予感
「……なぁ、これガセだと思うか?」
「偽物だと思うが。」
雑貨屋で二束三文の叩き売りをされていた、地図を片手に谷の洞窟を歩く。
谷ってのは鉱石が出やすいから、ここも例に漏れず鉱山として機能してたらしい…。
もっとも、50年前に龍が住み着いてからはさすがに掘れなくなったらしいけどさ。
「あー……ここ右だな。」
「本当にそんな地図でたどり着けるのか?」
「まぁ、逃げ帰ってきた生存者だのは居るだろうし。
そいつらがやけっぱちに売り払った情報かもしんねぇしなぁ。」
「………そういうものなのか?」
当たりの確立は3割程度だろうけどさ。
まぁ、当たる確率低いほうが気が楽だし……一応準備はしてあるけどな。
「おい、通り過ぎたぞ。」
「…ん?あぁ、そっか。こっちか。」
さらに曲がって歩いていく。
かれこれ2時間弱か。
まぁ、そろそろ。
「なんか聞こえてもいいよな。聞こえなかったら今日は帰るか。」
「……前にお前が言っていた『ふらぐ』と言う物か?」
「そうそう。まぁ、カンもあるんだけどさぁ……そろそろ暇だろ?」
俺が、じゃ無く。
見学者もどうせいんだろうしさ。
「嘘だろ?!」
「くそ、誰か殿を…っ!」
「犬死なんぞ御免だナ。」
通路の先から怒声が聞こえてくる。
てか、こんな時に仲間割れとか…即席パーティなのか?
いや、それにしては野郎どもの声が聞こえるほど静かってのはどういう事だ?
「アレンっ!!」
リョートの声で我に帰る。
そうだった、此処はもう安全地帯じゃない。
「わりぃ、さんきゅ。」
目を閉じて、思考を切り替える。
簡略的に、直情的に、短絡的に。
優先は生き残ること、攻撃を避けること、経験の蓄積。
僅かに露出している肌を撫でる空気の動きを感じろ。
身体は器だ。
周囲の空気も己であると認識しろ、死を思い出せ。感覚を肥大化させろ。
「行くぞ、リョート。」
瞼を開けば世界は鮮明に色を訴える。
情報を見落とさぬよう五感が鋭くなるのを感じる。
呼吸が浅く鋭くなる。
けしてこの体を過信しないよう、それを頭の隅に置き俺は剣を抜いた。




