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さようならアシスタ  つづき

「ひろみ、大丈夫か?」ブロンソンは宏美が震えているのに気づいて、肩に手を当てた。

 「さあ、もうそろそろ引き返すとするか、ちょっと引き上げるのはもったいないが仕方ない」

 それを聞いてアンドロは安心した。「それじゃ円盤を我々の地球に向けます!」

 アンドロが操縦席に座ると、スイッチを手動にして、ハンドルをつかんで左に傾けた。すると船は左に旋回し、我々の銀河系に戻っていった。やがてハンドルを戻すと、スイッチを手動から自動に切り替えた。そして席を離れようとするとブロンソンが「おい、今度はちょっと違ったコースをたどって帰ろうじゃないか」「・・・そうね、その方がいいわ」静江が言った。みんなはもちろんオーケイした。そしてアンドロはまた席に着き、少しコースを変えるためにいろいろ操作をしていた。「よしみんなこれからは一直線に帰るぞ!トランプゲームでもして暇をつぶすか」ブロンソンが笑いながら言った。彼らはテーブルについて、ブロンソンが持ってきたトランプをして楽しく過ごした。

 やがて何日間か過ぎた。彼らはなんだか飽きていた。「こんな孤独な宇宙はもう嫌だな」広はクローの二をクローの十三で切って、ハートの八を机に叩きつけて言った。「うわぁ~、ハートの八か、切れないや、・・もうトランプはや~めた」のぼるはトランプを投げて逃げてしまった。「ほんとだわ、もう嫌だわ。毎日トランプだけして飽きたわ」宏美もトランプを置いて机を離れた。

 のぼるは、面白がっているシノンと共に、飽きずに頑張っていた。するとアンドロがみんなを呼んである物を見せた。「何これ、薬じゃないの?」宏美が言った。「そう、薬。・・眠り薬さ」「なんだぁ~、そんな物いらないよ」広が言った。「いや、これはただの睡眠薬とは違うんだ。これ一錠で一週間は眠り続けることが出来るんだ」「そんな馬鹿な?・・・」ブロンソンが言った。

「この薬は、生き物をまるで冬眠状態の様にして、その間は食事をする必要もないし、また寿命も止まるということが、我々の研究で証明されているんだ」「へぇ~、驚いたわね。アシスタ星人て、そこまで進歩していたんだ」静恵が言った。

 「しかし一つだけ副作用と言うか、問題があるんだ・・・」「何、それって・・?」宏美が心配して尋ねた。「いえ、眠っている間じゅう、結構夢を見ると言うことなんだ」「いいんじゃないそんな事」宏美がまた言った。「それが、見る夢は悪夢を見るんだよ。それで一週間は起きられないので、ずっと見続けなければいけないんだ」「・・そうなの・・」宏美はがっかりした。

 「どう、君たちそれでもこの薬飲むか?」ブロンソンが言った。「いや、僕は止すよ。シノンさんと色々話していたいから」のぼるは彼女を見て言った。「・・僕も止めとく。ねえ、宏美さん」「そうね、私も遠慮するわ。だってそのままずっと起きないで、悪夢を見ながら一週間も眠り続けていたら、逆に参ってしまうわ」宏美はたまらんとばかりに言った。

 「そういうこと。アンドロ、悪いがこの薬どこかにしまっておいてくれ」ブロンソンに言われてアンドロは、薄ら笑いをすると席を離れた。

 それから二週間近くなっても、ブロンソンと静恵は色々の場で毎日飽きずに話をしていた。ダーカーとチカも自分達のベットで、飽きずに毎日跳び跳ねて遊んでいた。

 宏美は二人の方へ来ると「ねえ、ダーカー。言葉の勉強しない」「勉強・・・、ダーカーもうそんなの要らない」彼は宏美を相手にしなかった。「ふん、何よ!!・・・」宏美は怒って自分の部屋へ戻った。

 「あ~あっ、僕も暇だ。早いけど寝ようっと」と言って広も部屋へ行った。のぼるは一人、窓の広い操縦席に行って、黙って寂しげな真っ黒な宇宙を見ていた。

 やがて一ヶ月もすると、さすがに宇宙船は銀河系の中心に近づいていた。円盤の周りには無数の星が輝いている。銀河系の中心は特に星が多くあり、にぎやかだった。

 アンドロはあまりの光に彼らの目を守るために、自動でされていたフイルターを、手動に切り替えて、さらにフイルターをかけた。おかげで彼らは適当な明るさで、星を観察することが出来た。

 円盤は数々の星を通過して行った。月のようなクレーターだらけの星、太陽のように自分で光を出している恒星、厚い雲に覆われた星、金色に光っている星、しかしそんなものしか出会わなかった。彼らの目が肥えてしまって、それでも満足できないようになっていたのだった。

 「あ~あ、お兄ちゃん、どこにも興味のある星は見えないね」一緒に近くを通過する星を見ていたのぼるが言った。「そうだね。毎日が単純で疲れるね」のぼるは諦めた顔で言った。「私もよ。早く見つからないかしら」宏美は外を見るのをやめて、どこかへ行った。


   水の惑星

 

 三日たった。ブロンソンは目を覚ますと洗面所へ行って顔を洗った。そして食堂の方へ行ってそこの椅子に腰掛けて、いつものように外を眺め回した。その時やや青みがかった星が彼の目に留まった。そしてブロンソンは明るい顔をした。「もしかして、あの青い色は水か大気の色では。もしそうであったら・・・」ブロンソンは席を立った。そして大声でみんなを呼んだ。

