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鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第一章 巨人戦士と鋼の剣
32/196

聖騎士団

 ンマームの森で、ドルイドのブラムを護衛するという名目の元、さらに数日過ごした。その間、暇になったバッシ達は、集落の掃除や廃屋の撤去などの力仕事を手伝って過ごし、近隣の村に避難していた村人が帰って来たのと入れ替わりで、アレフアベドへの帰路へとついた。


 今回の一件は、マンプルからの指名依頼という形で、しっかりと冒険者ギルドを通している。つまりSランクを目指すジュエルへの、彼女なりの配慮という訳だが、おかげさまでブラムから受け取った達成証明は、今後の昇格に役立つだろう。

 ジュエルはこれを喜び、直ぐにでもDランク昇格に向けた規定モンスターを仕留めようと息巻いた。


 ンマームの森から徒歩で数日歩いた小さな町、ヘルナベウから定期便の馬車を乗り継いで、アレフアベドに付いたのは数日後。早速達成証明を報告しようと訪れた冒険者ギルドは、何故か異様な雰囲気に包まれていた。


 ある者は沈鬱な表情でコソコソと話し、ある者は怒りに任せて、受付嬢に詰め寄っている。その内容を聞くとはなしに聞いていると、どうやら〝豊穣なる地下通路〟と呼ばれる通路型迷宮が立ち入り禁止になったらしい。


 ギルドから派遣された職員によって24時間監視され、厳重に封印された迷宮は、いつ解放されるかも分からないという。


 沢山の迷宮と繋がる地下通路が通れなくなると、攻略中の迷宮に行けなくなる冒険者は数多く、商売にならない。カウンターに詰め寄る冒険者達は、殆どがその旨の苦情を訴えていたが、どの職員も一切受け入れずに、


「危険が排除されるまでは通行不可です。むざむざ死にに行かせる訳にはまいりません」


 と突っぱねていた。俺達は、混み合うカウンターに並ぶと、すっかり担当となったエルルエルに事情を聞く。


「えっ、討伐隊が全滅?」


 ジュエルの大きな声に、周囲の視線が集まる。その目には『今さらかよ?』と少し呆れた雰囲気が混じっていた。


「そうなんですよ、ジュエル姉様がお出かけ中に、討伐隊が豊穣なる地下通路に赴いたんですが……ユニーク・モンスターと遭遇して即時全滅しました。これはギルドの方で確認調査しましたので、間違いありません」


「全滅か……生存者はゼロなのか?」


「いえ、道先案内人として雇われた、風笛師の少女だけは奇跡的に脱出する事ができました。その子の知らせで、この件はいち早く伝わったんです」


 バッシはエルの話を聞きながら、この間C級冒険者になったばかりのビクティニの事を想起していた。あの実力は本物だった。そしてそれを一顧だにしなかった盾戦士のゲーハァは、バッシでも勝てるか分からない程の地力を持っていたし、何より二十名近い大所帯での討伐が失敗となると……どれほど強力なモンスターがいるのか想像もつかない。


「そうか、それでは暫く封鎖されても仕方ないな。しかしそうなると当分の間迷宮探索は無理か。ガラムの迷宮なんかも、他であぶれた冒険者達が殺到するだろう。こうなったら地道に野外の依頼でも受けていくしかないか」


 ジュエルの言う通り、通行可能な他の迷宮に殺到した冒険者達は、過密すぎる状況からトラブルを起こしたり、依頼書の奪い合いも熾烈を極めていた。


「本日はゆっくりされて、明日からDランク規定モンスターの狩りでございますね」


 ここでエルルエルが声を潜めると、ジュエルを近くに呼び寄せる。


「これは内緒ですが、選りすぐった依頼書をお取り置きしておきます。明日は私の元にお姉さま一人でコッソリいらして下さい」


 と、なんとも大胆な、他の冒険者に知られたら、怒られそうな事を提案してきた。その件をギルドマスターは承知しているのだろうか?


