第8話 And I~♪
ー新宿歌舞伎町ー
10:00
「私が寝てる間に変な事しなかったでしょうね!」
エリカは、首を回してるユオに疑いの眼差しで言った。
昨日の夜はエリカをベッドで寝かせて、ユオはソファーで寝たのだが、どうやら首を寝違えたらしい。
「何にもしてないよ~!それどころじゃなかったし」
ユオは、首と腹を擦りながら言った。
ユオとエリカは、ホテル『ボン』を出て荻野目探偵事務所に向かっていた。
しかし2人を探している白龍会が、歌舞伎町の中を右往左往していた。
「ねぇ、あんた名前なんだっけ?」
エリカは、物陰から様子を伺っているユオに言った。
「三神田龍一。みんなは『ユオ』って呼んでる」
「ユオ?へんな名前。ま、いいや。
じゃあ、ユオ。映画『ボディガード』のケビンコスナーみたいに私を守ってよね!」
エリカは腰に手を当てて、スター気取りで言った。
「え~っと?僕がケビンコスナーで?君が?」
ユオは振り返ってエリカを下から上まで見て、確認の為に聞いてみた。
「ホイットニーよ♪私、あの映画大好きなの~!
まぁ、あんたはケビンと言うより…… プッ、奇面組ね。ハハハ」
「くそ~!悔しいけどよく言われる~!」
「だけどユオ~、何だか昨日より増えてない?白龍会の奴ら」
「ヤバいな~。しょうがない。助けを呼ぶか」
ユオはポケットから携帯電話を出しながら言った。
ユオは今まで携帯電話の電源を切っていた。病院から抜け出した事を絶対怒られると分かっていたからだ。
しかし縫った傷口も痛むし、ここらでボッサンたちの助けを借りないと、さすがにマズイ事になりそうだ。
ユオは携帯電話の電源を入れた。そしてボッサンの携帯電話に掛けた。
呼び出し音が1回鳴ってボッサンが出た。
携帯電話からボッサンの顔が飛び出してきそうな勢いで怒鳴り声が聞こえてきて、ユオはたまらず耳から携帯電話を離した。
しばらくしてから携帯電話を耳につけた。
「ご心配かけました。…… は~い、大丈夫っすよ~。…… ちょっと痛いかな~。…… 大丈夫、ジェット機だって12時間ありゃ~直ら~!…… ここ?ここは~、ミラノ座の裏かな。それと~、姫川エリカが隣にいる。…… 逃げて来たんだって。…… そういう事。…… は~い」
ユオは携帯電話を切った。
「何だって?」
エリカは、ユオのジャケットの裾を引っ張って聞いた。
「ここで待ってろってさ。待っていられればいいんだけど… 」
ユオとエリカは自販機の陰にしゃがみ込んだ。
そんなユオの不安な気持ちを見透かすかのように、通りの端から男が2人こっちに歩いてきた!
ユオがエリカの腕を取って反対の方向に行こうとしたら、目の前にニヤついた男が立っていた!
「見~つけた!」
ー神倉組事務所ー
白龍会が姫川エリカとユオをちまなこになって捜している時、
神倉親分は応接室の50インチのモニターで、テレビゲームをしていた。
「あ~!うさった~!あ~、バンカー入っちゃう!止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ!止まって、止まって、止まってって言ってんじゃん!…… あ~あ、入っちゃったよ」
神倉親分の携帯電話が鳴った。
電話に出る。
「まったくもう!スズ、お前のせいでバンカー入っちゃったじゃね~かよ!」
神倉親分は、行き場の無い怒りをスズにぶつけた。
「あ~、すいません。以後気をつけます」
スズは、何だか判らないが取り敢えず謝った。
「それで?何だ」
神倉親分はバンカーショットの構えをしながら聞いた。
「あ、それでですね。白龍会が追ってる女の事が判りやした。
名前は、姫川エリカ。高校2年生。白龍会の弱みを握ってるみたいっすね。それと、姫川エリカと一緒に逃げてる男がいるらしいっすよ」
「風が……5mか?傾斜がこうで…… せえの!おりゃ!…… そのまま行け!……よし!チップインバーディー!ん?何か言ったか?」
「だから~、姫川エリカと一緒に逃げてる男がいるんすよ」
「何者だ?その男は」
「そこまでは分からないっす」
「取り敢えずその2人を白龍会に渡すな!こっちで確保するんだ!」
「分かりやした」
携帯電話を切る神倉親分。
「よ~し!攻めていくぞ!次はイーグルだ!」
ー新宿歌舞伎町ー
男はユオを蹴り飛ばした!
ユオは自販機に叩きつけられた!
傷口を蹴られたユオの顔が苦痛にゆがむ!
