〝お主も感心している場合ではなかろう、女ばかり働かせては、男子の面子メンツが立たぬぞ〟


 と英霊が叱責する。彼は昔かたぎな性格らしい、事実昔の人間なのだから、当然の話かも知れないがーー頑張らねばならないな、しかし面子か、守らねばならない矜持など、一切持たないつもりだがーー最底辺を生き抜いてきたバッシの思考は、英霊に綺麗に無視された。


 慎重にウーシアの踏んだ跡を辿って部屋に入ると、目の前には巨大な空間が広がっている。真白の地宮という名前の通り、真っ白にポッカリ抜けた箱状の大部屋。その中央に鎮座するのは、見た事もない装置だった。


「あれが雷精を利用した、地宮の制御装置か? これほど見事な装置は、ドワーフの都、ブリストルキングダムを見て以来……いや、それ以上かも知れない」


 上部にある管は光り輝き、空気中にバチバチと青白い火花を放射している。そこが起点となって、今にも大爆発を起こしそうな圧が高まっていた。


 と、空中が数カ所が閃くと、火花を撒き散らす人型を形成しはじめた。それはバッシが戦場で何度も目撃した雷精と同じ輝き。巨人が極大魔法を行使する時に、真っ黒な体内から漏れ出た雷の輝きだった。


「雷精ブリッツの顕現体けんげんたい


 つぶやく唇が、空中に充満する電気に痺れた。全身の毛が逆立つ中で、胸に意識を集めたバッシは全身を鈍色の龍装で覆っていく。


 〝地龍の魂か、破魔の剣といい、お主は沢山のものに守られておるな〟


 とつぶやく英霊と共に、ウーシアと並び立ち、


「ウーシア、お前は少し下がった方が良い。雷精のスピードは人に反応できないぞ」


 と龍装の足爪で地面を掴みながら告げると、一歩前に進み出る。ギリギリまで地面に鼻をつけて、周囲を探索していたウーシアは、


「この周囲には罠が無さそうだワンウ、でも油断してはいけないワン」


 と指摘してバッシの後ろに退避した。目の前には輝きを増した人型が四体、子供が遊び回るように空中を踊っている。


 縦横無尽に青白い残光の尾をひく雷精ブリッツ。気まぐれな電子妖精達が一斉に手を繋いだ時、滞留する魔力と結びついて大惨事が起こる。その事態だけは避けねばならない。


 爆発寸前の緊張感の中、ヒラヒラと宙を舞う小さな手を見ながら狙いを定めたバッシは、極度の集中状態に没入していった。

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