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灰の龍は退屈が嫌い  作者: 白色野菜
狩人の章
43/54

勇者の資格 0

くらやみがせまってくる。


少女は木の洞にその小さな身を可能な限り丸め、小さく小さく目立たないようになって。

その姿を隠していた。


突然降り出した雨のせいで彼女の全身はすっかり濡れて、唇は青い。

震えている体を彼女は両手で抱きしめて、必死に息を殺す。


右肩だけが熱く。

鈍い痛みは冷え切った体には強すぎる熱として感じられた。

寒さだけが理由ではない震えから鳴りそうになる歯を噛み締めて。

彼女は捕食者から身を隠していた。


まだ夕暮れ時のはずなのに、雲は厚くまるで夜のようにあたりを暗闇で包む。

恐怖と不安から、何も無いことを確認するように彼女は何度も周囲を伺うもその目は暗闇しか映さない。


そうなると、こんどは何も無いことこそが恐怖の対称になる。


自分の目に映らない何かを。

彼女の頭は想像し怯える。


精一杯耳を立てても、聞こえるのは雨粒が木々の葉に弾ける音だけ。

精一杯鼻を利かせても、届くのは土の匂い。


異変は何も感じない。


なのに彼女は恐怖する。


生暖かい吐息が聞こえる。

木の葉を踏みつけにじり寄る音が聞こえる。

あのむせ返るような獣臭を伴った唾液が、何処までも殺意に満ちた黒い瞳が、毛羽立ち固く体を守る茶色い毛が自分の赤い血が滴る黄ばんだ牙が

脳裏に蘇り彼女の精神力をがりがりと削る。



彼女は雨と暗闇に怯えているがそれが降ったのは幸運だった。

暗闇が無ければ狼は彼女を見失わず。

雨がなければ血の香りで彼女は直ぐに見つけられていた。

そう、彼女を齧った狼は彼女を完全に見失っていた。


彼女を齧った狼()


彼女はまだ気づかない。

安全なはずのその洞。

ほとんど全ての空間が彼女一人で埋まっている洞の奥。

小さな鼠ほどの大きさの、ほんの小さな害獣が。

赤い瞳を笑みの形にゆがめていることを。

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