 ゆっくり歩いてきたのぼるに、ブロンソンは言った。「おい、あの星が見えるか」のぼるは目をぱちぱちしながら、ブロンソンが指した方を見た。「・・・う~ん,なんか青い色をしているね」「だろう,だろう、そうだろう。あれはたぶん水だろう」「なんだって、水だって。よし、もしそうだったら・・・すぐ、あの星に行こう」

 そう言ってのぼるは、アンドロにその事を話した。アンドロはさっそくそこに円盤を向けた。三人の話を聞いてやって来た広らは喜んだ。

 その惑星に着くには二日かかった。確かにその星には水があった。と言うより海と言った方がよいだろう。

 アンドロは円盤を一周させて、着陸させるところを探したが、しかし陸らしき物は1つもなかった。「おい、みんな水だ!!水だ、水があるぞ!!」ブロンソンが喜んで言った。「本当によかったわ!」静恵が言った。「陸はないが、まあいいか」広は思った。

 チカはその星を見て、部屋中跳び跳ねていた。宏美はチカを捕まえると頭を撫でて落ち着かせた。「皆さん、それでは着水します。各自、自分の席に座って安全ベルトを締めてください!」アンドロが言った。みんなは急いで席に座った。

 ダーカーは静恵と一緒に、チカは宏美にしっかり抱かれていた。円盤は緩やかに下降すると、海面がどんどん近づいてきた。そして軽い衝撃とともに水しぶきが上がると、ガラス窓を濡らし、無事着水することができた。

 ・・・しばらくして、ゆりかごの中にいるように、緩やかに体を揺らした。・・・それが何とも心地好かった。みんなそう感じただろう。

 そして太陽に照らされて、水滴がガラス窓に綺麗に輝いていた。「なんと言う爽快感なんだろう。アポロの乗組員もそうだったんだろう」ブロンソンは思った。まるで地球に帰ってきた錯覚に陥った。しかしここはまだ遥か遠くの惑星なんだ。そう言っても遠くの方では、まるで地球で見た雲があって、しかもその下からは、霧のような雨が落ちているのが見えた。

 「皆さん着きました!」快感に浸っていた彼らに、やっとアンドロが声を発した。

 やがてみんなは席を立った。「よし、それでは外に出てみるか。・・・待てよ、この星には酸素がないかもしれん。一応は用心しないといけないからな。広と私で宇宙服を着て調べてみるから、君たちは待っていてくれ」「はい、解りました!!」何故か、のぼると宏美が同時に敬礼の格好をして答えた。それを見て静恵は笑っていた。

 上機嫌なブロンソンと広は、宇宙服を着けに行った。「アンドロ、大丈夫ですかね。二人きりで?」「大丈夫だ。ここは素晴らしい所だ。心配はないよ。しかし陸があったら、もっと良かったのになあ・・・」そう言われて静恵は安心した。

 「わぁ~、素晴らしい所だわ~。ねえ、のぼるさん、こんな広い湖があるなんて」シノンは驚いていた。「シノンさん、これは海って言うんだよ」「そうさ、これが海だよ。我々の星にも昔はあったんだが、太陽が膨張したせいで干上がってしまい、今では人工で作った湖も、すごく小さいのしか残っていないんだ」「そうなの・・・」シノンは悲しい顔をした。

 やがて宇宙服に着替えた二人が来た。「さあ広、行くか!」と言って、他のみんなに片手を上げると、また別の部屋へ行った。「広、それではドアを開けるぞ!」「はい、解りました。準備オッケイです!!」「よし」ブロンソンは外のドアを開けた。そして静かに出ると、広も後から出てきて、ドアを閉めた。

 二人は円盤の上へ出た。相当な暑さだった。宇宙服を着ているので、よけい暑かった。広は汗だくになった。

 そんな彼の異変に気づいたブロンソンは「広、お前温度自動調節器のボタンを押していないだろう」そう言うとブロンソンは広の宇宙服にある一つのボタンを押した。「どうだい」「ああ、涼しくなっていく・・・」「へっへ、こっそりアンドロから習っていたのさ」

 そうして二人はさっそく準備をした。まず火が点くかを調べた。ブロンソンはライターに火を点けようとしたが、最初は点かなかった。しかしやっとの事で火が点いた。火は地球より幾分強かった。それを見てブロンソンと広はにやりとした。今度は温度を調べた。温度計は四十度くらい上昇してやっと止まった。広はもっと上がりやしないかと驚いていた。そして最後に二人は水筒に海水を入れて円盤に戻った。

 しばらくして二人が宇宙服を脱いでやって来た。「ねえ、どうでしたか」静恵が二人に聞いた。「ああ、この星には嬉しいことに酸素があるぞ」「本当なのブロンソン」のぼるは喜んだ。

 彼は持ってきた海水を、みんなに見せるようにして「しかし、この水は飲めないかもしれん。もちろん、アンドロに調べてもらわなきゃ。それから、この星の大気の温度は四十度もあった。広、暑かっただろう」広はそう言われて照れていた。「そんなにあったんですか。泳ぐと気持ちがいいでしょうね」宏美はわくわくしていた。「でも泳いでいる暇などないだろう。早く地球に帰らなきゃな。せっかく宏美の水着スタイルが、見られると思ったのに・・・」「広お兄さん、泳げるの?泳げそうな言い方して」のぼるは馬鹿にするようにして言った。「何、僕だって泳ぐことぐらいは簡単だよ。あの時だって、いざとなったら泳いで取ろうと思っていたんだ」

