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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第二章 不浄なる聖火教団
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出発

 鬼頭オーガ・ヘッドも仕入れ、龍装も問題無い事が確認された頃、バッシたちは昇格試験に向けてブリストル・キングダムを経つ事にした。


「じゃあまた冒険談が溜まった頃にでも来い、お嬢さん達も無理せんと頑張るんじゃぞ」


 忙しい中、わざわざ工房の出口まで見送りに来てくれたノームが手を振る。その周囲には彼の弟子であろうドワーフ達も、手を休めて集まってくれた。その中の一人が進み出て来ると、


「過酷な使用で劣化した鎌鉈を、研ぎ直して再強化しておきました。含浸させた鋼の性質上、多少重量が増していますので、慣れるまでお気をつけ下さい」


 二本まとめて大きめの鞘にさした、使い慣れた鎌鉈を差し出して来た。腰元の剣帯右側に装着してみると、確かに多少重くなった感がある。その内の一本を引き抜くと、青黒い刀身が鈍く光っていた。


「黒鋼の成分を染み込ませています、どうか冒険の良き共にして下さい」


 という若手鍛冶師に礼を言うと、ゲート行きのトロッコに、ブロトと一緒に乗り込む。


 バッシ達は、ちょうどアレフアベドに向かう商隊に、護衛という名目で便乗させてもらう事になっていた。

 と言っても、ドワーフの作る重機械弩や重戦士で武装された頑丈な鉄馬車は、どんな事態になっても即対応、即鎮圧できる、護衛要らずの要塞のようなものだったが。


 ブロト達とも別れ、アレフアベドへと出発したバッシは、初めて乗る高機能獣車の性能を堪能しながら進んだ。


 どのような仕組みかは知らないが、荒れた街道を結構なスピードで走っても、揺れも少なく快適な旅である。

 六頭だての車獣は竜馬ドラグホースと呼ばれる、ドワーフの好む短足六本足の改良品種で、亜竜と農耕馬を掛け合わせた品種だった。

 これが走る走る、短い足を目まぐるしく動かしながら、重い鉄馬車を軽々と引いて快走した。


 牽引される広い車内には、ドワーフ商人達が商品と共に鎮座し、護衛のバッシ達は、補強された屋根に詰める兵士達の間に座らせてもらっている。その硬いシートの端には、手すりを掴んだウーシアが、半ば身を乗り出しながら外を警戒していた。


 あれから宿に戻って、ウーシアに革鎧をプレゼントした所、大喜びで受け取り、早速装備してくれた。

 薄っすらと赤みがかった茶革は体の線にピッタリと合っていながらも、行動を阻害する事は無い。それどころか、定着された魔法による効果のためか、身軽になったように感じるらしい。

 魔獣の硬革は土魔法により、防御効果を最大限に引き上げられており、よほどのことが無い限り傷一つつかない代物だった。


 それを見たリロや、後から帰って来たジュエルも、ピッタリとフィットする革鎧を見て、


「凄く良く似合う」


「前からお前の装備は気になっていたんだが、これで大丈夫だな」


 と賞賛してくれた。


 ジュエルの聖騎士の鎧や、バッシの龍装ほどではないが、リロが着ている師匠譲りの魔導師のローブ辺りとは、防御力的な意味では釣り合いが取れたように思うし、以前バッシが着ていたコボルト・キングの毛皮よりは、数段防御効果が高いらしい。


 革鎧を着て試しに動き回るウーシアを見て、彼女の中で何かがふっきれたのを感じた。それまでの塞ぎ込んだ表情が明るくなり、一見元の彼女に戻ったように見える。


 どうやらリロと話し合って、自分の中で何らかの解を得たらしい。この手の悩み事は自分で気付き、策を編み出すしか方法が無いが、その点リロは助言に長けているのかも知れない。

