暗い部屋
私『失礼しました。』
ガラガラガラ・・・
麻里『どうだった?私と人見のときは、パチン!っていかれたんだけど。』
私『臭い息を吐きながら、汚い唾を飛ばしながら、くどくどと説教された。』
麻里『殴られなかったんだ。』
私は、何で殴られなかったんだろう。多分聞き分けのいい子なんだって思われているからだ。人を見た目で判断するなって、教わったのは、幼稚園か小学生の頃。あの生活指導はそれを習っていないか、中年になったせいで、それを忘れてしまったから、人を見た目で判断するんだ。私は、深いため息をついて、学校を後にした。
麻里の家が見えてきた。去年の夏、麻里の家に手紙を届けてから、私の人生が少しだけ、右左どちらかにずれてしまった。もうすぐ見えてくるT字路では、ガードレールを飛び越えようとしたし、それをたまたま?見ていた人見に助けられたりしたし、親子ゲンカして、家を飛び出したら、雨が降っていて、そこにもたまたま人見がいて、私は人見の家で色々、教えてもらった。そのあとは怖いことが起きてしまった。こんなはずじゃなかった。そう言いながら、私は中央公園のベンチに腰掛けた。バイトは6時からだから、まだ時間がある。私は缶コーヒーを買った。
私『雨が降りそう・・・。』
空が暗くなりそうだ。こう見えて、私は雷が苦手だ。だから、雨が降りそうなときは、雨だけ降ってくれと願う。雷は百害あって一利なしだ。
ゴロゴロゴロ・・・
雷が唸っている。私は早いけれど、アルバイト先に向かおうとした。そのとき。
???『白瀬・・・色葉さんですね。』
私『え、誰で・・・。』
私は気を失った。後ろから、何かを嗅がされたのだ。気づいた時には、暗い部屋に1人寝かされていた。
私『ちょ、ちょっと!?誰か!!』
私は思い切り叫んだ。体が動かない。手首に手錠をかけられ、頭上で固定されているからだ。
私『誰かー!!誰かー!!』
私は力の限り叫んだ。でも、誰も返事をしない。ただ、頭の方角に人の気配があるような気がしている。
私『誰かいるんでしょ!!』
???『・・・。』
私『ねぇったら!!』
???『・・・。』
私は頭にきて、後方に回転するように、人の気配がする方を蹴り上げた。
グキッ!!
私『痛い!!』
首を捻ってしまった。やはり慣れないことは、するもんじゃない。すると、誰かが私の体を元の位置に戻してくれた。
私『やっぱり、いるんじゃない!!あなたは一体、誰なの!?』
???『私も、あなたと同じ境遇で、ここに連れてこられたの、始めは怖かったけれど、
しばらくしたら慣れるわよ。』
その誰かは、そう言った。多分無表情だ。
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店長『白瀬は、まだ来ないのか。』
古賀『そうみたいですね・・・。私、先輩に電話かけてみます。』
プルル・・・プルル・・・
ガチャ。
美知『はい、白瀬です。・・・あ、はい。お母さん、お姉ちゃんのことで・・・。』
母『え、どこから?・・・はい、色葉の母です。えっ、色葉がまだそちらに出向いていないんですか!?』
母は、自分のことが頭によぎった。
母『クビ・・・。クビ・・・。クビ・・・。』
古賀『それじゃ、今日はお休みってことで、店長に報告しておきます・・・。』
母『必ずそちらに行かせますから、あの子のクビを切ることだけは、勘弁してやってください!!』
古賀『は、はあ・・・。』
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私『同じ境遇って、どういうこと?』
???『私の親も、子どもに黙って借金をして、返せなくなって、私は、ここに連れてこられたの。』
私『じゃ、じゃあ、私、借金の糧に売られたってこと!?』
???『あなたの場合は少し違うの。あなたの借金は返す、返せない以前に特別なルートから発生したお金なの。』
私『特別なルートって?』
???『あなたのお母さん、水商売の世界に住んでいたでしょ。きっと、その世界のお友達に教えてもらったルートから借金したはずよ。お友達だから、安心したのね。』
私『結局、私は売られたの?』
???『あなたは売られたんじゃない。ただ、ここで1ヶ月働いてもらうだけ。』
私『1ヶ月って・・・私、高校3年生なの。進路も、まだ決まっていないから、こんなところに監禁されて、笑っていられるほど暇じゃないの。お願い、帰らせて。』
???『私に決定権はないの。』
決定権?まだ、人がいるってこと?そのとき、脚側のドアが開いた。
???『目が覚めたか。』
私『誰?いい加減名前を教えてよ!!』
???『気が強いな。俺は【岸谷守】元ヤクザだ。そっちは【仰木瞳】お前と同じような境遇っていうのは聞いてるよな。』
私『元ヤクザって、脅し文句?』
岸谷『さあ、どうだかな。信じたくなければ信じてくれなくても構わない。』
私『1ヶ月、働かせるって言ってたけど、何をさせる気?』
岸谷『ここがどういうところか知っているか?』
私『わからない。』
岸谷『ここは違法風俗店だ。』
私『違法風俗店?』
岸谷『お客様は1日にお一人様のみ、それに一度サービスを受けたら、半年間は利用禁止っていう徹底ぶりだ。』
私『なんで、そこまで慎重なの?ちゃんと申請して、指定された地域で経営すれば、恐れるものなんてないじゃない。』
岸谷『母親の入れ知恵か?』
私『・・・。』
岸谷『ここの料金は複雑で、客の行動に従業員・・・と言っても、1人しかいないが。客の行動に従業員が、その都度、値段を耳元で囁くんだ。行為の最中に、それを聞き取れる客は、早々いないし、断ればそこで終了になるようなタイミングで囁くから、金がたんまり積まれていくって仕組みだ。』
私『私にそれをやらせるの?』
岸谷『お前は雑用だ。』
私『雑用?掃除とか?』
岸谷『ああ、ただ雑用の報酬は1日に1万円。とてもじゃないが、1ヶ月では返せないな。』
私『1ヶ月では返せない?一体、母はいくら借りたの?』
岸谷『100万だ。少し安心したろ?』
私『ちょっと待ってよ。1ヶ月で帰してくれるって言ったじゃない。』
岸谷『それは、従業員としての勤めをしっかり果たした場合だ。客は1ヶ月に4人来れば多いほどで、1人だけでも、40万は請求できるからな。』
元ヤクザは、腕組みをしながらそう言った。




