勇者の資格 10
「どうして、追わなかったのですか?」
「ん?」
地に伏した雑魚三点1セットのリーダーの鳩尾を踵で踏みながら龍は騎士の言葉を聴いていた。
訓練は終わり、運動場として使っている森の広場にはいくつかの小さなクレーターが出来ている。
私も、最初の頃よりもずいぶんと手加減が上手くなったものだと思いながら、騎士を振り返る。
珍しいことに、奴は不満そうな顔をしていた。
「……そういえば、逃げ出して今日で一月か。」
「心配ではないので?」
「別段。」
特に迷いもせずに言えば、騎士の眉間の皺が深くなる。
どうやら彼は、ルドルフが気に入っていたようだ。
その素質に惹かれたか。
それとも。
「何故、心配することがある。」
「逆に何故心配しないのかと問いたいですよ。彼が逃げ出した原因も彼の欠点も分かっているでしょうに。
まさか、これも想定内ですか?自分を傷つける『勇者』を戦えなくすることが貴女の目的だったのですか?」
「……アレンのこともお前のこともルドルフのことも宝杖も聖樹も神獣も全て全て。
私の思い通りに運んだことなど一つもないさ。」
「…………………なに、を?」
「まず、誤解だ。私は神でもないし指揮官でもない。
ただの龍だ。人の細々とした些細な思惑をパズルのように組み合わせ砂の城を作るなど出来るはずがないだろう。」
「……。」
「何か言いたげだな。」
「では、アレンは?氷鳥は?彼らは貴女の手で……。」
「馬鹿なことを。
きっかけを作ったのは確かに私だが関係を維持しているのはアレンの性格と鳩のプライドだろう。
お前にしても然り。全ての出来事において、主役は他人だ。
逃げ出す選択肢を選んだからといって、それを責める理由がどこにある。」
「何故。何故このような。神の試練のような真似を。ヒトの意思を心を試すような……。」
「試してなどいない。どのような結果になろうと抑止力となるものは用意した上でやっている。
もっとも、その抑止力も扱うのは人間だがな。」
「不確かすぎます。失敗すれば後は無いのですよ?やり直しなど挽回など出来はしないのにっ!!」
「緻密に組みすぎた計画など直ぐに破綻するさ。
イレギュラーごときで壊れるなら、この世界は人間はそれまでだったというだけだろう?
この世界は壊れる。どうあがこうがどうしようがそれだけは確定している。
それだけは、覆せない。ヒトがいつか必ず死ぬようにな。因果と過去を変えられない以上それは絶対だ。
それが、『どういう風に』壊れるか。
この世界の『現在と未来』はその過程を、そして壊れた後に残るものを決めるためのものに過ぎない。」
故に、細々とした物事が失敗しようが成功しようがどうでもいい。
この話を聞いたお前がどう行動するかを含めてな。
絶句する人間を見つめながら、龍は言った。
その内、英雄の章を消してネクロマンサーの章に置き換えます。
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