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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第三章 ヤマタ王国と真白の深宮
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カニディエ氏族の邂逅

諸事情により、四月二十日の投稿は延期となってしまいました。心よりお詫び申し上げます。

 バッシ達が、群がるアンデッドを倒しながら小高い丘を登ると、ひらけた視界全体が薄暗い雲に覆われていた。


 駆け足に荒く吸い込む空気が、妙に肺に負担をかける。まさかと思い抜剣すると、破魔と破邪の光を発する鋼の大剣が、紫に染まっていた。


「ジュエル! これは魔法か邪法か知らんが、空気が悪いようだ。聖なる結界で覆えるか?」


 と問えば、


「それは可能だが、私の結界魔法は、効果時間が短い。ここぞという時に備えて、なるべく温存したいところだな。先ずは原因を調べよう」


 という答えが返ってきた。アンデッド達は同胞の亡骸を下敷きにしながら、休む事なく這い上がってくる。それを個別に叩き、リロの範囲魔法で焼失させていくが、わき出るアンデッドの数が、倒すアンデッドの数を上回ってきた。


 破邪の紫剣は、アンデッドを手応えも無く切り裂き、消滅させていく。だが剣の届く範囲は圧倒的に狭く、焼け石に水なのは変わりない。


「原因究明も大事だが、現状を何とかしよう」


 と言うバッシの声が聞こえるかどうかのタイミングで、足元から青い光が上がった。切羽詰まったジュエルの〝聖守護力場ホーリー・アーマー〟だ。


 その結界が広がるにつれて、効果範囲に捉えられたアンデッド共が崩壊していく。だがその外には、視界を遮る黒煙が濃くけぶってきた。


「ウーシア! 敵の核たる場所は分かる?」


 結界を維持するジュエルが余裕無く尋ねる。最前から霊剣をかざして周囲を探っていたウーシアは、その霊感が告げる内容に戸惑っていた。


「何箇所も気配を感じるワンウ、前に見た妖怪が何体も戦場に居るワン。それに……これは」


 明らかに動揺を示すウーシアに、隣にいたベルがイラついて、


「何だ? 何がある?」


 と聞きながら、霊剣の示す先に構えを取る。ほんのりと魔力を纏わせた双剣が、ホーリー・アーマーの光に味方して、煙る外側を明るく照らした。


 そこへぬえの頭部が突き込まれてくる。驚いたベルの前で結界に弾かれ、舌をダラリと垂らした猿顔が倒れ伏した。


 その後頭部は鮮烈な切断面を見せている。驚くバッシ達の目の前で、巨大な爪を持つ手が鵺の頭部を握りこむと、急速に萎ませていった。


 黒煙が晴れてゆき、徐々に結界の外が見えてくる。それに伴って、鵺から生気を吸い取った者の全身が見えてきた。

 銀色に輝く毛艶の巨人、いや、頭部に立つ耳を見るに、犬系の獣人だろうか? それにしては立派すぎる身長と妖艶なプロポーションの女……


「銀狼族」


 リロの乾いた口から感嘆の声が漏れる。それは金豹族のマンプルと対面した時に聞いた、ライカンスロープ希少種の一つ……


「あら、知ってるの? 有名になったものね」


 ゆっくりと人型から狼の体に変形していく女に見惚れていると、その後ろに迫る人影に気がついた。


 見れば周囲は獣人達の軍勢に包囲されている。その危機感からジュエルが聖守護力場を広げようとすると、


「我々は敵ではないワフ、初めまして、私は反王軍の代表オウ・スイシ・カニディエと申します」


 後方で下馬した犬人族が歩み寄った。純白の毛並みも涼やかな、銀狼族とはまた違う美しさをもつ優男である。

 彼が剣聖ウォードも認める、傭兵隊長なのか? なで肩に革鎧を着込んだ小柄な男を見ながら、意外に思っていると、


