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灰の龍は退屈が嫌い  作者: 白色野菜
龍、初めました
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言い訳

言い訳と原料採取をあわせました。


暇である。


引きこもりという物が存在するのは、動かずとも外部から情報が入ってくる場合のみ、甘美な怠惰を受諾することができるようだ。現状ではただの監禁に近いので中々に苦痛だ。


あまりの暇さに、ひたすら湖を眺めるという苦行を始める程度に暇だ。

この状態が後1週間も続けば私はもしかしたら退屈に殺されてしまうかもしれない。


ここから外は見えない。日の光も月の明かりも感じることはできない。

更に、私は空腹を感じることも無いので此処でどれくらいの時間を過ごしたのかもわからない。まぁ、まだ1日2日だろう…恐らく。


外に出たくとも、昼間に飛ぶのは目立つ。夜もよくよく空を見ると月が二つあり、昼間ほどではないが明るい。

初日、誰にも見られていないといい。もっとも、仮に見つかっても出入口は絶壁なので滅多な事では登って来れない。これなら大丈夫だとは、思うが。


私は、害をなす気はないが、善をなす気も無い。私はあくまで私のためにこの力を振るいたい。ならば人に関心を持たないのが一番だ。

その為には、人に会わないのが一番いい。


仮に遭遇してしまえば、私は甘い日本で生きた人間だ。

恐らくはありあまるチートを使い、お節介をやいてしまうだろう。

別に自分が善人だと言う気はない。まったく無い。そもそも私は根悪説主義者だ。

ただ、日本で悪とされているものを見逃せば、私は罪悪感を感じるだろう。


それが嫌なだけなのに。その罪悪感から逃れるために私は善を働くのに。

それだけで、私はお人好しという分類に入ってしまうらしい。まことに不本意だ。


次に思うのが。

目の前に死体があったら、私はどうするかという話だ。


転生前なら、すぐさま警察を呼ぶ。

以上だ。


それ以上の行動は無意味であり無価値でもある。素人に何をしろというのだ、探偵であるまいし。

多少、他者の死に引きずられ落ち込むかも知れないが、一晩寝れば直るだろう。

見知らぬ他人の死などその程度の影響しか人には残せない。


まぁ。

幸か不幸か最初に対面した死体は自分のものだったが。


だが、今なら私は他者の死を塗り替えられるかもしれない。

このチートを使って。


それは、死への冒涜であり禁忌と呼ばれる行動で悪である。その理由も意味も私は十分すぎるほど知っている。

大きな力を持つ私が悪へと傾くと大きな恨みと破壊を生み出し、ろくな死に方ができないに違いない。



だが前述した通り自分の力で助けられるものを見逃せば、私は罪悪感を感じ後悔する。

人の命の後悔だ。それはとても重く、苦く、私は耐えられないかもしれない。

いや、恐らくは耐えられないだろう。


どちらも同じ程度のリスクとメリットがある場合は、私はその時の気分でものを決める。



つまりだ。


暇で暇で暇で暇な時に。

目の前で水を血で濁らせながら死体が浮かび上がってきたのだとしたら。


好奇心の赴くまま、治療を試みるのは当たり前の行為であり。

私は悪くない。












言い訳を考えるという現実逃避も済ませ、瞳の焦点を合わせ、死体を直視する。

なるほど、確かに肌色の赤は血の色だと実感できるほど、死体の肌は白い。象牙という言葉も遠く蝋のような肌が、最も近い。


水死体は見かけがかなりグロテスクになると言うが、この死体はそうでもない。

血こそ流れ出ているものの、顔なども擦り傷があるのみで綺麗なものだ。幸いなことに。

死にたてだからか、死因が違うのか。


手元に寄せて眺めてみたいが、残念なことに私の手は非常に不器用そうだ。この手では爪で死体を真っ二つに切り裂きかねない。

……変身、するか。


微細なイメージが必要だが、残念なことに前世の私は人の外見に頓着しない質だったので自分の顔一つとっても、明確に思い出すことができない。

別段それで不自由を感じたことが無かったので、今始めてナルシストが羨ましいと思う。


ひとまず、仮の姿ということで目の前の死体の姿をいただく。

見本が目の前にあれば、とんでもない失敗もしないだろう…恐らく。

肌の色だけ黄色人種に設定することを心がけイメージする……死体の白はさすがに頂きたくない。




………光が集まるエフェクトも終わり。

眩しさから閉じた瞼を開ける。


手足を見るとどうやら成功したようだ。

肌の色も、見慣れた色になっている。

そして大変好都合なことに、服まで再現されている。ややサイズが大きいがそこまで気にするほどではない。

死体に開いた大きな腹部の傷も、再現されることはなく服にも穴や血の赤は付着していない。

内蔵の一部が顔を覗かせるような事態には陥らなかった。


武器と鎧も無いようだが、これから死体をとるため泳ぐのだ。

それらは重く、邪魔になるだろう。洋服も邪魔そうだが…まぁ、平気だろう。


足先から伝わる水の冷たさに体を震わせ、死体をとるため冷たい水へ飛び込んだ。

空気とはまた違う抵抗が体を包み込む。




………あっ、準備運動忘れた。

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