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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第二章 不浄なる聖火教団
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魔眼と邪眼

 リリ・ウォルタ離宮護送の指揮を取るのは、イケメン騎士こと、神殿騎士団のギンスバルク隊長だった。


 大司教は聖都に居残り、離宮での儀式と同期する形で作業を行うらしい。そのためオルフロート団長はそちらの警護に回るとの事。


 リリについて離宮に行く剣聖ウォードと離れられる事に、安堵の雰囲気が漏れてしまっている。どのような師弟関係かは分からないが、生半可なものではなさそうだ。


「それでは出立いたします」


 事前の視察に向けて、手短に挨拶するギンスバルグに付き添うのは、神殿騎士団の精鋭三名と、暇を持て余したベイル。そして野外活動に聡いゲマイン、女スカウトのトト、ウーシアと、バッシ。そして結局騎士達と冒険者の繋ぎ役として、ジュエルも同行する事になった。


 当然全体のリーダーはギンスバルグ、冒険者側を統括するのはゲマインの役回りとなっている。


 自分たちの警護に自信を持つ騎士達にとって、冒険者などという下賤の輩と肩を並べるのは屈辱なのだろう。あからさまに敵意を向けられる事は無いが、隊長からして不機嫌この上なく、間に入るジュエルは気を揉んでいた。


 ギンスバルグは騎士甲冑スーツ・アーマーでは無く、硬革に板金補強を施した、身軽な旅装を身に付けている。

 その腰には、いわく有り気な鞘拵えの長剣と、年季の入った棒状ワンドをさし、鞍にはクロスボウと太矢、そして組み立て式の短槍を下げている。


 この男は何を身につけても、ビシッと決まってしまう。その醒めきった目さえ無ければ、男から見ても溜息が出る存在に違いない。


 そしてお付きの騎士三名も、棒状がメイスに変わる位で、それぞれ似たような装備を身に付けており、歴戦の猛者といった風貌だった。聞けばそれぞれ、過去に冒険者として修行を積んでいたらしい。


 出発準備が整った。皆は立派な馬に騎乗しているが、ただでさえ重いのに、龍装によってさらに体重の増加したバッシを乗せられる馬はおらず、一人だけ徒歩である。


 これで早駆けなどされた日には、置いてけぼりを食らうはめになりそうだが、


「先ずは行程の下見、それから丘陵地で襲撃を受けそうなポイントの詳しい検分です。それほど飛ばす事は無いので、頑張ってついて来て下さい」


 温度を感じさせない目を向けながら話すギンスバルグに、話す気を削がれたバッシは了承の頷きを返した。


 どうせバッシを単騎で乗せられる鈍竜などに騎乗しても、速度が違い過ぎて足手まといになるのだ。

 ならば戦場では馬にも負けなかった、自慢の足を披露してやろう。リロからたっぷりの携行食料と水袋を受け取ると、ポコと共に、新調した背負い袋に詰め込んだ。


「残念、頑張って走るしかないね」


 笑顔で軽口を叩くトトの横には、心配そうに眉を下げるウーシアが並ぶ。

 あまり馬に乗った経験が無い彼女は、しかし持ち前の運動神経で、あっという間に乗りこなしていた。


 バッシがその馬の頬に手をやると、嬉しそうに鼻ずらを摺り寄せてくる。中々大人しい性格のようだ。長いまつ毛を伏せる牝馬に、


「ウーシアを宜しく頼むぞ」


 と撫でながら呟くと、了承の合図なのか長い尻尾をファサッ、ファサッと振る。さて、そろそろ出発だ。入念に屈伸を繰り返したバッシは、隊の真ん中辺りに位置取ると、気持ち大股で歩き出した。





 *****





 聖都から軽走で小一時間ほど行くと、徐々に風景は岩の目立つ荒野と化してくる。聖都の南側は、古代より神聖な大地として、発展する事を制限されて来た。

 それらの事情は、これから向かう離宮での儀式と、何か関係しているのだろうか?


