外出
さて
突然だが私は今街道に居る。
無論、洞窟の外だ。辺りは見渡す限りの木々と草花と稀に野獣、景色はあまり良くない。
盗賊などが潜むのに絶好の場所だと思うのだが、切り開かなくてもいいのだろうか?
なぜ引き篭もり宣言をしていた、私が外にいるかと?
その問いの答えは簡単だ。
帰り際に一号は、一つだけ親切を置いて行った。
「そういやぁ、麓の村が国にお前の調査を依頼してるはずだからなぁ。そろそろくんじゃねぇか?
…見つかんない?確かに此処は見つかりにくいけどさ、騎士団が来るだろうし一人は魔術師が居んだろ?なんかでどうかやって見つかったらかなり厄介だぜ?」
だ、そうだ。
私も討伐フラグなどという面倒なフラグは全力で折りたい。ありがたい助言の元あの洞窟を去ったのが今日の昼。
龍の姿になり目立つ青空を飛ぶのはとても心地よかった。
開放感もそうだが夜とは違う暖かな空気を裂くのも楽しい。残念ながら、鳥などはよってこなかったが。
人目につくようにあの山を一週した後、高度を上げて西へ飛んで見せた。
何故西か?
一号と二号は東へ行くらしいからな。理由はそれだけだ。
しばら西へ飛ぶと森が深くなっていった。
周りを見渡しても村らしい物はない。
私は木々を踏み倒しながらも着地を成功させ、人間の姿へと戻り街道らしき道へと出て今に至る。
獣も此方を見はするものの、龍の気配を感じるのか此方へはよってこない。これなら盗賊などに気をつければこの装備でも洞窟へたどり着けるはずだ。
…少々調子に乗って飛びすぎたので、帰るのに時間がかかる気もするが。
まぁ、初めての外出だ。
この世界の技術や生活水準を眺めながら、のんびりと戻ればいいだろう。
そう、気楽に思っていた時期が私にもありました。
何の準備も無しに出かけたことを後悔したくなる。もっとも、あの洞窟では結局準備らしい準備も出来なかっただろうが。
地面が揺れた衝撃で頭に降って来た木々の葉を払い落としながら、そんなことを思う。
状況把握のためにあたりを見渡すと、高々震度5程度の地震でほぼ全員が腰を抜かし動くこともままならない様子だ。中には盗賊の分際で祈りの言葉を早口でつぶやき続ける者も居る。
……この世界には地震というものは存在しないのだろうか?山があるならありそうなものだが。
別段盗賊たちを捕まえる気もしないので、腰を抜かしている盗賊たちを迂回してまた東へ進む。
あれで今日は何組目だっただろうか?5か6程度か…?昨日今日のペースで行くなら、1/3はこなしたことになるのか。
旅を始めて三日目にはいったが盗賊の数も森の切れ目も見えない。
初日にこの街道を見て抱いた感想は概ね合っていたようだ。
それにしても旅人とは遭遇しないのに、対しての盗賊の数が多すぎる。獲物が少なすぎで飢え死にしないのだろうか?
実は山奥で畑を耕していたりするのだろうか。それなら最初から真面目に働けといいたくなるが…。
税等の都合もあるのかもしれない。
いつまでも変わらない景色に、ややうんざりとしながらそれでも歩みを進めていると道の奥に点が現れた。
また、山賊か?と思いつつも歩いていくと、どうやら山賊ではなく幌馬車のようだ。
けして豪勢とも早くともいかないが、一定のペースで歩みを進めるそれは商人の物のようだ。
こちらへ近づくにつれあちらからも私を確認できたのだろう、御者の人間が中へ何かを話している様子が見える。
私は馬車が通れるように、道を逸れた状態で歩いていく。
「やぁ、お嬢さん。いい天気だね。」
声をかけてきたのは御者ではなくわざわざ中から出てきた身なりの良い男だ。といっても、貴族のようにごてごてしいわけではなく、普段着としても礼服としても着れるような実用的な服装だ。
「あぁ、最近は良い天気に恵まれて旅が楽だ。」
「よかったら少し乗っていきませんか?」
「残念ながら、道が真逆だからな。」
「そうですか……残念です。ですが、女性の一人旅は危険ですよ?近くの村まで送りましょう。」
「これでも腕は立つので問題ない。」
「そうかい?」
心配そうな、商人の声に無言で頷く。
「無理強いはいけないね…それでは、安全な旅ができることを祈っているよ。」
「あぁ、ありがとう。」
一礼して私が歩き始めると、また馬車が動き始める。
振り返ると、幌馬車の中から2対の瞳がこちらを見ていた。