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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第一章 巨人戦士と鋼の剣
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逞しい強さ

 目が覚めて最初にピントが合ったのは、崩壊した天井ーー上層階の床だった。


 ハッと飛び起きようとして、全身の筋肉が悲鳴を上げる。歯を食いしばって耐え周囲を見回すと、それに気付いたリロが、


「バッシさん、大丈夫ですか? ここは安全ですから、もう少しゆっくりして下さい」


 と言って、現状を教えてくれた。


 いきなり倒れたバッシは、ジュエルと並べられて、三刻ほど伏せていたらしい。先に回復したジュエルはウーシアを伴って、上の階へ登る手段を探しに行ったという。


 鉤槍ビルが消滅してからは途端にモンスターの気配が薄まり、リロの熱感知でも、再出現リポップする様子は感じられないらしい。とすると、あの鉤槍と迷宮には何か因縁があったのだろうか?


 幸い迷宮崩壊の兆候もなく、生き埋めにならずに済んでいる。だが核を失なった迷宮は脆くなる場合があり、早く脱出するに越した事は無いらしい。


 そこのところを詳しく知ろうと、ポコをめくって調べたバッシだが、迷宮核に関しては〝迷宮を司る魔力の集合体〟としか記載されておらず、詳しくは分からなかった。


「戻って来ました」


 風精を使って周囲を警戒していたマリィの声に気配を探ると、遠くの方で二人の存在を感知する。

 真っ先に戻ってきたウーシアが、座り込むバッシを認めると、


「バッシ! 大丈夫かワン?」


 と抱きついた。バッシは受け止めた背中に手を添えると、


「ああ大丈夫だ、すまなかった。急に目眩がして倒れたらしいな。だけどもう大丈夫」


 あやすように告げる。激戦の痕として、コボルト・キングの毛皮などはボロボロになってしまったが、バッシ自身は怪我も治り、リロに渡された行動食で腹も満ちていた。


 それを聞いたジュエルは、


「お前は本当に頑丈だな、呆れるタフさだ」


 と、手を伸ばして笑いかけた。その手を取ったバッシは、ゆっくりと引いてもらって立ち上がると、足の筋が固まっていたのか、パキパキと音が鳴る。


「そうでも無いさ、全身筋肉痛だ。でも何時でも出発できる。階段はあったのか?」


 膝を曲げ伸ばししながら、地面に置かれた荷物を手繰るバッシに、


「あったワン! この階層はメチャクチャに作り換えられてたから、通路を掘り起こす必要があったワン、でもそこを抜ければ、ここと上の階はモンスターがいないワンウ。これは、あの槍のせいかワン?」


 バッシの状態を嗅ぎ取ろうとするウーシアが答えた。それを無視しながら、


「かも知れないな、タイタンが突然パワーアップしたのも、俺を取り込もうとした時も、尋常な力じゃなかった。この迷宮があの槍の為に作られていたとしても、何ら不思議じゃないだろう」


 と推測を述べると、


「私もそう思います。あの槍がタンたんに吸収されてから、モンスターの気配も薄まりました。迷宮を構成するのに一役買っていたのは間違いないでしょうね」


 リロも同意する。その考察を聞いたジュエルは、


「なるほど、それは帰り易くて結構。だが、気を抜かずに引き締めて行くぞ! 何せ私もマリィも魔力切れ寸前、バッシの体はボロボロだ。帰り道にこそ迷宮探索の真髄がある。パーティーの力が試される時だぞ!」


 と発破をかける。頷く皆は残り少ない体力の中、やる気を引き上げて帰路についた。

 幸いにもその気合とは裏腹に、モンスターの殆どいない迷宮をあっさりと通り抜け、豊穣なる地下通路に向かうと、


「ここの土精達は居なくなったけど、マリィ達の家業は大丈夫なのか?」


 と素朴な質問が浮かんできた。


「この迷宮には地脈が利用されています、だから一時的には無害になっても、いずれ又土精達は集まって来ます。だから私達風笛師の仕事が無くなる事はありません。バッシさん達も、ここを通る時はお声掛け下さいね。私が張り切って先導します」


 マリィは自分に言い聞かせるように、壁になっている剥き出しの土を触りながら告げた。ここで祖父が亡くなったのだ。仇を討ったとはいえ、彼女の胸には複雑な思いが去来しているだろう。

 だが柔らかい表情で、仕事の依頼まで申し出てきた彼女には、ある種サッパリとした決意が秘められているように見えた。


 この分なら大丈夫だろう。逞しい横顔を見ながらそう思うと、自分の中に鬱々と溜め込んだ思いも少し軽くなる気がした。


 生きている人間は生活していかねばならない。その中で因果応報、様々な出来事に翻弄されていく。

 だが、日々の生活を基盤に、しっかりと生きる人間には逞しさが備わっていくのではないか?

