1万円
お客さんが帰っていく。満足そうな表情だ。しばらくすると、瞳さんも出てきた。
私『いくら稼げました?』
私は恥も恐れずに聞いた。今は、その事しか興味がなかったのだ。
瞳『30万くらいかしら?お会計は岸谷に聞いて。あ、でもあっちの部屋には入らないでね。』
瞳さんは、さっきのバーみたいな部屋を指差した。
私『あそこの部屋は何なんですか?少しだけ覗いたら、バーみたいだったんですけど。』
瞳『あそこはバーよ。』
瞳さんは、間髪入れずにそう答えた。
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公子『懐かしいなー・・・これ。』
公子と麻里は、例のサインを眺めていた。
麻里『白瀬、女優さんになりまーすって書いてるよ。なれたとしても、主演はムリだね。』
公子『ふふ。』
イト『公子ちゃん、これ、おみあげね。』
公子『うわ、駄菓子がいっぱい。』
イト『麻里ちゃんも。』
麻里『ありがとうございます。お、重い。』
イト『あとね、これも。』
イトさんは、もう一袋、公子に差し出した。
公子『これは?』
イト『色葉ちゃんのお母さんに渡してちょうだい。日曜日に来なかったら、渡せないから。』
公子『でも、こんなに重いの二袋なんて、私持てないよ・・・。』
麻里『大丈夫、大丈夫。』
公子『えっ?』
麻里『柳田も男ひとりくらい、呼べるようにならないとね。』
麻里と公子は公衆電話へと向かった。
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プルルル・・・プルルル・・・
ガチャ
人見『はい?』
麻里『私。』
人見『なんだ、お前か。なんだよ。』
麻里『ちょっと来てくれない?場所は・・・ここどこ?』
公子『アーケードを北側に見て、右手に行くと、煙草屋が見えるから・・・』
麻里『ちょっと待って、紙に書いて。』
公子はボールペンで地図を書いた。
麻里『あー、そういうこと。』
麻里は人見に駄菓子屋の場所を伝えた。
麻里『はやく来てね。』
人見『はい、はい、というか、佐村を呼べばいいじゃんか。』
麻里『佐村は、いつもふらふら出歩いてるから、電話の前にいる保証がないから。じゃ。』
ガチャ!!
ピー、ピー、ピー、
人見『なんだありゃ?』
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瞳『私、不思議なんだけど。色葉ちゃんは、こんなところに連れてこられて、怖くないの?堂々としてるから・・・。』
私『多分、瞳さんがいなければ、こんなに堂々としていなかったと思う。瞳さんが、いろいろフォローしてくれるからさ。実はね、私、初めての人の名字が人見って言うんだ。それのせいもあるのかも。なんか、安心出来るっていうか・・・。』
瞳『でも、きっとお母さんは心配してるわね・・・。私も出来ることなら、こんなことさせたくないんだけど・・・。』
私『私のお母さんね、本当にどうしようもない人だから、心配なんかしてないよ。妹が居れば、それで満足だろうし。』
瞳『・・・そんなことないはずよ。』
ガチャ・・・
岸谷が電卓を持って出てきた。
岸谷『1日の雑用でこんなもんだ。』
私『1万円・・・。』
時給で考えれば、相当いいバイトだけど、私の場合は、今日の報酬を引いて、残り99万円分働かなければならない。出来れば1ヶ月以内に・・・。
私『これじゃ1ヶ月以内に、ここを出られないよ・・・。』
岸谷『じゃあ、それを補う仕事を探せ。』
私『仕事って、雑用以外は一つしかないじゃない!!』
岸谷『庭の草刈りとかあるぞ。』
私『外に出られるの!?』
岸谷『敷地内だけどな、草を全部集めて、専用のゴミ箱に入れるだけだ。』
外に出られるのならば、チャンスがあるかも・・・。明日は草刈りをしよう。
私『そういえば、今何時?』
岸谷は腕時計をみた。
岸谷『17時だ。』
夕方か・・・。みんなは下校の時間か・・・。公子は、私の家に訪問してくれたかな・・・。お母さんと話をしたかな・・・。また、お母さん倒れちゃうかな・・・。美知はまだ、純情に心配してくれてるかな・・・。結局、最後の最後に思うのは、家族のこと。そんなに好きじゃないのに、なんでだろ。
瞳『色葉ちゃん、部屋に帰るわよ。』
また、あの暗い部屋に帰るんだ・・・。
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人見『お前ら・・・三つ・・・持たせんなよ・・・。』
麻里『男でしょ!!弱音を吐かない!!』
公子『ごめんね、三つのうち一つはイトさんの親切だから・・・。』
3人はアパートに着いた。
母『ありがとうね。家に上がっていってちょうだい。』
麻里『いいんですか?』
人見『俺も?』
母『みんな上がってちょうだい。二人きりじゃ寂しいのよ。』
公子『みんな上がりましょ。ね。』
公子が二人を手招きした。
母『美知ー、料理作ってー。』
公子『あ、私が作りますよ。電話貸してください。』
公子は親に事情を説明し、許しを得た。
麻里『しっかりしてるね。』
母『あなたたちは電話しなくていいの?』
麻里『私たちは、既に見捨てられてるから、いいんですよ。』
麻里はため息をつきながら、そう言った。




