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電車の中で

あなたはどこにいるのだろう?


朝の通勤電車に揺られながらぼんやりと僕は考える。

肩を並べる会社員たちの目は総じてうつろだ。


僕の目の前に座っているのは苦しげな表情をたたえ固く目を閉ざした中年男性。

彼の眉間みけんには彫刻刀で掘られたみたいな深い皺が刻まれている。

それは周囲に促されて自ら作り為す痛みの造形だ。


その裏には外界の事象が情報化されて感覚となり神経を通って脳で処理され今度は運動となって再び外界へ送り返される無数の接続のうちひとつの流路が隠されている。


苦しみとはこの流れの阻害でありまた阻害された流れである。


この複雑に絡み合った神経系と意味解釈のネットワークが私にとって自己と呼ばれているものだ。


世界はこの私の身体だけで完結できないので必然的に私の身体は外界の何ものかに接続される。

私の身体に接続される人・事物の接続の仕方はこの世に生を受けた時点を境にゼロから自由度と流動性を増していく。

だが遺伝的要因や幼少時の環境的要因のために神経系の発達を阻害され思うように自由を獲得することができない場合もある。

けれども事物とは異なり学習する人間の自由は明らかに一貫して増大していく余地がある。


そして学習することで人間は他者の不在も感情の未熟さも補っていくことができるのである。


たしかにあなたはいまここにいない。


だから時空間をどこまでも遡り考えようとする。

線路を辿って一つひとつの駅の所在を確認していくように。

あなたがいなくて私だけでもより良い事物の接続と感情の接続の在り方を模索する。


しかしそれもつかの間願わくば誰も何ものも我有しない私の存在と感情とが虚無へと消え去ってくれるようにと、苦しみが私の思考を加速させる。


けれどもその願いは願われる限り一向に叶えられることがない。

私であることの孤独から逃げることは出来ない。

死に至る病、絶望とはこのようなものなのだろう。


救われようのない私の存在と感情。

誰とも共感できないから誰と場所を同じくしても落ち着かない。


あなたはどこにいるのだろう?


そしてこの電車はいったいどこに向って走っているのだろう?

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