 戦場しか知らなかったバッシも、様々な人との出会いによって、戦う強さという意味合い以外の〝逞しい強さ〟というものを感じ始めていた。


 その逞しきマリィは、アレフアベド到着後、聖騎士団の証人となってくれた。おかげで依頼達成、規定モンスター狩りの承認と共に、ユニーク・モンスター狩りの一件も、スムーズに冒険者ギルドの公認をとる事ができた。もちろんタイタンの首を添えて。


 その戦果に驚いたエルルエルが、ギルド・マスターに報告すると、即日中にサダン・ビルの迷宮へ調査隊が組まれる事になったらしい。更に、


「ギルドマスターのハムスが、皆さんに面会を求めています。お時間をいただいてよろしいでしょうか?」


 口調を改めたエルルエルに誘導されて、二階の部屋に通されると、緊張する皆の前に、


「やあ! お久しぶりですね、まあ立ってないでかけてくれたまえ」


 小さな体を大きく動かしながら、伝説的冒険者〝突然死サドン・デス〟のハムスが現れた。


 その腰には、魔短剣と呼ばれる、ハムスをSランク冒険者にまで押し上げた武器がさげられている。それは伝説とは裏腹に、地味な柄を覗かせていた。


「失礼します」


 神殿騎士らしく優雅な所作で一礼したジュエルが、勧められた椅子に腰掛けると、リロとウーシア、その隣にマリィも腰掛ける。


 バッシが後ろに置かれた少し大きめのソファーに腰を下ろすと、その様子に満足したハムスも対面中央に腰掛けた。小さな身体に合わせた椅子の下には、木製の足台が用意されている。


「今回のユニーク・モンスター討伐はご苦労様でした。あのまま放っておいたら、また新たな犠牲がでる所でしたよ。調査隊の報告を待って、報酬を払わせて頂きますが、先ずは全職員を代表してお礼を言わせて下さい。ありがとうございました」


 小さな口ひげをプルプルと震わせてお辞儀をするハムスに、慌てて皆がお辞儀を返す。


「さて、本題ですが、今回の討伐によって、貴女方〝聖騎士団〟の実力はBランク以上と査定されました。何せBランク中堅パーティー〝帯電棘棘スパーク・スパイクス〟を含めた混成パーティーが全滅させられた敵を、四人編成プラス風笛師のパーティーで討伐された訳ですからね」


 指を立てて語るハムスに、食い入るように詰め寄ったジュエルが、


「では、私達もBランクと認定されますか?」


 と尋ねると、


「まあお待ちなさい。その実力があるとは査定されましたが、実績が圧倒的に足りません。そこで提案があります」


 と言うと、思わせぶりに注目を集めた。


「先ずは次回の昇格試験に特別枠として参加していただき、広く実力を示して頂きたい。それでCランク(メジャー)となったあかつきには、更に特別依頼を受けていただく。その内容とは……今は秘密です。でも近々話せるようになるでしょう」


 少し肩透かしを食らったが、その提案は魅力的なものだった。それを受けたジュエルは、目を輝かせて大きく頷いている。


「いかがでしょう?」


 と尋ねるハムスに、


「私達はSランクを目指しています。それもなるべく早く。理由はご存知かも知れませんが、私の聖騎士となる条件のためです」


 ジュエルの言葉に頷くハムス、この件は結構有名で、ジュエルが聖騎士になれるかどうかの賭けまで存在する話題らしい。


「今回の特別措置は願ったり叶ったりです、しかも今後についても、Sランクの先輩として、ハムス様のお教えを乞いたいと思っています。そのためならば、どのような依頼でもこなして見せます!」


 堰を切ったように畳み掛けるジュエルに、少し圧倒されながらも、概ね同意したのか何度も首を縦に振るハムスは、全てを聞き終えると、


「では当面の課題である昇格試験ですね。それが約一ヶ月後。各々の得意とする分野を試させていただきますから、十分な準備をお願いします。それとSランクになる方法ですか……正直言って私の場合も偶然の産物でして、狙ってなれるものでもないのですが……わかりました、出来る限り協力しましょう。それについてこちらから力を貸していただく事もあるかも知れません。その時はお互いさま、よろしくお願いしますよ」


 と言って握手を求めてきた。硬く握手を交わす両者を見て、ギルドという存在の裏側を少しでも知るバッシとしては、一抹の不安を抱きながら、それでも今はジュエルの夢に一歩近づけた喜びを共有した。





 *****





「どうでした〜? 彼女達ゆ〜ぼ〜でしょ?」


 ギルド長の執務室にある隠し部屋から、男が現れて話しかける。


「うむ、かなりの手練れで、目的もハッキリしてるね。まあバックに教会とリリが付いているから、無茶な依頼は頼めないけどね」


 腕組みしながらギルド長が言うのを、頷きながら聞いた男は、


「ハムス君の依頼は無茶振りが多いからな〜、死刃のウンドを追いかけるのも命懸けだよ〜?」


 不満タラタラに腰に手をやると、吊るされた二本の短剣がカチャリと鳴った。


「いや〜、ベイル君は優秀だからね〜、ついつい頼み事のレベルが上がっちゃうよ。流石D級冒険者にして、A級エージェント。で、ウンドの雇い主とその思惑については、どのくらい探れたのかな?」


 顔を寄せてくるハムスに、肌が触れ合うほど近寄ったベイルは、小声で耳元に囁いた。


「ふむ、なるほど、なるほど、そんなところまで! リリも関わるのか? そうか……ふむふむ」


 一通り報告を受けると、


「では至急リリ・ウォルタの元に向かってくれ」


 と新たな指令を発した。音もなく消えるベイルを頼もし気に見送ると、至急こなさなければならない雑務に取り掛かる。


 またミスがある、全くエルルエルの奴は、ジュエルに熱を上げる前に、仕事をキッチリ仕上げるように再教育しなければ!


 ギルド長の部屋では忙し気に口髭がプルプルと揺れ続けた。

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