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瞳『色葉ちゃん、朝よ。』
私『あ、うん。』
そういえば、瞳さんは、ずっと私の頭の上に座っているのかな。
瞳『結局やるの?』
私『やるよ。』
疑問はあったけれど、口数も少なく、私と瞳さんはシャワー室へ向かった。
ガチャ・・・
ピンク色の壁、変な形の椅子、ムリに着飾った浴槽、でも、心を癒してくれる不思議な空間。女神でも住んでいるんじゃないか。
私『瞳さんは何年くらいこの仕事やってるんですか?』
瞳『私、老けて見える?』
私『いや、そういう意味じゃなく・・・。』
瞳『冗談よ(笑)10年くらいかな・・・多分。でも、実感がないの。』
私『実感?』
瞳『私、ここに連れてこられてから、ほとんど外に出られない生活で、10代から心があまり成長してないの。』
私『でも、10代の私より、全然大人びてるよ。あ、いい意味でね。』
瞳『10代から大人びていたの。』
瞳さんは悲しい顔をして、そう言った。
瞳『そのせいもあって、ここの環境にはすぐに馴染めたの。先輩達も優しかったし。』
私『先輩?10年前は、まだ表向きに営業してたの?』
瞳『そうなの、でも、私が来てから3年くらいで岸谷が表向きに営業することをやめたの。』
私『なんで?』
瞳『わからない。』
私『その先輩達は残らなかったの?残らなかったのなら、なんで瞳さんは残ったの?』
瞳『前にも言ったけど、私は借金の代わりに、ここに売られたも同然の身だったから。』
借金の代わり・・・。
私『岸谷は瞳さんと、どういう関係なの?その・・・借金の代わりって・・・。』
瞳『安心して。実はね、岸谷って女性に興味ないの。』
私『それって、・・・そういうこと?』
瞳『違う、違う(笑)お金にしか興味がないみたいなの。でも、こういう店を経営してるのっておばさんが多いイメージだから、ありえなくもないわね。』
岸谷の疑惑は私の心を少しだけ軽くしてくれた。瞳さんのおかげかも。
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母『・・・。』
大山『行方不明・・・警察の方には・・・。』
母『断られました。1週間ほど行方不明になってから来てくれと・・・。』
大山『そんなひどいことを・・・?本当ですか?』
母『本当です!!信じてください!!』
大山『・・・私たちとしましても、3年生の卒業に関する仕事で手一杯で・・・。』
母『だから、あの子も3年生で卒業を控えている生徒の一員じゃないですか!!』
大山『それは十分承知しているのですが・・・。』
母『・・・。』
ガラガラガラ・・・
大山『あなたたち、授業中でしょ!?何してるの!?』
麻里『先生ね、回りくどいのよ。』
人見『力を貸せないなら、貸せないってはっきり言えばいいじゃん。』
公子『私たちが、手を貸すからさ。』
母『公子ちゃん・・・。』
公子『お母さん、心配しないで、きっと色葉を見つけ出しますから!!』
大山『ちょっと待って、卒業式の練習や、卒業文集が・・・。』
人見『そんなのどうでもいいんだよ。』
麻里『もう4日、行方不明なんだよ。卒業式の練習なんて、バカなことして時間を潰してもしょうがないじゃん。』
大山『バカなことって・・・一生に一度の晴れ舞台なのよ!!しっかり練習しないと!!』
麻里『先生が素晴らしい生徒を育て上げましたって、自慢したいだけじゃん。晴れ舞台なんて、言葉には騙されないよ。』
大山『あなたたち、退学になってもいいの?』
母『・・・先生。この子たちに10日間だけ時間をください。・・・お願いします・・・。』
母は土下座をした。
大山『お母さん!?顔をお上げください!!』
麻里『あーあ、泣かしちゃったよ。』
母『お願いします・・・。10日間だけ・・・。』
大山『・・・わかりました。10日間だけ・・・10日間だけですよ。』
母『ありがとうございます・・・。』
大山『柳田さんは進路が決まってるけど、藤浪さんと人見くんは、進路も決まってないのよ。本当に大丈夫?』
人見『先生、何にも知らないんだな。』
麻里『私たち、もう進路は決めてるよ。』
大山『なに?』
麻里『音楽。』
大山先生は呆気にとられていた。自慢の生徒が自分の思い通りの素晴らしい生徒に育たなかったからだ。




