表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼の剣(改)を手に入れた  作者: パン×クロックス
第一章 巨人戦士と鋼の剣
31/196

土の魔物

 風笛師かぜぶえしを先頭に、ギルド指定討伐隊〝帯電刺棘スパーク・スパイクスとお助け隊〟のメンバーが地下迷宮〝豊穣なる地下通路〟を進む。


 風笛師とは、各迷宮に繋がる〝豊穣なる地下通路〟に発生する、強すぎる土精の力を封じ込め、冒険者が安全に通行するために生まれた道先案内人で、風笛と呼ばれる独特な祭器に風の精霊を宿す事に長けた、迷宮出口付近の集落の人々を指す。


 その中でも一番の腕前を持つゲマイン老が、今回の討伐隊専属案内人として同行していた。

 ゲマイン老達にしても、地下通路に現れたユニーク・モンスターは、生業を脅かす存在であり、討伐隊に寄せる期待も高い。その為村を上げて彼らを歓待し、迷宮に潜る際には、弟子を二人も連れて自ら案内を買って出ていた。


「ヒュロロロ〜」


 風笛の多少脱力感のある音が、不思議なほど長く尾を引きながら、迷宮に響き渡る。長年使い込んだ、風の精霊を封じ込めた角笛から、常に微量の力を放出し、周囲の土精を牽制しながら進んでいた。

 その時、力の拡散に違和感を感じたゲイマン老が、左手を上げて隊を止める。


「どうした?」


 すぐ後ろを歩く、隊のリーダーたる重戦士ゲーハァが尋ねるのにも答えず、周囲に気を張り、何かをとらえようとする。その時、耳に近づけた角笛から、


 〝シュロロロ……土シュルル……来るルルル〟


 ゲイマン老にのみ微かに理解できる、、風精の警告が聞こえてきた。


「土精が来るぞ!」


 周囲に警告を発したゲイマン老が、角笛を吹く息を強めると、周囲の土精を更に圧迫する。だが、その力は呆気なく打ち破られると、迷宮内全体が大きく揺れ出した。


「まずい! これ程大きな力とは予想外じゃ! マリィ」


 後ろに控える孫に声を掛けると、背中に背負った風袋と角笛を繋げさせる。


「皆さんは下がって下され、ドンは皆さんを誘導するんじゃ、マリィ! 風を思い切りふかせ」


 風袋に付いたふいごを開くと、マリィが取り付き一心にふかす。すると一時的に負荷を上げた風の精霊が、震える地面を抑え付けた。その力の拮抗に、周囲に居る者達の耳がおかしくなる。


「そうは持ちませんぞ! さあ、早くお下がり下され」


 ドンと呼ばれた風笛師を促して、隊の脱出を促す。魔力を振り絞るゲイマン老の額には、冷や汗と共に太い血管が浮き上がっていた。その手元は、極限まで力を伝える角笛に揺すられ、ガクガクと震えが止められない。


 迷宮深部の闇を見据えたゲイマン老の目先で、闇が形を変えて行く。それを抑えようと力を振り絞った時、手の中の角笛が限界を迎え、ビシリと亀裂が走った。次の瞬間ーー迷宮全体がうねると、通路の全てを攪拌し、潰し、閉ざした。





 *****






 ゲーハァは盾を構えて転倒した姿勢のまま、信じられない思いで前方を見据えた。カンテラに照らし出されるのは、球形に詰め込まれた土塊のみ。それもこちらの方が球形の空間であり、それはドンと呼ばれる、自分達を庇ってくれた風笛師の作り出した、風精の結界故の安全地帯である。


 薄明かりの中で仲間を見ると、ゲイマン老とその孫であるマリィ以外の皆が揃っている。その姿を見て少し安堵感を覚えたゲーハァは、


『これ程の力を持っているとは、もっと大規模な対策を練らないと、討伐どころか敵の姿すら拝めずに全滅するぞ』


 と瞬時に思考し、


「ドン、悪いが来た道を戻る事はできるか?」


 隣に跪く風笛師に声を掛けた。かなり消耗した様子のドンは、それでも黙って首を縦に振る。ゲイマン老は彼の師匠と言っていた、そのショックは大きいだろうが、ここは彼に頑張ってもらわないと、こちらの命も危ない。


 戻る道へは少しの土塊しか無いらしい。それはドンの張った結界の優秀さ故のものだったが、それをことさら告げる事もなく、彼は風精を操って退路を作り出した。


「体中土だらけ〜、リーダー早く地上に戻りましょ〜?」


 お助け隊から、美女と野獣のリーダー〝フライディ〟が不満を漏らす。その不謹慎な言葉に一瞬顔をしかめながらも、


「俺達が殿しんがりをつとめるから〝スース戦士団〟を先頭に〝美女と野獣〟のメンバーも撤退を開始してくれ」


 ゲーハァは勤めて冷静な命令を下す。その先頭は風笛師のドンに勤めてもらった。


「よし、俺達も行くぞ、ジルが先頭、戦士組が魔法組を挟む何時もの陣形で、防御撤退だ」


 一番防御力の高いゲーハァを最後尾に、戦士三名がそのサポートを勤め、魔感知を発動する魔法使いのエヌシスとゲランを、女スカウトのジルが導くという防御陣形で撤退を始める。


