第9話 残された携帯電話
ー新宿歌舞伎町ー
ユオとエリカは、追っ手から逃れて走っていた。
「こっち!」
途中でエリカがユオの腕を引っ張って、建物と建物の隙間に入った。
エリカは息を切らしながら、ユオの顔を覗いて聞いた。
「ユオ、大丈夫?顔色悪いよ」
ユオは腹を押さえながら苦笑いをして言った。
「まぁなんとかね」
ユオのジャケットに血のシミがついているのを見たエリカは、ジャケットに手を伸ばした。
「ちょっとお腹見せて!」
エリカがジャケットをめくると、ユオの腹に巻かれた包帯は血で真っ赤に染まっていた。
「わ~!出血してるよ!
病院行かないと死んじゃうよ!」
エリカは、ユオの顔を見て心配そうに言った。
「取り敢えず病院いこう!」
「大丈夫だって。今さら病院戻れないし」
「行かなきゃダメ!」
エリカは、嫌がるユオの手を両手で引っ張って通りに出た。
通りに出た途端エリカは、粉だらけのラッキョ顔の男に後ろから羽交い締めにされた!
「キャー!」
そしてユオは、ラッキョ顔の男に蹴り飛ばされた!
ユオが立ち上がって向かっていこうとすると、ラッキョみたいな男はナイフを出してエリカの首に当てた!
「大人しくしてろ!さもないと、女の首をかっ切るぞ!」
エリカはナイフを持った腕を思いっきり噛んだ!
「イデーーー!!」
ラッキョに似た男は、たまらずナイフを落とした。
それを見てユオが突っ込んだ!
ラッキョ男の腕を取って、背中にねじり混む!
そして襟首と腕をつかんで、壁に叩き着けた!
ラッキョは頭を打って、ぐったりとしてその場に倒れた。
「エリカ、大丈夫か~?」
ユオは、ラッキョが持っていたジャックナイフを靴下の中に入れながら、エリカに言った。
「大丈夫よ。ってゆ~か、ユオ、あんたの方こそ大丈夫なの?病院行かないと…」
「ダイジョブダイジョブ~。さあ行くよ~」
ユオはエリカを置いて走り出す。
「ちょっと~!待ちなさいよ~!」
エリカは、ユオの後に続いて再び走り出した!
その頃ボッサンとオッパイは、アオイを探して走っていた。
「アオウィ~は何処まで行ったんだ!」
ボッサンが走りながらオッパイに 言った。
「あんにゃろ、どっかで休んどるんとちゃうやろな!」
オッパイは、手で目の上にひさしを作って、辺りを見渡しながら言った。
ボッサンとオッパイが道を左に曲がると、道端に立っているアオイが見えた。
「お、おった!」
ボッサンとオッパイがアオイの所に行ってみると、アオイの足元に白い粉まみれのラッキョが落ちて… 倒れていた。
「アオウィ~、お前がやったんか?」
ボッサンが聞くと、
アオイは首を横に降った。
「おれじゃないっスよ。始めから倒れてたんスよ」
ボッサンは倒れているラッキョの脇腹を足で突っついた。
「おい!起きろ!」
「う…… う~ん」
ボッサンは、しゃがんで目を覚ましたラッキョの胸ぐらを掴んで聞いた。
「おい!姫川エリカとトッチャン坊やはドコ行った!」
「し、知らねえよ。知ってても、神倉組の奴には教えねぇよ!」
ラッキョは、口をへの字にして横を向いた。
「ほほ~。神倉組も姫川エリカを探してるのか。いい事聞いたぜ。じゃあゆっくり休んでな。おやすみ!」
ボッサンは、ラッキョの頭を地面にぶつけた。
「うっ…… う~ん」
ラッキョはまた気絶した。
ボッサンは携帯電話を出して、ユオに電話を掛けた。
「おいユオ!お前ドコ行ってんだよ!…… 今ドコだ?…… 今行くからそこでまっ…… どうした?ユオ!…… もしもし?ユオ!…… 返事しろ!…… 切れた…… 。オッパイ、アオイ、行くぞ!」
3人は走り出した!
道の角を曲がると、遠くに白のダッジバンがタイヤを鳴らして走り去るのが見えた!
「あれか!」
3人は追いかけるが、当然間に合う訳がなかった。
「チッキショ~!ハァ、ハァ」
ボッサンは肩で息をしながら立ち止まった。
「ボッサン!これ!」
アオイが拾い上げたのは携帯電話だった。
ボッサンは、その携帯電話を手に取った。
「ユオの携帯だ……」
その携帯電話は液晶が割れていて、血で赤く染まっていた……