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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第一章 巨人戦士と鋼の剣
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Dランク依頼

「これでお姉様達もDランク冒険者の仲間入りです!」


 管轄外の魔法印課まで付いて来たエルルエルが、ジュエルのギルド・ライセンスである三つ又槍(トライデント)紋に見惚れながら宣言した。


 彼女には随分とお世話になった。何せ依頼の枯渇したギルド内で、コンスタントに依頼を受ける事が出来たのは、ひとえにジュエルをえこひいきした彼女のおかげである。


 腕組みをしてジュエル達を見守るエルルエルは、もはや聖騎士団の監督か、パトロンのような風格を放っている。その踏ん反り返った肩に手をかけ、


「全てお前のおかげだ、感謝している」


 とジュエルが一声掛けると、真っ赤になった彼女はフニャフニャと、判別不能の言葉を吐きながらとろけてしまった。


 おかげさまでバッシの上腕に彫られた母豚の入墨の中にも、三つ又槍のギルド証が赤々と滲んでいる。バッシも腫れが引いたらその感触を楽しむ事に決めていた。


 ウーシアのCランクを含めて、他の全員がDランクとなった。全体の平均値は既にDランクよりも上をいった事になる。

 だが、常に上昇志向なジュエルは、早速エルルエルを交えて、Cランクへの昇格条件を検討し出していた。


 メジャーと呼ばれるCランクへの道は、これまでとは違い、格段に厳しい条件が付けられている。


 先ずは規定依頼ポイント、これは非公開の計算式によって点数をつけられた、各依頼達成の総合評価が満たされる事によってクリアー出来るのだが、Dランクに比べて10〜20倍程の依頼を消化しなければならない。


 次いで規定討伐モンスターはDランクの三倍にのぼる30種。その中には大型魔獣や迷宮深部に生息するモンスターなど、ビッグ4と呼ばれる討伐困難種が含まれる。


 それに貢献度や素行などを含めた、ギルド内評価点をパスした者に、個別に昇格試験を受ける権利が与えられるとのこと。


 パーティーのランクとは、構成員の個別ランクの平均値をさし、Cランクともなると、格段に依頼内容も優遇される。アレフアベド程の大型ギルドならば、受付の場所や依頼方式も変わってくると言えば、その扱いの違いが分かろうというものだ。


 更にBランクにもなれば、高級宿泊施設の斡旋、専属受付による依頼の斡旋など、破格の待遇が待っている。


「まずは規定モンスター絡みの依頼をこなしていくのが一番の近道だな」


 ジュエル達の結論を受けて、エルルエルが依頼を厳選する約束をする。この点だけを取れば、聖騎士団の扱いもBランクに引けを取らないだろう。彼女にはこれからもお世話になりそうだ。


 バッシがそんな感想を抱きながら、依頼を受けるために受付に向かうと、そこには少し前には無かった活気が戻っていた。


「どうしたんだ?」


 当たり前のように、しれっと受付に戻ったエルルエルに聞くと、


「はい、豊穣なる地下通路のユニーク・モンスターが、突如として居なくなったんです。繋がっている迷宮にも、出口にも見張りをつけていたので、外に出た形跡は無いのですが……調査隊が確認した所、生息している痕跡が全くないので、冒険者パーティーからの圧力もあって、解放される事になりました」


「それでこの活気か、だがどこに行ったか分からないんだろう?」


「はい、討伐報告も無いので、自然死説や、高ランクパーティーが討伐した説など、様々な憶測が飛び交っていますが、それらしい遺骸すら発見出来ていません。引き続き調査中で、現在は発見報告に5金、討伐報告に50金の報奨金がかけられていますが、有力な情報は皆無ですね、何せ姿形すら分かってませんから」


 何ともいい加減で頼りない感じだが、迷宮やモンスターの生態などは謎が多く、未解明な部分が多いらしい。

 過去にも理由が分からずにモンスターが大発生したり、巨大な迷宮が突如として現れるなど、災害級の原因不明な事態が発生しているが、あやふやに解決されて、いまだに説明不能だという。

 新たな問題は次々と起こる、全てをきっちりと解明していく事などできないのが現状らしい。


「調査班も今月中には一旦解散します。もし何か情報を掴んだら、私まで一報ください」


 エルルエルが話を締めくくると、現実的な依頼の話となった。

 今度の依頼は〝サダン・ビルの迷宮〟と呼ばれる多層型迷宮に生息するグリーン・ジェルがターゲットである。

 グリーン・ジェルとは、スライム系モンスターの中位種で、その核と呼ばれる中枢部の採取が依頼内容だった。


 グリーン・ジェルはCランク規定モンスターに指定されており、サダン・ビルには他の規定モンスターも出没するという。そこはエルルエル一押しの、俺達にとって美味しい迷宮だった。


 早速スライム核10個の採取依頼を受ける事にした。金額的には核1個につき1銀、10を超えると、以降2個1銀で買い取り可能という、余りおいしくない金額だったが、規定モンスターとは元来不人気討伐種が選ばれるので、そこは目をつぶるしかない。

