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第4話 天使と悪女


ボッサンとユオを乗せたエレベーターは、5階のクラブ『ドランクモンキー』に着いた。


エレベーターを降りると、店内のスピーカーの振動が足から伝わって来た。

入り口で料金を払い店の中に入る。


大音量のR&Bが鳴り響く店内は、薄暗い客席にまばらな人影で、フロアーでは数人の男女がフラッシュライトを浴びながら陶酔して踊り狂っている。


奥のガラスで仕切られたVIPルームにエリカはいた。

ボッサンとユオは少し離れた席に座った。

エリカは、見るからにガラのワルそうな男達と話をしている。

ボッサンとユオがエリカを見ていると、後ろから声がした。


「あれ~?ボッサンじゃな~い?」


ボッサンが振り返ると 、胸元がザックリ開いたミニのワンピース姿のマリリンがいた。

マリリンとは、ボッサンが川口警察署の刑事だった頃よく通った

オカマバー「マリリンの部屋♪」

のスタイル抜群の美人おかまママである。


「お~!マリリンか、久しぶりだな。 まぁ座れよ。どうしたこんな所で?」


ボッサンはマリリンの胸元を見ながら言った。


「え~?私?今日はね、新しい仲間連れて踊りに来たのよ~♪」


そう言って胸をブルブル震わせるマリリン。


「川口から来たんか?」


ボッサンがタバコをくわえると、空かさず火を着けるマリリン。


「川口の店は処分して、2丁目に新しくオープンしたのよん。今度遊びに来てね♪」


マリリンは名刺を出してキスマークを付けてボッサンに渡した。


「う~んと?『新・マリリンの部屋♪』か。分かった。今度遊びに行くよ」


「ボッサンは? 遊びに来たの?」


マリリンはユオにニッコリ微笑みながら言った。


「仕事だよ、仕事。あそこのVIPルームに女がいるだろ?あいつを張ってる」


マリリンは、VIPルームのエリカをしばらく見つめてから言い出した。


「え!この子ワルい子だね~!…… ふ~ん」


「お前、何で姫川エリカがワルい子だって分かるんだよ!」


「だってあの子、あいつらから”スピード”を買ってたみたいよ」


マリリンはエリカをジッと見つめながらそう言った。


「”スピード”ってドラックのか?何で姫川エリカが買ってたって分かるんだよ!」


ボッサンは、マリリンの横顔に聞いた。

するとマリリンはボッサンの方を向いて言った。


「私、唇が読めるの。声が聞こえなくても、何喋ってるか分かっちゃうのよ」


「なにゅ~ん!ほんとか?じゃあ奴らの会話を通訳してくれ!」


マリリンはVIPルームを見ながら喋り出した。


「え?どう言う事だよ、エリカ。


だから~あんな事になっちゃったからもう買わないって言ってるの。


買わないだ~?じゃあこの”スピード”どうすんだよ。テメエが欲しいってゆ~から仕入れて来たんだろ!あぁ?


ごめん。もう買わない。もう辞める。


もう辞めるだ~?今さら辞められる訳ね~だろ!


もうここにも来ないから。あんたらとの付き合いも今日で終わり。じゃあ帰るね。


ちょっと待てよ!おい!



アニキぃ、あのアマやべ~んじゃないスか?多分、サツにチクリますぜ!


あぁ、分かってる…… 分かってるさ…… 」


VIPルームから出て行ったエリカを見て、ボッサンとユオは立ち上がった!


「マリリン、ありがとな!今度遊びに行くから」


「うん、いいから。それよりあの子の力になってあげて!」


ボッサンはマリリンに手を上げると、ユオと一緒にエリカの後を追った。


ちょうどエリカの乗ったエレベーターの扉が閉まる所だった。


「ユオ、行け!」


ボッサンはユオの背中を叩いた!

ユオはダッシュしたがタッチの差で扉は閉まった!


「階段だ!」


ボッサンの声と同時にユオは階段に飛び込んだ!

ユオは物凄い勢いで階段を降りて行った!


ユオが1階に降りた時、エレベーターの扉が開いた。

エリカは、両ひざに手をついて肩で息するユオを見てビックリした顔をしたが、ソッポを向いて歩いて行った。

ユオはエリカに声を掛けた。


「お前このままじゃ危ないよ!」


エリカは立ち止まって振り向いた。


「あんた誰?警察?」


エリカは怪訝な顔をしてユオに言った。

ユオは歩いてエリカに近づいた。


「いやぁ警察じゃないよ。探偵なんだ。さっきVIPルームに居た奴らって何者なの?」


「あんたに関係ないでしょ!」


エリカはクルッと向きを変えて早足で歩き出した。

ユオも歩いて横に並ぶ。そしてエリカの腕を掴んで立ち止まった。


「すんなり奴らと手を切れるとは思えないからさ。なんかあったらここに電話して。携帯番号書いてあるから」


ユオは自分の名刺をエリカに渡した。

エリカは、ユオの顔をジッと見つめてから名刺を見た。


「三神田龍一… 名前負けしてない?フフッ。いいわ、何かあったら電話してあげる」


エリカは名刺を仕舞うと歩いて行ってしまった。

ユオは、歩いて行くエリカの背中を見送った。


ユオは来た道を戻り始めると、前からボッサンが歩いて来た。


すると後ろで車の止まる音がした。


「ちょっと何すんのよ!」


ユオが振り返ると、エリカが男に無理矢理、車に乗せられようとしていた!

ユオは猛然とダッシュした!

ボッサンも走る!


エリカの腕を掴んでいる男の背中に、ユオは飛び蹴りを喰らわした!

男は吹っ飛んだ!


ユオはエリカを連れて逃げようとする。

その後ろに男が迫っていた!


「ユオ!後ろ!」


ボッサンは叫んだ!

ユオは振り返って男と揉み合いになった!

その間に吹っ飛んだ男が、エリカを車に乗せてしまった。

ユオは男に蹴られて道路に倒れ込んだ。

車は男を乗せると急発進して走り去っていった。


ボッサンは息を切らしてユオの所にたどり着いた。


「ユオ何やってんの!ラチられちまったじゃね~か!」


ボッサンは肩で息をしながら言った。

道路に倒れていたユオは、ゆっくりと起き上がりながら言った。


「ボッサン…… ゴメン……」


なかなか立ち上がらないユオにボッサンは手を出して言った。


「ったく!だらしね~な!ほら、手をだせ!」


ユオはゆっくりと手を出した。

しかし、ボッサンの手に届く前に力尽きた。


「おいユオ~!まったくも~!何やってん……!」


ユオを抱き起こすと、腹の辺りが血で真っ赤に染まっていた!


「おいユオ!しっかりしろ!ユオ!ユオ!目を開けろ!

チクショ~!!」


ボッサンの叫びは、ビルの谷間に消えていった……























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