 幼少の頃に故郷を無くして、見知らぬ種族の中で揉まれて生きてきたんだものなぁ……などとリロの過去に思いを寄せていたバッシに、


「うん?」


 と目が合ったリロが小首を傾げて問いかけてきた。俺は慌てて手を振ると、


「色々迷惑をかける」


 と一言謝ると、それを受けたリロは、何の事かしばらく黙考した後、


「いえ全然、私は何もしていませんよ」


 と涼しい顔で告げた。横で腕を組み、片目を開けて見ていたジュエルが、


「まあ色々あったが、お互い気を引き締めて行こう。戻ったら早速個々の特訓だ。何せ昇格試験は目の前、個別の試験は生半可な事ではパス出来ないぞ」


 と聖騎士の鎧の小手をバシンと打ち合わせた。相変わらず行動原理が分かり易い。その言葉に無言で頷くバッシとリロ、そこへ間髪入れずに、


「おうだワン!」


 ウーシアがシッポをバシバシ当てながら、元気いっぱいに吠えた。

 やっぱりこいつはこうでなくちゃ、皆もそう思っていたのだろう。ウーシアの一言で、馬車内の、少なくとも聖騎士団の雰囲気が一気にやわらいだ。





 *****





 快適な馬車旅は直ぐに終わり、バッシたちを降ろした隊商は、アレフアベドの武器屋に納品を済ませると、近隣の都市に向けてすぐさま出発して行った。


 久し振りのアレフアベドは、しかし何時もと変わらず入りまじった人種が混雑を見せている。

 ドワーフの地下都市とはまた違う街の様相に、初冬のどんよりとした空の下とはいえ、開放感を胸いっぱいに吸い込むと、露天商の売る串肉の香辛料の匂いが空きっ腹に染み込んできた。


 隣を見ると、ウーシアが涎を垂らしそうな顔で屋台の焼き台を見ている。バッシが小銭袋を抜き出し、


「あれ買ってきて食うか?」


 と尋ねるとジュエルを見上げ、了承を得て小銭袋を受け取った。その背中に、


「私は5本」


 というジュエル、そして、


「私も」


 と意外にもリロまで乗ってきて、


「おっちゃん、その串焼き30本買うから、5本おまけして欲しいワンゥ」


 と屋台の主人と交渉しだした。恰幅の良いおっちゃんも元気なウーシアに押されたか、それとも元々そんなものなのか、言われた通り5本多く包んでくれる。

 しかしウーシアよ、お前は一体何本食べるつもりだ? と思いつつも、香辛料の効いた何が原料か分からない串肉を食べながら冒険者ギルドに向かう。


 そこには何時もと変わらぬ懐かしい顔が、ジュエルを見つけて涎を垂らすようにすり寄って来た。


「ジュエルお姉様ん、もしや試験に遅れるかと思いましたわ」


 ジュエルの手を取って頬寄せながら甘えた声を出すエルルエル。若干引き気味のジュエルも、ギルド内部の貴重な身内とも言える彼女に機嫌を取りつつ、したいようにさせた。


 頑張れジュエル、お前の野望が叶うその日まで。そうエールを送りながら見守っていると、リロが魔法鞄から木箱を取り出して、後ろ手にジュエルへと手渡す。


 チラリと振り返ったジュエルが、エルルエルに向き合うと、


「これはお土産だ。皆の目もあるから、後で開けてくれ」


 と言って木箱を渡す。その時点で感情を爆発させたエルルエルは、こっちが恥ずかしくなる程、大泣き、えずき、ジュエルに抱きついてさらに大泣きした。


 周囲の職員は見て見ぬ振りの平常運転、この子はいつもこんななのだろうか? と少し心配になる。初心者冒険者は彼女を見てビックリしているが、ベテランなどは完全にスルーしていた……まあそれでも務まっているのだから大丈夫なのだろう。


 少し間を置いて落ち着いた彼女に、五日後に迫った昇格試験の詳細について尋ねると、


「安心して下さい、ヒック、下調べは済んでますわ。ここでは何ですから、ヒクッ、奥の個別面談室までご足労、ヒック、下さい」


 号泣してから止まらぬシャックリを繰り返し、胸にお土産の木箱をしっかり抱きかかえて宣言した。どうやら何らかの情報を掴んでいるらしい、その目は主人に褒めてもらいたい犬のようにキラキラと光っている。


 他の職員にその場を頼むと、苦い顔をされながらも、言う通りに代わりをこなすようだ。何と無くその職員の気持ちも分かる。エルルエルの機嫌を損ねたら、後々面倒臭そうだからな。


