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灰の龍は退屈が嫌い  作者: 白色野菜
龍、初めました
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騎士

何時の間にか、お気に入り件数1000件突破

ありがとうございます

「さぁ、そろそろ出てきたらどうだ?…騎士とやら。」

 洞窟の奥へと声を張る。

 軽い残響が消え、辺りが沈黙に包まれた時此方へ踏み出す影があった。


「………そんなに、睨まないでくださいよ。私は穏便に済ませたいのですから。」

「穏便?…本当にそうなら、態々湖からは来ないだろう?玄関は、あちらだ。」

 そういって出入り口を指差す。


「あぁ、あんな大きな入り口があったのですね。……すみません、私は此方のルートしか知らないもので。」

 そういって此方に近づいてくる影は人の形をしていた。

 赤を基調とした鎧に身を包むその肩には双頭の蛇が刻まれている。


「…不思議だな。なぜそちらのルートを知っているんだ?」

「いえいえ、アレンさんに聞いたもので。」

「ならば余計だ、一号はあちらの比較的安全な出入り口を知っている…………あぁ、そうか。」

「……どうなさいましたか?」

「いや、嘘はついていないのだろうと思ってな。」

「えぇ、騎士は嘘をつかない物ですから。」

「あぁ、それでいて非常に人間らしい……。」

まずいな、少し気に入ってしまいそうだ。

そうなったら、一号は怒るだろうか?


「それはそうと、お嬢さん。神鳥様はどこへ行ったのですか?」

「おかんの元へだろう?」

「いつお帰りに?」

「さぁ?」

 倒せるまで帰ってこないつもりなら一生帰ってこない気もする。いや、母親には寿命があるか。


「そうですか……待たせてもらってもいいですか?」

 何年待つ気だ。


「嫌だと言ったら?」

「申し訳ありませんが、待たせていただきます。

 その場合はあなたが逃げないように拘束もさせて頂きます。」

 張り付いたような笑顔でなかなか物騒なことを言う。私を人質にでもする気なのだろうか?

 人の身で私に挑むなど自殺行為でしかないが。


「一択ならばいちいち聞くな……あの鳥に何の用だ?」

「いえ、少々……」

「少々?」

「死んでいただこうと思いまして。」

口調はあくまでも軽く、視線は射殺すように鋭く。

何をしたんだろうか、鳩。

改めて、騎士の足の先から頭まで見る。髪は茶色か、瞳も茶色…駄目だな、主人公オーラが無い。

なら、死亡フラグは折れないだろう。


「死ぬぞ?いや、死よりも酷いことになるのか。」

「主のためならば、本望です。」

「…主………その、術をかけた人間か?」

「………そんなことまで分かるのですか?」

「詳しい内容は分からないがな。」

歪みが酷いからな。

術というよりは呪いか、人間の思いの強さには本当に呆れる。


「それなら、協力してください。彼らは貴方を信頼しているようでした。

 あるいは神鳥を殺せるかもしれません。」

「そこまでして、何をしたい…?」

「世界への復讐を。」

また、大きく出たな。

…さて、此処まで聞いたらただでは帰ってくれないだろうし帰してもくれないだろう。

まぁ、狙って聞いた感はあるが……さて。


「お前の願いを聞いても良い。」

「……なんですって?」

「私の願いを聞き、更にお前が代償を払うというのならば私はお前の願いを叶えよう。」

「………それは、神鳥の死ですか?」

「いや、世界への復讐だ。……正確には、運命へのだが…そちらのほうが、良いのだろう?」

私が問いかけると騎士は少し戸惑った後、頷いた。

口角が自然と上がる。胸の内から湧き上がるこの衝動はなんだろう?


「では、まずは条件を。私の願いは世界を救うこと。代償は死後のお前の魂。

 そのかわり…」

「私の願いを叶えると。」

「あぁ、必ずその願いを叶えよう。」

魂を要求するなど、まるで悪魔のようだと思わず苦笑する。

私にとっては全てが茶番劇のようだが、少なくとも騎士はとても真剣だ。


「何に誓いますか?私はこの呪いにかけて。」

「ならば私は……この名にかけて。」

張り詰めた空気の中、そう誓う。

私が今持っている物の中で一番大切なものに誓ったのは、私も少し空気によっているのだろうか?


「…良いでしょう。それで私は何をすればいいのでしょうか?」

「まずは……。」

私の言葉を待つ騎士へとびっきりの笑顔を向けて私は言おう。


「アレンを殺して来い。」













ようやく、静かになった。

肺に溜まった生暖かい空気を吐き出し、よく冷えた空気を吸う。

やるべき事は沢山あるが、私はまずはそれらを全て投げ出す。ベッド代わりの苔の上へ四肢を放り出し、淡く光る天井を見上げる。


動き始めてしまった。

動かし始めてしまった。


使命を 死命を 果たすために。

運命を 生命を 紡ぐために。


神を気取る為の、命を生きる為の、誰かを操る為の、誰かを殺す為の、意思も無いのに。

人間を気取る為の、死を選ぶ為の、自分が操られる為の、誰かを生かす為の、度胸も無いというのに。

そんな人間に何も護れはしないと、私の経験(はい)は囁く。

そんな人間は全てを失うのだと、私の(たましい)が笑う。


それらの声を私は理性で押し殺す。

私がやっている事は他者から見てどう見えるのだろう?

全てを知る人間など、神でも居ないだろうが。


取り留めの無い思考の中で、私の意識は一時の休息を求めて沈む

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