普通の生徒
私は瞳さんから色々教わった。お客さんとの接し方、囁きのタイミング、その他諸々のテクニック。・・・まだ初日だから、全然頭には入っていないけれど楽しかった。卒業式の練習なんかよりも楽しかった。こうしてモザイクは増えていくんだな、と私はしみじみ思った。
ガチャ・・・。
瞳『どうだった?疲れたでしょ。』
私『うん、でも、面白い仕事だね。』
瞳『そう?』
私『学校じゃ教えてくれなかったことばっかりだったんだもん。』
瞳『色葉ちゃんって学校じゃ、どんな生徒だったの?』
私『どんなって普通だよ。逆らうわけでもなく、引きこもるわけでもなく、ただただそこに存在するだけの普通の生徒だよ。』
私は普通の生徒であることに負い目を感じているのかもしれない。公子のようにスポーツ万能でもないし、麻里のように怖いもの知らずでもない。自分を変えたかったんだ。自分が嫌いなんだ。だから、こんな私を産んだお母さんは、それ以上に大嫌いなんだ。そんな母が可愛がる美知も大嫌い。だから変わらなくちゃ。
私『裏庭って、暇なときに立ち寄っていいの?』
瞳『何するの?もしかして大麻・・・?』
私『私は泥棒でも、中毒でもないよ。ちょっと外に出てみたいだけ。』
瞳『そう・・・。私が付いてたら大丈夫だと思うけど・・・。』
私『いいよ、裏庭に行こう。』
私たちは裏庭へ向かった。壁を越えるのは無理だけど、その壁の外を一瞬だけでもいいから確認したかった。
私『瞳さん、この建物の住所ってわかる?』
瞳『・・・ごめんなさい。わからない。』
私は壁に沿って思いっきりジャンプした。そして見えた景色には見覚えがあった。
私『(田んぼ・・・?)』
外は一面田んぼが広がっていた。
私『(あっちに見えるのは、もしかしてイトさんの駄菓子屋の裏?)』
瞳『色葉ちゃん・・・。もう中に帰らない・・・?私、苦手なの。この空間。』
大麻が栽培されている裏庭が好きという人は、もう中毒の人間だろう。
私『あ、ごめんなさい。長居しすぎたかな?帰ろう。』
ガチャ・・・
扉に向かっていると、誰かが出てきた。
岸谷『お前ら、何してるんだ?刈りに来たのか?それとも、嗅ぎに来たのか?』
瞳『外の空気を吸いたかったのよ。』
私『今日の報酬はあるの?』
私は岸谷に会うと、この質問ばっかりしている気がする。それほど、この人に興味がないということだろう。
岸谷『今日の報酬はねぇよ。』
私『はあ!?なんで!?』
岸谷『なんでって、今日お前働いてないじゃん。働かざるもの金得るべからずだ。』
確かに今日は働いてない。・・・言葉が思いつかない。
岸谷『なんだよ、その顔は。煙草くらいならやるよ。』
岸谷は煙草の箱を私に放り投げた。
私『ライターは・・・?』
岸谷『吸うのか、ほらよ。』
また放り投げた。私は物乞いじゃない。でも拾ってしまう。私は煙草に火をつけた。初めて煙草を吸った夜は咳き込んだり、指を火傷したり散々だったけれど、いつの間にか手馴れていた。そんなに吸っていなかったのに。
瞳『煙草好きなの?』
私『嫌い。』
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麻里『ねぇ、佐村・・・手伝ってよ。』
佐村『・・・。』
麻里『佐村ってば!!』
佐村『ZZZ・・・。』
麻里『ぅぅぅ・・・さあぁぁぁむうぅぅぅらあぁぁぁ!!!!』
ゴロゴロ!!ガシャーーン!!ビリビリビリ
佐村『か、感電する!!うぎゃあああ!!』
麻里『ギターにアンプつけたまま寝るって、どういう神経してんの!!』
佐村『ごめん、ごめん、なんだよ。お前はエレキテルか!?』
麻里『だから、白瀬行方不明事件の調査を許されたんだって!!10日間だけだけど。』
佐村『俺はダルいからいいよ、曲作りに忙しいし。』
麻里『・・・あんた、それでも1年前、白瀬を救った、あの佐村と同一人物なの!?』
佐村『ああ、同一人物だよ。』
麻里『・・・もういいよ、人見がいるから。』
バタン!!
佐村『あの短気は治らないのかな。回復は早いんだけど。』
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人見『ダメだったか?』
公子『なんか雷が落ちたような音がしたけど・・・大丈夫?』
麻里は無言で人見のバイクの後ろに跨った。




