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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第二章 不浄なる聖火教団
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昇格試験①

 今回昇格試験の行われる第一試技場は、以前見に行った第二試技場よりも、少し郊外にある円形競技場だった。

 中心部から離れた分、一回り大きな建物には、異例の特別昇格試験を見ようと、すでに同業者達が詰めかけている。


 冒険者なる無法者集団が一箇所に集まって大人しくしている筈が無い。喋り声と嬌声で騒然となった試技場には、


「早くしろ〜!」


「遅せ〜ぞ! とっとと始めろ!」


「リロちゃ〜ん、ハァハァ」


 など、無責任な怒鳴り声が飛び交っている。既に酒を飲んで出来上がっている連中の中には、違う方向に危ないやからも居るようだ。


「ったく、あいつらうるさいな。何とかならんのか」


 少し気を立てているのは、この試験三連戦でトリを受け持つジュエルである。この様な衆人環視の元での見世物的戦いに、拒否感が強いらしい。だが自分の目標のためにそれを押し殺す、その葛藤がありありと伺えた。


「ジュエル、そんなに感情を出し過ぎると、隙ができるぞ」


 壁に寄りかかり、ポコに目を落としていたバッシがジュエルを見ると、眉を寄せたまま、強い目で見返してきた。


「お前は良くそんなに落ち着いていられるな」


「人に見られようが見られまいが、やる事は一緒だ。それにこういう経験は無くも無い。経験があれば予測も立つ。人間知らないという事が一番怖いらしいぞ」


 と言うと、再度ポコに目を落とし、精神魔法の複雑な体系を読み進めていく。あれから数日間、暇があればポコを読んだり、リロに尋ねて、自分なりに精神魔法について調べてきた。

 だがこの分野は裾野が広く、素人には中々掴み所がない。


 中でもシアンという対戦相手に関しては、情報が極端に少なかった。バッシ達と同じ新人冒険者という所が一番のネックとなっている。


 何とか得られた情報によると、既にBランクの彼は、ビッグ・ゲートの出世頭と呼ばれるほど急速にランクを上げており、長剣術に優れ、仲間を鼓舞し、敵を弱体化する精神魔法を使うのが得意らしい。


 だがそれはお互い様、Dランクになったばかりで、目立った成果はタイタン討伐ぐらいのバッシの情報も、相手にもほとんど伝わってはいまい。


 バッシはポコを閉じると、何時ものように背負い袋の奥の方に詰め直した。そろそろ出番だろう。会場の雰囲気が、今や遅しと踏み鳴らす足の振動と共に高まってくる。


 バッシが荷物を預けると、


「頑張るワン」


 心配顔のウーシアが、大きな垂れ気味の目に、八の字眉を下げながら声を掛けてきた。


「まあ、死なない程度に頑張るよ」


 と告げて、軽く全身のストレッチをすると、腰の大剣を引き抜いて、全身に龍装を施していく。

 龍魂を完全吸収しつつある胃が、熱を帯びながら全身に指令を出すと、敏感に反応した皮膚が分厚く変形していく。

 生長する植物とはこんな感覚なのだろうか?頭皮から足爪の先までが鈍色の鱗状に固まっていく頃には、得も言われぬ快感に身震いが起きた。


 頭には飾り羽根の様な長鱗が伸び、足の爪は鋭く伸びて、硬い地面に喰い込む。


 その状態で大剣を振るうが、全く違和感が無い。

 この五日間というもの、この状態での戦闘に慣れるため、一人で剣を振るい続けて来た。時には近場の森へ出かけて、出現するモンスターを片っ端から斬りつける荒行も行ったが、龍魂のおかげか、龍装はバッシの意思に反応して、スムーズに連動している。


 さらに物を持つ時や、足場へのグリップが効くせいか、力が増したようにも感じられた。


 その感覚に満足したバッシは、大剣を鞘に収めるとリロを見た。彼女はずっと隅のベンチに腰掛けて、タンたんを開き、精神を集中させている。マンプルから教わった魔力循環だろう、静かに佇むその姿は淡く光っている。


 〝お〜待たせいたしました! 皆さんこんにちは〜!! アレフアベド名物、メジャ〜昇格試験、特別編ン。なんと今回はかのユニ〜〜〜ク・モンスターを倒した、我らが期待の星、聖騎士団の登場だ!〟


 唐突に始まった特殊な魔具で拡声されたアナウンスに、


 〝ウオオオォ〜ッ〟


 という歓声が上がる。と同時に係員が現れて誘導した。それにこたえてリーダーたるジュエルが先に立つと、パタンとタンたんを閉じたリロが立ち上がり、一つ頷く。


 それに頷き返したジュエルが通路を進む、バッシもリロの後をついて行くと、暗い通路の先で、


 〝ワアアアァァッ〟


 と一際大きな歓声が上がった。ジュエルが会場の土を踏み手を上げる。バッシは龍装に包まれた両手を握りしめると、スッと息を吸い込み、下腹の方へ空気を送り込むと、拳を緩めながらゆっくりと吐き出した。


 〝続いては巨漢剣士バッシ、入場!〟


 アナウンスに導かれて光に満ちた会場の土を踏む頃、肝の座ったバッシは、会場を埋め尽くす観客や、周囲の設備、その他諸々の気配を認識の中にとどめながら、自然体で屹立した。


 満員の観客からの歓声、罵声に、鼓動は若干早く、全身に沸き立つような血の巡りを感じるが、上がるという程では無い。

 どうせならこの状況を楽しんでやろうという気持ちでいると、観客の中の一人の女性に意識が向いた。


 美しい白革に包まれた長弓を抱え持ち、こちらを凝視している。スラリとした体型や清廉な雰囲気も周りから浮き出て見えたが、整った顔の、特に青く澄んだ双眸から、ただならぬ気配を感じた。

