龍の巣
岩陰に隠れながら、通路の先を覗き見る。
視線の先では音無き蹂躙が始まっていた。
先に居た冒険者は三人。
うち一人は気を失っているのか、それとも死んだか。ぴくりとも動かない。
他二人は元気だった。少なくとも遠目に見た感じだと四肢は付いてるから元気だろう。
まぁ、顔は恐怖に歪んでいるけど。
時折、入口に這ってこようとしているがそれも弾き飛ばされ無様に何度も地面を転がっている。
「…妙だな?」
龍の姿が無い。
死角に居るのかもしれないが、そもそも音すらしないのは何でだ?
巨体が動けばそれだけで音や振動が地面を伝わってくるというのに、存在感すらない。
これじゃぁ、奇襲は無理そうだ……。
先の冒険者たちが生きてるのは…まぁ、おもちゃにされてるだけだとしても………。
なんだ、違和感が酷い。
「助けにいかないのか?」
「あいつらも冒険者やってんだ、死ぬ覚悟ぐらい出来てるだろうさ。」
「見捨てるのか?」
「まさか。」
手汗で滑る、柄を握り直す。
「いくぞ。」
俺がそうリョートに声を掛け、駆け出すのと
あいつの姿が視界に入ったのは同時だった。
その茶髪を視界に収めた瞬間、俺は強く乾いた地を蹴った。
無いはずの痛みが、熱が、体の奥でどろりと渦巻く。
速度を重視した、大きめの歩幅で跳ぶように。
最後の数歩は文字通り跳ぶ。
背後からの奇襲だからこそ、上段から、隙の大きい全身の体重を乗せた一撃を
「甘いですよ。」
腹部への衝撃。
革製とはいえ、中には鉄かたびらも装備しているのにそれを通り抜けて内臓に響くような衝撃を意識した時には、既に地に転がっていた。
そのまま勢いを殺さずに、転がりながら体勢を立て直す。
正面の騎士は、振り抜いた腕をゆったりと下ろしていた。
背景に黒い龍が映り、その足元に唖然と口を開けている黒ローブの男も見えるが
|そんな事は既にどうでもよかった(・・・・・・・・・・・・・・・)
「騎士テメェ、良くのこのこ俺の前に姿を現せたなぁ。」
「全く、相変わらず馬鹿な脳味噌と身体ですね?確かに内臓を何個か潰せたはずなのですが。」
「人んち壊したはまだ許すがリョートに死ぬような怪我させやがって。」
「何度でも言いますが、そもそも殺す気だったんですよ?
そもそも、貴方は何故五体満足で私の前に立っているのですか?
何回その腕、落したと思っているんですか…そろそろ飽きてきました。」
今回で終わりにしましょう、と奴が言う。
同感だ、と俺が言う。
「………………………………全く人間と言うのはどうしてこう。」
リョートが1つ溜息をつき、攻撃の届かない天井の窪みへと身を隠した。
ちゃんと最初は普通に龍退治の予定でした…。
どうしてこうなった。




