護衛メンバーが……濃い。
毎日投稿から、数日空きました。今後は三日〜一週間を目安に、不定期にコツコツと投稿していきたいと思います。完結まで書き上げる予定ですので、気長にお待ちいただける方、宜しかったらお付き合い下さいませ。
護送依頼の集合場所は、街を縦断する商店街の南端、中央に立派な泉のある石畳みの広場、通称〝泉の広場〟だった。
早朝、時間に余裕を持って到着した広場には、二日前に冒険者ギルドで出会った中年の男が座っていた。彼は、
「ようっす〜、やっぱりお兄さん方もこの依頼受けたんだ〜」
明るく笑いながら手を振る。
「誰?」
というジュエルに、
「依頼書、一緒に取った」
とバッシが説明する。それを聞いた男が、
「こらまた立派な騎士様だね〜、おいらの名前はベイル、よろしく〜」
と手を出して、全身騎士甲冑のジュエルと握手した。その様子をジッと見るウーシアに、
「お嬢さんもよろしく〜、冒険コック野郎こと、さすらいのシェフ、ベイル君だよ?」
とおどけると、余計に警戒して、バッシの後ろに隠れてしまった。どうやらウーシアは人見知りらしい。そういえばバッシと会った時も、挨拶もせずに隠れていた、その後の馴れ馴れしさは半端ないが。
「私はジュエル、このパーティーのリーダーよ。貴方はお一人?」
握手をしながらジュエルが尋ねる。それに、
「おいらは一人さ〜、さすらいのシェフだからね。包丁一本どこまでも、フラリフラフラ旅がらすっす。あっ、包丁は二本持ってるんだけどね〜、アハハッ!」
腰に吊った二本の短剣を見せたベイルが笑った。
「右のこいつがリディム、左のこいつがバイブスってんだ。あっ、道具に名前付けてるからって引かないで〜」
どちらかと言うと喋るスピードに引いていたバッシ達に、ベイルの口は回り続けた。その間も、振り続けている手を止める気配は無い。
「あ、ああ……大丈夫、よろしく」
若干どころか明らかに引いた顔のジュエルが笑いかけると、それを受けたベイルが、
「アハハッ! お姉さんやさしい〜、気に入っちゃった〜」
喜んだベイルがテンションを上げると、更に激しく振りまくった。籠手をガシャガシャ鳴らしながら、中々手を離さないベイル。半ば振りほどくように手を外したジュエルは、腕組みで手を隠すと、助けを求めて振り向いた。どうやらあしらい上手の彼女にも、持て余すキャラらしい。
ベイルは委細構わずにバッシに向き合うと、
「お兄さんは〜? 何てお名前?」
と小首を傾げながら聞いてくる。
「バッシ」
と答えると、
「バッシ〜、でかいねバッシ〜、よろしく〜」
と言いながら、気易く体を叩いた。その後リロとも自己紹介をしあうと、最後まで警戒していたウーシアとは、結局言葉も交わさず仕舞いだったが、それはそれで気にした様子もなく、終始上機嫌だった。
そうこうする内に、定刻通りもう一組のパーティーと雇い主の商人がやってくる。
「私が商隊のまとめ役をしているリーキンだ、今回はこちらのDクラス冒険者パーティー〝猫背組〟をメインに、一致協力してアルフアベドまで護衛を頼む」
ガッチリとした体格の中年男が挨拶をしてきた。個人店主が集まり、商隊を組んで交易を行う。そのまとめ役とあって、自身が冒険者であるかのような貫禄があった。実際大型のクロスボウを背負っており、それなりの戦闘技能を有しているように見える。
その後ろに続くストゥープスと呼ばれた冒険者パーティーは総数六名。男四名、女二名の内、男女一名づつが猫人族、残りの女(?)が豹の姿そのままの、人豹族だった。
何故普通の豹じゃなく、人豹族だと分かったかと言うと、ヒタヒタと皆の前まで歩み寄った彼女が開口一番、
「私はストゥープスのリーダー、マンプルだニャ、話は冒険者ギルドのエアリースから聞いてるニャ、という訳でよろしくニャン」
小麦色に輝く前足をジュエルに伸ばして来たからだ。その体高は女性にしては長身のジュエルに勝るとも劣らない。手を伸ばしての体長ならば、俺ともためを張るから二メートル半を優に越すだろう。威容を誇る人豹族に並び立つ騎士甲冑のジュエル。その絵になる光景に、周囲の皆が見惚れて、溜息をついた。
「よろしくお願いします。我々は初めての護衛任務ですので、色々ご指導下さい」
かしこまったジュエルの言葉に満足したのか、マンプルは長いまつ毛を下げてから、仲間の元に帰って行った。
それを迎える仲間達、猫人族の男女は、明らかに戦士風の装備で身を固め、他の男達は弓士とスカウト風の軽装備、残りの一人は詳細不明ながら身の丈程もある杖をついている。
見た目は簡素ながら、熟練の魔法使いといった風格を醸し出している。それは相手も同様なのか、バッシと目が合った初老の男は、しばらく見つめた後、目礼して去って行った。
その後、リーキンさんの案内で、商隊が詰めている近場の馬車置き場に移動する。
大型の農耕馬が糞を撒き散らせながら集まるさまは、戦場を彷彿とさせる風景であり、バッシはどこか懐かしさすら感じた。
商隊は五台のはずだったが、直前になってもう一台増えたらしい。大型の幌馬車が並び、出発の準備に人々が忙しく立ち回っている。
