第3話 女王のエリカ様
ー都立新宿高等学校ー
生徒がゾロゾロと門から出ていく中、ボッサンとユオは門の外で様子を伺っていた。
「ユオ、お前ちょっと行ってさ~、姫川エリカの事聞いて来いよ」
ボッサンはユオを肘で突つく。
「え~?また陸上部の顧問に会ったらやだしな~」
ためらっているユオに、1人の女子生徒が寄って来て声を掛けた。
「あの~、三神田先輩…… ですよね?」
「え?僕?そうだけど、君は?」
ユオは突然声を掛けられてドギマギしてしまった。
「私、小泉今日香といいます。陸上部なんです。陸上部の間では、三神田先輩は有名人ですよ」
小柄でショートカットのその女子生徒は、ニコニコしながら言った。
「そ~お?そうなんだ」
ユオはまんざらでもない顔をしながら言った。
「誰でもあんな事すりゃ~有名になるさ。それより、あれ聞け」
ボッサンに突つかれて我に返ったユオは、小泉今日香に聞いた。
「あのさ~、姫川エリカって知ってる?」
名前を聞いて、険しい顔をしながら彼女は言った。
「知ってますよ~。女王様でしょ?この学校で知らない人はいないですよ~」
「何で女王様なの?」
ボッサンが横から口を挟んだ。
「あの人にはみんな逆らえないんですよ~。後で何されるか分からないから」
周りを警戒しながら彼女は言った。
「そんなに怖いんた。姫川エリカって」
ユオもキョロキョロしながら言った。
「も~やりたい放題ですよ~、理事長の娘だから怖いものなしって感じかな」
それを聞いてボッサンの顔色が変わった。
「理事長の娘なのか?姫川エリカって!」
「そうですよ。だから女王様がワルい事しても、お父さんが揉み消しちゃう」
ボッサンとユオは顔を見合わせた。
「あ~!女王様来た~!」
彼女はボッサンとユオの後ろに隠れながら言った。
「どこどこ?」
ユオがキョロキョロしてると、横でボッサンが言った。
「あれだろ?あの3人組。両脇に男を従えた、スカート短い女」
ガタイのいい長身の男子2人に挟まれた、同じ位の身長のスタイルのいい茶髪の女子が前から歩いて来た。
「そうそう、あの子!」
手前の男子がボッサンとユオを睨み付けながら、3人は通過していった。
「ふぅ。じゃあ私行きますね」
彼女はペコリと頭を下げて走っていった。
「よ~し、あの3人の後を追うぞ!」
ボッサンとユオは尾行を開始した。
3人は駅の方に向かって歩いていく。
「家に帰るのか~?」
ユオが言った言葉にボッサンは、
「まさか~。金曜の夜だぜ。どっか寄ってくだろうよ」
しばらく歩いて行くと、1人の男子は手を上げてゲーセンに入って行った。
2人は駅に向かう。
駅の構内。
もう1人の男子も、手を上げて改札に向かった。
「解散か~。やっぱり家に帰るか?」
ボッサンが諦め掛けた時、エリカは西口の方に歩き始めた。
「おっと~?どこへ行く~?」
エリカは、西口のコインロッカーの前で止まった。
鍵を開けて、中から手提げ袋を出した。
そしてこっちに歩いて来た。
「やべ~!隠れろ!」
柱の影に隠れるボッサンとユオ。
エリカは、ボッサンとユオを通り越してトイレに入った。
「ひょっとしてお着替えタイムかな?」
-5分後-
ボッサンの予想通り、エリカは私服に着替え化粧をして、大人の女になってトイレから出て来た。
「うわ~別人だ~。女って怖え~!」
ホットパンツからスラリと伸びた足と、ハイヒールを履いてさらにデカくなった身長のお陰で、大体の男は振り返っていた。
エリカは駅の東口に向かう。
「また戻るんかい」
駅の東口から出て左に歩いて行く。
靖国通りの交差点。
「歌舞伎町へ行くつもりだな」
エリカが赤信号で待っていると、スーツを着た男が声を掛けて来た。多分キャバクラのスカウトだろう。
しかしエリカは、前を向いたまま相手にしない。
歌舞伎町に入ってからも、何人もの男が声を掛けるが全く相手にしない。
そしてボッサンにもよく声が掛かる。
「ボッサン、いい子入りやしたぜ!」
「ねぇ~ん、最近来てくれないじゃないのよ~ん」
「ちぃ~っす!」
モテモテのボッサンにユオが言った。
「なんだろな~、歌舞伎町のボスって感じ?」
そうこうしてる内にエリカは、あるビルに入った。
ボッサンとユオも後を追う。
エリカはエレベーターに乗って上がって行った。
ボッサンとユオはエレベーターの前まで行って、エリカが何階で降りるか確認する。
「3……4……5……5階で降りたな。5階は?… クラブ『ドランクモンキー』か。 よし行くぞ!」
「え?吉幾三?」
ユオは聞き返した。
「ユオ、それ前に言ったから」
「分かってたよ。分かってたけど~、一応言っとかなきゃな~と思ってさ」
エレベーターが降りて来て扉が開いた。
そしてボッサンとユオはエレベーターに乗り込んだ!