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灰の龍は退屈が嫌い  作者: 白色野菜
龍、初めました
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冒険者の場合

冒険者の場合と酒場での相対を繋げました。

騎士の場合は一旦消しました。




耳を済ませ、上空の気配を探るが龍が戻ってくる気配はない。

無意識に、止めていた息を吐き出すと、緊張の糸が切れる音が聞こえそうだ。てか、切れた。絶対きれたなんかの糸が。


「おいおい、嘘だろ…。」


 俺の呟きは誰も聞いちゃいない。聞かせる気も無い。

 俺は今、高地にしか咲かない薬草を求めてこの山に一人で登っているところだからだ。今は一人で入ったことを猛烈に後悔している。今見たことを俺一人が言ったとこで、誰も信用しないだろうしな。いや、集団でも同じか。

 一人で居たから、見つからなかったということにしよう。 


 それにしても、龍か。

 この山は確かに高いが、なぜか魔物も少なく麓の森も実りが多い。そのおかげで麓の村は此処何十年かは飢えで死んだ奴を出したことが無いらしい。

 …そんなことは、今はどうでもいいか。割と俺も錯乱しているらしい。


「まさか、龍がすんでるとはなぁ…。

いや、今まで目撃も報告も無いって事は余所から来たのか?」

 獣避けの結界だけで、火をつけないで寝てたのが幸いだったな。本当に。

 隠れ場所がないこの荒れ地で見つかってたら、あっという間に腹の中だ。自分の思考に顔を青する。


 月明かりがあるとはいえ、視界は悪い。色は確認できなかったがあのシルエットは確実に龍だろう。奇跡的な飛び方をした鳥の群体だったという落ちは無いだろ?…さすがに。

 まさか、東の凶龍がこっちに来た訳じゃないだろうなぁ…。そんなことになったら、この国を出ることも考えなきゃいけなくなる。これから起こる事を考えると本当に憂鬱だ


「こりゃ、依頼どころじゃないなぁ。

 取りあえずは下山だな。」

 手早く広げていた荷物をまとめる。

 夜に下山なんぞ自殺行為に等しいが、龍の居る山で一晩過ごすよりかはましだろう…多分。


 纏めた鞄を背負い、両手を空ける。魔物が少ないとは言え、居ない訳じゃない。特に今は注意をしてもしても過分になるような場合じゃない。

 体に馴染んだ装備を確認した後、早足で山道を駆け降りていく。かなりのハイペースだが、休憩を挟む気は無い。なんせ命がかかってる、体力なんて無理やり絞り出るもんだ。





 龍の気配のせいか、踏み込んだ森は不気味なほど静かだった。


















「……飯ぐらいゆっくり食わせてくれよ、村長。」

 足を棒にして入り口の坊主に支えられながら、ようやく酒場について一息つけたってのに何なんだよ。


「そんなこと、言ってる場合じゃないだろう!」

「俺のエール……」

「後で樽で飲ませてやる!早く話せ!!」

 近い近い、唾飛んでくる。

 ほんと、ようやく一息ついたってのにさぁ……なんで、血走ったじじいの顔に迫られなきゃいけないんだ?


 文句は浮かぶも、樽一つのエールは大変魅力的だしなぁ。

 多くの冒険者の類に漏れず、俺も酒が好きだ。特にこの村のエールは旨い、どうやっているの知らないが冷えたのが出てくるしな。

 結局、喉の奥から出てきたのは、溜め息一つ


「えーあーーー、龍が居た。以上」

非常に簡潔で的を射た報告であると自負できる。


「何時何処でそのまま飛び去っていったのか?」

俺が聞きたい、飛び去ったならその方角の仕事は死んでも受けん。


「知らん、通り過ぎたかどうかは近すぎてわからなかった。だが、確かに森の様子はおかしかったなぁ…。」

「動物がいなくなってたのか?!」

「いや居た。ただ静かだったなぁ。」

魔物の遠吠えすらなかった、不思議だ。奴らの理性なんてとっくの昔に消えてるはずなのに。

それでも、絶対的強者の気配には怯えるって事か?