 広は宏美のためにテニスボールを川の中から取ったときの事を、一人思い浮かんだのだった。「何の事?」姉とのぼるは首をかしげた。「いえ、何でもないわよ。ねえ、広さん」宏美はかくまった。

 顔を赤くした広は、内心みんなが泳がないだろうと思っていた。

 そうしているうちに、アンドロは分析装置に海水を入れた。機械はチャカチャカと言う音をたてて、2分ほどして紙が出てきた。それを読んでいたアンドロの顔を見て、みんなはすぐこの水は飲めるのだと言うことがわかった。

 アンドロがみんなを見て声を出そうとする前に、宏美が「水、飲めるんでしょ?」と聞いた。「うん、この水は飲める。真水に近い」と言って、アンドロは残った水を一気に飲んだ。「みんな、さっそく外へ出て水を野もう」ブロンソンは言った。

 そして彼らは外へ出た。「あ~、いっぱい飲んだ。・・塩は少しは混ざっているようだな」広は船の上で横になった。そして小さいとき、親に連れられて潮干狩りに行ったときの事を思い出した。「あのときも暑かったな・・・」「本当に暑いねぇ、ブロンソン」のぼるが言った。「そうだな。水だけ飲んでも、物足りないし・・・」そう言って彼はアンドロを見た。返事は「オーケイー」だった。「ヨシッ、みんな一時間ぐらい泳ぐか。少し遠くの方から雲が近づいているようだが」「さっすが~、ブロンソン」宏美は喜んで、さっそく着替えに行った。

 のぼるも、静恵も、後に続いた。「よし、私も行くか。おい広、おまえは行かないのか」「ああ、今日は疲れてしまって、泳ぐ気になれないな。残念だけど」「そうか」ブロンソンは薄ら笑いをしながら着替えに行った。「ふん,なんだ。泳ぎなんか楽しくないや。道草しないと言ったのに広は面白くなかった。「広さん泳がないんですか。私も海は初めてで泳げないので、二人でここで見ていましょうね」シノンが優しく言った。「あっ、そうですね」広は急に機嫌が良くなった。そして思った。宏美さんももちろん良いけど、シノンさんも結構チャーミングだなと思った。

 彼女はアシスタ星人にしては、何故か背は高くなく、アンドロと同じ星の物かと疑うくらいにスタイルが良く、宏美よりも低いが広よりはやっぱり高かった。

 やがてみんながやって来た。宏美は素敵な水着スタイルだった。ビキニがとっても良かった。それを見て広は、一緒に泳ぎたかった。泳げなくて後悔した。「それじゃシノンさん、行ってくるから」そう言うと、のぼるは宏美と一緒に泳ぎに行った。チカとダーカーもまさかの泳ぎだった。あの猿が泳ぐなんて、広は驚いた。

 ブロンソンは静恵に泳ぎを教えていた。「ブロンソンさん、ここは深そうですね」「ああ、ここは90メートル以上はあるんじゃないかな。全然底が見えないな」アンドロも円盤の上から飛び込んで、泳ぎも相当なもんだった。「広~、泳がない~」宏美は手を振っていた。広は黙って円盤の中へ入っていった。

 一時間ほどしてみんなは泳ぐのを止めた。シャワーに入って、彼らはやって来た。「はぁ~広、楽しかったよ。おまえ泳がなくて、残念だったな」「なんだよ、こんなところで道草食って、早く地球へ帰りたくないのかよ」広は言い返した。「よし、わかった。それではストレスも吹っ飛んだし、気分爽快だ。出発して早く帰ろう。みんなが心配しているだろう。アンドロ頼むよ」ブロンソンは席に着いた。みんなも着いた。

 その時、辺りが暗くなったかと思うと、ものすごいスコールが起こった。「かたぶいだ」「なにそれ?」シノンがのぼるに聞いた。「ほらシノンさん、遠くを見てごらん」宏美が言った。「わ~、すごい。遠くは降っていない」「それをカタブイと言うんだよ」のぼるが言った。「そうなの。早く地球へいって、それを見てみたいわ~」

 やがて円盤は、船のように海面を滑りゆっくり上昇すると、水の星を後にした。「こんな星もあるのね、広」宏美が黙っている広に声をかけた。「ああ、とっても良いところだった。だけど、海の中は相当深かったそうだね。良く泳げたね」「そうね、本当は怖かったわ」宏美はあまり気にせず言った。先ほどの雲の下では前より大雨が降っているようだった。

 青い水の星を後にして、円盤は地球に向かった。窓を見てブロンソンは、たくさんの星の中に我々の地球があるかのように、目を輝かせていた。アシスタ星を離れて5ヶ月が過ぎたある日、アンドロがみんなを呼んで言った。「みんな君たちの太陽系が見えるぞ」「どこだ、どこだ」みんなはしゃいだ。と言っても広たちには、はっきりどこだかわからなかった。アンドロが指した指の辺りを、みんなはいつまでも眺めていた。

 やがて我々の太陽系に近づいた。その時ある未確認物体が、我々の宇宙船に近づいているのがデーダーでわかった。「なんだい、一体」広は久しぶりに興味を持った。「どうだいアンドロ、我々の方に来るのかい」ブロンソンがデーダーとアンドロを、代わる代わる見て言った。「はい物体は我々の円盤より小さく、相当なスピードで飛行しています」