「そんな事して大丈夫なのか?」


 同じ疑問を持ったジュエルが聞き返すと、


「大丈夫です、極少数の依頼に纏めますから。それにこれ位のえこひいきは各職員の裁量として、暗黙の了解で皆やっているんですよ」


 ニッコリと笑みをたたえるエルルエルを見ながら、道理で過去のバッシにはカスのような依頼しか無かった筈だ、と少し複雑な心境になる。

 だが、利用できるものは利用するしかない。ジュエルはエルルエルの手を握ると、


「宜しく頼む、無理の無い範囲で協力してくれ」


 と頼んでいるし、エルルエルはそれを受けて真っ赤になってとろけてしまった。なんというか、総じて残念としか言いようが無いが、利益が見込めるから目をつぶろう。


 こうして半分裏ルートでの依頼取得を約束したバッシ達は、久しぶりのアレフアベドの市街地へと足を伸ばした。

 細かい備品の補充は明日以降に回して、とにかく宿で一息つきたい。ここでの常宿と化している〝憩いの我が家亭〟に向かうと、


「お部屋は空いてますか?」


 最近ではすっかり会計係兼、荷物担当となったリロが、馴染みのドアをくぐる。


「はいよ! お帰りリロちゃん、皆さんもお部屋は空いてるよ。ミル、お荷物運ぶから手伝って!」


 エプロンで手を拭きながら出てきた女将さんが、娘を呼びながら荷物を持とうとしてくれる。それを制したバッシが、


「荷物は俺が持ちますから、部屋の鍵だけお願いします」


 と言うと、


「ありゃ! バッシさん、あなたちょっと見ぬ間に随分しゃべりが流暢になったわね」


 と言って見上げて来た。バッシは皆の荷物を担ぐと、パチンとウインクを送って、


「ちょっとした事があってな、今夜またワインでも奢ってくれたら、全部話すよ」


 と軽口を叩くと、再度びっくりした女将さんは、たいそう興味を持ったらしく、その晩は大将の美味い手料理と共に、またもフレッシュ・ワインをプレゼントしてくれた。


 それに合わせて披露した冒険譚に、実は元冒険者だったという大将も、身を乗り出して聞いてくる。

 呪いが解除されたくだりになると、皆で祝福の拍手を贈ってくれた。更にそこから始まった大将の歌に合わせて、皆で合唱が始まると、いつもと同じ宴会へとなだれ込んでいく。


「よかったれすねバッシさん、ヒック。ほんと〜に、よかったれす」


 最後まで飲みつづけたバッシに、最後まで付き合ってくれたのは意外にもリロだった。早々に酔い潰れた大将は女将さん達が自宅スペースに運び、ジュエル達も、ついさっき眠そうなウーシアを連れて、二階の部屋に引き揚げている。


 〝よかったれす〟


 を繰り返しながら、バッシの肩をペシペシとはたき続けるリロは、褐色の肌を少し上気させながらも、飲んだ量からするとそれほどの酔いを感じさせなかった。

 体の大きさから比べると、バッシなんかよりよっぽど酒豪なのだろう。その彼女に、


「ありがとう、リロも含めた皆のおかげだ。偽造ライセンスや呪いなんて、考えても見なかった問題が次々と解決していくなんて、夢のようだよ」


 とつぶやくと、


「はぁ〜、ヒクッ。そうれす、バッシさんの問題はお〜よそ解決れすね。はぁ〜。後は私達、トラウマ・シスターズの問題れすな〜」


 トラウマ・シスターズ? 何の話だろうと聞き出すと、どうやらウーシアとリロの事らしい。

 リロが故郷を襲撃されて、それ以来モンスターを討伐する使命感と、破壊衝動を促進させる魔導書タンたんとの葛藤に悩んでいる事は知っていたが、ウーシアの過去については初耳だった。


「事が事だけに、ジュエルにだけは話したんれすが、根の深い問題れすから、様子を見るしか無いって事で、ほりゅ〜状態にしてるんれす。私の事情も含めて、正にトラウマれすね」