 龍に関わらず。大型の魔物が巣を作るとその発見と特定は簡単だ。

 なんせ、奴等が住み着いた場所からは、生き物達が居なくなる。動物も植物も関係なく、地面の土も干からび50年は作物が生えなくなる。


そういうのの事前調査は金になるから何度かやったことはあるが、今回はどーも何処かそういう場所とも雰囲気が違う。

 木々が枯れ始めていた様子もなければ、鳴き声こそあげていないものの、鳥だって居た。見かけては無いがたぶん他の生き物もあの森にいるんだろうなぁ。


「…どういうことだ?」

「だから、しらねぇって、俺も見んのはじめてだし。

 …だがまぁ、ここで、エールを飲む余裕がある程度には、安全な気がするなぁ。」

「根拠は」

「あるわけないだろ、勘だ」

強いて言うなら、あの龍に狂気を感じなかった程度の理由だしな。そんなのを村人の命を背負う、村長に言えるはずがない。


「ならいっそう、山に一人調査にいかないか?

 報酬は、払う。」

何、言ってんだこのくそ爺

「嫌に決まってんだろ?

 俺の勘が鈍ってるだけかも知れねぇしなぁ。」

「いえ、貴方には調査に同行していただきます。」

聞いたことのない声と共に机の上に財布が一つ投げ出される。

重い金属が擦れる音を布越しに、耳にしつつ投げた相手を見る。


 騎士だった。

 こんな辺境で見かけるなんて珍しい。思わず、まじまじと見るが確かに王都で見かける、騎士の鎧を身に纏っている。

 髪は茶色、瞳は鳶色。顔はまぁ平凡よりかは上かもしれないが、張り付いた笑みが気味が悪い。


 じっくりと観察してから騎士と瞳を合わすと、背中が粟立つような感覚に襲われる。

 ……本気で勘が鈍ったのかもしれん


「で、こんな所に騎士さんがなんのご用だい?」

「貴方が龍を山で見た冒険者ですね?」

 情報が漏れてるしさぁ……。

 面倒ごとは御免だからなぁ、案内係にも広めるなと念押ししたはずなのにな?他にも誰かに森から出るところ見られたかぁ?


「そうだ、と言ったら?」

「そのなかに、金貨二十枚入っています。

 前金です、調査の依頼を受けてください。その調査に私も同行させていただきます。

 達成後、もう二十枚支払いましょう。」

「にっ!!」

 絶句してるのは、村長。金貨二十枚と言ったら、農民が一生働いて稼げるか否かの金額だ。

 そりゃ、絶句もするよなぁ。おれもびっくりだ。受ける気はさらさら無いが。

 そんなことを考えていたら、騎士の瞳が細くなる。


「国から認可を受けている冒険者さんですと、私には直接その労働力を徴収する権限がありますが…。

 士気の問題もありますし、どうせなら依頼を受けていただきたいのですが……。」

 こいつ、団長クラスかよっ!なんで一人でこんなとこに居るんだ?てか、間が悪すぎるっ!!

 嘘の可能性は、装備見る限りかなり低いしなぁ。唯の貴族の坊ちゃんかと思ったのに…っ!


「……前金十枚でいい、代わりに依頼内容にお前の警護を含めないでくれ。

 龍が出たら真っ直ぐに俺は逃げる。」

 金は惜しいが、命のほうが大事だ。これでも駄目なら、本気で他国に行こう。国に逆らって逃げ切れるかは、この際おいといて。

 緊張で湧き出た唾を飲み込む。


「……いいでしょう。なら、契約成立でよろしいですか?」

 安堵の表情を、表に浮かべないようにしつつ頷く。

 本気でいやだけど、この際この譲歩でも破格なんだろう。


「で、何時でるだ?」

「今すぐにでも…と、言いたいですが明日の早朝でよろしいですか?」

「わかった、そんじゃそれまでに契約書を纏めておいてくれ。

 依頼用の紙とペンは村の入り口の案内がか…道具屋が持ってる。」

「えぇ、用意しておきます。………あぁ、忘れていました。貴方の名前は何ですか?報告に必要なので。」

契約をする以上、逃がさないってか?


「アレン……アレン=ジオスタール」

「わかりました、アレンさん。それでは、良い契約にしましょう。」

 そう言って騎士は机の上の財布を回収してから財布の中からきっちり金貨を十枚取り出し、俺の前に置く。掴んで投げ返したくなる衝動を抑えつつ、鈍く光る金貨を見る。


 身を翻して出口へと去っていく、その姿も様になってるのは流石は騎士様。

 未だに硬直して金貨を凝視している村長を横目に、俺は金貨を一つ摘み上げる。


 其処には、この国の旗にも記されている双頭の蛇が刻み込まれていた。

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