 それから約一分後の事である。突然レーザー光線のような青い光が走った。かと思うと数百メートルくらい前方の隕石を破壊した。「アンドロ危ないぞ。その物体から離れるんだ」彼は必死にその物体から円盤を遠ざけようとした。しかしそれは直ぐ我々宇宙船を横切り通り過ぎて行った。

 あれは確かに隕石とは違っていた。アンドロはその映像をスロー画像に切り替えた。太陽電池の格好をしたもの、ロケットの噴射口の様なものもあった。又筒型のカメラのようなものを円盤とすれ違い様に回転させ向けていた。「ねえ今の見たでしょう。あれは・・・」静恵が興奮して言った。「そうだ、あれはまさにカメラだろう。我々の円盤を撮影していたのは間違いない」ブロンソンが言った。

 確かにこれは地球上のどこかの国からの、探査ロケットであることは間違いなかった。彼らは、はっきりとその遠ざかる探査ロケットを見たのだ。ブロンソンが話し続けた。「もしかしたら、これは五年前に打ち上げられた、初の全人類が協力して作った、銀河探査ロケット「ビクトリー一号では?」そう言われてみんなも思い出した。「そうか、あのロケットには自己防衛装置が付いているのだ。それで進行の邪魔になる隕石を破壊したのだ」なるほど、とみんなは思った。そのロケットは、人類以外にいる生物を探すために、打ち上げられたのだった。「ブロンソン、あれは平和の星ですね」宏美が大きな声で言った。「ああそうだ。我々を迎えに来てくれたんだな」「変な迎えね」シノンが言った。ブロンソンは苦笑いをした。みんなはいつの間にか両手をあげて「万歳、万歳、・・・」と言い続けていた。

 やがて円盤は、太陽系の中へ入った。もうそこからは、望遠鏡で点と言うほどの地球を見ることができた。

 まず彼らは土星のそばを通過した。「わあ、土星だ。いつ見ても綺麗だね」「そうだな、とっても綺麗だ」宏美が言うと広が答えた。円盤は土星の輪と輪の間を通過した。

 やがて土星を離れると、今度は木星をやや遠くから肉眼で見ることができた。あの目のような大赤点が恐ろしく大きく見えた。

 もうその頃になると、望遠鏡で地球の青さが見えた。しかしまだ小さく、わかりにくかった。

 やがてそれから2週間ほどたった。すると目の前には、はっきりと地球の姿が見えるようになった。彼らはまともや再び、「万歳、万歳、・・・」と言い続けていた。そして遠くの方では火星が茶色っぽく輝いて見えた。

 円盤はやがて月へやって来た。あの死んだような姿は、いつでも同じだった。みんなは最初に月へ不時着したときの事を、思い出していた。「あのときは大変でしたね」静恵が月を見てブロンソンに言った。「本当だ。あの時はもう、これっきりだと思ったよ」「それにしても、私たち良くここまで、戻ってこられましたね」「ああ、みんなの力がひとつになったおかげだね」と言ってブロンソンは、また黙って月を眺めた。

 やがて月からどんどん遠ざかった。「ねえ、アンドロ、地球に着くには後どれくらいかかるの?」「後二時間もすれば着けるでしょう」「フフン、そんなものなの」シノンは喜び顔で言った。

 やがて円盤はずいぶん地球に近づいた。太陽に向いている方はちょうど昼でその反対はもちろん夜である。アメリカ大陸や、色々な国が見える。「ねえ、ブロンソン」宏美が言った。「なんだい」「こんな美しい星のあっちこっちで、人種差別や宗教と言った、色々なことで、戦争をしているのね」彼女の目からは涙があふれた。「そうだな、私も今までは国のためなら人を殺すのは、仕方ないと思っていた。しかしこうして地球を離れて宇宙を冒険してみると、そうでないことがわかった」彼もまた微かに目が潤んだ。「地球でも私たちの星のように、戦争をしているなんて」シノンもまた悲しんだ。「大丈夫だよ、シノンさん。王様と約束したんだ。僕が守ってやるよ」のぼるが言った。

 宏美とシノンの背中に両手をそっと置くと、ブロンソンは静かに奥の方へ行った。そして機関銃を持ってきた。「もう私には、こんな武器は必要ないのだ」そう言うと彼は、非常用口から銃を捨てた。それはゆっくりと我々と目の前にある地球から離れていった。「ブロンソン、日本は今、夜ですね」「そうだな、今ごろはみんな眠っているだろう」「日本時間で言うと何時ですか」宏美がブロンソンに聞いた。「そうだな・・・」ブロンソンは腕時計を見て、「午前一時だな」と言ったとき「皆さん円盤を地球の裏側へ持っていきます」そう言ってアンドロは操縦桿を右に傾けた。円盤はゆっくり旋回した。

 やがて真っ暗な地球の裏に来た。「それでは皆さん、大気圏へ突入します。自分の席に着いて、安全ベルトを締めてください」みんなは黙って自分の席に着いた。

 広は緊張して体が固まった。やっと目を動かして、隣ののぼるを見ると、彼は思いっきり目を瞑っていた。どうやら二人だけではなく、みんな相当緊張しているようだった。

 そして二分後、円盤は大気圏に突入した。窓からは赤い炎が見えた。一分後にその炎は消えた。円盤は日本本土を南下して沖縄本島へ来た。辺戸岬を過ぎ、やんばるの上を飛んでいたときだった。「山火事だわ!!」下の方で森が燃えていることに、宏美が気づいた。「よし、あそこに降りて火を消そう。まだ間に合うかもしれない」ブロンソンが指示した。