 そうして案内された別室で、黒石板のついたテーブルに白石で示されたのは、今度C級(メジャー)昇格試験で担当官となる相手の名前だった。


 例に漏れず、B級冒険者の中で、ギルドが認定した者が担当するらしいが、今回は大門軍団アーミー・オブ・ビッグ・ゲートという一つの冒険者集団が丸々担当するらしい。


「これは内緒ですが、どうやらビッグ・ゲートのトップと、うちのボスが密約を交わしたみたいです」


 と言うエルルエルに、腕組みをしたジュエルが、


「密約? 何故私達の昇格試験にそんなものが絡んでくるんだ?」


 と当然の質問をすると、我が意を得たりと見上げたエルルエルは、


「お姉様達の討伐した土魔人、あれに全滅させられた帯電棘棘スパーク・スパイクスは、ビッグ・ゲートの主要パーティーの一つでした。そこで自分達が仇を討とうと躍起になっていたところに、お姉様が先に討伐してしまったので……心中複雑なものがあったのかも知れません。何せビッグ・ゲートの首領は、帯電棘棘のリーダーであるゲーハァの実姉ゲマイン氏ですから」


 眉をひそめて事情を説明する。そうなると聖騎士団に感謝して欲しい位だが、もしかしたら逆恨みの感情を持っているのかも知れない。面倒くさそうな話の流れに、リーダーがどう思っているのかと思い、ジュエルの顔を覗き込むと、


「ビッグ・ゲートと言えば、最高Aランク・パーティーまで所属するビッグネームだな。昇格試験ではいざこざが増えるかも知れないけど、ここで大物と繋がりを持つのは悪くないわね」


 意外にも不敵な笑みを浮かべながら、淡々と語った。それを聞いたエルルエルは、


「さすがお姉様! そうおっしゃると思いましたわ。それで早速試験官の方なんですが……」


 歓喜して今回の試験の特徴を書き出して行った。


 聖騎士団の四人の内、既にC級のウーシアを除いた、バッシ、ジュエル、リロの三人が個別に実戦形式の試験を受ける。今回は特別枠での試験の為、それ以外の受験者はいないらしい。


 戦士の受験者には戦士の試験官など、同職の担当を付けるのが昇格試験の特徴である。ビッグ・ゲート側はB級冒険者の中でも、対人戦闘能力に長けた者達を送り込むつもりのようだ。


 ジュエルの相手は、帯電棘棘のリーダーだったゲーハァと同じく、全身をプレートアーマーと大形盾で覆った重戦士スワンク。

 使う得物も打撃武器の連接棍フレイルらしく、似たようなスタイルが真っ正面からぶつかり合う、かなりの接戦が予想された。


 リロの相手は、ビッグ・ゲートのリーダー〝ワイズマン〟ゲマインが率いるA級パーティーに所属している、個人的にはB級冒険者の水魔法使いヴェール。

 こちらは火魔法使いのリロに合わせて、相性の良い水魔法使いをぶつけて来たと考えられる。そして格上のパーティーに入っているだけあって、腕前も相当高いとの事。

 周りに引き上げられて、いつA級に上がってもおかしくない実力者らしい。


 そしてバッシの相手は、若干18才にして頭角を現してきた、新人魔法戦士のシアン。こいつは精神魔法という特殊な魔法の使い手で、他者ならず自身までも強化を施す強者らしい。

 他の二人と違って、戦士のバッシにだけ魔法戦士という、若干ズレた対戦相手が組まれている。その理由を聞かれたエルルエルは、


「そこだけは分からないんです。このシアンという魔法戦士に関しても、今の所精神魔法使いだ、という情報しか入手出来ませんでした」


 と申し訳なさそうに告げた。それに対してバッシは、


「いや、結局対戦してみないと分からないし、細々と対策を練るのは得意じゃないからな、これくらいが丁度良いかも知れん。ありがとう」


 と労をねぎらった。これだけの情報があれば、準備出来ることはそれなりにあるはずだ。バッシ達はジュエルの気合の声を受け、覚悟を決めると、各々の準備に取り掛かった。

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