「聖騎士の冒険者、いやまだ志望中ワフ? あなた達と話がしたい、どうか結界を解いてくれ」


 と反王軍側の武装を引かせた。


 結界内のベルも、かしこまっていた頭を上げると、大丈夫だと言うように頷く。どうやら本物らしい。まあ雰囲気で大体察しはつくが。


 聖守護力場を解除したジュエルの元に、オウ自らやって来て手を差す。それに応えたジュエルに、


「あなた達が何を目的にここに来たか、大体のところは察しているワフ、私達もあなたに、いや先ずはそちらの女性に用があるワフ」


 と言うと、後ろに控えるウーシアに向き合った。突然の指名にも動じる事なく、むしろ堂々と進み出たウーシアは、


「あなたがオウだワン? ウォード様からお伺いしていたワン」


 と声を上げる。そのやりとりに驚くジュエルをおいて、二人は見つめ合うと、お互いの腕を出し合った。


 その前腕内側に銀色のもやが立ち昇ると、薄っすらと刀剣の形を成していく。


 片や反りを持つ刀、ゴウシュに教えてもらった、打刀の脇差を少し長くしたような得物である。もう片方は諸刃の直剣、以前より伸びたウーシアの霊剣は、オウの物ほどでは無いものの、短剣ほどに成長していた。


 お互いの霊剣を見て、不思議そうな、それでいてこうなる事が当たり前のような、惚けた空気が流れる。

 その剣から立ち昇る銀の靄が絡みつくと、閃光を放って確固たる質量の刀剣が出現した。


 事情の分からない皆、特にウーシアの主人たるジュエルは、何事か? と聞こうとするが、バッシはこの場では無いと、肩を抑えて制止する。


 先ほどの閃光によって戦場の空気が一変し、まるで転移の女神が起こした波動のように、魂の震えを体感た。それに伴い周囲の黒煙もかなり広範囲まで浄化され、血みどろの戦地が遠望できるようになっている。


 何かが行われようとしている、それはこの地で生き延びるために必要な事に違いない。ここに来て聖騎士団の命運は、一番地位的に低いと目されていたウーシアに託された。


 なおも霊的共鳴を続ける二振りの刀剣は、地宮の近く、反王軍の拠点の地面に転がる装置と光線を結び、真白の地宮の地表部を照射して、三角形をつくった。


 霊力は装置によって増幅され、真っ白な四角い天蓋に、銀色の紋様を浮かび上がらせると、音もなくスパッと巨大な穴が出現する。

 まるで切り取ったかのような角を見せるその入り口を、呆気にとられて見ていると、


「さあ、進むワフ。あっちからハンガウ隊もきたな、邪魔者が来る前に、さあ」


 と促されるままに斜面を下ると、獣人達の控える道を進んでいった。

 オウと並び立つウーシアは、まるでそれが当然の事のように、堂々としている。それを眩しく眺めていると、


「バッシさん、何だか怖い顔してるワンコ」


 と隣に並ぶマロンに指摘されてしまった。バッシは何故か、旧知の者が遠い存在になってしまったように感じて狼狽する。もう一方ではアンデッドや鵺の襲撃が来ないかと警戒し続けていた。


 ウーシアが故郷で本来の姿を取り戻し、古来の秘宝を用いて、誰にも成しえない儀式に携わっている。


 突然の展開に驚くのは皆と同じだったが、リロなどはどこかこうなる事が当たり前とでもいうような、落ち着きを見せている。

 パーティーの中でも一番仲の良い二人だから、何時か話しあっていたのかも知れない。


 反対に一人蚊帳の外である、本来はウーシアの主人たるジュエルは、憮然と成り行きを見守っていた。その隣に並んだバッシに、


「何だこれは? 何故ウーシアが地宮と、反王軍のリーダーと通じているんだ? 犬人族だからといって、おかしいじゃないか。私に何の説明も無しか?」


 と怒声をあげた。バッシは肩をすくめて、


「本人にも直前まで分からなかったんだろう? 霊感や霊剣なんて、俺たちには無い感覚の持ち主どうし、今会って、即通じるものがあったとして、何がおかしい? むしろ真白の地宮に入れそうで、一安心じゃないか」


