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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第一章 巨人戦士と鋼の剣
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聖騎士団 vs 土魔神

 〝やられる〟


 なんとか鍵爪を避けたが、目の前に迫る土嵐に対して、咄嗟に覚悟を決める。と同時に、タイタンの顔面で小爆発が起こった。

 それによって軌道が逸れた土嵐は、あらぬ空間を蹂躙する。

 ウーシアの投魔石が絶妙のタイミングで決まった。おかげでバッシは前に踏み込める。


 鋼の剣は既に紫のオーラを放ち、通り抜けざまにタイタンの胴を薙ぐ。鋼の精の力も借りて、思い描いていた一撃を入れる事が出来た。だが、ダメージを受けた体、特に酷いダメージを負った手足の筋力では、分厚い土魔装に鎧われた腹を、皮一枚しか切れない。


「バッシ、引け!」


 ジュエルの号令に咄嗟に反転すると、聖守護結界に向かって走る。タイタンの元々もっていた能力かも知れないが、あの黒い土や爪には破魔の力は通じない事が明確になった。


 いや、先ほどの戦いでは死にかけたのはタイタンの方だ。とても奥の手を温存する状況では無かった。

 つまりはこの短期間で、あの黒い鉤爪や、黒土嵐の能力を得て、破魔の力に対抗していると見た方が自然だろう。


 後を追って振るわれる無数の鉤爪を寸前でかわしていると、再度左手に集めた黒土嵐を聖守護結界に放たれた。


 結界内に逃れた直後、轟音と振動を伴って、土嵐が結界を打ち据える。それを受け止めたジュエルの口から苦悶の声が上がった。この土嵐の重圧を跳ね返すのは、聖守護力場とはいえ相当キツイに違いない。


「バッシ! 大丈夫かワン?」


 ボロボロになったバッシを心配したウーシアが、全身の状態を確かめる。いまだ治癒の終わっていない体は、あちこちから血が流れ、肉もえぐれているが、致命的な大怪我は超回復によって、概ね修復されていた。


「ああ、大丈夫だ。だがあいつには破魔の剣が通用しない。さっきとは別物になっているぞ」


 ウーシアが全身に高級ポーションをふりかけ、更なる回復を促してくれる中、バッシは消耗し尽くした熱量カロリーを補う為に、ポーチに手を突っ込んで、カロリーの塊であるホウジ・ナッツを頬張る。喉の通りが悪い塊を無理やり嚥下すると、鋼の剣を持ち直した。だが剣を構えたところで、正直どう倒せば良いのか見当もつかない。


「私とマリィさんに策があります。バッシさんは、相手の気を引きつけて下さい」


 とバッシの近くに立つリロが提案する。何か策があるならばそれにかけるしか無い。そろそろジュエルの結界も限界のはずだ。首を縦に振るバッシに、


「ウーも行くワンウ、左右で翻弄してやるワン」


 ウーシアの声が重なると、


「一旦結界を切るぞ!」


 ジュエルの悲鳴にも近い警告の後、結界が不意に消滅した。その両サイドからバッシとウーシアが飛び出すと、


「鬼子ォォ」


 すぐさまバッシに照準を絞ったタイタンは、地面をめくり上げると、分厚い土板でバッシを圧殺しようとする。

 すぐに反転したバッシは、土板の範囲から逃れると、遠間から鎌鉈を投擲した。カーブを描いて命中する鎌鉈は、しかしタイタンの分厚い土の鎧に弾かれて、何らダメージを残さない。


 だが、一瞬物音に釣られたタイタンが左を向いた時、後頭部にウーシアの投魔石が三発同時に炸裂した。


「間接部に当たったワン! これでどうだワン?」


 少し離れた場所で様子を見るウーシアに、振り向きざまの土嵐が振るわれる。霊剣を持ったウーシアは、土の粒子の一粒にも触れずに、ギリギリ空いたスペースに飛び込むと、タイタンの足元へ霊剣を突き入れた。


 だが刃の短い刺突短剣スティレットでは、どんなに露出部を突いても、軽く肉を切る事しか出来ない。その剣先には何かの薬液を塗布しているのか、いつもには無い反射が光った。


『まさか毒か?』


 委細は分からないが、満足気なウーシアは返す裏拳も難なく避けると、翻弄するかのように、さらに投魔石を膝関節に集中爆発させる。


『俺もうかうかしていられない……破魔が何だ、破邪が何だ。元々俺はただの剣一本で戦場を生き抜いて来た筈だ』


 どうやらここ最近得た能力に、依存心、そして過信が生まれていたようだ。薄く取り憑かれていたそれらを吹き飛ばすと、気合一発走り出す。

 一回で切れなければ何度でも切りつければ良い。堅い防御ならば、その受けを許さない程高速で切りつければ良い。


 単純な発想に、知らず口角が上がる。タイタンがウーシアを捉えようと地面に右手の鍵爪を突き入れた瞬間、飛び込むようにして、広い背中に突きを放った。


 鋼の切っ先がヒビ割れた背装甲の隙間を貫く。だが筋肉を切り裂いた所で、突然隆起した鎧が、刃をガッチリと咥え込んだ。

 タイタンがさらに黒土を纏った左手を伸ばしてくる。


 〝バッシ〟


 鋼の剣との共鳴に力を得たバッシは、囚われた剣に体重をかけて引き抜くと、体に伸ばされた腕に切りつける。

 当然のように硬く鎧われた手は切れない、どころかそのままの勢いでバッシの体を捕捉しようと、強引に押し包もうと手が伸びる。

 だが委細承知していたバッシは、斬りつけた剣を支点に、体を入れ換えると、伸びきった左肘の関節を叩き斬った。


 間接部はどうしても装甲が薄くなるらしい。まともには切れない黒土の装甲も、これだけ薄いとダメージを通すらしく、肘を弾かれて体勢を崩したタイタンの口からは、恨めしげな怒号が漏れ出た。


