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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
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地宮に下る

 真白の地宮、まさに名前が示す通り、地下に広がる迷宮ダンジョンであるここは、ヤマタの民にとって不可侵の聖域である。そうして聖域として人を排するには、それなりの理由があった。


「殺生石、ワンウ?」


 道中そのいわれを聞いていたウーシアが、説明の弁をふるうオウ・スイシに尋ねる。


「そうだワフ、この地中には、太古の荒ぶる妖魔を封じた、殺生石と呼ばれる溶岩塊が封じられているんだワフ」


 と説明した。それによると、殺生石を封じるために作られたのが真白の地宮であり、迷宮化したのはその後の事らしい。


 話を聞きながら辿り着いた地表部には、斜めにせり出した、白亜石の天蓋部分が、雨上がりの薄日を反射して輝いていた。

 その中心部には、巨人でも通れそうな大穴が、ぽっかりと口を開けている。


 そこに縄梯子をかけて、オウ・スイシ率いる反王軍が順番に登っていく。その数は、見張りに残る者を含めても、二百にも満たないほどに目減りしていた。


「他の者達も生き延びていれば良いけど」


 仲間を思うベルのつぶやきを聞いて、バッシがうなずく。その横ではさらにウーシアが、


「今でも危ないから封じてるんだワン?」


 と首をかしげた。


「そうだ、その妖魔は大陸で猛威を振るい、追われてきたヤマタにて、さらなる災厄を振りまいたと言われているワフ。我らの先祖がそれを討ち、封じ込めたのが殺生石だ。封じても溢れ出る魔力にその周囲が迷宮化するのを、計算に入れて作られたのがこの地宮だワフ。湧き出る魔力をコントロールする鍵が、二振りの霊剣と、と呼ばれる金印なんだワフ」


 オウの説明に聞き入っていたジュエルは、自分の番となり、地宮の中に入る。そこは意外と広い石室となっており、奥には暗い穴が開いていた。


「その封じておくべき地宮を、何故オウ・スイシ殿は開けようとなされたのか?」


 続いて入ってきたオウに対して、素朴な疑問を口にすると、


「我々カニディエ氏族の霊剣がこの地を離れ、制御を失った地宮は、邪なる力を還元しきれずに溜め込んでしまった。このままでは、地宮の封印も解かれてしまい、さらなる災厄を引き起こす可能性が有るワフ」


 と答えて、ウーシアに手を貸してやった。身軽な彼女は、そんな助けもいらない様子で、中に入るや素早く地宮の探索に目を走らせる。


 そこは入り口とはいえ、かなりの霊気を放っており、奥に続く穴からは、底知れぬ力の奔流が伝わってきた。


「それで貴方がたもここに、ではクロエ殿の思惑は?」


「それは……本心は不明だワフ。しかし彼は略奪したとはいえ、の持ち主にして、管師だワフ。管師というのは、元々管狐くだぎつねと呼ばれる妖狐を操る術師だワフ。誰よりも力を欲するクロエが、この下に眠る大妖を支配下に置こうとした……そう考えるのが自然だワフ」


「しかし、この下に眠る妖魔の危険性は、私などの比では無い。人に制御できる代物ではない。それは大昔に大陸で直接戦った事のある私が保証するわ」


 続くフェンリルが告げると、ジュエルは驚愕に言葉を失った。この建物がいつからあるかは分からないが、数百年単位の遺跡に違いない。その時代に封じ込められた妖魔と戦ったという事は、少なくともそれ以上長く生きているという事になる。そして目の前の銀狼は、冗談を言うタイプには決して見えない。


「憶測でしかないが……おそらく漏れ出た妖魔の分身体あたりが、クロエをたぶらかせたというのが真相だと思うワフ。彼がある時期から急速に力をつけ始めたのも、大陸に渡ったのも、璽を奪ったのも、それが原因ではないか? とにらんでいるワフ」


 幾人かの間者を介して得た情報らしく、オウ・スイシは半ば確信しているようだった。


 そうこうしている内に、仲間の大半が地宮の中に入る事ができた。早速忍びの者や元冒険者の傭兵などが、奥に続く部屋の探索に散って行く。


 ウーシアもその中に混じり、霊感をフルに発揮して、罠などの探知に励んでいた。

 見るとその手にある霊剣は、通常時よりもさらに長く、光り輝いている。地宮という本来霊剣が力を発揮する場において、霊力を増しているのだろうか? 彼女自身もハツラツと、力がみなぎっているようだった。


「あまりはりきり過ぎるなよ」


 とバッシが声をかけると、ニコッと笑って奥に向かっていく。まあ大丈夫か? と判断した時、奥の間から、


 〝バチン〟


 という物音とともに、悲鳴が上がった。


 慌てて駆けつけると、真っ白な壁に囲まれた広大な空間に数人の反王軍の姿があった。その頭上には光の粒が、フワリフワリと舞っている。その数はどんどん増えていき、先行したメンバーは、大仰にそれを避けていた。