 と答えると、


「むうっ」


 と言葉を無くしてしまった。隣ではリロが、


「とにかく今は真白の地宮に進めるだけでも良しとしましょう。それ以外の細かいことは後々」


 と師匠譲りの豪快さで一笑にふした。見事に吹っ切れた彼女の中に、時々リリ・ウォルタの片鱗が見える時がある。それは無理して作ったというよりも、極親しかった師匠の考え方が、彼女の中に息づき、今までにはない逞しさが身につき始めているように感じられた。


 仲間の成長に目を細めつつ暫く歩いて行くと、近づくにつれて巨大な開口部の、人間が作ったとは思えないほどシャープな角が見えてくる。


 もたれかかると背中が切れるのではないか? というほどエッジの効いた角。真っ白な壁や内部は、鏡面のように凹凸一つない一枚岩で出来ていた。


 オウとウーシアは立ち止まり、険しい表情でこちらを見据えた。何事か? と周囲を取り巻く獣人達に向かって、


「そこと、そこと、そこ」


 と霊剣で影を指していく。それに合わせて、ヤマタ王軍側の忍びが影から飛び出してきた。


 銀狼族のフェンリルが即応し戦闘を始める。


 バッシの側にも一人潜んでいて、直接ウーシアを狙ってきた。大剣を瞬時に抜き打つと、受け刀も許さずに肩口から袈裟斬りに斬って捨てる。


 と、その斬撃に違和感を覚えた。まるで血が粘りついてくるような感覚……剣を振るうと、吹き出した血が糸を引いて絡まってくる。


 そのまま地面に倒れこむ敵側の忍、その体が小さく縮んで行くと、黒い澱となって、鋼の剣を引っ張りこもうと糸を強固に強めた。


 大剣はすでに紫の魔光を放ち、破邪破魔の力を行使しているが、明らかに魔力的な縛りの糸を斬ることが出来ずにいる。これは……神聖魔法という事か?


 直接忍びと相対した者は、粘る血に得物を捉えられ、多くの者がそれを手放している。


 バッシは鋼の大剣を失う訳にもいかず、鋼の精霊に向かって意識を集中した。

 ウォードの言う所の合身ーー鋼の精霊との真の共鳴がなれば、切れない物は無いというーー

 彼の斬った魔王の業物などという大それたものは無理でも、これしきのものは斬って見せよう。と大剣に心で語りかけた時、


 〝バッシ〟


 平常時にこちらから共鳴を引き出す事に成功した。穏やかに光る銀色の世界で、自分一人が動ける感覚。そのなかで大剣をスッと引くと、何事も無かったかのように黒く粘りつく血が切断され、剥がれていく。


 ーーっと元の世界に戻ったとき、他の地点でくずおれた忍び達の体から、無数の糸が吹き上がった。


 目の前で再び人型に変化する魔狼フェンリルが、逆立つ銀毛を大きく跳ねあげ、両手から輝く風を放つ。


 それは空間を潰す血の糸とぶつかり合い、拮抗すると、一体の骸が盛り上がり、人型を形成した。


 まるで蜘蛛をデタラメに合成した人間のような、醜い造形の人型。その下半身からは蜘蛛のような八つ足が伸び、試すように真っ黒な糸を放出している。


「クロエの妖か。残念ながらこの場は浄化されている、半ば力を削がれたお前に、我らを阻む力など無い」


 光る魔風を操るフェンリルが、不敵な笑みを浮かべると、接触している糸から相手の生命力を吸収していく。見る見る光に侵食されていく糸を見ている時、


「バッシ達は後ろから来る妖に向かうワン」


 とウーシアが後方を指し示した。そこには黄金剣のハンガウとその部下達が、何者かと争いながらこちらに迫って来ていた。

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