男はユオの胸ぐらを掴む。
「まったく何処うろついてたんだよ!手こずらせやがって!」
「ちょっと、やめなさいよ!」
エリカが後ろで怒鳴る。
道の端から歩いてきた男2人が、騒ぎに気づいて走ってくる!
「お前はここでオネンネしてな!」
そう言って、男はユオに向かって殴りかかった!
ユオは頭を下げて拳をかわす!
男の拳は自販機を思いっきり叩いた!
「イッテ~!!」
男は拳を押さえてうずくまる!
そこへ、エリカがドコからか持ってきた消火器を、両手で持って振り上げた!
「やめなさいって言ってるでしょ~!」
ガンッ!
消火器を頭に降り下ろされた男はその場に倒れた。
しかし男2人がこっちに迫ってきた。
「イテテテッ。こんなもんドコから持ってきた?」
ユオはエリカから消火器を奪い取ると、安全ピンを抜いた。
そして向かってくる男2人に向けて消火器を噴射した!
「うわ~!目が!目が~!」
男2人は真っ白になってうずくまった。
「逃げるぞ~!」
ユオは消火器を捨てると、エリカの腕を取って走り出した!
ボッサン、オッパイ、アオイの3人は、一足違いでミラノ座裏に到着した。
「あれ~?いないぞ。待ってろって言ったのによ~!。ん?あいつら何だ?」
自販機の前で寝てる男と、そいつを起こしてる全身真っ白な男。そして、走っていくもう1人の真っ白な男。
ボッサンたちは男2人に駆け寄った。
「おい、どうした。バツゲームで粉でも被ったんか?ま~そんな事はどうでもいい。この辺で、タッパのデカイカップル見なかったか?」
ボッサンは男2人に聞いた。
すると、寝ていた男が立ち上がりながら聞いてきた。
「なに?テメエらも姫川エリカを追ってるんか?」
聞いてきたかと思ったら、いきなり殴りかかってきた!
ボッサンは慌てて避ける。避けながら足をヒョイっと出した。
パンチを避けられてつんのめった男は、ボッサンの足に引っ掛かってすっ転んだ。
「お前らか?姫川エリカを追ってる奴らは!アオウィ~、もう1人を追っかけろ!」
ボッサンはアオイに言った。
「イエッサー!」
アオイは走っていった。
もう1人の真っ白な男は、オッパイに殴りかかった!
オッパイは男のパンチを最小限の動きでかわしていく。
そしてファイティングポーズをとると、男の隙をついて右ストレートを放った!
オッパイのパンチは
男の顔面を直撃!男は吹っ飛んだ!
ボッサンは、男が起き上がった所でCQCをかけた。
「うっ…… ぐるじい…… 」
そして男は気を失って倒れた。
ボッサンは手をパンパンと払うと
「オッパイ、アオウィを追うぞ!」
そしてボッサンとオッパイは走っていった。
ー白龍会事務所ー
組長の鷹は、1ヶ月前に組に入った新米のいけっちを呼びつけた。
「組長、お呼びですか?」
鷹は立ち上がり、いけっちの隣に立って肩を組みながら言った。
「なぁいけっちよ。おめ~もそろそろ組に馴れてきた頃だから、仕事を任せようと思うんだ」
「え!ほんとっすか!」
目を輝かせるいけっち。
「おめ~なら出来ると見込んで任せるんだからな!」
「はい!で?何をすれば?」
鷹はいけっちの耳元で言った。
「神倉組の組長の首、取ってこい」
いけっちは、たじろいだ。
「そ、それは……」
逃げようとするいけっちを鷹は離さなかった。
「心配するな。俺がかくまってやるから安心しろ」
鷹はいけっちの肩をギュッと掴みながら話を続けた。
「なぁ~に大した事ないさ。こいつで神倉組長をひと突きすりゃあいいだけだ」
そう言って、いけっちの手にドスを握らせた。
「この仕事が終われば、おめ~も幹部の仲間入りだ!男を見せてみろ!いけっち!」
鷹はいけっちの背中を叩いた。
「は、はい……」
いけっちは弱々しく返事をして部屋を出ていった。
部屋の隅で話を聞いていた殺し屋アイスマンが、鷹に寄ってきて話しかけた。
「いいんですかい?あんな事言っちゃって。
ホントにかくまってやるんですかい?」
鷹はタバコに火をつけて、煙を吐きながら言った。
「かくまう?知らねぇなぁ。奴は勝手に神倉組長の首を取るんだ。知ったこっちゃねぇよ。
神倉と刺し違えて、いけっちも死んでくれりゃあ一番いいんだがな。ハハハハハッ」
鷹の高笑いが無情に響き渡った……