 隊は時折止まっては、襲撃を受けそうなポイントについて検討したり、襲撃方法についての議論を活発に交わす。だがそれは神殿騎士団が主となってのものだった。


 ゲマインやトト、ウーシアなどの意見を、ジュエルが申し伝える形で、ギンスバルグ達騎士が検討しているが、なんだかまどろっこしい。それでも彼女達は、辛抱強く調査に協力していた。


 ギンスバルグにしても、オルフロート団長から言い含められているのだろう。決して積極的とはいえないまでも、彼女達の意見も汲み入れつつ、詳細な護衛プランを作り上げていく。元来優秀な人材なのだ。


「そろそろか?」


 隣を行くゲマインの呟きに、


「何が?」


 とバッシが問い返すと、周囲を警戒したまま、


「ウンドという奴はリロを襲い、今度はリリを襲い、どちらも失敗している。どちらの襲撃も本気で殺りに来ていたと見る。二回も失敗したという事は、襲撃者側にはもう後が無いはずだ」


 肩に掛けていた白弓をくらに引っ掛けて、繊維を束ねた弦を張る。しなやかな弓はピンと緊張し、力を併せ持つ美を形作った。


「そうそう、それにあいつならこんな場所を好みそうだよね〜」


 と、隣に並ぶベイルも呟く。


「そろそろ何かの仕掛けて来るという事か?」


 問いながらバッシも周囲を見回す。岩場に流れた鉄砲水が作り出した道には、ちょうど人が隠れられるような岩が、ゴロゴロと転がっていた。


 何か仕掛けるとしたらここら辺だろうなーー誰もがそう思う地点ーーウーシアが、


「誰かの視線を感じるワン」


 と、霊剣を構えると、


「そこだワン!」


 と剣先を向ける。同時に弓を絞ったゲマインが一点を凝視した。斜め上を指す矢の射線を辿ると、何もない崖に向いている。


 放たれた矢が、恐ろしいスピードで空を切ると、崖上の空間にビシリとヒビが入った。


 砕け散った破片が散華すると、奥に現れたのは逆光にかげる一人の男。


 影になっている顔の中で、ギラリと光る双眸が光線を放つ。赤光は隊全体の間を彷徨うと、バッシの目に飛び込んで来た。


 憎しみや恨みの念が具現化したかのような邪眼。ゆっくりと上げられた指がバッシをさすと、一気に圧が増した。


 鋼の剣に手をかけると一気に抜刀する。陽光を反射するほの青い剣身は、既にもやのような紫色のオーラをまとっていた。


 つまり何らかの魔法が向けられているのだろう。ジュエルに向けて、


「魔法がかけられているぞ! 結界を頼む!」


 と言ったと同時にゲマインが二の矢を放ちーー敵をを捉えたーーと思った瞬間、男の姿が滲んで消える。


「そこだワンッ!」


 振り抜いたスリングから放たれた投魔石に、


「爆ぜるワン!」


 と命令が下ると、空中に爆発が起こる。その破片は不可視、無音の暴風塊にぶつかると、その全貌を白日の元に晒した。


 その人間大の竜巻は音もなく近づいて来ると、空中で解ける。次の瞬間、暴れ狂う無数の風刃が、四方を蹂躙した。

 それを受けた聖守護結界が、刃の線を強く輝かせると、


「物凄い圧力だ! 以前より強くなっているぞ!」


 結界を支えるジュエルの息が漏れる。一撃を受け止める毎に「ぐうっ」とうめき声が上がった。


 バッシは龍装を厚く纏うと結界の外に出る。肌に感じる風圧は、確かに以前対峙(たいじ)した時よりも強化されているようだ。

 周囲が霧の様に霞むのも、単なる偶然では無いだろう。


幻術士イリュージョニストが居るぞ! 感覚を惑わされての同士討ちに注意しろ」


 ゲマインが警告する。見る間に濃くなる霧によって、もはや聖守護結界の輪郭も、ボンヤリと霞んで見えた。

 このままではそう時間を待たずに視界が効かなくなるだろう。


 ゲマインの魔眼の光が結界内から伸びる。早く幻術士を見つけて仕留めてもらわないと、不利な状況での戦闘を強いられそうだ。ここは彼女に頑張ってもらいたい。


 と、首筋にヒヤリと悪寒が走り、首をすくめて態勢を低くした。すんでの所で風刃が飛来する。更に気配を感じたバッシは、勘を頼りに鋼の剣を合わせた。


 次の瞬間、竜巻が衝突し、抵抗する間も無く浮きそうになる。

 そこへ一、二、三撃と、流れるように風刃が殺到し、破魔の剣で受けながらも、溢れる風の飛沫が龍装の小手を打った。


 何とかさばき切ったと思った時には、敵の姿は既に無く、シンと静まり返った白い世界に、バッシは一人取り残されていた。


 今受けた感覚からして、どうやらウンドも視覚は効いていないらしい。風刃を飛ばした手応えに向かって、闇雲に攻撃をしているようだ。


 そうとなれば最初の一撃は、受けるより避けた方が良い。もっともあくまで推測の域を出ないし、何処から飛んで来るか分からない不可視の刃を、避け続けるのも限界が有るだろうがーー