 暫く進むと、


「お頭!」


 魔感知に長けたゲランが緊張した声を上げる。それを聞いたゲーハァは、長年の連携から緊急度を察知すると、方形盾を構え、


「防御陣形からの〝雷槍スパーク・ランス〟」


 と即座に指示を飛ばして、来たる敵を待ち構えた。


 構えること数瞬、周囲の土壁が振動と共に崩れ始めると、突如として隆起した土塊が津波の様に襲いかかる。


 分厚い方形盾に魔力を集約して盾撃シールド・バッシュを放つと、全ての攻撃を受け止め、弾き返す。その瞬間、


「エヌ、ゲラ、やれ!」


 後方に控える魔法使い達に指示を飛ばすと、詠唱を終えた杖を、最前線のゲーハァに向けさせた。

 空気を切り裂く極太の電撃が、ゲーハァに直撃すると、魔導器である鎧の表面を伝わって、正面に構えた盾に集約される。それと同時に発動する二度目の盾撃、するとその盾に設けられたもう一つの魔導器から、槍状の棘が突出する。


 〝混合魔法・雷槍スパーク・ランス


 二人の魔法使いと、ゲーハァの盾撃が組み合わさった一撃は、目の前の空間を突き破る巨大な雷の一本槍を形成する。

 その威力は土を弾き飛ばし、目の前にポッカリと広がる空間を作り出した。


「行けます!」


 その先を魔感知していたゲランが断言するのを聞いたゲーハァは、


「追撃!」


 号令を下すと、控えていた戦士達が飛び出して行った。


 その先には、思いがけず大きな空間が広がり、カンテラの光に見える範囲には何者も見えない。


「どこだ?」


 先頭の戦士が詰問する、それは敵に対してであり、味方の魔法使いに対してでもあった。そこへ追い付いて来たゲーハァと魔法使い達が周囲を探知するが、どこにもユニーク・モンスターらしき気配がない。

 だが、魔法を発動した彼らには、確実にダメージを負わせた手応えが残っていた。


「詳細は分からんが、この隙に撤退するぞ! 先の陣形で微速後退」


 これ以上の深追いを危険と判断したゲーハァが、気を取り直して命令を下すと、再び撤退を始める。すると前方から、地響きと共に悲鳴と怒号が聞こえて来た。


「どうした? ゲラン!」


 魔感知にも引っ掛からなかったのか、魔法使いは首を振るのみ。嫌な予感しかしないゲーハァ達が先を急ぐと、先の通路がグチャグチャに落盤し、その隙間から何者かも分からない手足が突き出ていた。


「くそっ! やられた」


 ゲーハァは悔しさのあまり怒声を吐くと、


「全方位防御陣形、敵が来るぞ!」


 魔法使いを中心に円を描く様な陣形を取る。その時、前方に詰まっていた土塊が弾き飛ばされると、内包していた者達の遺骸も一緒に吹き飛んで来た。


 見覚えのある真っ赤な腕に握られた戦斧が、正面に構えるゲーハァの盾に弾かれる。そして盾撃に弾かれた通路の奥から現れたものの姿を見た彼は、その威容に言葉を飲み込んだーー



 ーー数分後ーー



 〝帯電棘棘スパーク・スパイクスとお助け隊〟は全滅ーー同行していた風笛師も全滅と思われたが、最年少のマリィと呼ばれる少女のみが奇跡的に生還する。

 祖父が最後の力を振り絞って救い出した少女により、事の一部が伝わると、事態を重く見た冒険者ギルドは〝豊穣なる地下通路〟を一定時閉鎖する決定を下し、以降事態解決までいかなるパーティーも立ち入り禁止とした。





 *****





 バッシが野営地に戻ると、朝一番に目覚めたウーシアが眠そうな目を擦りながらやって来た。


「昨日は何処に行ってたワン? おかげで寝付きが悪かったワンウ」


 ここの所、寝る時はバッシの腹が定位置のウーシアが文句をたれる。出る時にジュエルにだけは耳打ちしていたのだが、ウーシアには知らせなかったらしい。というか、魔力切れ寸前だったジュエルは、あの後寝っぱなしだったのかも知れない。


 トテトテと歩いて来たウーシアがバッシと相対した時、何かの異変を察知したのか、クンクンと鼻を効かせると、


「匂う! 物凄く匂うワン! これはマンプルの匂いだワン! それになんだか……」


 なおもクンクンと執拗に嗅ぎ続けると、


「魂も変容してるワン、微妙な違いだけど、バッシ・マニアのウーの鼻は誤魔化せないワンウ!」


 肌に密着する程鼻を付けて、全身を嗅ぎ回ると、バッシの後ろを取る。そのまま尻の臭いを嗅ごうとするウーシアを止めると、


「マンプルに呪いを解いてもらったんだ。俺が作られてからずっとあったくびきが外れた。そのせいかな?」


 体の前に誘導し、両手でウーシアの肩を持つと、面と向かって告げる。その言葉に目を見開いたウーシアは、


「呪い……っていうか、言葉が流暢だワン! これは一大事だワンウ!」


 と言うと、振り向いて駆け出して行った。取り残されたバッシは、


『言葉? 流暢?』


 言われて初めて気付く。無意識の内に回りの良くなった頭が、言葉にも影響を及ぼしたのだろうか?

 頭の悪さにコンプレックスを持つバッシは、その事に思い至ると、心が浮き立ってくる。

 早速荷物の中から知育魔本のポコを取り出すと、呪いと知能の関係について調べ出した。


 こうして少し生まれ変わったバッシは、興奮するウーシアが引き連れて来た仲間達に祝福された。だが変質し始めたバッシと、周囲の関係がどう変わっていくか? それはもう少し先の話である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