第5話 助けを呼ぶ光
ー新宿警察署捜査1課取り調べ室ー
姫川エリカは拉致され、ユオは刺された。
ユオは病院に搬送され、ボッサンはユオを刺した犯人の事で事情聴取を受けていた。
「姫川エリカが誘拐されたってどう言う事だ?」
北川警部補は机の前を行ったり来たりしながら、椅子に座って頬杖をついているボッサンに聞いた。
「だからさっきから言ってるだろ?姫川エリカはドラックをやってて、その売人に拉致されたって。その時にユオが刺された。
黒沢ユリの死も、自殺じゃない可能性が高い」
ボッサンはタバコをくわえて、ライターを探しながら言った。
ホヘトはボッサンのくわえてるタバコを取った。
「姫川エリカって理事長の娘だぞ?いくらなんでもドラックはやらないだろ。大体家族から捜索願いはまだ出てないしな。それよりお前ら!またなんかヤバい事に首突っ込んでるんじゃねぇのか?」
ホヘトは取ったタバコを口にくわえて、ライターをポケットから出しながら言った。
ボッサンは立ち上がって、ホヘトの口からタバコを取り返した。
「危険な男には危険は付き物なのさ!そんな事より、早く犯人を捕まえろよ!非常線は張ったのか?」
そう言ってボッサンは、タバコをくわえてライターの火を近づけた。
ホヘトは顔を近づけてライターの火を吹き消した。
「そんな事は言われなくてもやってるよ。オベ、どうなってる?」
記録係として隅の机にいた喜多村刑事は、パソコンをカチャカチャやりながら言った。
「えっとですね、手配中の車の発見情報は、まだ入って来てません」
「早く取っ捕まえねぇと、姫川エリカの命があぶねぇ!もしも姫川エリカが殺されたらホヘト、許さねぇからな!」
そう言うとボッサンは、くわえていたタバコを折って灰皿に捨てた。
ー市内コインパーキングー
オッパイとアオイは、黒沢ユリが飛び降りた日の宿直だった鮫島を尾行して、このコインパーキングまで来た。
コインパーキングの中はガラガラで、鮫島の車は一番隅の暗がりに停まっている。
ここに入って既に20分、鮫島は車に乗ったままだ。
オッパイとアオイはコインパーキングの外で様子を伺っている。
「何やってんスかね」
アオイは助手席で暗視スコープを覗きながら言った。
「相棒を待っとんのやろな」
オッパイは頭の後ろで両手を組んで言った。
そこに1台のジャガーがやって来て、コインパーキングに入った。
「多分アイツやろ」
オッパイはシートに座り直した。
中に入っていったジャガーは、鮫島の車の隣に停まった。
「ビンゴ!来よったな。アオイ、これ貸したるから側に行って話聞いて来いや」
そう言ってオッパイは、ダッシュボードから聴診器を出してアオイに渡した。
「バレますって!無理ッスよ!」
聴診器を押し返すアオイ。
「大丈夫やから、はよ行って来い!見つかったら『洗車いかがっすか~』とでも言っときゃ分からへんて」
そう言ってオッパイはアオイの首に聴診器を掛けた。
そして渋々車を降りるアオイ。
「オッパイさん、いっつもおいらにやらせて自分は楽してんだよな~。きったね」
独り言をいいながら近づいて行く。
ジャガーの側に来たが、誰も乗っていない。ジャガーの持ち主は、鮫島の車の中に居るようだ。
鮫島の車の後ろに回り、トランクに聴診器を当てる。すると声が聞こえて来た。
「ここに来るまで誰にも見られてないだろうな!
へへっ、大丈夫ですよ。注意して来ましたから」
全然注意が足りね~なとアオイは思った。
「警察には怪しまれなかったか?
警察なんてチョロいもんですよ。気が動転しててって言ったらすんなり信じましたよ。
無理言って悪かったな。これは約束の50万だ。
はいどうも!
でですね、ものは相談なんですが、もう50万欲しいんですけどね。
何を言ってる!約束が違うじゃないか!
いやだったら警察行って、本当の事言っちゃいますよ~?
き、貴様!弱みに漬け込みおって!
あなたともなれば100万位楽勝でしょ?
分かった。明日、また電話する。
お願いしますよ。これからも長くお付き合いしたいんでね」
鮫島の車から男が出てきて、辺りを見渡しながらジャガーに乗り込んだ。
アオイはジャガーの後ろに隠れる。
鮫島は車のエンジンをかけてパーキングから出て行った。
ジャガーは停まったまま動かない。
アオイは聴診器を当てて見た。すると、電話を掛けているようだった。
「マズイ事になって来た。鮫島が吹っ掛けて来やがった。…… あと50万…… その方が良さそうだな。…… 後々面倒だからな。任せるよ。…… じゃあ」
アオイは聴診器を外すと近くの車の影に隠れた。
ジャガーはエンジンをかけると、静かにパーキングから出て行った。
アオイはオッパイの車に戻りジャガーを追ったが、見失ってしまった。
結局、鮫島に金を渡した男の正体が分からなかった。しかし鮫島は嘘の証言をしていた事が分かった。
ー東京医科大学病院ー
ユオは目が覚めた。
“ここはどこだ?”
部屋の中は薄暗く、ユオ1人ベッドで寝ている。
横を見ると心電図と脈拍の機械。腕に点滴。
“病院?…そっか刺されたんだっけ”
自分の腹を見ると包帯が巻かれていた。
壁の時計を見る。
時間は……2時。
夜中の2時か。
ふと見ると、心電図の機械の後ろの棚で、点滅している光が微かに見える。
何だろうと思い、ベッドから起き上がる。
不思議と痛みはなかった。
起き上がってベッドに腰掛ける。
どうやら棚の引き出しの中で光っている様だ。
立ち上がると、麻酔のせいかフワフワした感じがする。
棚の引き出しを開ける。
財布と携帯電話があった。
携帯電話を見ると、
『着信あり』
のランプが光っていた。