「バッシ! 大丈夫か?」


 結界の中からジュエルの声が聞こえてくるが、迂闊うかつに返事もできない。


 だが敢えて、


「大丈夫! 無音殺術サイレント・キリングだ、音も気配も抑えろ! 風刃で様子を見て……」


 声を出したが、言い切る前に竜巻が襲いかかって来た。寸前まで気配を感じさせないのは、見事としか言いようが無い。


 足元を狙った風刃を寸前で打ち消すと、頭部に刃が迫る。咄嗟に膝を落として避けながら、全身に紫の光を纏った所に、三撃目の胴薙どうなぎが襲う。

 紫の光に打ち消された風刃の芯には、真っ黒な刀身。咄嗟に刃を合わせると〝ゴウッ〟と突然の爆音を上げて、刀を押し込まれた。


 体重差を微塵も感じさせない強烈な一撃に、地面に足爪を食い込ませて耐える。


 つば迫り合いの中、ようやくまともに顔を合わせたウンドは、真っ赤な目をたぎらせ、顔中の血管を浮き立たせていた。


 剥き出しの口元からは、よだれが滴り、低い唸り声が絶えず漏れ出ている。これではまともな思考などないだろう。咄嗟に昔戦場を共にした、猛薬小鬼ドーピング・ウォー・ゴブリン達の事を想起した。


 獣の様なウンドの姿に目がいき、彼のまとっていた竜巻を失念していた。

 後方にまとめられ、体で隠されていた竜巻が回り込み、鍔迫り合いで身動きの取れないバッシに襲いかかる。押し込んでも、引いても粘り強くついて来るウンドを捌けずにいると、


 〝バッシ〟


 鋼の精霊からの呼びかけに応じて、鋼の剣から銀光が放たれた。と同時に紫の光は掻き消える。


 寸前に迫る竜巻を斬るか、目の前のウンドを斬るか。二つに一つ、迷っている暇は無い。


 粘りつく空気を切り裂いて、前方に体重をかける。足の筋肉が収縮して熱くなり、地面を掴む足爪をもっと踏み込ませた。

 そのままウンドの黒刀を押し込むと、それを支点に刃を振り落とす。


 だが、次の瞬間、黒刀は意志を持つかの様に、ずり上がって対応した。銀光の世界で動ける!?

 以前襲撃を受けた足弓使いの黒短矢と同じ様に、持ち手というより、武器が自ら動いているかのようだ。


 銀光が途切れた時、バッシは荒れ狂う竜巻に吹き飛ばされ、無数の風刃に刻まれてしまった。


 直ぐに紫の光が全身を包み、なおも切り刻もうとする風刃を消滅させる。


 風刃は龍装を削ったが、肉には届かなかった。同時に瞬時の体重移動によって吹き飛んでいったウンドを見ると、既に霧の中に隠れている。


 紫の破魔の光と、銀光を同時に発動できないものか? バッシはいまだ己のコントロール下に置ききれない能力に、歯がゆさを覚えながら剣を握った。


 湧き上がる紫の光で周囲の霧を消滅させながら、ウンドの姿を探す。その時、後方に居るジュエル達から、激しい怒号が聞こえてきた。

何時も拙作をご覧いただきまして、本当にありがとうございます。と書くと、打ち切りか? となりそうですが、違います。

諸般の事情で三日に一度ペースを守って投稿しつづけて来ましたが、私的な都合ながらそれが難しくなって来ました。

そこで三日に一度、4000文字→3000文字にサイズダウンさせて連載するか? 迷いましたが、〝次回H27.10.25以降は、5の倍数日に4000字を目安に連載させていただきます〟

勝手な話で申し訳ありません、今後年末に掛けてより忙しくなる予定ですので、週一更新などにシフトチェンジするかも知れませんが、完結まではコツコツと続けたいと思います。もしよろしかったら、完結するその日まで、この作品をお楽しみいただければと願っております。まことに勝手なおねがいですが、今後とも宜しくお願い致します。

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