 その足元には、獣人族の兵士が一人、白目を剥いて倒れ伏している。


「どうした?」


 と聞くと、


「この光に当たって昏倒してしまった。多分気絶しているだけだが、こうも数が多いと、助ける間もない」


 どんどんと増える光の粒が、うねるように集まっては分散し、また集まる。するとどこか意思をもった塊のような、一つの形を作り始めた。


 それは徐々に巨大な人の形になっていくと、頭を抱えて苦しんでいるように身悶えする。


 そこにオウ・スイシと、ウーシアのカニディエ氏族コンビがやって来て、


「お前は……番人ワフ?」


 と尋ねると、一瞬苦悶の表情を引っ込めた光の人型は、二人の側に降りてきた。そして息がかかりそうなほど間近で、二本の刀剣をしげしげと眺めると、突然空中に舞い上がり、光の粒を撒き散らしながら、


 〝か、カカッ管理者ぁっ、管理シ者ガッきき来だっッ!〟


 と乱舞した。それは正に狂ったような光の嵐であり、生者は皆巻き込まれないように、頭を低くしてやり過ごすしかなかった。


 〝管理者あぁっ! はやぐ、は、早くケッ、剣璽けんじを示ぜ〟


 両手を広げた空中の番人が、満面の笑みを作る。それを見たオウとウーシアは、困ったように顔を見合わせると、


「二振りの刀剣を持ってきた、カニディエ氏族のオウ・スイシ・カニディエと」


「ウーシア・カニディエだワン」


 と告げる。それを聞いた番人は、


「けっケ剣士ッ、ふ、二人っ! これは……これはっジッ璽はど、どこにある?」


 ブルブルと震えだして、輪郭がボヤけ、飛び散る光の粒どうしがぶつかって、小爆発を引き起こす。


「璽は無いワンウ」


 ウーシアが申し訳無さそうに告げると、さらに衝突を続けて、魔力の火花が舞い散る中を、頭を抱えた番人が上昇し、


「ニの呪イ、のっ呪いいいぃ……いいいイィィィッ!」


 絶叫しながら奥へと飛び去ってしまった。すぐさまオウやウーシアが呼びかけても、聞く耳を持たない様子で、声が遠くに消えていく。

 皆しばらく呆気にとられて、惚けたような時間が流れる中、


「あれは何だ?」


 と聞くと、


「あれは、この地に封じられた人柱だワフ。高位の僧侶達だったと聞いてるワフ。ただし、剣璽の管理者が不在だったせいで、長期間妖魔の魔素にさらされて、狂ってしまったんだワフ」


 と、なんとも可哀想な身の上を語る。そこまで分かっているなら、なぜもう少し早く来なかったのか? と思うが。


「仕方が無い、これでも急いだんだワフ」


 バッシの視線から非難の色をみたのか、オウが語る。その真摯な瞳には、なんのてらいも、おごりも、居直りも感じられなかった。事情を知らないバッシが何か言うのも変なので、それはそれとして、言葉を控える。


「さて、これで先に進むしか無くなったと思うのだが?」


 と言うジュエルに、オウもうなずく。


「この人数で行っても良いが、先ずは先遣隊を送るべきでは? それならば我らに任せてもらえないだろうか? これでもこの迷宮を攻略に来た冒険者だし、外に待機するゲマイン程ではないが、少しは迷宮探索の経験もある」


 ジュエルの売り込みに、経験といってもほんの二回、しかも一つはほとんど洞窟に毛の生えた程度の迷宮だが……とバッシは心の中で思う。だが、彼らからすれば、こちらの手腕などは知り得ないし、ウーシアの探索能力は、ベテランの域をとっくに超え、一流といっても良いレベルな訳で、あながち嘘とも言えない。そこらへんを見抜いたのだろうか?


「ではここにはハンガウを隊長に、後続者への支援、そして敵の監視のための残留班を残すワフ。もちろん私は探索班について行くワフ」


 と言って、オウ自ら潜る旨を伝えてきた。こんな危険な任務を代表者にさせるなんて、と尻込みするジュエルに、


「自分で行く方がかえって安全だワフ。何より二振りの刀剣は地宮探索には必須だワフ」


 と言うオウ・スイシを止める理由もない。オウ・スイシにフェンリル、腕の立つ獣人兵士二人と、忍びの者が二人、それにベルを加えた我ら聖騎士団という11名の第一陣探索班が組まれた。


「こんなに少数では危険ではないですか?」


 と問うハンガウに、


「確実にやって来るクロエに対して、なるべく戦力を残しておきたいワフ、それに少数の方が、罠の回避などには有効だ」


 とオウが答える。それはまるで迷宮探索になれた者の発言だった。なにはさておき、これでようやく……


「真白の地宮を探索できるな」


 感慨深そうにジュエルが漏らす。そう、ここでやっとスタート地点に立てたのだ。残留組には、狼煙をたいてゲマインへの連絡をお願いしてあるから、そのうち彼女達もやってくるだろう。


 俺たちを護送していたはずのクロエが障害となってしまったが、彼女ならば上手く排除してくれるかも知れない。


 そんな思惑の中、各々準備を整えた一同は、人柱の番人の消えた深部に向けて、隊列を組んで進んでいった。

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