 アンドロはすぐにその燃えている近くの、丘になっているところに、円盤を着陸させた。「皆さん着きました」アンドロは素早くドアを開けた。

 冷たい風が入り口から入ってきた。「なんだこりゃ、寒いなあ」みんな、寒がった。「もしかしたら、冬になっているんじゃないか?」「何かそのようだな」ブロンソンも両腕を組んだ。それでもみんなは急いで外へ出た。しかし火は相当大きくなっていて、彼らには手に負えない状態になっていた。下の方で燃えている炎を、黙って見ているより仕方がなかった。風向きのせいか、時たま微かに熱風を感じられた。

 彼らが見守って約三十分たった。その時である、暗い空の向こうからヘリコプターの音が急に聞こえてきた。「ああ、消防隊だわ」静恵が向かってくる方向を指して言った。それは二機であった。

 その時アンドロは、素早く円盤に乗り込むと、船を上昇させ停止した。「それじゃ皆さん、私はこれで失礼します」彼は地上にいるみんなに言った。「アンドロ、どうしたの!?地球の事を私と調べるのじゃないの?お父様がそう言っていたじゃないの?」シノンは父と別れたときと同じ光景であることに驚いた。「いいえ、実はそうじゃないんだ。王は『二人とも、先発隊として地球に行くように』、と言われたのだ」「それじゃ、なぜ地球の事を調べるように言ったの!?」

 両手を握ったまま大きな口を開けて叫びながら、彼女にはどう言うことか解らなかった。「・・王はあなた様を、危険なアシスタ星から早く逃がしたかったのだよ。・・・それで嘘を吐いて・・・」「そんな・・・」シノンは絶句した。「王の命令に背くことになるが、しかし私は故郷を捨てる訳にはいかない。姫様には悪いが・・・、また他のみんなと一緒に必ず来ます。それまでシノン様、地球の事を詳しく調べておいてください。・・・それじゃまたいつか」そう言ってアンドロは、円盤を再度上昇させようとレバーを動かそうとした。

 その時である。チカが得意のジャンプで軽々と中に入ると、ダーカーも必死に飛び上がって、辛うじて両手で円盤にしがみついた。「ちか、ダーカー、どうした?」アンドロは驚いて言った。「僕もアンドロと行く。一人で行くの寂しいだろう」アンドロが困惑していると、ダーカーは今にも落ちそうになった。仕方なくアンドロは、やっとの事でダーカーを円盤に引っ張り上げると、チカとダーカーを両手で抱き締めた。「ありがとう、チカ、ダーカー」

 地上では彼らを見て静恵や宏実、シノンの三人が泣いた。広は一生懸命に堪えた。のぼるは何故か平気な顔をしていた。「アンドロ、気を付けてな。・・・ダーカー、アンドロを頼むよ」「わかった」ブロンソンは勇気づけるように言った。ダーカーは手を振った。地上にいる広らも思いっきり両手を振った。

 やがてドアは閉じられ、円盤は素早く上昇すると、ヘリコプターとは逆の方に隠れるようにして消えて行った。ヘリコプターは火が燃えている所に着くと、吊り下げたバケツから水を落として消火を始めた。

 すると別の大型のヘリが現場上空を旋回していると、彼らの方に近寄ってきた。広らは今だと思い、そのヘリコプターに向かって手を振り、大声で叫んだ。

 どうにか気づいたらしく、やがて彼らの方へ来るとホバリングし、降りられるスペースを確認すると、ゆっくりと着陸した。

 やがて一人の乗組員が降りてきて、彼らに向かって驚きながら言った。「どうしましたか?なぜここにいるのですか?」彼は不思議がっていた。広らは受け答えに戸惑っていた。

 直ぐに彼は「あっ、皆さん。もしかしたら、あのキャンプへ行って、行方不明になった人たちではありませんか?」静恵はじっと考えていたが「はい、私たちがそうです。どうも心配かけました」男の人はそれを聞いて「ああそうでしたか。まさかとは思いましたが、無事で何よりでした。・・・寒いでしょう、こんな薄着で。・・・さあ皆さん、乗ってください」

 そうして他のクルーに連絡すると、みんなを乗せて飛び立った。「皆さんお怪我はないですか・・・しかし、どうして今頃になって?もうあれから半年は立っているでしょう」「怪我はないですが・・・今、何月になるんですか?」静恵が聞いた。「そんなぁ~・・・解らないんですか?今二月ですよ」彼らは半年しかたっていない事に驚いた。「少なくても一年以上はたていると思っていたのに・・・」彼らは理解できなかった。しかし彼がわざわざ嘘を吐く意味もないし、信じるしかなかった。「通りでこんなに寒いんだ」

 彼は話し続けた。あの時は大変でしたよ。車とテントだけを残して、四人も行方不明になったので、相当大掛かりな捜索をしたにも関わらず、とうとう発見できないので諦めていたんです。・・・それで世間では何か変な噂が立ちましてね・・・」「なんですか。その噂とは?」広が聞いた。「いえ、それがですよ・・・」彼は急に話を止め、ブロンソンを見た。「ところであなたは、一体誰なんですか?外人さんじゃないですか・・・」「えっ、あ~、私はアメリカの軍人のもので、間違って民間地に出てしまい、この人たちと知り合って一緒に行動していました」「ああ、あの時。そう言えばあの米軍のサバイバル訓練していたのでは?」「そうです。その海兵隊のものです。迷って訓練場から外に出てしまったのが幸いでした。そこにはまだ、ハブやマングースが結構いて、それを捕らえて飢えをしのいでいました」「そうですか、それは運が良かったですね。亡くなった方も何名かいて、五十人中に三十名ぐらいは脱水状態による熱中症や飢えでリタイヤし、病院に運ばれてどうにか助かったそうです。大変な訓練ですね。私たちが捜索をしたときも、四、五名の倒れている方を救助しましたよ。それで幹部の方の責任問題で結構、大騒ぎになっていました」