 ハハハ〜、と力なく笑うリロが余計に心配になり、そのまま寝入るまで話を聞き続けた。どうやら自分の事ばかり考えていて、仲間の事など眼中に無かったらしい。

 寝込んでしまったリロを見ながらそう思うと、多少の罪悪感と共に、愛おしさが湧き出て来た。


 酔いつぶれて寝息を立てるリロは、華奢な体に沢山の重荷を抱えている。それに比べてバッシは、体ばかりでかくて中身は薄っぺらいものだ。

 正反対に体の軽い彼女を抱えると、二階の部屋に上がった。その頃には寝息を立てていた二人に遠慮しながらリロをベッドに寝かすと、ウーシアの隣に横たえる。


 バッシの存在を感じたウーシアが、定位置の腹の中に潜り込もうと蠢く。その頭を撫でると、気持ち良さそうに「グルルル」と喉を鳴らした。


 この娘の事も含めて、仲間達の事も見守って行こう。バッシはそう心に誓うと、腹に感じる温もりに、なんだか心まで暖かくなってーーわわ何とも言えないものに満たされながら、ゆっくり眠りに落ちていった。





 *****






 翌朝から早速エルルエルのえこひいき依頼をこなし、バッシ達はDランク昇格規定モンスターを次々と討伐していった。副産物として徐々にパーティー内の連携も向上していく。


 まず野外ではウーシアが先頭、バッシが殿しんがりという、感覚に長けたコンビでジュエルとリロを挟み込む陣形を取る。更にリロの熱探知魔法と、ジュエルの索敵能力を少しでもましにする努力が続けられ、それらが少しづつ形になって来た。


 戦闘時にはジュエルが前面の防御、そして主たる攻撃が近接攻撃のバッシと、遠距離かつ広範囲攻撃のリロ、その合間にウーシアの遊撃手的サイドワークが敵の注意を散らす形が出来てきた。

 何よりも、リロやジュエルの魔法をパーティー内で深く理解し、どの場面でどの魔法を使うと効果的か、どのような動きをすると、魔法が最大限に活きるかを各自が考えて、徹底的に会議にかけ続けた事が大きな成果と言えるだろう。


 その合間にも、努力家のジュエルは、冒険者的戦槌(メイス)の扱い方を独自に研究し続けて、毎日のようにバッシや、同泊する戦槌使いの先輩冒険者と模擬戦をしては、急激に腕を上げてきている。


 そうしてバッシ達なりに充実した冒険者生活を送ること一ヶ月。ようやく規定モンスターを一定数討伐し、依頼達成の審査をパスしたパーティーは、Dランクの認定を受ける事が出来た。


 その頃には冒険者ギルドの中でも、一目置かれる存在となり、自然発生的に〝聖騎士〟達と呼ばれる様になったジュエル率いるパーティーは、それを正式名称にする事にした。


 こうしてDランクパーティー〝聖騎士団ホーリー・ナイツ〟が誕生した。Sランクまで先はまだまだ長いが、これでようやく駆け出しから一歩前進できたと言えるだろう。

 気持ちを新たにパーティー全員で気合を入れると、次のステップCランク(メジャー)への挑戦が始まった。





 *****






 暗い閉鎖空間に蠢く男は、土の中を泳ぐように進んでいた。彼の周囲にいる土精は全て、その支配下に収められている。


 〝豊穣なる地下通路〟にはひっきりなしに人間共がやって来て、食料や道具類を提供してくれたが、最近は全く来なくなった。

 土精に命令して、栄養のある土を集めさせ、腹を満たす事は出来たが、それでは人間の食べる物とは言えない。


 一度贅沢を覚えると、抑えが効かなくなるのは世の常。ましてや男は迷宮内で、大量に収穫できる人肉の味に目覚めてしまった。


『来ないのなら、こっちから行くか』


 その程度の簡単な考えで、迷宮内の土壁を進み続けると、とある山中に抜け出る。麓を見ると、巨大な街の灯りが遠望出来た。

 男の脳裏に痛い目を見続けて来た街での記憶が蘇る。それ故に地下迷宮に潜ったのだが、目の前に広がる街に戻っても同じ事の繰り返しだろう。


 ならば別の迷宮に潜り込もう。名案に心を躍らせると、地面に手をついて土精を掻き集めた。完全に支配下に置いた土精達は、広大な地下土壌に精通している。


 やがて手頃な地下迷宮を見つけると、男は再び泳ぐように潜下していった。

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