異常が日常
地面の振動で目を覚ます。軽い揺れだがやはり地震はあるのか…それにしては、長い地震だ。
億劫だが重い瞼を開け、体を起こすとやけに体が重い。
そんなに疲労が溜まっていたかと、体を見下ろし…ようやく首に異物がついているのに気がつく。
首の異物に手を伸ばすと、固い感触。そのまま指が弾くとキンっと鋭い音が響く。金属製の首輪か、そんなものがくっついていればそれは重いだろう。
すぐに気づかなかったのは、金属の首輪と肌の間に柔らかい布のようなものが挟まっているからだろう。
視線をさらに下へと向けると、首輪にはこれまた重そうな鎖がくくられている。とても頑丈そうだ。
「……あの、大丈夫ですか?」
同じように鎖に繋がれた少女が、不安げに私を見た。
いや、同じようにというのは言い過ぎか。
彼女の鎖は足のみだ。
私は片手と右足、それに首。
それなりに暴れていたからか、女にしては過剰な拘束だ。
無論、私にとっては無意味だが。
「…動かないの?にぃねえさん、その人怪我してるの?」
「兄なのか姉なのか……あぁ、おかまか。いや、おなべか?」
「何いってんのコイツ。薬が効きすぎて脳ミソいった?」
「リール。」
「うっ……でもこいつ変だって、鎖でつながれてんの分かってるはずなのに泣きも暴れもしないし。」
そういって、リールと呼ばれた一番小さな少女は私を指差す。その足にはやはり鎖。
態度といい言葉遣いといい、粗野だが活発な少女といったところか。
見た目は珍しいアルビノだが。
「きっと、唐突過ぎてびっくりしてるんですよ。」
おっとりとした口調で話す少女には拘束は無い。
が、その目は硬く閉じられどうやら目が見えないようだ……まぁ、見えすぎるという可能性も無くは無いが。
「……妹が失礼しました。」
最後、一番最初に私に話しかけてきた少女…というには少し大人びた女性は私に視線を合わせると頭を下げる。
どうやら、彼女がこの三姉妹の仲で一番上のようだ。
よくよく見れば、彼女の拘束は足の鎖だけでなく首輪もしている。
「……魔術師か。」
「えぇ…今はこの拘束のせいで使えませんが。」
首輪をするりと撫で苦笑を浮かべる。
その目は達観しているようにも見えるが………さて?
「そろそろ、状況を教えてもらえるか。」
彼女たちはここから遠いの村に住んでいたが二年前に両親が流行り病で死亡。
長女が簡単な魔術を使えたためそれを利用した狩をして、日々を過ごしていたらしい。
だが、今年は不作。
狩人である彼女達にはそこまでの打撃は無かったが、村はそうではなかったらしい。
きっちりと自分の家の税を納め、誰もかけることなく飢えることなく過ごす彼女達はその特異な容姿も相まって村人達の嫉妬を買ってしまったらしい。
とても、よくある話だ。
「最初は獲物の分け前を増やせでした。不作のこともありましたし、その要求にはこたえたのですが…そこから、要求が過剰になっていきまして。」
「さすがに家追い出されて森にすむわけにも行かないし?やっつけようと思ったんだけど『かずのぼうりょく』には負けるってにぃねぇが。」
「最後にルイスを売ってやるから手数料をよこせと……。」
「僕がキれる前ににぃねぇがすごい勢いで怒って……次の日に家を出る準備はしてたんだけど、父さんと母さんのお墓参りにいったら村の連中が……。」
「………私が大人しく売られてればよかったんですかね?」
盲目?の少女の言葉に残り二人が勢いよく首を横に振る。
「…まぁ、事情は分かった。つまりここは人買いの馬車の中なんだな。」
まぁ、正直この三人の身上話など興味はないが悪人相手なら話は早い。
両手を封じられていれば少々わずらわしかったが。
片手を足に絡みつく鎖へ伸ばす。
足輪の部分を撫ぜれば、冷たい感触だけが返ってくる。
龍へ戻ってもいいが…まぁ、ここは普通に。
少し力を込めてやればパキリと、乾いた音と共に足輪が割れる。
さて、最後の記憶は寝るところか。
どうやって私を捕まえたのか良く良く聞き出さないとな。
まぁ、特別なこともなかったな。
大きく両手を上げて背筋を伸ばすとぱきぱきと骨がなる。
今回のことでわかったのは私の容姿が美人に分類される事ぐらいか。
それが、一人旅をしているからやけに盗賊に襲われたのだろう。
捕まったのは夜営の位置が悪かったらしい。
まぁ、捕まったところでどうと言うことはないからいいんだが。
盗賊の数が多いのは、王都で大きな祭りがもうすぐあるからだそうだ。
もうすぐといっても半年後らしいが。
気が早いな盗賊。地の利を得たいならそれぐらいの準備期間が要るのだろうか?
三姉妹に馬車をあげたので私はまた徒歩だ。
王都で再開の約束はしたが…まぁ、あまり期待はしていない。
このままぶらりぶらりと生存フラグを増やしていくのは面倒だが必要か?
当ての無い思考を暇潰しにし続けながら、出口の見えない森を歩いていく。