バッシが、正直この数を十人強で護衛するとなると大変そうだな、と感じながら眺めていると、
「君達には後方と側面の見張りを頼みたいニャン、二台に分かれて見張って欲しいが、感覚に鋭い者は居るかニャ?」
忙しく準備を整える商人達と、その積荷の間をぬって現れたマンプルが、班分けを提案してきた。
「うちの中でダントツに感覚が良いのは、この子ね。そして勘が鋭いのは彼」
ジュエルは初めウーシアを、次いでバッシを指し示す。それを受けたマンプルは、
「じゃあ貴女とその子は最後方の馬車に行って、後方を見張るニャ」
というと、ジュエルとウーシアに馬車を示した。
「そして君とそちらの子は一つ前に乗り込んで左側面を見張って欲しいニャ、ベイル君はそこに入れてもらって欲しいニャン」
と言うと、バッシとリロをもう一台の馬車に誘った。その様子を見ていたリロが、
「す、すみません。少し伺ってもよろしいですか?」
と尋ねる。感応毛の数本伸びた耳を、ピクンと反応させたマンプルは、
「何か質問があるかニャ?」
と小首を傾げて聞いてくる。
「いえ、あの……貴女は幻獣と謳われる人豹族ですよね? という事は、固有魔法使いという事で間違い無いですか?」
恐る恐るといった感じで聞いた。はたから見ていても、緊張が伝わってくる。まるで憧れの人物に対面したかのように、リロは顔を火照らせていた。
「中々詳しいニャ、ユニークってこれのことかニャ?」
突然マンプルが発光すると、全身に渦巻きの様な模様が浮き立つ。その様子を見たリロは、
「密林の光帝……惑いの魔豹、これは……凄いですね」
興奮した様子で呟くと、つぶさに観察しだした。その様子を見ていた魔法使い風の男が、
「マンプル様、それ位で」
と声をかけると、光を収納して、
「お嬢さん、満足したかニャ?」
リロに向き合って尋ねる。激しく首を縦にふったリロが、
「ありがとうございます、ありがとうございます! 感動しました!」
とその前足を掴むと、満更でもない様子のマンプルが、
「もうすぐ出発ニャ、割り当ての馬車に行って、各々店主に挨拶してくるニャン」
尻尾をふりふり先頭の馬車へ向かった。どうやら彼女は最前列の馬車に乗り込むらしい。それを見送ったリロは、
「はふぅ〜っ」
と溜息をつく。
「凄いのか?」
と聞いたバッシに、
「人豹族と言えば、狼男を代表とするライカンスロープの中でも、希少種として有名です! しかも体表に現れた渦巻き紋、金豹と呼ばれる、銀狼族と並ぶライカンスロープの貴種である事は間違い無い! これは凄い、凄い事なんですよ」
興奮したリロが手を揺すってまくし立てる。言葉を失ったバッシに、
「金豹は密林の光帝、惑いの魔豹と呼ばれるジャングルの王者なんですが……何故この様な街中に出てきているのか? そして冒険者としてDランクなどに留まっているのか? 非常に興味深いところです!」
ほとんど理解の追いつかない事を言って、一人考え込んだ。金豹族ーーとにかく珍しく、強い奴らしい。確かに彼女の全身から発する存在感、深みは、少しの接触でも充分に感じられた。
隣のベイルがその話を熱心に聞くと、
「へ〜っ、以前一緒に依頼を受けた事あったけど、そんな凄い人なんだ〜、あ、人じゃないか? 凄い豹? アハハッ、わかんな〜い」
バッシを見てバシバシ叩いてくる。お前の馴れ馴れしさの方が凄いよ、と思いつつ、ベイルを促して馬車に向かう。巨体のバッシがいきなり行くと、馬車の持ち主に驚かれるかも知れない。リロやベイルを先頭に、受け持ちの馬車に向かうと、意外にも降りて来たのは女性だった。
「お兄さん、うちの担当だろ? 丁度良い所に来た。ちょっとそこの商品を荷上げしてくれないかい? 女の細腕じゃ骨が折れるんだよ」
年の頃は四十過ぎだろうか? いかにも肝っ玉母ちゃんといった、くだけた口調のおばさんが、細腕とはお世辞にも言えない二の腕を見せる。指し示す先を見ると、巻き上げた絨毯が束となって置かれていた。
それを持ち上げようとした時、
「その商品は高額なんだ、慎重に頼むよ! お礼に今晩ご馳走してあげるからさ」
笑いながら注意を受ける。バッシは何だか釈然としないながら、ご馳走の言葉に釣られて束を持ち上げると、馬車の隅へと運び入れた。
「兄ちゃん力持ちだね! 気に入った。あたしゃ旅の商人ネェゾってんだ。今晩は腕によりをかけてご馳走してあげるから、護衛をしっかり頼んだよ」
とバッシを見上げて手を差し出す。その手を握りながら、
「俺、バッシ、この娘リロ、こいつベイル、よろしく」
と紹介しながら思う、
『今日はなんて出会いの多い日だ』
ベイルだけでも濃いのに、商人のリーダーであるリーキン、ストゥープスのリーダーのマンプルと魔法使いの男、それと仲間達。そこに加えて女商人のネェゾ。
覚えるだけでも頭がこんがらがりそうになる。
『それにしても護衛のメンバーが……濃いな』
ネェゾ相手に長話を始めたベイルを見ながら、リロと目を合わせたバッシは、知らず苦笑に口元を歪めた。