 彼は引き続き話した。「ところであなたは?」今度はシノンを見て言った。何かと引っ掛かったようであった。彼女はただ黙っていた。他のみんなもなんと受け答えして良いか頭に浮かばなかった。のぼるは『仕舞った』と思った。「・・・まあ、いいか。生きているのは多ければ多いほど良いからな」彼はこれ以上は突っ込まなかった。「ところで話を前に戻しますが、あなた方の捜索願いが出る何日か前に、何か隕石のようなものがやんばるの麓に落ちたと言うことで、ある人々からは、それは円盤か何かで、それにあなた方が誘拐されたのではと言う話を、テレビで何度かやってましたよ」

 それを聞いて彼らは、お互い顔を見合って大声で笑った。「おかしいでしたか、今の話し」「いいえ、そうだったら良かっただろうにと思って」「まあとにかく、何よりも無事でよかった。・・さあ急いでくれ」彼は操縦士に言った。


 やがて山火事も、水の投下を繰り返したお陰で、どうやら下火になった。広はヘリコプターの上から見える町の灯りを見て思った。「やっぱり地球はいいな、過去からタイムマシンで現代に戻ってきたようだ」と

 やがてヘリコプターはその町の病院に着陸した。彼らはみんな元気であったが、念のために検査をすると言うことだった。

 そうしてやっともとの生活に徐々に戻っていったが、当分の間は彼らは色々と町の話題になって騒がれた。

 そんなあり得ない出来事があって、十年の月日がたった。広は今では二十七歳になっていて、宏美と結婚し、三歳になる子供もいて、幸せに過ごしていた。

 広は公園のトイレの清掃する場所を確認するため、同僚と一緒に回っていた。そして離れたところからでも見える地点まで来ると、彼は言った。「あそこに見える瓦屋根の建物が今度掃除するトイレだよ」あっ、あれね。・・オッケイ、それじゃ行ってみるか」「嫌、今日は時間がないから場所だけ教えるから」「・・わかった」「ここから見てもわかるけど、浮浪者がテントを作っていて、寝てるはずだから。・・・大変だよ。スクラップは集めるし、落書きはするし。この前も消したんだが、同じような落書きを懲りずにするんだ」「そうなんですか・・・」「まあエロい落書きをするよりはましだがな。困るんだよなあ、まったく。あんなことされちゃ・・・」同僚は広に言った。「ほんとですね、身勝手なことしますね」広は驚いていた。「・・・しかし彼は大人には迷惑な存在だが、子供には何故か人気のようだよ」「えっ、どう言うことですか?」広には解らなかった。「いえねぇ~、彼は何か空想的というか、よく子供たちに宇宙について話すそうなんだよ」「へぇ~、おかしな人ですね」

 広は自分も宇宙には興味があるのに、その彼に対しては変な思いで見たのだった。「まっ、しょうがない。彼もすむところがないんじゃ、・・・行こうか」「あっ、すいません。先に行っといてください。急に小便したくなって」「おっ、いいよ。それじゃ車で待っているから」彼は広が頻尿であることを知っていて、軽く返事をした。

 広は小走りで例のトイレに向かった。そして公衆トイレの前に来ると、彼が言った通りの光景が見られた。そこは汚いだけではなく、壁には色々な落書きがされており、またベニヤや段ボール、ブルーシートなどで人の背丈より大きなテントが作られていた。

 広は隙間から静かに中を覗いた。そこには浮浪者が彼に背を向けるように丸くなって眠っていた。広はその場を離れようとしたときだった。足下に転がっていた空き瓶を謝って蹴ってしまった。それはトイレのコンクリート壁に当たりうんよく割れることはなかったが、大きな音をたてた。「なんだ~」その彼は驚き振り向いた。広はばれないように素早くその場を離れた。

 用を足していないことに気づいた広は、急いで便器の前へ立つと小便した。そこには消されてはいるが、薄く残っている壁などに描かれた沢山の、訳のわからない、落書きを見ていた。

 そしてあるひとつの落書きが目に留まった。そして驚いた。「なんだこりゃ~」なんとそこに描かれていたのは、地球と月、そして確かに見覚えのある宇宙船。その先には又、小さな丸い星と側には大きな太陽のような星が描かれていたのだった。そしてその小さな星の下に『アシスタ』と書かれていたのだ。

 広は一瞬凍り付いたが、直ぐに冷静になった。「間違いない」彼は確信した。急いで便器を離れ、外のテントに向かった。「あの~、すみません」広はテントを開け、寝ている男に声を掛けた。・・・返事がない。広はもう一段大きな声で呼んだ。「すみませ~ん」「・・うっ、何だ・・・」男は重たそうに顔を上げると広を見た。