 そこに連発で爆ぜる投魔石。ウーシアも鉤爪や黒土を避けながら、必死に頑張っている。本気で動く彼女は、目で追うのも困難なほどのスピードを誇り、霊感を軸とした判断力で、迷いなく次の行動に移るため、必殺の爪や土魔法も彼女を捉える事が出来なかった。


「ウガアァァッ!」


 タイタンの苛立ちがピークに達すると、地面に鉤爪を突き込み、辺り一面に無数の鍵爪を発生させる。

 どこにも逃げ場が無い、バッシはともかく、ウーシアにとっては致死のダメージとなる可能性もある。と、彼女を庇おうとした時、部屋を覆う暴風が無数の鉤爪を抑えつけた。


 それと同時に頭に響く、


『P664 : 紅炎フィラメント


 の声。タンたんから発せられるショックを伴う程の破壊衝動に、聞こえる者全ての背筋が凍る。

 振り向く間も無く、周囲の空気が重くなると、その圧が一本の道を作り出した。

 タンたんの前に、今までとは毛色の違う熱を伴った魔法陣が現れると、その中心から立ち昇るような炎が姿を現す。

 その場に居るだけで焼け焦げてしまいそうな高温と輝き。魔力の塊である炎は、空気の道に吸い込まれると、生き物のように舌先を伸ばす。


 その先には、左手に黒土嵐を構えるタイタンの姿があった。十分に力を宿したそれを、目の前に伸びる紅炎に叩きつける。


 轟音と共に爆ぜる魔光、強大な魔力同士の反発に迷宮が軋み、その威力にバッシは圧倒された。


 タンたんの炎は黒土嵐を飲み込む勢いで伸びる。生き物のように蠢く紅炎に対して、二発目の黒土嵐を叩きつけたタイタンは、打ち消せない炎に焦りの表情を浮かべた。


 再度地面に右手の鍵爪を突き込むと、無数の黒爪を伸ばしてリロを捉えようとするが、ここぞとばかりに限界を超えて強度を増した聖守護結界ホーリー・アーマーを破る事は出来ないらしく、その境界を虚しく掻いた。


 ウーシアに目で合図を送ったバッシは、気配を殺してタイタンの斜め後ろに移動する。ウーシアも静かに反対側に位置取ると、投魔石を挟んだスリングを回し出した。


 気合一発、バッシは空気の層の向こうにある、タイタンの左手に斬りつける。どうやらマリィの手引きで、精霊が絶妙に切り口を作ってくれているらしい。同時に動いたウーシアの投魔石は、タイタンの顔面に直撃した。


 目の前の紅炎フィラメントに対抗するため、全魔力を注いでいたタイタンにとって、不意打ちを避ける余裕は無く、払われた左手から出していた黒土嵐が一瞬乱れ、タンたんから伸びる紅炎が彼を飲み込んだ。


「ギャアアアッ!」


 容赦無く焼き尽くす紅炎に、風精の壁によって逃げ場の無いタイタンがのたうち回る。その時、地面が隆起したと思うと、それを壁のように押し進めながら、リロに突進した。


 余りの高温に、押していた壁もすぐに溶ける。その奥に現れたのは、全身を鋼の様な黒土で覆ったタイタンだった。


 全身から煙を上げるのを半ば無視して、地面に鍵爪を突き込むと、無数の黒爪を伸ばして己を引っ張る。風精の圧力に押しつぶされながらも、その支配圏を強引に抜け出したタイタンは、おぼつかない足取りで、それでもリロに迫った。


 マリィの作り出す逆風が、容赦無くタイタンの突進を阻む。その風を避けて大きく回り込んだバッシは、突進の威力そのままにタイタンの後頭部を斬りつけた。


 破魔の力に頼らずとも、素の力で破壊すれば良い。単純な一撃は、装甲を破り、その下の肉を割く。

 振り向きざまに右手の鍵爪を振るわれ、剣を合わせると掻き込むように地面に押し付けられた。

 その背中にウーシアの霊剣が突き立つ。どれほど効いているかは分からないが、再度塗り直されたらしい毒液状のものが、タイタンの体内に打ち込まれた。


 そこへ青い光を纏ったジュエルが突進して来ると、ごく小さくなってしまった聖守護結界を青盾に纏わせ、盾撃シールド・バッシュを重ねがけしてタイタンに激突する。

 体重差を跳ね除けて、かちあげたタイタンのみぞおちに、追い打ちの聖戦槌ホーリー・メイスを叩き込むと、更に重ね掛けた盾撃で重量級のタイタンを弾き飛ばした。


 魔力を使い切ったらしく、気絶したジュエルが地面に倒れこむ。バッシが急いで間に入ろうとすると、倒れ伏すタイタンに五本の火矢が同時に着弾した。


 ボロボロになった黒土の装甲を修復する余裕も無く、全ての火矢がタイタンの体を貫くと、その巨体が踊るように爆ぜ、力を失う。


 バッシが警戒しながら近づくと、虫の息のタイタンがゆっくりと、鍵爪となった右手を地面に突きこんだ。


『危ない!』


 と身構えるが何も起こらない、ふと垂れ下がったタイタンの右手を見ると、そこにあるはずの鍵爪が消え失せていた。

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