 まるで全てを見通すかのような視線、それに晒される事を体が拒絶するが、この状況ではいかんともし難い。


 〝そしてかの有名な〜〜、大門軍団アーミー・オブ・ビッグ・ゲートから、今回の特別試験官の入場です!!」


 と言うアナウンスに目線を切り、対面する登場口を見ると、暗がりに幾つかの目が浮かび上がった。


「先ずは〜、今回の試験官でリーダーとなります、水魔法使いの〜〜、ヴェール!!」


 紹介と共に、観客席の一画がドオッと湧き立つ。どうやらあそこにビッグ・ゲートの面々が陣取っているらしい。


 暗がりから進み出てきたのは、如何にも身軽そうな細身の男だった。腰元にポーチがあるくらいで、他に荷物も得物も見当たらない。

 魔法使いの愛用するローブに包まれた、撫で肩の優しそうな顔を見て拍子抜けしていると、


「彼はかなりの実力者ですね、手元にある瓶が見えますか?」


 と言われて、ローブの裾に隠れた右手を凝視して見ると、確かに細長い金属製の瓶を持っているのに気が付く。


「〝女神の一輪挿し〟と呼ばれる水の神器らしいです。強力な魔力を溜め込んでいるようですね、底が知れません」


 更に詳しく聞こうとした時、


「さて二人目は〜〜、地龍の突進を止めた男! 〝見切りの盾〟の異名を持つスワンクの入場だ!!」


 続くアナウンスに邪魔されてしまった。

 またもや鳴り響く歓声と共に、バッシとためを張るほど長身の男が現れる。


 全身に重装鈑金鎧ヘビー・プレート・アーマーを装備した彼は、左側に大きな楕円形の盾を担ぎ、右手に連接棍フレイルを持っている。

 全体的な印象は、分厚い鉄板の塊の様に見えるが、甲虫のような形をした盾からは、脚の様な金属骨子が六本伸びており、左肩や腕、胴体と連結されていた。

 大きな丸い複眼模様は光を放ち、他には無い雰囲気を漂わせている。


 隣で腕組みをしていたジュエルが、その巨体を見て落ち着き無くホーリー・メイスを握り直す。

 しかしバッシは知っている、不慣れだった武器を使いこなそうと、限界を超える訓練の後も、一人ずっとメイスを振り続けて来た事を。そしてタイタン戦から現在、飛躍的に強くなっている彼女の実力を。


 後ろからジュエルの肩に手を置いたバッシが、


「あれくらい余裕だな」


 と呟くと、振り向いたジュエルは強張った口を緩めて、


「当たり前だろう? まあ見ていろ」


 と挑戦的に言い放ち、兜の面頬を閉めた。その隙間から見える瞳は、力強く輝いている。

 かなり詳細に下調べをして、対策も練っていた。仮想敵として協力したバッシから見ても、かなり優位に戦えるのではないか? と予測している。

 まあ相手は格上、どのような奥の手を隠しているかは不明だが、合格ラインの実力を示せば良いのだから充分だろう。


 さて、自分のやる事をきっちりこなさなくては。予測のつかないバッシの対戦相手が、ある意味一番厄介だ。


「最後はビッグ・ゲートの隠し玉! 記録的スピードでランクを駆け上がった天才!! 魔法戦士シアン入場!」


 と言うアナウンスの直後に、


「きゃ〜っ!」


 と黄色い声援が上がった。そこに現れたのは、全体的に白っぽい装束に身を包んだ軽装の戦士だった。真っ白な肌に、良く映える金髪と碧眼。女性であるジュエルよりも手入れされて、ホワッと軽い髪の毛は、蜂蜜の様な光沢を持っている。


 その下には均整の取れた美顔が、薄い笑顔をたたえていた。

 何の素材を使ったのか? 穢れない白の鎧からは、スラリとした手足が伸びている。


 腰元の長剣を抜き放つと、それだけで、


「きゃ〜っ」「ステキ〜ッ」


 と歓声が上がる。動作の端々から運動能力の高さが伝わって来て、確かにさまになっていた。


「お前と正反対な奴が来たな」


 とつぶやくジュエルに、


「そうか? 俺もスピード重視のタイプだと思うが?」


 と言うと、キョトンとした間の後で、


「ハッハッハ、そうだな、一緒だ一緒! じゃあ聖騎士団の色男、先鋒をしっかり頼んだぞ!」


 とバッシの肩を叩くと、リロを伴い引き上げていった。


 会場にはバッシとシアンが残り、審判役の指導官によって会場の真ん中にある開始線まで誘導されていく。


 指導官が双方の得物に、防刃布による非殺傷コルセットをはめた。これによって多少重量バランスが崩れるが、試しに振ってみても、さほどの違和感は感じない。


 双方の準備を確認して、規定外の武器の所持などをチェックされた二人に向かい、指導官が手招きをする。


 さて、いよいよだ。


「開始線に踵を付けて、お互いに、礼!」


「お願いします」


 試験を受ける側のバッシの言葉を受けて、


「こちらこそよろしく」


 軽やかに返したシアンが長剣を構えると、バッシも即応した構えを取る。


 どんな魔法を使うのか? どんな剣術の使い手なのか? 相手の出方を伺うバッシの様子を見て、


「マインド・アップ、私は早い!」


 唐突に叫んだシアンが、跳ぶように移動してきた。

昇格試験三連戦、少し長くなりますが、暫しお付き合い下さいませ。

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