 二人の目があった。その時広はとても信じられない気持ちだった。男も最初は眠たそうな顔をしていたが、広の顔をじっと見ているうちに、次第に目を大きく開くようになった。

 しかし我に返ったようにして目を逸らすと、また後ろを向いて横になろうとした。「アンドロ・・・、アンドロじゃないのか」広は横になった男に言った。「そうだろう・・・」「・・・お前は一体誰だ」彼は素早く振り返った。「広だよ・・・、広だよアンドロ・・・」

 よぼよぼとしていた浮浪者の顔が、みるみる輝いた。「広、・・・おお、広か、本当に広なのか。・・・また人違いと思っていたんだが、今度こそ間違いなく本物か?」「そうだよアンドロ」

 彼はすぐに起きると、広の肩に両手を置いた。その瞬間、彼の長い間の生活の香りが、広の鼻を突いた。「よかった、よかった・・・」二人はしばらくの間抱き合った。アンドロは目から涙をこぼしていた。もちろん広も嬉しくて泣いた。「アンドロ、いつ地球に来たんだ」「2、3年前だ。広、私はずっと君たちを探していたんだが、とても探し出せずに諦めていたんだ。それでアシスタ星から持ってきた貴金属を、換金して暮らしていたのだが、資金も底を打ち、こういう生活をしていたんだ。しかしこんなところで逢えるとは・・・、みんな、みんなは元気か?」「ああ、全員元気にしてるよ。僕たちはあれ以来、年に3、4回は集まることにしているんだよ。みんなあの体験を懐かしく思い出しては、アンドロや、チカ、ダーカーの事を気にしていたんだよ。・・・ところで、チカとダーカーはどうしたんですか?」「ああ、二人とも元気にしているよ。もちろん私と一緒ではないが」「・・・何処にいるんですか。早く会いたいな」

 広はそれを聞いてますます元気が出た。「いやチカとダーカーはアシスタ星から地球に向かう途中で、自分達の星へ帰っていったよ。親の眠るところだからな。そこで下ろして分かれたんだ」「あ~、あの火山星ですね。・・・そうだったんですか」広は少しがっかりした。

 「お~い、木村。まだか~」そのとき遠くで車に乗った同僚が、軽いクラクションと共に彼を呼んだ。「アンドロ、仕事が終わったらまた来る、待っていてくれ。それじゃ・・・」同僚がいたことをすっかり忘れていた広は、アンドロと別れ駆け足で車に向かった。

 仕事に戻った彼は、アンドロとの再会で頭がいっぱいであった。やっと休憩時間になると広はある人に電話した。それはシノンでありアンドロの事を話し、仕事が終わって急きょ落ち合うと、早速アンドロがいる公園へ二人で向かった。

 そしてアンドロとシノンは再会を果たした。二人は涙を流して喜んだ。そして広はアンドロに話しの続きを聞いた。「ところでアンドロ、他の人たちはどうなったんですか」「ああ我々はその後、あの小惑星と地球に移り住むことになったんだが、3分の1の人たちはそれに反対して、アシスタ星に留まったよ」しかしアシスタ星は・・・」広が聞いた。「ああ、彼らはアシスタ星と共に、永遠に暗い宇宙に消えてしまったよ」「そうですか・・・王は・・?」「王も残念ながら、アシスタ星と共に散ったよ。・・・私も残ると言ったら、ダーカーもチカも逃げようとしない。それで私は仕方なく、アシスタ星を離れたのだよ。ところで、王は君たち地球に行きたかったらしいが、娘シノンを研究目的を口実に早めにアシスタ星から脱出させたとして、一部の国民から避難されたことや、また、他に残っている人がいる限り、私も行けないと言って、残念がっていたよ」

 そんなアンドロの言葉に、両膝、両手を付いて、シノンは号泣した。広はそっとしゃがむと、そんなシノンの背中に優しく手を当てた。

 しばらくしてアンドロは、テントの奥の方から一つの箱を取り出すと、彼らの前で開けた。「王はこれを形見にと、私に託したんだ」それは王がかぶっていた、あの輝かしい王冠であった。「さすが王だな。アシスタ星がこの宇宙に存在していたことの証として、残されたんだ」

 アンドロは続けた。「『これをシノンに』と、そう、『娘を新しい王に任命し、このアシスタ人が永遠に生き続けるように』と言い残したのだ」シノンは冠を見てさらに泣いた。

 その時、いつも一緒に遊ぶ子供たちがやって来た。アンドロは直ぐ冠を隠した。「おじさん。この人誰、知り合い。・・・どうして泣いているの?」「ああ、この人は私の娘で、シノンと言うんだ」「・・・そうよ。私は娘で、父を捜していたの。まさか私が働いている研究所から、一キロぐらいしか離れていないところに、いたなんて」「そうなの・・・。それで見つかったので、嬉しくて泣いていたんだ」子供は納得した。「そうだよ。私たちは彼と再会するのを、待ち望んでいたんだ」広は答えた。「わかったよ、宇宙人のおじさん。・・・すると、この人も宇宙人なんだ」子供は彼女を指して言った。「えっ、・・・」シノンはびっくりした。「ああ、そうだな。そう言うことになるな・・・。これから私たちは、この星で暮らすことになるんだ」「よかったね。・・・ところで、アシスタ星は僕たちも行けるかな?」「ああ、アシスタ星は無理かもしれないが、将来この地球の危機が訪れたときのために、ちゃんと円盤を用意しておくよ。それまでよく勉強しておくんだ」「うん、わかった。・・・ほんと約束だよ。・・・それじゃ、・・・異星人のお姉さん」

