行使
この身体は、呼吸を必要としないらしい
水に潜っている際に、気付いた
どこまで化け物なんだ龍
あまりにも、騒がしくなった場合の逃げ場として海底を候補に加える
目的の物を見つけ、水から上がる
死体はあくまで動かず死体として存在していた
どうせファンタジーなのだから、瘴気だの魔気にだの侵されてゾンビにでもなればいいのに
現実がどこまでも現実じみていて面白みが無いのは、前世で十分だというのに
私の服や髪から、水が滴り水溜りを作る
体温を奪いながら滑り落ちる、水滴を拭い髪を絞って・・・目の前をちらつく前髪の色に首をかしげる
死体を見る
髪を見る
見難いので、二三本纏めて引き抜く
・・・灰色だ
鱗と同じ、灰の髪
道理で違和感があまり無いわけだ
視界に赤がちらつけばさすがの私も気になるだろう
疑問を感じ、もう一度湖に近づく
水鏡に映る姿は女性だった
灰の髪は肩よりやや上、瞳の色は鈍い金
目じりは下がり、ひどく退屈そうな印象を与える
私に顔の美醜の判断は付かないが、まぁ不細工ではない、と思う
通りで、姿を移しただけにしては腕が細いと思った
服装は死体と同じ服だ
其処は同じらしい・・・・・・イメージが足りなかった時のための初期設定か何かだろうか?
まぁ、いい
私の顔などどうでもいい
二本足で指が五本あって腕が二本ある、ぱっと見人間であれば動くのに支障は無い
今度こそ、死体に近づく
そして、両手に抱えた物を死体に振り掛ける
一センチから二センチの小さな粒たちが、ヒカリゴケの淡い光を反射しながら落ちていく
湖の底から拾ってきた石英
つまりは、水晶達だ
水晶は、死体に触れると同時に軽い破裂音を立てて砕ける
・・・・・・細かいほうが、都合がいいのだがどこか不安な幸先だ
水晶には破邪の力がある、と言われている
厄除けなどに多用されるのはその為だとか
今のは死を退ける願いを込めてみたが、まぁ予想通り全滅だ
微量ではあるが願いを叶えようとする力が働いた事を確認し
その力が、魔力だろうと仮定する
次が本番だ
本当は詠唱でもすればかっこいいのかも知れないが、私にそんなセンスは無い
なので、過程を詠唱の代わりにしようと思う
ポケットから大粒の石英を取り出す
それに、私の血をかける必要がある
ナイフなどは持っていないので、親指の皮を歯で食いちぎる
鈍い痛みと熱が親指に集まるが、死んだ時ほどじゃない
滲む様に湧き出た紅を、石英へ満遍なく塗りこんでいく
血で滑る水晶の完成だ
これが、死体の核兼心臓となる
その核を死体の口に含ませて、心臓の位置に手を乗せる
深呼吸を一つしてから、魂を呼び戻すイメージと石英が死体の身体に馴染むイメージ
死体の身体に積もった石英の破片達が死体の血となり身体を巡り
紅に染まった水晶は核としてその流れを補助する
自分の中でそのイメージが明確になった時、私は魔法を使った