 エルルエルに受け取り先の製薬所を教えてもらい、早速準備にとりかかると、冒険者ギルドを後にした。


 グリーン・ジェルと呼ばれるスライムには、毒を操る個体が多く存在するらしい。サダン・ビルに生息する個体は特に強烈な毒を持ち、それ故に製薬所も迷宮を指定して、そこのスライム核が欲しいとの事だ。毒が転じて薬となる、製薬所との繋がりは、今後にも活きてくるので、大事にしたい所でもあった。


 聖騎士団は早速、アレフアベド中央市場、通称〝冒険者通り〟に向かうと、討伐に際するリスク回避策として、毒を受けないための予防ポーション。そして万が一受けてしまった時の解毒ポーションを、人数分用意する事にした。これにジュエルのキュアー・ポイズンの神聖魔法があれば、準備としてはほぼ完璧だろう。


 こうして準備を整えてから、日の高い内に〝豊穣なる地下通路〟に向かう。何故か土精の気配すら無くなった地下通路は、風笛師を付けなくても通り放題となっているらしい。


 今がチャンスとばかりに通行する冒険者で混み合う中を、掻き分けながら進んだバッシ達は、目指すサダン・ビルの迷宮へと迷う事なく突き進んで行った。






 *****





「おい、あれが目印の旅人の木じゃないか?」


 ジュエルの声かけに、バッシは黙って頷く。目の前には高さ20mはあろうかという旅人の木が二本ヒョロリと突っ立っていた。手のように広がった葉は、見事に晴れ上がった空に茂っている。


 豊穣なる地下通路から地上に出てすぐ、エルルエルから受け取った地図によると、二本の旅人の木の根元にある洞穴が、サダン・ビルの迷宮の入り口らしい。


「ここで一旦休憩して、支度を整えたら早速潜るぞ。ウーシア、入り口から中の状況を探知してくれ。バッシは周囲を警戒しつつ、焚き火の用意。美味しいお茶を頼む」


 言われたバッシは、旅人の木の落ち葉を集めて火を起こすと、依頼の前に買い込んだ黒茶を取り出した。

 これを湧いたお湯の中にタップリと入れると、芳ばしい香りがやさしく鼻腔をくすぐる。


 それを各自のカップに注いでやった頃、偵察を終えたウーシアが戻って来た。


「いい匂いだワンウ、迷宮内は問題無しだワン。大分前に冒険者の歩いた痕跡はあったけど、10日以上は経ってるワン。入り口にはモンスターの気配も無いワン」


 そう報告するウーシアに、少し前から冷ましておいたお茶を進める。喉が渇いていたのか、喉を鳴らしてゴクゴク飲み干すと、バッシの分まで物欲しそうに見てくるので、差し出してやると嬉しそうに飲み干した。


「ありがとうだワン、流石バッシ、美味しいお茶を淹れるワンウ」


 と褒めてくれる。頷きながら受け取ったカップにもう一杯注ぐと、空っぽになった水袋に、冷め始めたお茶を注ぐ。これと行動食があれば、迷宮探索の合間の休憩も、心癒される物になるだろう。


 そう思って、焚き火の痕跡を隠蔽していると、リロが小さな瓶を手にやって来た。


「そろそろ受毒予防ポーションを飲んでおいて下さい。苦味の後で少ししたらスッとする筈ですから、それが効き始めのサインです」


 そう言われたバッシが蓋を取り瓶を覗くと、粘液状の濁り水が強烈な臭いを発している。それを一息にあおると、体の芯から震えがくる程の苦味が襲って来た。しばらくそれに耐えていると、突如として口の中から苦味がひいていくのが分かる。これで一先ず安心だ、そう思って周囲を見ると、人一倍感覚の鋭いウーシアが、その苦味に地面を転がって悶絶していた。


「う〜ブルブルブル、酷い苦味だワン」


 顔をしかめて文句を言うが、こればっかりは仕方ない。


「ポーションが効いたら、早速迷宮に潜るぞ。ここからは気を引き締めて、ウーシア先導を頼む」


 ジュエルの命令に、ウーシアが跳ね起きると、霊剣を取り出しながら、


「了解しましたワン! 任せるワン」


 と冷静な面をとりなおして答えた。迷宮に関しては素人のバッシ達と違って、彼女はいわばプロフェッショナルである。

 頼りになる獣娘は、尻尾を揺らしながら、迷宮へと一歩を踏み出して行った。


 他メンバーも置いて行かれないようにその後を追う。するとバッシの感覚に触れるものがあり後ろを振り向くーーだがそこには、少し開けた空間以外に何もなかった。


『気のせいか?』


 と首をかしげたバッシは、先行している仲間達に遅れまいとその後を追った。


 ーー半刻後ーー


 遠間からサダン・ビルの迷宮を見ていた人影が、木々の間から姿を現すと、意を決したように一度頷き、迷宮内に足を踏み入れた。

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