 それから月日がたち、アンドロはシノンが住むアパートで、一緒に住むことになった。また仕事もシノンの研究機関で働く予定である。そして今日はその面接の日でもあり、また段ボールテントを撤去する日なのだ。

 アンドロは公衆トイレの鏡の前で、シノンが用意したひげそりで顔のひげを剃った。そして何故か狭いテントの中で、彼女が用意したスーツに着替えた。「どうしてわざわざここで?」取り壊しを見守るため来ていた広は、アンドロに聞いた。「ここから、私の新しい旅立ちが始まるんだ。本当の意味で、地球人としてのな」

 テントから出てきたスーツ姿の彼を、若い通り掛かりの男性が遠くの方から見て、首を傾げていた。アンドロはテントの向かって長々と頭を下げた。それを見て広は納得した。「似合うわよ、アンドロ」シノンが軽く手をたたいて喜んだ。「よし、アンドロ、シノンさん、記念に写真を撮ってあげるから・・・」広がそう言うと、二人はテントをバックにして並んだ。

 広はシャッターを切った。「もうこんな時間だ。それじゃ作業員が来る前に、立ち去った方が良い」「わかったわ広、後はよろしくね。それじゃアンドロ、研究所へ行きましょうか」「わかりました。シノン様」「駄目よアンドロ。仕事場では私たちは知り合いではないことにしなきゃ。それに『様』は良くないわ」「はい、オッケイであります」三人は仲良く笑った。そして広にお礼を言って、二人は立ち去って行った。

 しばらくして、作業員がトラックで来ると、テントを壊し始めた。また、他の人もトイレの落書きなどを消していった。そして例の円盤とアシスタの文字を消そうとしたとき、「待ってくれ、これは自分が後で消すから、そのままにしといてくれ」広はお願いした。

 作業員が別の方へ行くと、残された絵を見て広は思った。「この絵と文字がなければ、彼とは気づかなかっただろうと。広はこの絵を写真に納めると静かに絵を消していった。

 そして作業は終わり彼らは去っていった。広はさっき写したアンドロたちや、落書きの映像を懐かしむようにして確認すると、彼もまた現場を離れた。

 それから月日はたち、みんなは広の家で再会した。「広、宏美、のぼる、ブロンソン、私と離れた後は、どうだったんですか」アンドロが聞いた。「ええ、私たちはその後、ヘリで病院に連れていかれて、体調不良はないか、色々検査されました。そして何も異常がないとわかると、今度は警察署で蒸発した原因を一人一人聞かれました。・・・まさか宇宙へ行っていたと言っても、信じてもらえないし、それに言ったら行ったで、大騒ぎが目に見えているので、みんなでうまくだましてやりました。しかしシノンさんは色々追求されて大変でした。・・・地球人離れした綺麗な顔立ちに、世間の関心は高く。それにあの例の銀河探査ロケットの映像が、解像度こそ悪かったんですが、我々の宇宙船をとらえていたからでした。それでかのじょは宇宙人じゃないかと・・・」

 そう静恵が言い終わると、みんなはお腹を押さえて笑った。「ところで地球の印象はどうですか?」宏美が聞いた。「ああ、いいところだが、ここは車がうるさくて空気も汚い、地球は住みにくいな。しかし、公園のトイレの方が、私にはあっているかもしれないな」そう言われてみんなは少しの間、黙っていた。

 しばらくして、アンドロは例の箱から王冠を取り出すと、シノンの頭にやさしく、しかし気持ちは力強く、乗せた。そして静恵が紐をあごに掛け結んだ。「シノン様、とってもお似合いで」「だから言ったでしょ、アンドロ『様』じゃないって」「きっと王もあの宇宙の彼方で喜んでいるでしょう」

 みんなは一瞬暗くなったが、直ぐ元気を取り戻した。「シノンさん、おめでとう。新しいアシスタ人の反映のために、頑張ってね」「解ったは皆さん。お父さんの分まで、アンドロ、二人で頑張りましょうね」「二人じゃないよ、僕も応援するよ」のぼるが言った。

 そう、のぼるとシノンは、やがて結婚することになっていたのだ。「そうね、私たちみんなで応援するわ。ねえ、広」「もちろん、そうだよ」広はうなずいた。「そうだよ、私も静恵も応援するよ」ブロンソンが静恵を見て言った。「そうね、当たり前でしょう」彼女は答えた。静恵もブロンソンと概に結婚していたのだった。

 アンドロとシノンは、涙を出して喜んだ。しばらくして、アンドロは小さい声で言った。ところでなんですが、世間には内緒で、まだやんばるの山奥の例の湖の底に、円盤を隠してあるのですが、もう一度みんなで行ってみませんか」「行ってみないかって」のぼるが驚いて言った。「あの宇宙にですか?」広が聞いた。「そうだよ、みんなで。チカとダーカーに合いに、あの火山の星に行くのさ」「そんな・・・」「・・・ばんざーい・・・」全員、両手を上げて喜んだ。

 そしていつか、また近いうちに、彼らは昔を求めて、宇宙へ旅立つことだろう。そして彼らは夜通しいつまでも話が尽きなかった。・・・暗い夜空に一筋の流れ星が輝いた。

 「どう広、完成しそう?」宏美は広の書斎に入ってきて訪ねた。「ああ、やっと出来た。十年くらい、掛かってしまったな」広は宏美に原稿を渡すと立ち上がり、大きく背伸びをして、部屋の片隅に行くと、置いてあったギターを取って曲を弾いた。

          

                                        おわり。

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